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計画的朝チュン

しかし幾らサヴの相棒ズグロであっても、サヴを3か月抑え込むのは難しいかもしれない。

これは早めに動かないと……。ウォマの想定よりもサヴは焦っていた。


「ウォマさん!?大丈夫!?胎児になってない!?」


部屋に戻るなりヒバカリがウォマの肩を掴んだ。

さすがにあの変態にそこまでの力はない。あったらとっくにウォマはズグロの胎の中だ。


「だ、大丈夫だよ」


「良かった……」


「ヒバカリさんもあんな変態見るの初めてで驚いたでしょ」


「ええ、出来ればもう見たくないし、先生に二度と近づいて欲しくないわ」


「ああ……うん……。

大丈夫だよ、あの通り男に興味は無いから」


ウォマを自分の子供にしようときてくるだけでヒバカリ達に害はない。

害があるとしたらウォマにだけだ。


「そうなの?でもハララカさんは彼女はその……ある男性の恋人って……」


ウォマはある男性とはサヴのことだろうと見当をつける。

よく間違えられるのだが彼らは仕事仲間というだけの間柄だ。それ以上でもそれ以下でもない。

サヴはズグロの目が合うだけで男を落とすその美貌を、ズグロはサヴの貪欲なまでの向上心を買って一緒に行動しているのだ。

案外気が合うようで付き合いはそこそこ長いようだが。


「違うよ、あの人イカレてるから誰も付き合ったりできないし」


「これ以上ない説得力。それもそうね」


ヒバカリは納得したように何度も頷いた。


「そういえば用事ってなんでしたの?

仕事がどうのって仰ってたけど」


「んーと、私と彼女の共通の知り合いが厄介ごとを押し付けてきてね。

今はこのパーティのクエストもあるし無理だって言ったんだけどしつこくて……」


「あら……デュメリルから何か言ってもらったら?」


「いや拗れるからいいよ。

そうだ、ハララカさんの前にいた人ってどうしてるの?」


ズグロが気にしていたのをウォマは思い出し、話題をそらす為にも話を振った。


「ああ……あの人。

その人は他の人と同じように私の婚約者候補としてやってきたのだけれど、ある日気が付いたら荷物もそのままに逃げてしまったのよ。

腕のある人だったけれど……思っていたよりもクエストが重くて、それが遂行できずに恥ずかしかったのね。今は家に戻ってないみたいだけれど別荘にでもいるんじゃないかしら?」


「ふうん。貴族サマは逃げる場所がいくつもあっていいねえ。

っていうかそもそもヒバカリさんの条件が厳しすぎるんだよ!竹取物語かっての!」


「わたくしは竹から生まれてなくてよ」


「そこじゃない」


ヒバカリはユウダとしか結ばれる気はないのだろう。

ユウダと一緒にいる為に強化魔法というドーピング魔法も使っているのだから。


「ん?そもそもユウダ先生が冒険者として旅に出て、それを追う為にヒバカリさんも強化魔法で冒険者になって、でユウダ先生はヒバカリさんが心配だから一緒のパーティに?

