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正式入隊と次の目的は

ユウダが戻ってきて、ウォマの文字の先生は2人になった。

宿のハララカの部屋で勉強会が行われる。

ユウダはやはり教えるのが上手だ。

ウォマが間違えても辛抱強く、わかるまで説明する。

それに比べてハララカはもうウォマに勉強を教えるのに飽きたのか横で本を読んでいる。


彼女はチラッと見る。

彼の読む本は分厚く文字は小さい。

ウォマからしたら虫が這っているようにしか見えないのに、あれが言葉になって物語になっているという。


「凄いねえ」


はー、とウォマが感心したように言うとハララカがこちらを向いた。

ウォマたちに意識は向けていたようだ。


「あなたもこれくらい読めるようになりますよ。1%の奇跡が起これば」


「1%!?なんでですか!」


「ユウダ先生が教えてくれてるから1%もあります。あなただけならマイナスですよ。マイナス%」


「そんなパーセンテージ無いでしょ。

ほら、ウォマさん。続きやろう」


ユウダに羽ペンを渡され、ウォマは渋々続きを書く。

今は文章を書く練習をしていた。


暫く、夢中になって書いているとハララカが机に伏せているのに気がつく。

飽きた挙句寝たらしい。


「ね、寝てやがる……」


「ハハ、疲れてるんだね。

ウォマさんも休憩にしよっか。お茶を淹れるから」


ユウダが立ち上がるので慌ててウォマはその後を追う。またコップを落とされてはたまらない。


「手伝います」


「ああ、ありがとう」


彼は優雅な手つきでお湯を沸かし、優雅な手つきで茶葉を入れ、優雅な手つきでコップを落とした。

ウォマはすかさずそれをキャッチする。


「ごめんね」


「いえ……なんか慣れてきました」


「慣れたか……。そういえばウォマさんがうちのパーティに入ってから二週間が経つね。

仮入隊ってことだったけど、どう?

本入隊は」


「い、いいんですか!」


「いいよいいよ。

実力は充分わかった」


実力は充分に、と言われたがウォマのしたことはへんな触手に腕を折られるかヤクザにお腹を裂かれたかである。


「そんな働いてないから気がするんですが……」


「そんなことないよ。

それに、ヒバカリも君がいなくなったら寂しがる。折角女の子の仲間ができたんだ。

魔物退治をやってる女の子はそんなにいないから、是非パーティにいて欲しいな」


「そっちが本音っすね?

でもユウダ先生の一存で決められるものなんですか?」


「うん、多分。

デュメリルは来るもの拒まず去る者追うって感じだし、ハララカは君のこと気に入ってるみたいだしね」


「ハララカさんが?」


「多分。

じゃなきゃ夢に出るほど心配しないだろうし」


「夢?」


なんのことだろうか、とウォマは首をひねる。

それを見たユウダは慌てて言葉を紡いだ。


「なんでもないよ。

さ、お茶を運ぼう」


ウォマは、お盆を持とうとするユウダからそれを奪う。

全部ひっくり返るところだった。


「私が運びますね!」


「あ、ありがとう。ウォマさんは気が利くね」


「気が利くんじゃなくてお茶を無駄にしたく無いんですよ……」


本のある机に戻ると、まだハララカは眠っていた。

本当に疲れているらしい。


「ハララカさん……ここで寝たら体痛くなりますよ。ベッドで寝て来たらどうですか?」


ウォマは彼の背中を揺すった。

ハララカは少しだけ顔を上げてボンヤリと中空を見た。


「何?」


「何じゃなくて。寝るならベッドに行ったらどうですかって」


「寝てねえよ」


何故、寝ている人間は寝ていることを否定するのか。

それが私たちのサガだから。


そんなことよりもウォマは、例の、ハララカの喋り方にうっかりときめいていた。

この乱暴な喋り方。ワイルド・ガイ。


「う、あ、寝てないのかあ。

そっかあ」


彼女は赤くなった頬を押さえる。


「ん……?いや、今のは夢だな。

寝てましたねえ」


ハララカは伸びをして、置いてあったお茶を飲んだ。

夢の中で彼はデュメリルを椅子にして、ウォマを膝に乗せて肉を貪っていた。中々良い夢だった。現実にしたいものだ。


「美味しいです。ありがとうございます」


「たくさん飲んで」


ウォマは笑うハララカの横顔をポーッと見つめた。

その視線に彼は気づき首を傾げる。


「どうかしましたあ?」


「あ、や!その……喋り方が……」


「喋り方?」


「素に戻ることが多い気がして」


「ああ」


ウォマに指摘され彼はそのことに気がついた。

確かに、ついうっかり敬語が抜けることが多い。


「気が抜けてるのかもしれませんね。

よく怖いって言われるんで気を付けてるんですけど」


「怖くないよ。良いと思う。すっごい。うん」


「何ボソボソ喋ってるんですかあ?」


怪訝そうな顔のハララカにウォマはハッとした。我ながら気持ち悪い。


「あー、えっと……そう!

