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酒と詫びとディープキス

何故こんなことに。

ウォマは額に手を当てる。

彼女の膝にはハララカが頭を乗せ、右肩にはヒバカリが眠っている。

デュメリルはテーブルの上で(下半身がずり落ちている)大の字で眠り、その下で覆い被さられるようにユウダが眠っていた。

青くなるウォマを睨む人影が。

この店の主人だ。彼は今すぐ怒鳴りたいのをグッと我慢している……その気配をウォマは充分に感じ取っていた。


こういう風にパーティをクラッシュしたかったんじゃない……。


✳︎


路ギュー(路上で抱擁)していた2人とハララカと共にウォマは食事処に来た。

よくあるゴミゴミした食事処ではなく、皆ある程度の良識があるような客ばかりだったので、ここならばヒバカリも楽しめると思ったのだ。


「あ!?みんなして僕を仲間外れにしているな!!」


よく通る声が響いた。

デュメリルだ。彼は既にテーブルについてご飯を食べている。


「デュメリルさん!花街は?」


「もう切り上げてきたよ。1人じゃ詰まらん。

やっぱりハララカも行こうぜ。楽しめるよ……うん……多分?

僕以上の美形はいないけど」


「遠慮します」


そんな訳で彼と合流、パーティ・ナジャシュは全員揃ってご飯となった。

席に着きカンパーイとグラスをぶつける。


「にしてもやっぱりニシキの街は楽しいな。普段来られないからな」


デュメリルは無造作に肉を掴んで食べる。

味は悪くはない。


「あら、だったら何処かに行っておけば良かったわ」


「あー、君には楽しくないかもな。

なんたって王都の方がデカイから」


「えっ、ヒバカリさんって王都出身なの!?」


「王都といっても端の方よ?」


王都は広い。東京ドーム2480個分の広さだ。

それでも王都出身というのはワシントン出身と言われるのと同じくらいの威力がある。


「すっご……。

じゃあこの辺なんかつまんなくない?」


「そんなことないわよ。

王都の端の方はこの辺りと似たようなものだし、なんだか懐かしいわ」


「へー……。でもやっぱ行ってみたいな……。

皆さんはどこ出身なんですか?」


「私も王都に暮らしてたよ」


ウォマには急に2人が凄い人のように思えてきた。

貴族なのだから本来はウォマがこうして喋ることができないほど身分に開きがある。しかしパーティとして一緒に過ごしているときは同等だ。

勿論彼らの立ち居振る舞いからして自分とは違う人種だとわかっていたが、更に王都出身となるとそれに重ねて違いを知らされた気がした。


「デュメリルさんは?」


「昔のことはあまり覚えていないんだ。色々転々としていたからな。

ヒバカリの祖父さんに買われるまではパイプにいたが、その後はナメラで暮らしてた」


「ヒバカリのじいさんって……」


「ほら、僕って罪作りなくらい美しいだろ?

ヒバカリの祖父さんもメロメロになっちゃってさ、僕のこと愛人にしてたってわけ。

もうあっちの方は使えなくなってたしチヤホヤしてくれるし貢いでくれるし最高だったけど死んじゃったからな……残念だよ」


デュメリルはハアと溜息をついた。

一年にも満たなかったが素晴らしい生活だった。またあの生活に戻りたいものだ。

まだヒバカリの祖父が生きていれば今頃はこんなしけたポテトではなく揚げたてサクサクポテトを食べていただろうに。


「すごい過去が明らかに。

じゃあデュメリルさんとヒバカリさんは元々知り合いだったんだ」


「わたくしは知らなかったわよ。こんな愛人がいたなんて……。

お祖父様が死んだときはみんなしてデュメリルを取り合ったのよ。こんな男の為に争うなんて無意味なこと二度と起こらないでほしいわ」


「ヒバカリが僕の持ち主になって、祖父さんとの契約をチャラにしてくれたから自由の身になったんだ」


「ならどうして一緒のパーティに?」


「貴族の娘がいきなり退治屋なんて出来るわけないだろ?