押掛け女房大勝利じゃん」


「に、女房だなんてそんな……」


「なんでユウダ先生は冒険者になったの?魔術師のフィールドワーク的な?」


「……探している人がいるのよ」


ヒバカリの表情が翳る。

そういえばそんなことも言っていたが……相手は女か。ウォマは顎を撫でた。


「ま、どうせその人に金貸してるとか、その人に魔法を教えてもらいたいとか、その人が親の仇とか、そんなもんでしょう」


「わ、わからないじゃない!恋人かも……」


「それはない」


いるならあんなにヒバカリにメロメロになってるものか。そういう男もいるだろうがユウダは違うとウォマは見ていた。


「ユウダ先生のどこがそんなに……あ、貶めてるわけじゃないから怒んないでよ。

ただ、んー、私とは好みが違うからさ」


「ふーん。ふーーーん」


「私がユウダ先生タイプベタ惚れです!ってのが嫌じゃない?」


「嫌よ絶対。

でもなんか……ならウォマさんの好みってどんな人?」


「あー……」


一瞬ハララカの顔が浮かび慌ててサヴの汚い顔で消す。


「ワイルド系……?」


「ヤハズさんみたいな?」


常にテルシオペロの横にいる彼は確かにムキムキワイルドだ。

だが違う。ウォマの好みではない。


「そうじゃなくて……こう……樫の木を盾にオークと闘う龍によって奪われた国を求めて旅をするドワーフ族の族長みたいな……」


「具体的なのに全くわからないわ」


「検索ワードはトーリン・オーケンシールド」


2人は長いこと自分の好みのタイプについて語り合った。

ヒバカリは好みのタイプというよりはユウダの惚気だったが。

気が付けば夜も更けて、ヒバカリはほとんど眠っていた。


「……おやすみなさい」


ヒバカリに毛布を掛けてウォマは立ち上がる。

もう動き出さなくてはならない。クエストを受けていない今の間の時がチャンスだ。


✳︎


ウォマは酒を片手にハララカの部屋の扉をノックする。

すぐに扉は開いた。


「……ウォマさん?どうしたんですこんな夜更けに」


「いやあ、ちょっとお酒を飲みたくて。

さっき貰ったんです。美味しいらしいっすよ」


ハララカに酒を掲げてみせると彼は僅かに眉を寄せたが、ウォマを部屋に入れた。


「俺に付き合えと?」


「そういうことです。

他の人達じゃすぐ寝ちゃうでしょ?デュメリルさんは暴れるし……。

ハララカさんはチンピラになるけど暴れたりはしませんよね?」


「多分。記憶が無くなるのでなんとも」


ハララカはグラスを用意し机に並べる。ウォマはハララカの横に座り、一気にグラスを呷った。


「んー!確かに美味しい!」


「それじゃあ。」


ハララカも一口飲む。

確かに喉越しも良く、味も少し苦くて美味しい。


「みんなには内緒ですから、飲んじゃいましょ」


「一瓶丸々?」


「私強いんで。さあさあ飲みましょー!」


1時間後、ハララカはすっかり酔いが回ったようで、目をトロンとさせボーッとしている。

ウォマはハララカに寄り掛かかる。もうそろそろ……?


「ハララカさんって、どうして甘いものダメなの? 」


「食べると吐き気と頭痛がする」


「えー……そういうものかなあ……」


酔っ払った演技でウォマはハララカに更に寄りかかった。いや寄りかかるというよりは、抱きついていた。

ハララカは抵抗しない。もうそんなことにまで頭が回らないのだろうとウォマは見た。


「ふふふ、ハララカさんの体暖かいですねー。お酒のせい?」


そう言いながらウォマは彼の胸に頭を付ける。

鼓動の音が大きい。体温も高い。これは確実に酔いが回っていると見ていいだろう。


「んー……そうかも。頭がフワフワする」


「あー寝ちゃダメですよ」


彼女は後ろに倒れそうな彼の体を自分の方に寄せる。

フラフラと頼りない。


「ハララカさーん。起ーきーてー?

