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なんなんだこの男!?恐怖でしかない!

サヴにやると言ってしまった手前脱退は出来ない。

ということで早速男どもを手篭めにしようとウォマは立ち上がった。


デュメリルはナルシストだしそもそも女が好きかどうか。

ハララカはどうもあの目が怖い。

とするとユウダしかいない。

彼も手強そうだが……デュメリルほどではないだろう。


「あ、あの、ユウダさん」


「何かな?」


「私……普段は宿に泊まって生活しているんですけれども、このパーティはどうしているんですか?」


「ここも宿を転々としてるよ。

そうそう、早速で悪いんだけどクエストを受けていてね。もう移動しなくちゃならない。準備はできてるかな?」


「もちろんです!」


「なら行こう。目指すはメクラの町だ。」


ユウダは今度はよろけることなく立ち上がる。他の3人もそれに続いた。


「じゃあ僕は馬を借りてこよう。ハララカ、一緒に来てくれ」


「はい。」


厄介な2人は行った。

……よし。


「ユウダさん……私もユウダ先生って呼んでいいですか?」


「もちろん。好きに呼んで」


「私のことはウォマとか……あ、ウーって呼ぶ人もいます」


「あら。ならウーって呼ぼうかしら?」


それまで後ろで黙っていたヒバカリがツンとした顔でウォマを見た。

ウォマの企みに気付いているのかもしれない。


「は、はい!

みなさんとその……打ち解けたいですから」


ウォマは精一杯上目遣いでユウダを見上げた。

が、そんなこと慣れていないウォマの上目遣いはどこをどう見てもユウダをガンつけていた。


「……打ち解けるって……拳で?」


「えっ、なんで!?」


「いえ、ガンつけているように見えたので。違いまして?」


「今のは上目づか……ただユウダ先生を見ただけで……。

ガンつけてた?」


「人によってはそう思うかもしれないわね。

少なくともわたくしにはそうとしか見えなかったわ」


ヒバカリの少し引いたような声音に、ウォマはショックを受けていた。

上目遣いすら失敗するなんて。やはり、可愛くて美人のズグロが引き受けるべき仕事だったんじゃ。


「まあまあ、ウォマさんもヒバカリと仲良くなりたいんだから。あんまり冷たいこと言わないの」


「冷たいこと言ってませんわよ」


「ごめんね、この子人を突き放すような言い方をしちゃう時があって。

でもすっごく可愛くていい子だから。仲良くしてあげて?」


ユウダはヒバカリの腰をぎゅっと抱き、顎を彼女の頭に乗せた。

彼の体にすっぽり収まっている小さな少女は、顔を首まで赤くして涙目でユウダを睨んだ。


「先生!子供扱いはおやめ下さい!」


「ああ、ごめんね」


ユウダはヒバカリの体を離すと頭をポンポンと叩いた。


ウォマは思わず遠い目になる。


これを見てわかった。

少なくともヒバカリはユウダが好きだし、ユウダもそれが恋愛感情かは分からないがヒバカリが好きなようだ。


「……ごちそうさまです……」


この2人に割って入れればいいのか……?

そもそも割って入れるかどうか。このイチャラブ無自覚カップルに?入隊したての新入りに見せつけてくるというのに?無理だろう。


「おーい!馬連れてきたぞ!」


うんうん悩むウォマの後ろからデュメリルが大声で叫ぶ。


彼は大きな黒い馬を三頭連れていた。


「三頭だけ?」


「ああ。人数分は借りれなかった。

ヒバカリはユウダ先生の馬に乗せて貰えばいいとして……」


「わ、わたくし、1人で」


「無理だよ、君小ちゃいもん。

ユウダ先生もそれでいいよな?」


「もちろん。さ、ヒバカリおいで。

乗せてあげるよ」


「ですから、子供扱いはやめてくださいと、」


文句を言いながらも、ヒバカリは満更でもなさそうにユウダに手を引かれていく。

どうやらヒバカリの気持ちは周知の事実のやうだ。


「あの2人はいいとして……ウォマ、君はどうする?

