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月の色と褒められたから

ニシキの街へは休憩を挟みながらも5時間ほどでたどり着いた。

辺りは薄暗い。


「今日魔物退治はしない。自由時間だ!」


「わあい!」


ウォマは嬉しくて思わずピョンピョン跳ねる。

ニシキのような大きな街に来たのは初めてだ。


「わ、私!何見よう、ええと!ウィンドウショッピングして来ます!」


「わたくしは先に戻って荷ほどきをして来ますわ。

少し疲れたので休みたいの」


「私は美味しいと噂のベーグルを買ってこようかな」


「僕は花街に行こうかな。

ハララカも来るか?」


花街とはここでは新宿歌舞伎町のような所のことだと思って欲しい。JR新宿駅の東口を出たら此処はあたしの庭 大遊戯場歌舞伎町。


「遠慮しておきます」


「連れない奴だなあ。

女の子にチヤホヤされたくないのか?」


「全く」


ハララカは僅かに顔を顰めた。

そんなことされるのはまっぴらだと眉の皺が語っている。


「へえ、変わってんなあ。

僕はチヤホヤされたい。チヤホヤされたくて堪らない」


「いつもされてるじゃないですかあ」


「よ、世界一!」


ウォマが手を叩いた。

しかしデュメリルの表情は変わらない。

その瞳はこんなものじゃ物足りないと訴えていた。


「花街でもなんでも好きに行ってきたらいいさ。

でもお酒は飲んじゃダメだよ。いいね?」


「そんな、何のために行くんだ!」


「女の子にチヤホヤされるためでしょう?

それとも揉め事を起こしたいと?もしかしてまた俺たちに尻拭いさせたいんですか?」


「……わかったよ」


デュメリルは渋々頷いて花街に行ってしまった。


「なんでお酒ダメなんですか?

折角の花街なのに……」


「酒癖悪いんだよね。あ、ウォマさんもデュメリルには一滴も入れないでね!絶対だよ!」


ユウダの強い訴えにウォマは必死で頷いた。


「ふう、これフラグだったりしないといいけど。

じゃあ私はベーグル買ってくるね。あ、皆の分もちゃんと買うから安心してね」


「甘いものは苦手なので構いません」


「わかってるよー。しょっぱいの買ってくるからさ!

じゃあヒバカリ、行こうか。送ってくよ」


ユウダは流れるようにヒバカリの肩を抱いて行ってしまった。

……あれじゃ恋人同士にしか見えないのだが……。


残されたウォマとハララカは顔を見合わせた。

そしてウォマはゆっくり地に膝を付ける。


「昨晩は誠に申し訳なく」


「もう良いです。というかこんな公衆の面前でやめてください。俺が悪者になります」


そう言われウォマは立ち上がる。

がやはり申し訳なく、頭を下げた。


「すみませんでした」


「11というのは—……。

いえ、やっぱりなんでもありません。

ウォマさんはどこに行かれるのでしょう。俺は着替えなどを調達しますが、一緒に行きますか?案内しますよ」


「良いんですか!?

是非!」


「はい」


2人は並んで歩き出した。

ウォマは街並みを見るのが楽しく、キョロキョロ辺りを見渡してしまう。

すると、異変に気が付いた。

周りの視線が痛いのだ。


「……ハララカさん。

私の格好変ですか?やっぱりこういう大きな街じゃ身綺麗にしてないと目立ちますか?」


「いえ?そんなことないですよお」


じゃあこの視線はなんなんだ。

ウォマは辺りを見る。落ち着かない。

見てくるのは皆女だ。頬を染めチラチラと視線を送っている。

そこで気が付いた。自分ではない、ハララカだ。


「……ハララカさんの格好は変なんですか?」


「変な格好はしませんよお」


「ならどうしてこんな皆見て」


言葉を言い終わる前にハッとした。

もしや、この男、モテるのでは?