私、正式にここに入隊出来ることになりました!ので、よろしくお願いします!」


ウォマはハララカに勢いよく頭を下げる。


「あれ?正式に入ってなかったんでしたっけ」


「そうです。仮入隊でした」


「よくまあ入りましたねえ。ひどい目にあったのに」


ハララカの目線が彼女のお腹を見た。ウォマは自分のお腹を押さえる。

確かにひどい目にあった。だが今にして思えばあれは大したことではない。

こうしてここに立っていると言うことはあれは乗り越えられるものだったのだと彼女は考えていた。


「あの時は助けてくれてありがとうございました」


「どういたしまして。

じゃあ正式に入隊したお祝いにご飯でも食べましょうか。お腹空きませんかあ?」


「お、いいねいいねえ!

どうする?どこで食べようか?」


「お酒の無いお店ならどこへでも」


そういうことで、3人はお酒の無いお店にやってきた。

お酒の無いお店とは漠然としている。この書き方じゃマクドナルドも当てはまるしスターバックスも当てはまるし言ってしまえばユニクロもツタヤも当てはまるので補足しておくとお酒が無くて美味しいご飯のあるお店にやってきた。


「何食べようかなあ」


「あら?貴方達は……」


「あ、テルシオペロさん?」


なんと隣の席にあの美しいテルシオペロが座っていた。ヤハズも一緒だ。


「また会うとは。奇遇ですね」


「ええ本当に。

良かったら同じテーブルで食べません?」


彼女の提案に3人は頷く。

隣にいるのに一緒にならないのもおかしいだろう。


「ここは鶏肉が美味しんですよ」


テルシオペロは美しく笑いながら次々と注文をしていく。

ウォマ達の意見など聞く気は無い、というよりはメニューの全てを頼んでいるかの量だ。帰れま10でもやっているのか?


「にしてもちょうど良かったわ」


「何がでしょう?」


「まだ話を聞いていないかしら?

貴方がたが見つけた臓器売買のグループを殲滅させる話が出ていて、貴方がたの力を借りようと思っていたところなのよ。

何しろ一番に見つけたのはそちらですし……。

あのグループの目的が掴めていないのよ」


「目的も何も、ただの最悪のゴロツキだっただけじゃ?」


「あら、どうして?

臓器売買なんて普通金にならないことをゴロツキがやるかしら」


「私の知ってる限りじゃ金になってましたけど……。

ほら、隣国の月光王国の聖女サマが医術っていうのを開発したでしょ?それの勉強で各所で臓器を必要としてて……」


この世界は魔法に頼っていたので医術というものが存在しなかったのだ。

それを今現在作ろうとしている段階だ。ターヘル・アナトミアを。


「確かに臓器は必要らしいわね。でも、臓器だけじゃなくて人間の死体全てを欲してるらしいわよ。恐ろしいわよね……ネクロマンサーみたい。

……話が逸れたわ。

そう、だからね。どうも臓器売買には厄介なのが絡んでるみたい」


「うーん、確かに臓器なんて買い手は限られますもんね。

その道の愛好家がグループを作って買っていたとか?」


「取られていた臓器はいつも同じ場所だったみたいよ。その道の愛好家がずっと同じ場所の臓器を取り続けるかしら?」


「その道の愛好家じゃないので分かりませんね。

ハララカさんなら分かるんじゃ?」


「…………どうでしょう」


「やだな、なんでちょっと間があったんです?すぐに否定してくださいよ」


ハララカは涼しい顔で冷や汗を流すウォマを無視した。


「それでその厄介な黒幕の検討は付いてるんですかあ?」


「候補が数名。

でも貴方がたがこの依頼を受けるというなら話すけれど、受けないなら教えられないわ」


「あなた達2人で倒せない相手なんですか?」


彼らはたった2人でギルドランキング5位にいるのだ。実力は十二分にある。

そんな彼らが助力を求めるだなんて。


「正直な話、私たちだけじゃ倒せない可能性があるわ。

私は魔術師としては……ンフフ、それなりだけれど……剣や斧や槍は使えないから。ヤハズだけじゃ無理があるわ」


「あなたの魔法で消しきれないとは中々の強敵のようですね」


「そういうことです。

ごめんなさいね、黒幕に私たちが動いていること少しでもバレたら困るからあまり言えないのよ。どこから漏れるか分からないし、そもそも誰に漏らしていいかも分からないから」


「いえ構いませんよ。私たちも受けるとは決まってませんから。

決めるのはデュメリルです……その……あのデュメリルで……」


ユウダの言葉にテルシオペロの穏やかな顔が徐々に曇っていく。

デュメリルという名前すら嫌なようだ。


「そう……そうなのよね……。

私は貴方がたの力を信じています。というか、貴方がただけが欲しいのよ……あの男はいらない……ムカつくから……本当にムカつく……ナルシスト小僧が……」


「テルシオペロ様……本音が漏れでてます……」


ヤハズが目を伏せ、悲痛そうにテルシオペロに進言する。彼女はハッとなって口元を抑えた。


「やだごめんなさい。ついうっかり」


「気持ちはわかりますけどねえ。絞め殺したくなりますからあ」


「話が分かるのね。

では、正式にこの話は申請させていただきます。もし一緒に行動することになったらよろしくお願いします。

ウォマさんもまた、もし困ったことがあったら言ってね」


テルシオペロは穏やかに微笑み3人にお辞儀をした。

その姿にウォマは再びメロメロになった。

例えデュメリルを絞め殺したくなっていたとしても、美人で常識的で優しい。


「こちらこそお願いします!」


「ウォマさんって単純ですよねえ」


「単純というか現金なのかもしれない」


「そこ!悪口聞こえてますよ!」

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