馬が得意なら1人で使うか?僕とハララカ2人で一頭に乗ろう」


「ご冗談を。デュメリルさん徒歩でお願いしますねえ?」


「な、なんでだよ!?」


デュメリルの提案に彼女は少し悩んだ。

馬に乗ったことは何度もあるし、それで特に問題はない。デュメリルが徒歩になるけれども。

が、ここで男と密着するチャンスを逃してどうするのだ。


「……あまり……馬はその……」


「なら乗せてやるよ。僕とハララカどっちがいい?」


……ここはやはり、パーティのリーダーから落とすべきか。


「デュ……」


「デュメリルは時々物凄く飛ばすから振り落とされないよう気を付けてちょうだい!」


「ハララカさん、お願いします」


ヒバカリの言葉に咄嗟にハララカに頭を下げていた。


「わかりました」


「飛ばした方が気持ちいいのに」


デュメリルの言葉を無視して馬の横に立つ。

ここですんなり乗れてしまったら嘘がバレるだろう。鈍臭く乗りあがらなくては。


「乗れませんか?」


「あ、えっと……はい」


ハララカはウォマを濁った目で見ながら侮蔑したように笑う。

それがウォマは無性に怖かった。


ハララカはヒラリと馬に跨るとウォマの手を掴んで引き上げた。

いきなりのことに彼女は驚き乙女とは思えない野太い悲鳴を上げてしまうが、誤魔化すように「お、驚きましたわ」とお嬢様言葉で取り繕った。


「すみませんねえ」


「あ、持ち上げてもらっておいてすみません。重かったでしょう」


「鍛えてますからあ」


重いということは否定されなかった。

ウォマは食事制限を決意した。明日から頑張る。


「さ、さすが、ギルドランキング1位のパーティですね」


「お褒めの言葉ありがとうございます」


ウォマがハララカに戦々恐々としている横でデュメリルが「しゅっぱーつ!」と声を上げた。


馬が動き出す。


「わっ」


「怖かったら寄りかかっていいですよお。

怖かったらですけど」


ウォマにしてみれば馬よりもハララカが怖い。

何故怖かったらを二回言う。怖くないなら絶対寄りかかるんじゃねえという脅しだろうか。

しかしそんな脅しにウォマは屈しなかった。

「じゃあお言葉に甘えて」と言ってハララカの案外筋肉のついた体に寄りかかった。


「へえ、怖いんですかあ?」


「す、少し……」


「少し、そうですか。じゃあ今後も馬は俺と乗りましょうねえ?」


怖い。何が怖いって何を考えてるのかさっぱりわからないところ。

まるで常に首筋にナイフを当てられているかのようでウォマは背筋が震えた。


「アハ……お、お願いしようかなあ……アハ……ハハ……」


「わかりました。馬に乗るときは呼ばれなくても一緒に乗りますね」


呼ばれなかったら一緒に乗らないでほしい。

胸の内でため息をつきながら、ウォマはハララカにゆっくり身を預けた。

どんなに恐ろしくても彼女にはこのパーティを解散させるという勤めを果たさなくてならないのだ。


✳︎


馬を歩かせ出して2時間。

ウォマが、背後にいるハンニバル・レクターのような笑顔の男に怯えてから2時間経ったということだ。

ここまで来ると恐怖の感覚が薄れてくる。

ホラー映画で最初は何が出てきても怖いが最後の方はペニーワイズが出てきても驚かなくなるのとおなじだ。


「ハララカさんはどうしてこのパーティに?」


「たまたま、デュメリルさんに誘われたんです。それまではデュメリルさんとユウダ先生とヒバカリさんと別の方が組んでいたんですけれど、その方が抜けてしまいまして。

同じ射手だったので俺を誘ってくれたんです」


ハララカはこのパーティでウォマに次ぐ新参者ということのようだ。


「デュメリルさんに誘われるということは、ハララカさんは相当腕が立つんでしょうね」


「単純に俺が計算が得意だったからだと思いますよ」


「けいさん、ですか?」


「ええ。ユウダ先生とヒバカリさんは難しい読み書き計算も出来ますけど、デュメリルさんは簡単なものしか出来ませんからあ。商人に騙されたりとかしたみたいで、ある程度学のあるものを雇いたかったみたいです」


