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昼間から酒を飲む奴はだいたいロクでもない

「この美しい僕の好きな異性のタイプを聞かないなんて。

ああ、もしかして自分が該当しなかったら……と不安だったのか?

安心しろ、安心しろよウォマ。

僕は博愛主義者だ。誰であろうと女は好きだ。まあ優しくてちょっと抜けててお姉さんタイプな人が特に好きだけど」


「キョーミ無いっすねー!」


「強がるなよ。

まあ今君のことは少しも好きでは無いが……努力次第では好きになるかもな」


デュメリルは食堂の椅子で踏ん反り返る。

ウォマはその椅子の足を蹴ってやりたかった。


「よかったですねえ」


ハララカは3杯目のスープを飲み干す。

やはりこの豆のスープは美味しい。


「……っていうか、女にちゃんと興味あるんすね」


てっきり自分以外興味無いと思っていた。ナルシストだから。

ウォマがそう言外に含ませて尋ねるがデュメリルにはわからなかった。


「何言ってるんだ。当たり前だろう?」


「女の人にドキドキとかするの?」


「するさ。大好きだからな」


デュメリルは心外だと言いたげな顔でウォマを見る。

彼女はへーっと感心したような声を出した。

ナルシストでも他人を愛せるのかと思っていたのだ。


「ウォマ、君はどうなんだ?

好きなタイプは?」


「おか」


お金がある人……そう言おうとして口を噤んだ。

ここで大事なのは……そう。誰にでも当てはまるタイプを言うこと。


「息して心臓動かしている人かな?」


「幅広いですねえ。

その条件なら俺もデュメリルさんもジョン・ゲイシーも当てはまりますけど良いんですかあ?」


「良いわけないっすね。

変えましょう。私のことを好きになってくれる人が好きです」


「高難易度だな。G級クエストか?」


「高望みですねえ。一生出会えませんよお?」


ウォマはちょっと泣きたくなった。

そんなに難しいこと言ったつもりじゃないのに。


「そんな泣きそうな顔しないでください。」


「あなたがもう少しオブラートに包んでくだされば泣きそうになることもないんですけど……」


「わかりました。

願いは叶うと言います。あなたのその奇跡のような願いも、いずれ叶うかもしれませんね」


ウォマは項垂れた。

全然オブラートに包んでいない。


「あら、ウォマさん、大丈夫?」


頭上から声がした。ヒバカリだ。

ユウダもいつの間にか来てデュメリルの隣に座っている。


「あ、お帰り」


「どうかされたの?随分落ち込んでいたけれど」


「ハララカさんとデュメリルさんにイジメられていたんです」


「イジメてない!本当のことを言ったまでだ!」


「心外ですねえ。あなたにはこんなにも優しくしているのに」


この通りだとウォマが示すとヒバカリは察したように「だから貴方たちはいつまで経っても恋人が出来ないのよ」と呟いた。


「え?デュメリルさん、恋人いないんですか?

大量の現地妻がいそうなのに……」


「僕をなんだと思ってるんだ!?