そうだ、字のことで聞きたいことがあるの」


「なに?」


「ハララカさんの字ってどうやって書くのかなあって。

ウォマは難しかったけど、ハララカも難しいのかなあって思ったの」


「んー簡単簡単」


「じゃ、これに書いて?」


ウォマはサッと羊皮紙を取り出した。


それはパーティ移籍のための書類だ。

これにサインをすれば移籍に同意したことになる。

騙し討ちで悪いとは思うが、ハララカだけでもとっとと渡してしまおう。

後の面子はどうにでもなる。気がする。


「ペン」


「はい」


「インク」


「はい」


ハララカに移籍書の説明文を隠して見せる。

ウォマは字が読めないので説明文になんと書かれているかは知らないが、見られたらきっと困るだろう。


「これで、ハ、ラ、ラ、カ」


「ふうん。確かに簡単かも」


字を書き終えた彼からペンと羊皮紙をサッと奪う。


これで大丈夫。

ウォマは羊皮紙を見つめてニンマリと笑う。


「ありがとう。後で練習するよ」


「んー……。ウォマさん、もう眠い……」


「あ、ごめんごめん。

ベッドまで手貸すよ」


ウォマはハララカに肩を貸しベッドまで歩く。

もうサインさえ貰えばこちらのものだ。なんだって言うことは聞こう。


「どっこいしょ」


ハララカをベッドに座らせる。

案外簡単だった。まだ歩くことはできるのだろう。


「ウォマさん」


「ん?どうしたの?お水欲しい?」


「酔ってます?」


「あー、うん。酔っちゃったみたい……」


エヘヘと笑うが勿論酔ってなどいない。

酔っちゃったみたいと言う女の6割は酔ってなどいないのだ。


「嘘つき」


「え?」


腕を強く引かれ視界が反転する。


気がつくとベッドに押し倒されていた。

腕を頭上でまとめて押さえられて太もももハララカの足に挟まれている。


「酔ってないでしょ?あれくらいじゃ」


「え、あ、ハララカさん?」


「だからぁ、酔った勢い、とかは無しですよお?」


ハララカは唇を釣り上げウォマを嘲笑う。


「あ、あなたも、酔ってない……?」


「当たり前でしょう。あんな見え透いた罠には引っかかりませんよお。

ああいうのはデュメリルさんとかにしか通じませんよ」


「なんで!?だってあんなに飲んでたのに、」


「魔法って便利なんですよ。

酔わない魔法なんてのもありまして」


彼は笑いながらウォマの顎を撫でた。


「も、もしかして、私、貞操の危機……!?」


「処女じゃないなら貞操もへったくれもないんじゃ」


そう言いながらシャツのボタンを外していく。

まさかの展開である。


「ま、待ちなよ、君。処女じゃないなら何してもいいなんて考えは現代日本だったら死罪に値するからな」


「いやいや、貞操の危機という言葉が誤りと言っただけでそんなこと考えてませんよ。

そもそもあなたならこれくらい逃げられるでしょお?」


ハララカはパッと手を離しウォマから体を離した。

逃げられる……。

ウォマはチラリと扉を見た。

簡単だ、拘束されてないんだから逃げることなんて……。


「あ……」


「そんな寂しそうな顔しないでくださいよお。

逃げないなら続行です」


「え、や、寂しそうな顔なんてしてないし!