そこで、美しくかつ剣技の腕も最高な僕が手伝ってやってるわけ。

恩もあるしな」


ウォマの所感ではデュメリルよりもヒバカリの方が腕が立つが黙っておく。


「嘘つかないで頂戴。

あなたが作ったパーティと私のパーティを合体させたんじゃない」


「そうだったっけ?忘れたな」


最初、デュメリルが作ったパーティは皆デュメリルに惚れて仕事にならなくなったので仕方なく解散したのだ。

美しさは罪……。

その後愛人の娘がパーティを作ったというのでそこに入り、彼がリーダーの座をを奪ったのだ。


「じゃあこのパーティはヒバカリさん、ユウダ先生、デュメリルさんが元々の知り合いなんだ」


「ユウダ先生のことは知らなかったけどな」


「私もびっくりしたよ……。ヒバカリのお祖父様にこんな愛人がいて、更に同じパーティに入るっていうんだから……」


「無神経ここに極まれり、ですね」


「僕のような美しい男が一緒にいるんだぞ?咽び泣いて喜ぶべきだ」


「よく入れたね?」


「亡き祖父の形見だと思うと無下には出来なくて……」


ウォマはそういうものか?と首を傾げる。

自分ならまず愛人を作った祖父を許さないし、その愛人が図々しくもパーティに入りたがったらちゃぶ台をひっくり返すが。


「ハララカさんも実はヒバカリさんのお祖父さんの愛人だったりします?」


「そう見えますかあ?」


「全然。お祖父さんを殺した人だったなら納得しますけど」


「何か言いましたあ?」


「いえ何も。すみません」


「俺はこのパーティに入るまで皆さんと面識はありませんでしたよ」


「ふうん。出身は?」


「……メディックです」


説明しよう!

メディックとは、王都を東京霞ヶ関だとしたら三軒茶屋にあたる、ちょっと不便で少しだけ都会から離れてるけどオシャレな住宅街のことである!


「それなのにゴロツキを殺すゴロツキをやってたんですか!?」


「生まれた時からそんなんじゃありませんよ」


「あ、そっか。

ならどんな家だったんですか?」


「普通の家です」


「そりゃヒバカリさんに比べたらどこだって普通っすよ。

家業を聞いてるんです」


「家業……。漁師だったと思います」


「だと思います?」


「海に、よく行っていたので……」


はて、メディックは港町だっただろうか?とウォマは疑問に思ったがそれよりも魚料理を食べ放題なことに意識が飛ぶ。


「なら魚料理食べ放題……いいなあ……」


「魚料理は余り出ませんでした。甘いものばかり」


「あー、甘味屋さんは甘いの食べないって言いますよね。

漁師も魚ばっかりだと飽きちゃうんですかねー」


「そういうことだったんでしょうか」


「や、憶測ですけどね?

っていうかハララカさんは聞かなかったんですか?魚食べないのか」


「聞いていなかったと思います」


ウォマは不思議に思った。

何故彼は親の家業もうろ覚えで、しかも全て過去形で話すのだろう。


「ウォマさんは?」


「へ?」


「ご出身は?」


「ああ、ククリィです」


ククリィの半分は実質スラム街だ。

孤児やきちんとした仕事のない大人がうろついている。


「ヤコブソンまでよく来たね」


ヤコブソンはウォマがサヴに依頼されていた最初の街だ。

ククリィからヤコブソンまでは福井から島根くらい離れている。


「ヤコブソン目指してたわけじゃなくて、色々転々としてあそこに辿り着いたって感じです。

それでちょうどよくギルド紹介してもらえて」


「ああなるほど。

あそこはたいじやが多いし、パーティくむならぴったりらもんな」


「そゆこと。

しかし……いろんな経歴の人がいるねえ」


ウォマは座る面々を見渡す。

パーティを組むときは目的が同じか、気があう仲間か、そのどちらかと言うがこのパーティはそのどちらも当てはまらない。

ウォマに至ってはパーティを潰そうとすらしているのだから。


「これも何かの縁、ですかね」


「らにいってんらあ?」


「何言ってるの……ってああ!?」


ユウダは叫び声を上げ、ヒバカリを自分の後ろにサッと隠した。


「誰だ!デュメリルに酒を飲ませたのは!?」


「あ、そういえば飲ませたらダメだったんでしたっけ?