そんなことはしない。一途だからな」


「一途に己だけを……なるほど」


「茶番はいいでしょう。お二人も来たことですし、早く今後の話をしませんか?」


ハララカの言葉に皆そうだったとデュメリルに向き直った。


「今後、と言ってもやることは一つ。魔物退治だ。

今日はこの通りの晴天だ。今晩必ず魔物が出る。

ヒバカリ、気配はするか?」


「街中にはしませんわ。

外に雑魚がいるようですけれど、きっと他のパーティが倒すでしょうね」


「もし倒しきれてなさそうなら援助しよう。

夜に向けて、そいつだけに集中したい。

日中はその魔物の情報をもう少し集めて対策を練る。

以上だ」


皆力強く頷く。

デュメリルは普段はどうしようもないナルシストだが、こういう時しっかり纏めることが出来ている。それがウォマには想像通りでありながらも意外だった。

ギルドランキング1位のパーティのリーダーだからこれくらいは当然なのだが、それが年若い少年なのだ。


「じゃあ振り分けをしよう。

ヒバカリと僕、ハララカとウォマで情報収集。ユウダ先生は被害者の殺害された状況を詳しく聞いて来てくれ。

昼過ぎにまた集まろう」


「はい!」


そんなわけで、ウォマはハララカと街中を散策することになった。

町民は魔物のことがあるからか外に出ておらず、中々話を聞くことができない。


「困りましたね」


「そうですねえ。

夜になる前に皆用事を済ませようと街に出ると思ったのですが」


「こうなったらあそこしかないっすね!」


「あそこ?」


「酒場ですよ!」


✳︎


ウォマの言葉にすんなりハララカは乗り、2人は酒場に来ていた。

こんな朝早くから飲んでいる人がいるのか、とも思ったが案外客はいた。

魔物の影響でどこも商売がままならず騒ぎが収まるまで店仕舞いをしている人もいるそうだ。


「魔物ねえ。

俺たちゃなんも分かんねえなあ」


「姿が見えないんじゃ倒しようがないもんなあ!」


ゲラゲラと男たちの笑い声が響く。

その笑いには含みがあった。

何か知っている気がする……ウォマはそう思ったが、彼らはどうも手強そうだ。

街によくいるギャングと同じ目をしている。


「そうですか……。

すみません、お邪魔して」


厄介なことになる前にウォマは退散することにした。他の人から話を聞けばいい。


「いいよいいよお!お嬢ちゃんみたいな若い女なら大歓迎さ!」


そう言いながら男はウォマの尻をパァンと叩いた。

いい音が鳴る。


「なんで叩いた!?」


「いやあ、いい尻してるなあと思ってな。

痛かったか?さすってやろう」


ウォマは男を軽く睨んだが、気にも留めずに再び叩いて来た。


「私のお尻はドラムじゃないんですよ!」


「ハハ、いい音がするじゃねえか!」


とんでもないセクハラだ。現代社会なら炎上に次ぐ炎上の上実名公表され妻と子供から糾弾、人生の破滅。

しかしここは違う。


されるのはもっと物理的な攻撃だ。


男の椅子が突然ひっくり返り、男は床に叩きつけられる。


「ひえ!?」


「あまり、調子に乗らないでくださいねえ?」


ハララカが足を振り上げていた。

彼が尻ドラマー男の椅子を蹴り倒したのだ。


「な、何しやがんだ!」


「なんの情報も無いあなたに良い思いだけをさせるのは癪ですからあ」


ハララカは男の肋に足を乗せた。

ブーツの踵をグッと押し込む。

他の客が制止しようとするが、ハララカのあの目の圧に押されて動けなくなる。


「で?魔物のこと何も知らないんですかあ?」


「知らないって言っただろ!」


「そうですかあ?」


ハララカは足に体重を乗せる。メリメリと響く音に男は悲鳴を上げた。


「うあ!や、やめてくれ!」


「魔物のこと、教えてくれません?」


「わ、わかった!わかったよ!

だから足をどけてくれ!」


「話したらどかしますよ」


「クソ!

魔物なんて居ないんだよ!俺たちだってパーティだ!わかってんだ!」


え、そうだったの?とウォマは驚いた。

いわゆるゴロツキかと思ったが、魔物退治屋とゴロツキなんてそう変わらないかと思い直した。


「居ない?」


「ああそうだ!街中くまなく探したよ!あの底なし沼もな!

だがどういうわけか見つからねえ。

だってのに死体は出てくる。訳がわからねえ。

こうなると、これをやったのは魔物じゃ無い、人間ってことになる……。

わかるだろ?それは俺たちの管轄じゃねえ!」


人間……まさか。ウォマは口を覆った。

被害者は皮だけになって見つかると言う。そんなことが出来る人間がいるのか?