ウォマは顔を上げハララカの顔面を改めて観察する。

目は日食の太陽の如く真っ暗だが、造形は整っている。目は優しく垂れており鼻もスッとし唇の形も薄くて良い。

そうか、皆目以外のパーツに気を取られていて気が付かないのだ。


「見る目がないとはまさにこのことですね!」


「頭大丈夫ですかあ?」


「あなたに見惚れている方々よりはいくらかマシでしょう」


「俺に?何を言ってるんですか?」


ハララカはキョトンとした。どうやら気付いてないらしい。


「ハア、なんかこれ伝えるのも癪なんですけど、ハララカさんの顔面に皆惑わされているらしくて。さっきから視線がチラチラ……」


「へえ。気が付きませんでした」


「そうですか……。産まれてからずっとこうだったから気が付かないとかそういう……?

いえ、ハララカさんを讃える話はやめましょう!

あそこのお店入っても良いですか?」


ウォマが指差したのはアクセサリーが売っているお店だった。

ハララカはウォマを見る。この女がアクセサリーの類を付けるというのか。


「ウォマさんもアクセサリーを付けたりされるんですかあ?」


「そりゃしますけど……」


「面白い冗談ですねえ。本当は隣にある武器屋に目当てが?」


「いや、アクセサリー屋さんに行きたいんですってば!なんですか!」


「本当に?

すみません、あなたにそんなもの必要だとは思わなくて」


「な!?」


言い返したかったが、彼女にはなんの反論も浮かんでこなかった。

確かに髪はボサボサ、顔はそばかすだらけ、着ている服もお下がりのサイズの合わない物ばかりだ。


「……興味はあります……」


「そんな悲しそうな顔しないでください。俺が悪いみたいじゃないですかあ」


「今のはあなた以外悪者いませんよ!!」


憤慨しながらも彼女は店に入った。

中はゴツいシルバーアクセサリーから女性が好みそうなビーズのアクセサリーまで様々な商品が魅力的に置かれていた。


「わ、これ可愛いですね!」


ウォマが指差したのは鳥の頭骨をモチーフにしたブレスレットだった。

ハララカは首をかしげる。若い女性はこういうモチーフを好むのだろうか?


「ああ、これも良いですねえ!素敵です!」


次に彼女が指差したのはゴツゴツした装飾の為された銀の指輪だった。


「カッコいいですね」


「いいなあ……」


「サイズが合わないと思いますよお?」


ハララカはサイズを指差す。

男性向けなのだろうその指輪は、彼女の細い指には大きく思えた。


「えっと、」


ウォマの眉が下がる。

字が読めないようだ。そういえば彼女に文字を教える約束をしていた。


「ここには16号って書いてあります。

ウォマさんは……10号くらいでしょうか?」


「そうですか……。

じゃあこっちの指輪は?」


骸骨をモチーフにした指輪だ。

13号。彼女の親指くらいだろう。


「13号です。」


「10号のは……」


「ここにはありません。

あるとしたらあちらだと思います」


ハララカが隣のスペースを指した。

それはビーズで出来た可憐なイメージのアクセサリーばかりだ。

ウォマの好みではない。


「うーん。残念です」


「折角ですから見てみたらどうですかあ?

中々来ないんでしょう?」


「それもそうですね」


キラキラと輝くビーズのアクセサリーを見る。確かに可愛らしい。

きっとヒバカリに似合うんじゃないだろうか……と思ったが、貴族の彼女が街にポンとあるアクセサリー屋では買わないだろう。


「これ、ヒバカリさんに似合いそうですね。」


ウォマは透明な石が連なって付いたネックレスを見つめる。彼女の首にこれがあったらさぞ美しいだろう。


「そうでしょうか?ヒバカリさんこそああいうドクロとか似合うと思いますよお。

ほら、あれを付けて魔物を殴り殺しそうじゃありませんかあ?」


「えっ?それはわからない……」


「ウォマさんはそうですねえ、これとか良いんじゃないですか?」


ハララカはグレーの石が付いたネックレスを摘んでウォマに差し出す。


「これですか?地味、いや質素、いや控えめで綺麗ですね」


「趣味じゃないんですねえ?」


「そんなつもりじゃ。買いませんけど」


「それは残念」


ハララカはあまり残念じゃなさそうに言いながら、ネックレスを元の位置に戻した。


「なんでそれが私に似合うと?」


「この石の色はあなたの目の色と同じ色なので」


「ああ。

自分の目の色あんまり好きじゃないんですよ。やっぱり青とか緑とかがカッコいいですよね」


「そうですか?俺は綺麗だと思いますよ」


綺麗。その言葉にウォマは頬を染める。


「お、おだてても何も出ませんよ?でもありがとうございます。

地味な色なので褒められたのは初めてです」


「地味?