最初から飲んでましたけど……」


ウォマはコップを掲げる。

最初から、皆の盃には酒が注がれている。


「口当たりが良くて何杯でも飲めちゃいますよね。

でもこれ結構アルコール度数高いから酔いやすいかも」


「なんてことだ……これお酒だったのか……。ウォマさん、取り敢えずデュメリルから離れ—」


「らんか熱くなってきたなあ。うんうん。こんな時はけっとーに限る!」


デュメリルはテーブルを強く叩いた。

ガチャガチャと食器がぶつかる音がする。


「ウォマ!きみの歓げー会としょーして、いっきうちをしよーじゃないか!」


「は?一騎打ち?いやいや待て待て」


「ん、そうら、剣置いてきたんらった。

じゃー、いっきうちはやめて、いっきのみしよー!」


「どうしてそうなる」


デュメリルはギャハハと笑うと酒瓶を振り上げた。

その予想外の行動に、ウォマはそれを避けきれずもろに顔面にぶつけてしまう。

酒瓶の割れる音が響いた。


「キャア!!ウォマさん!!」


「ああー……言わんこっちゃない……。

ウォマさん、デュメリルは酔うと触れたものを皆壊すバーサーカーになるんだ。全力で逃げて」


なんだそれは……ウォマは顔を抑えながら呻いた。

どうやら鼻血が出ているらしい。


「ああ~……瓶割れちゃった……」


「私の顔の心配をしろ。

まあいい。デュメリルさん大人しくしてて」


「わあってんよー!」


そう言いながらデュメリルは皿を床にぶちまけた。

ウォマの周りにガラスの破片が飛ぶ。


「ユウダ先生!助けて!」


「ウォマさん。とても大事なことを言い忘れていたんだけど……」


「なんですか!?」


「私もとってもお酒に弱いんだ」


「え……え!?」


ユウダはごめん、と呟くとそのままテーブルに突っ伏した。ガシャンと音がしてまた食器が割れる。

ユウダの白いローブが食べ物で汚れていった。


「嘘でしょ!?ひ、ヒバカリさん~~!!」


ヒバカリはウォマを引っ張って、座席の端に追いやる。

それからデュメリルの頬を一発叩いた。


「しっかりしなさい!!また面倒ごとを起こす気!?」


「もう起こしてるよ」


「いら~~い!ヒバカリ、なにすんらよ!」


デュメリルはヒバカリに抗議しようと足を踏み出すがそのまま転倒。ユウダを押しつぶすようにテーブルに覆いかぶさった。


「あれ?動けらい……うーん……」


酔いが全身に回ったようで、体を起こそうとするが食器が落ちるだけでうまく動けないようだ。

店には悪いが人的被害が出ていないだけマシだろう。


「ひ、ひどいことになってる……。ハララカさん、」


ウォマは未だ座席で悠々と酒を飲んでいるハララカに助けを求めた。


「はい」


「悪いんですけど、私の鼻血止めてもらっても良いでしょうか?

そしたら私はお店の人に謝って来ますので……」


「はい」


「いつもすみません」


「はい」


「……ハララカさん?」


「はい」


「酔ってるな!?」


「酔ってませーん」


ハララカはニコニコ笑った。その頬は赤く目は潤んでいる。

酔っ払い三号だ。


「酔ってない人はそんな顔赤くないですよ!!」


「ウォマさんも赤いですよお」


「これは血です」


「面白ーい」


「面白くない!!早く治してもらって良いですか!?

って、あ、酔ってたら魔法って使えない……?」


呪文の呂律が回らないのでは。ウォマは裾で鼻血を抑えた。

これじゃ鼻血を垂らしながら店の人に土下座をすることになる。


「使えるに決まってるだろ?

おいで」


ハララカはウォマの腰を抱き寄せ自分の膝に乗せた。何故膝の上に乗せられるのかわからず、ウォマは少し抵抗するががっちりと抑えられてしまっていた。

彼は呪文を唱え出す。

いつもよりゆっくりと。


そして、彼女の口に指を突っ込むとそのまま口付けをした。


「ンエ!?」


ウォマの口腔内にハララカの指と舌が侵入して来た。

彼女の頭にシンゴジラのBGMが鳴り響く。巨災対、助けて……!

無人在来線爆弾を今ここに……!!こいつに……!!