この国では完璧な読み書き計算が出来るのは基本的に魔術師か貴族である。

魔術師のユウダと貴族のヒバカリは出来るのだろう。

となると、ハララカもそのどちらかなのだろうか。

そう思ったウォマがちらりとハララカを見上げると、彼は唇の端を釣り上げた。


「貴族に見えますかあ?」


ウォマは首を振った。

貴族というには少し粗野な雰囲気が漂っているし、目が死んでいる。

まるで死んだ魚の目だ。


「……魔術師、ですか?」


「使いませんけどねえ」


彼女の背中に悪寒が走る。

こんな男が魔法を使えたらロクなことが起きない……そう思ったのだ。


「す、凄いですね!私、魔法は全然……。読み書きも計算も、少ししか出来なくて……」


ウォマは取り繕うようにハララカを褒める。

が、褒められたハララカは白けた表情だ。


「そうなんですか。

教えてあげましょうかあ?」


「魔法をですか!?」


ウォマの灰色の目がキラリと輝いた。

この世界の人にとって魔法が使えるようになるというのは、石油王になってバカンスしたいというのと同じくらい当たり前の夢なのだ。


「魔法は無理でしょう。

ウォマさんはとても魔力が少ない」


「ええ……」


ハララカの手が不意にウォマのお腹を押さえた。


「例えば、俺が魔力不足に陥った時にあなたの臓腑を食べれば気分が良くなるかもしれませんが……その程度ですよお?」


あなたの臓腑を。

彼のその穏やかな声音に、ウォマはギャーッと悲鳴を上げそうになる。

これは魔力不足による体調不良が、魔力のある物を食べたら良くなるよ!という意味なのかもしれない。が、ウォマには彼女の内臓を食べたらレクター的な意味で元気になるという意味にしか聞こえなかった。

お腹に回された手を振り払い馬から降りて来た道を走って逃げ出したかった。


「ヒ……ヒエ……冗談、ですよね?」


「冗談抜きで。本当に少ししかありません。魔法を使えるようにはなりません」


「そうじゃなくて……私の内臓……食べ……食べて気分が良くなるって……」


「冗談じゃありませんよお?

でも実際にそんなことになったらユウダ先生の魔力を分けてもらいますから」


「ですよね……。そうしてください……」


ウォマは少しだけ安堵する。

あくまで仮定の話だ。そんなことはしないだろうと。


「ああでも……」


ハララカはウォマのお腹に触れる手に力を込めた。


「ユウダ先生の魔力も無くなったらあなたのコレを頂きますねえ?」


「ピギャ……」


ウォマはもう叫ぶこともできなかった。

なんでこの男の馬に乗ってしまったんだろう。

恐怖で彼女の意識は白くなる。飛びそうになる意識をなんとか堪えたが、落馬した方がマシだったかもしれない。


「なんの話してましたっけ……。ああ、そうだ。

魔法じゃなくて、読み書き計算なら教えられますよって言いたかったんです」


ウォマは冗談じゃないと断ろうとした。

こんな恐ろしい男に習ってなるものかと。


しかしはたと気がついた。

デュメリルは読み書き計算が出来る人間を欲しているという。

ここで出来るようになれば本入隊の望みがわずかながらあるのではないだろうか?

そもそも読み書き計算が出来て得はあれど損もない。


「……私、なんのお返しもできませんけど……」


「構いませんよお。あなたからのお返しなんて期待していません」


「え?それは?嫌味を言ってる?

まあいいです。是非教えてください」


「はい。じゃあ時間があるときにでも」


約束ですよお、というハララカの声にウォマは恐ろしい契約を結んでしまった気分になった。

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