銀の色は月の色って聞いたことがあります。あなたの目は月の色だ」


その言葉にウォマの胸は高鳴った。

月のような美しいものに例えられたのは初めてだ。そもそもこの目の色を銀色と言われたのも。


「おだてても何も出ませんが……嬉しかったのでアクセサリーを買ってあげましょう!」


「邪魔なのでいりません」


「……そうですか」


可愛げのないやつだ。


それはいいとして、ウォマは先ほどのネックレスを見た。

他にもいろんな色がある。


「これ、お土産にしたら喜ぶかな」


「ヒバカリさんは喜びますよ。光り物好きでしょうし。

デュメリルさんは貢がれるのが好きなのでなんでも喜びます」


「これ女物ですけど……」


「大丈夫ですよお。どうせ渡しても換金しますからあ」


デュメリルに買うのはよそう。

ウォマはヒバカリの分と……自分の分を取って店員に渡した。


初めて自分が褒められた思い出として買うのも悪くない、そう思ったのだ。


2人はアクセサリー店を後にした。

ポケットにはネックレスを入れて。


「何ニヤニヤしてるんですかあ?」


「エ!?し、してた!?」


「ええ。気持ち悪いですよお?」


「うるさいなあ!

ほら、ハララカさんの用事済ませましょう!どこ行くんです?」


「着替えを。

ああ、ちょうど彼処にありますね」


ハララカは向かいの古着屋を指差した。

雑貨も取り扱っているらしく、男女問わず客が入っていた。


2人は店に入りウォマは雑貨を、ハララカはシャツを見る。

雑貨は旅の時用の安い食器からアナベル人形のような不気味な人形まで、どこを狙っているのかよくわからない品揃えだった。

ウォマは人形からは目を逸らしつつ食器類を見た。

ユウダはいつも紅茶を淹れて飲んでいる。こういう安くて壊れにくい素材の物の方が彼には良いんじゃないだろうか。

いつコップを割るかとヒヤヒヤしているのだ。

値段を店員に聞く。そんなに高くない。

彼へのお土産にしよう。


そうなると全員分用意するべきだろうか?

しかしハララカはデュメリルに土産を渡しても換金すると言っていた。

彼には後で食べ物でもあげよう。

となると、残るはハララカだ。

何を貰ったら喜ぶのだろう。人の腎臓とかだろうか。そんなもの用意出来ない。


ウォマは品物を眺める。

あの男は生活必需品しか喜ばないだろう。

男にとっての必需品……髭剃りとか?

彼女はシャツを買いに行ったハララカを見る。何が欲しいか直接聞いた方がいいと思ったのだ。


おや?ウォマは首をかしげる。

彼の様子がおかしい。

いつもあの食えない笑みを浮かべているのに、今はなんだか弱々しく、また顔色も青白い。

具合が悪いのか。


ハララカに近寄ると、側には可愛らしい店員がいた。

なんだ、セールストークに面食らってるだけか?


「ふわあ、お兄さんほんとカッコいいですね~。冒険者さんですか?」


「ええ」


「はわあ!やっぱり!

冒険者の方って、雰囲気ありますもん!

あたし憧れちゃいます!

ちなみに……お兄さん彼女とかいるんですか?」


「いえ、」


「ふええっ!?こんなにカッコいいのに!?

あたしならお兄さんみたいなカッコいい人ほっとかないのににゃー。

……えへへえ、なんちゃって!」


彼女ははにかむように笑い頬に手を当てた。

おう、すごいモーションかけられてんな!

ウォマは悩んだ。これ、邪魔しちゃ悪いのでは。


「……でも本当に、もし良かったらですけど……お店以外で会えません……?