彼の舌が、混乱しきって頭が真っ白になっているウォマの口腔内をいやらしく蹂躙する。詳細は全年齢対象のため省いておこう。

蹂躙が終えると、体が離された。

顎に唾液が伝う。


「口の中も切ってたんですかあ?血の味がする」


「ほうじゃったのか」


「ほら、治したんだから早く土下座に行って来たらどうですかあ?」


「ほうじゃの」


ウォマは未だ心ここに在らず広島弁だったが、お店の人に謝らなくてはならないということを思い出し立ち上がろうとする。

が、立てない。


「謝りたくないなら謝らなくてもいいんでしょうけど」


「いや、立てな……」


「腰が抜けたんですかあ?」


その言葉にウォマの顔が熱くなる。


「ち、違う」


「だよなあ。そんな激しくやってないもんなあ?

さ、早く立ってください」


ハララカの乱暴な口調にウォマは追い立てられる。

体がまるで言うことを聞かないのだ。

手に力は入るが、足には入らない。


「こ、腰が抜けたんじゃない……!これは、そう、あれです。

お酒の飲み過ぎです」


言い訳をしながら手を使い引きずるようにようにしてハララカの膝から降りる。

決してチッスに腰抜けになったわけではない。彼女はそう言い聞かせるが体は「いやチッスに腰抜けになったじゃん」と言っている。


「へえ。随分可愛い顔してますけどお。

これも酒のせい?」


「そ、うです。」


「なら沢山飲ませないと。なあ?」


「や、その……」


ウォマがワタワタしていると後ろから突然「せーのっ!」という掛け声と共に酒瓶が吹っ飛んできた。

それはウォマの顔面スレスレを通り、ハララカの顔面にクリーンヒットする。


ガツンという音と共に酒瓶が砕け散り、彼の額から血が流れる。


「いってえな……」


ハララカはそう言うとゆっくりウォマの方に倒れこんだ。

慌ててその体を抱きとめる。


「は、ハララカさん!一体誰がこんな奇襲を……!!」


振り返るとそこには据わった目でこちらを見るヒバカリがいた。


「ヒバカリさん!?」


「ウォマさん。分かったと思うけれどこのパーティはお酒に異常に弱いの。

デュメリルはお酒を飲むと触れたものを全て破壊する最終兵器になるし、先生はぶっ倒れるし、ハララカはチンピラになる」


「そうだね……一杯の酒でこんな悲劇が生まれるとは思わなかった」


「そして、わたくしもとってもお酒に弱いわ」


「え」


ヒバカリは儚げに笑い、ウォマの横に座ると「後はよろしく……」と言って寝てしまった。


「嘘でしょ!?何その寝つきの良さ!?」


ウォマはヒバカリの肩を揺するが目を開けない。本当に寝てしまったのか。


「……お客さん、これは一体全体どういうこった」


背後から低い声がした。

見ると、店の主人だろうか、中年の男がこちらを見下ろしていた。

ウォマは慌てて土下座しようとするも、ハララカとヒバカリの重みで動けない。


「こ、これは……」


さっとパーティの面々を見るが全員気絶している。ウォマがなんとかするしかない。


「うちはね……こんな荒くれ者を入れるような店じゃないんだよ……」


「申し訳ありません!!その、酒に弱かったの、知らなくて!あの、べ、弁償しますから!」


「勿論そのつもりだとも……!ああ!全く!机も椅子も食器も!全部滅茶苦茶じゃないか!」


「も、申し訳ありません……!」


彼女は腰から財布を取り出す。

が、この状況を弁償出来る大金はここにはない。

この世界にクレジットカードなどない。あるのは己の力のみ……。

ウォマはヒバカリとハララカを投げ出し、地面を舐めるように土下座をした。


「すみません!今持ち合わせが無くて!

片付けはします!弁償も、後日この酔っ払いどもも謝らせに行きますので!」


「いや二度と来るな。本当に。絶対。頼むから。

片付けはしてもらうにしても……金で払えねえって言うのか?」


「今は……でも、後でなら……」


「そんなのが信用できるか!お前たちの騒ぎでお客さんみんな帰っちまったんだぞ!」


ウォマは顔を上げて周りを見る。確かに客がいない。


「なんとお詫びをしたらいいか……」


「本当にどう詫びてもらおうか!!」


「まあまあ、もうその辺にしたらどうでしょうか?」

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