技術的な面でもそうだが、精神的な面でも……。


「そうですか。

わかりました。行きましょうか」


ハララカは男から足をどけてウォマの手を引いた。

こんなところに女性を連れて長居すべきではない。早足で出口へと向かう。


「ハララカさん、彼らが私たちと同じって気付いていたんですか?」


「顔に見覚えがあったので。

お尻痛いですか?」


「え?あ、ああ、まあ。」


彼女はお尻をさする。

なんであの男、お尻をあんなに強く叩いたんだ。そういう性癖か?


「あなたに質問させるべきじゃありませんでした。すみません」


「気にしないでください、慣れてますから」


どこのパーティにも属さないと、度々こういう目に合う。

もうすっかり慣れてしまったのでなんとも思っていないが、叩かれたのは納得いかない。今もジリジリと痛む。


「しかし魔物じゃないって本当なんすかね。

……ハララカさん?聴いてます?」


ウォマがハララカを見ると何かブツブツ呟いていた。

そして彼女を見る。

ハララカの目は驚くべきことに、悲しそうだった。


「ハララカさん……」


ハララカの手が伸びて彼女の顎を捕らえる。

そして彼はウォマの頬に口付けをした。


「ンえ!?」


「どうですか?痛みは引きました?」


言われてお尻を触る。

もう痛くない。

ハララカは治癒魔法をウォマにかけたのだ。


「わざわざすみません。でもこんなのほっとけば明日には治ってるのに」


「牽制の意味もありますから」


ハララカが目線で奥を示した。

先ほどの男たちがこちらを見ている。


「……ウア……」


「もし万が一、あなたが彼らに会った時厄介ごとを起こされたら迷惑ですから。

こうしてまるで俺の恋人のように仕立てておけば安易にあなたに近寄らないでしょう」


「あなたに対する報復を私がされるんじゃ?」


「自分より強い奴の女に手を出すほど馬鹿じゃないですよ」


そう言ってハララカはもう一度、今度は彼女のこめかみにキスを落とすと、ウォマの腰に手を回し酒場を出た。


「…………今のは?」


「トドメの一発。ほら、嫌そうに俺たちを見ていますよ。すっかり騙されましたねえ。

それにしても、彼らの言葉気になりますね」


魔物なんて居ない。あれをやったのは人間だ。

そうあの男たちは言っていた。


「人間が人間を皮だけに出来るんですかね」


「出来ますがやるメリットがないです。

もう少し情報を集めるしかないでしょう」


ハララカの腰に回された手が外される。


「もう酒場は無しにしましょう」


「そうですね。じゃあ路地裏とか……」


「ダメです」


「賭博場とか?」


「ダメです」


「昼間は安全ですよ!」


ウォマの言葉にハララカは頭が痛くなった。


「そう思って酒場に行ったらあんな目にあったんです。

行くなら普通のお店にしましょう。収穫があるかもわからないのに危険です」


「あんな目って、尻叩かれたことですか?

大丈夫ですよそれくらい。

それに、そういうちょっと危ないお店はヒバカリさんとデュメリルさんじゃ回れないでしょう?ヒバカリさんは貴族ですし。

私たちが回るべきです」


「この街のギルドに行きましょう。ユウダ先生がもう行っているでしょうが、新しい情報も手に入るはずです」


ハララカはウォマの言葉を無視して腕を引いた。

が、ウォマがその手を振り払う。


「ギルドはユウダ先生に任せればいいでしょう!?時間の無駄です!

私たちは他の3人が行けないところを—」


「ウォマさん」


ハララカは再びウォマの腕を掴んだ。

振り払えないほど強く。


「なんでこの振り分けかわかりませんか?

男女で分けてるんです。

この街は魔物が出るだけじゃない、人攫いも出る。若い女は高く売れるんですよ。

危険な所には行きません」


「私なら大丈夫です。

もう何度もそういう目に合ってきましたけどほら、この通り!五体満足で元気です」


「それは大丈夫とは言いませんよ。

とにかく、危険なところには寄りません。

わかりましたね?」


ハララカの強い口調にウォマは言い返せなかった。

しかし、このままでは足手纏い以外の何者でもない。彼女は焦った。

足手纏いはクビになる。このままでは……。

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