あたし……本気です……」


店員はハララカの袖を軽く掴んで、背伸びをして彼の耳元で囁いた。店内が静かだったためウォマにまで聞こえているが……。

彼女の目は潤み頬は赤くなっていた。なんとも愛らしいじゃないかとウォマはすぐ側で彼女を見ていた……が、ハララカの眉が寄せら、その拳が握られている。

ウォマはそれに気が付いた時何か嫌な予感がした。


「あっ、あのー!ハララカさん!」


ハララカの青白い顔がウォマに向いた。

僅かにだが、安心したかのように頬が緩んだ。


「ウォマさん」


「買い物終わりましたか?なんか、もう、デュメリルさん待ってるみたいなんで早く行かないとマズイっすよ!」


「すみません、すぐに」


「はわっ、大変なのです!すぐお会計しますです!」


ハララカの拳がぎゅっと握られる。ウォマは慌ててその手を抑えた。

こいつ、殴る気じゃないだろうな。


「お兄さん、お会計……、ふわあ!?」


店員が驚いたような顔でこちら……というか、繋いでいる手を見る。

ウォマはそのつもりはなかったのだが、はたから見たら仲良く手をつないでいるように見えるだろう。


「お兄さん恋人いないって言ってたじゃないですかあ……!騙したんですか……ふにゅう……」


「恋人じゃありません。妻です」


「えっ」


「は?」


「これ代金です。お釣りはいりません」


ハララカは動かなくなった店員に押しつけるようにお金を渡すとシャツを奪う。


「では行きましょう」


同じく動かなくなったウォマの腕を引き店から出る。

こういう時デュメリルを連れているとナンパを始めるし、ユウダはオロオロするだけで役に立たないし、ヒバカリは喧嘩を始めるのだが、彼女は空気を読んでくれたらしい。もしくは虚を突かれて動かなかっただけか。とにかく助かった。


「助かりました」


「……は、驚きのあまり動けなくなっていた……」


「そうでしたか」


「いや、そもそもハララカさんがあの店員さんに殴りかかろうとするから、」


「まさか」


「顔色も悪いし……大丈夫なんですか?」


ウォマに指摘され、ハララカは目頭を抑える。


「だいじょうぶですよ」


「嘘だあ!大丈夫な人はそんなドドメ色してません!

少し休みましょう。カッフェ的なのがあるはず……」


「いいです」


「よくありません!倒れたらどうするんです!?言っときますけど、私じゃあなたのこと運べませんからね!」


ハララカはウォマの細い肩を見た。確かにこれじゃ運べないだろう。

彼は建物に背中を預ける。


「少し、側に」


「なんですか?吐くんですか?私の服に吐瀉物を撒き散らそうと?」


「俺をなんだと?

ただ体調を戻すために魔法を使うのであまり離れないで欲しいんです。

呪文を唱えている間に何かあると困るので」


魔術師の魔法は完璧ではない。

呪文を唱えている間に他のことを話せば術は発動しないし、間違えたらもちろんだめ。

大きな魔法ほど長い呪文になるので、そこで魔術師は隙を突かれることもある。

ハララカに至っては呪文を唱え終わった後更に対象にキスをしなくてはならない。


「わかりましたよ」


ウォマはハララカの隣で寄りかかる。

ナンパ避けということだろうか?


ハララカは拳を唇に当ててブツブツと呪文を唱える。

自分に魔法をかける時もキスをしなくちゃならないのか疑問だったのだが、ああやって唇に手を当てていれば良いようだ。


「お待たせしました」


「あ、もう終わり?」


「ええ」


「顔色戻りましたね。よかった。

それにしてもなんで急に体調不良に?何か悪いもの食べました?」


「あまり、得意じゃなくて。

ああいう人。気分がすごく悪くなってきて殴りたくなるんですよ」


「やっぱ殴ろうとしてんじゃん!!」


「実際にはやりませんよお」


嘘だとウォマにはわかった。


「でもあの店員さんの何が悪かったんです?可愛い人じゃないですか」


ウォマは腕を組んだ。

あんな可愛い子中々いない。自分が男ならワンナイトカーニバルするかもしれない。


「イラつきませんか?」


「えっ、そんなことは」


「心広いんですねえ。

俺は無理です。あの馬鹿みてえな喋り方もですけど、お前こういうの好きだろっていう考えが透けて見えてて」


「気難しい男だな。いいじゃないですか、一発後腐れなく」


「デュメリルさんみたいなこと言いますね。

でもあの手の女は後腐れ無くは無理だと思いますよ」


ハララカの顔が翳る。


「手首に一杯線がありましたから」


……なるほど。

ウォマは手を叩いた。

それは無理だ。


「……帰りましょう。私、なんだか寒気します」


「奇遇ですね。俺もですよ」

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