だ、大体あんた童貞守り抜いてるとか言ってたじゃん!何いきなり!」


「守り抜いてたのは特定の相手に対してでして。

据え膳があれば頂きますし、据え膳でなくても頂きます」


「待って!全年齢対象でしょ!制限に引っかかるよ!」


「ああそれは大丈夫。俺、すごくいい事知ってるんで」


「いい事?」


ウォマはハララカの深まる笑みに嫌な予感がした。

この男が言ういい事なんてろくなことじゃないぞ。


✳︎


朝。窓から鳥の鳴き声がする。


「朝チュンって言うんですけどお。

これ使えば制限に引っかからないってわけです」


ハララカはそう言ったが、相手からの返事はない。

グッタリとベッドに横たわっている。


「水いります?」


「お前……お前な……こんなメタ的なことして許されると思うなよ。

そもそも本当に大丈夫なんだろうな」


「さあ。

はいお水」


ハララカに水差しを渡されるが起き上がれそうにない。


「すみません、加減がわからなくて」


「嘘つくなよ……」


彼はゆっくりとウォマを起こして水を飲ませてくれる。

ハララカはすでに着替えていた。

ウォマは所在なさげに布団を胸まで上げる。


「ああ服……」


ハララカはウォマの服を拾いベッドに投げる。


「手伝います?」


「平気……」


全然平気じゃない。

体の節々が痛いし、体を見ると噛み跡がいくつもあって酷く恥ずかしい。

昨夜、特に臍の下のタトゥの辺りを何度も噛まれていたのを思い出して見るとそこも赤くなっていた。


「なんで噛むかな……」


「すみません、つい」


ハララカは満足そうに笑う。


「なにがつい、ですか。

うう、こんなの酷い……フランケンシュタインみたいじゃないですか……」


「そこまでじゃないですよ。

被害者面しないでください」


「なあっ!?そんな言い方、」


「俺だって爪立てられて痛いんですよ」


ハララカは服を脱いでウォマに自分の背中の傷を見せた。

いくつもの線が彼の背中を這っていた。

生々しい跡に顔が赤くなる。


「ご、ごめんなさい……」


「爪切ってます?」


「いや。

私爪の形綺麗なんですよ。見てください」


ウォマはハララカに爪を見せた。アーモンド型の爪。

爪半月も綺麗に出ている。


「爪長っ!」


「そこじゃないよ」


通りで痛いわけだ……と呟くハララカを無視してウォマは服を着る。

彼は魔法が使えるんだからこれくらいの痛み大したことないだろう。


その時扉からノックの音がした。


「ハララカー、起きてる?」


デュメリルだ。マズイ。

ウォマは身嗜みを整え髪を梳かす。

なんとか誤魔化せているだろうか?いや無理だ。噛み跡がバッチリ見えている。


「ハララカさん……」


ウォマは半泣きでハララカを見たが、彼は涼しい顔でそれを無視した。


「どうかしました?」


「いや、ヒバカリがな、ウォマがいないって言うんだよ。

君知らないか?」


「ああ、彼女なら」


ハララカはチラリとウォマを見た。

言ってくれるなよ……!とウォマは祈りながらハララカを見つめる。


「ズグロさんに会うとか言ってましたよお。すぐ戻るんじゃないですかあ?」


「エッ……あの変態と……。

もう戻ってこないかもしれないな……。可哀想に……」


彼はブツブツ言いながら去って行った。

ウォマはホッと胸を撫で下ろす。ここにいることをバラされるかと思ったのだ。


「危ない危ない。

ついでにこの噛み跡消してください。これ……いくつ付けたんです?」


ウォマは鎖骨や肩にある噛み跡を撫でた。痛みはもうない。


実は頸や首筋などにもあるのだが、ハララカは黙っていた。


「嫌です」


「な、なあ!?

ダメですよ、消してください!外歩けないでしょ!」


「えー。」


「えーじゃない!

昨日のこと他の人にバラすつもりですか!」


ウォマがハララカを睨んだが、彼はジッと噛み跡を見ていた。


「…………これを消しても」


彼の指が鎖骨の噛み跡に触れる。ハララカはあの、どこまでも暗い瞳でウォマを見た。


「昨日のことは無かったことにはなりません」


その圧力にウォマは背筋に怖気が走る。

怒らせた?


「わ、かってますよ」


「どうだか」


ハララカは侮蔑したようにウォマを見下ろし、呪文を唱えた。

それから彼女の唇に口付ける。

彼はついでとばかりにウォマの薄い唇に噛み付いた。


「いたっ、」


ハララカはウォマの唇を撫でる。

何がしたいのかウォマにはサッパリわからない。


「無かったことになんかしませんよ……」


「そうですか」


「本当に。出来ないですから」


そう言うとウォマは耳まで赤くして「じゃ、じゃあね!」とハララカの部屋から出て行った。

が、すぐ戻って彼の部屋にあった羊皮紙を掴み直し、また出て行く。目的を忘れていた。


「……出来ない?」


その言葉の意味を暫く考え、それから彼は穏やかに笑った。

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