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可愛い赤い顔

結局ハララカ達にお土産を買えなかった。

それを言うと彼は「どうせ貰っても困るだけですからいりませんよ」と言っていた。

可愛げのないやつだ。


「どこか寄りたいお店とかありますか?」


「そうですね、なんか、こんなに大きいと何がなんだか……。

オススメのお店は?」


「あなたにですかあ?本屋とか?」


「字読めないんですってば!」


「だから勉学のために。

どうでしょう?」


そういえば、ハララカに文字をや計算を教えてもらう約束をしたのを思い出した。


「そういえばそんな話ししてましたね。

じゃあ行きましょうか、本屋。

私もまだまだクビになるつもりはありませんし」


「クビ?」


「あ、いえ。その……字が読めたりすれば本入隊できるかなって」


デュメリルは読み書き計算が出来る人物を望んでいるらしい。そう思ったのだが、ハララカは首を傾げた。


「どうでしょうか。賢い分には良いでしょうけど本入隊に繋がるかどうかは」


「……そうですか」


やはり実力が無いと難しいようだ。

ウォマは項垂れる。

自分に実力があるとは思えない。


「大丈夫ですよ。俺でも入れたんですからあ」


「ハララカさん弱くないでしょ?」


ウォマは彼の戦いぶりを思い出す。ハララカの弓は百発百中だった。


「魔物殺しなんて慣れてません。人間を相手にしてたので」


「へえ?傭兵だったとか?」


「単にやんちゃしてただけです」


どんなやんちゃだ。

ウォマは想像する。

盗んだバイクで走り出し校舎の窓をバットで割る。この世界にそんなものが存在するかは置いておいて、そんな姿のハララカは想像出来なかった。


「関東連合みたいな感じだったんですか?成人式に殺生丸ファーを付けるような?」


「何言ってるんですかあ?

ゴロツキを殺すゴロツキだっただけですよ」


ゴロツキを殺すゴロツキ。

それはゴロツキの中でもかなりな存在ではないだろうか……。

今の見た目は冒険者らしいというのに。


「魔法を習ってたんですよね?なのにゴロツキなんです?」


「魔法を習ってた場所から逃げ出したんです。それでロクに職にもありつけなくて仕方がなく」


「ふうん、ゴロツキがどうして魔物退治を?」


「こちらの方が生活水準が高いと思ったので」


魔物退治の方が生活水準が。確かにギルドに入れれば生活保証が多少ある。

が、入るまでは大変だ。口利きが無ければいつまでもギルドに入れないし、入れたところでパーティを組めず野良になる人の方が多い。


「ハララカさんって良いとこの生まれですか?ギルド入る時口利きして貰えたんでしょ?」


「大した家じゃありませんよ」


「でも喋り方綺麗だし、魔法を教えてもらえるなんてそれなりじゃないですか?」


「……そんないいものじゃありませんよ。

ウォマさんだって言葉は綺麗でしょう?偶に変ですけど」


「これは習わされたんですよ。

奴隷商人がその方が良いって。

スパルタ授業だったんでその時はそいつのこと喉噛み千切ってやろうかと思いましたけど、今じゃ感謝してます」


それにしてもハララカの経歴は謎だ。

聴けば聴くほどよくわからない。


「ハララカさんはよく言えばミステリアスですね」


「どうも」


「今幾つなんです?」


「幾つに見えます?」


「600歳」


「当たりです」


なんて適当な。いや、適当に言ったのはウォマの方も同じなのだが。

ハララカの顔付きは若く見える。しかしこの澱んだ目と今までの話からして10代ではないんじゃないだろうか。


「23歳!」


「違います」


「25歳?」


「ウォマさんは幾つですかあ?」


25歳なのだろうか?

ハララカはウォマに質問し返した。質問に質問で返すなと怒らないのはウォマが温厚だからだ。

答えようとしてハッと口を閉じる。


「……当ててみてください」


「18」


「ンエ」


一発だった。


「言いましたっけ?」


「いえ。勘です」


「そうっすか……」


「ユウダ先生、デュメリルさん、ヒバカリさんが幾つかご存知ですか?」


「26歳、17歳、16歳!」


「おおすごい。大体当たってます。

ユウダ先生は27歳、デュメリルさんは18歳、ヒバカリさんは16歳です。」


ふふん、とウォマは鼻を高くした。

それにしてもデュメリルは同い年なのにあんな……ナルシストの痛い野郎なのか。

ああいう性格は中々変わらないことを知らないウォマはいつまであの性格なのか気になった。


「ヒバカリさんは16歳の貴族のお嬢様なのにギルドランキング1位のパーティに居てすごいっすねえ」


「コネですよ」


「でも実力もあります!」


「あの人は恐らく生まれついて魔物を殺すことに体が特化してるんです」


なんとも羨ましい限りだ。この仕事は天職じゃないか。


「……あれ?それでハララカさんは幾つなんですか?25歳?」


「17歳です」


「はいはい。もうそういう冗談は良いですから」


「本当に17歳ですよ?」


全く笑わせてくれる、ウォマはニヤニヤしながらハララカの顔を見た。

が、彼の顔は口角を僅かに上げているだけでいたって真面目だった。

……本当に17歳?


「う、嘘だ!!」


「どうして皆さん俺の年齢を信じないんでしょう」


「無理!そんな死んだ目の17いるか!全世界のseventeenに謝って!」


「失礼ですねえ?」


「ごめんなさい!でもだってそしたらハララカさん私より年下じゃないですか!?」


「ああ、そういう計算は出来ますか。良かったです」


0から教える必要は無いのかとハララカは思った。

ウォマは百面相だ。青くなったかと思ったら笑い出したり怒り出したり。

自分の年齢でここまで楽しげになるなんてなんて幸せな人だろう。


「……ウ……私が悪かったです……。だから本当の歳を教えてください……」


そして絶対信じないらしい。

本当も何も彼は17歳だ。泣かれても困る。


「600歳ですよお」


「ああ、ですよね。良かった、ビックリした」


600歳の方が信じられるらしい。

彼女には人間は長くても60歳程度しか生きられないと教えなくてはならないようだ。


「ヒバカリさんも俺の年齢言ったら騒いでましたねえ。

俺って老け顔ですかあ?」


「顔じゃない。顔じゃないんだよ。

滲み出る全てのものが10代ではないと語っているんだ」


「なんの参考にもならない言葉ですねえ」


そんなことを言いながら2人は本屋に入る。

が、ウォマはすぐに店を出てしまった。文字が読めないから詰まらないのだろう。

適当に本を見繕い後を追う。

1人にしたら危ないからこうしてくっ付いているのに、何故分からないのだろう。


「ウォマさん」


「早かったですね。もっとゆっくりしてていいのに」


「そういうわけにもいきません。

次はどこに行きましょうか」


「どうしようか……」


ウォマが辺りを見渡した、その時だった。

背中がドンとフードを被った男にぶつかる。謝ろうとしたが、あることに気づく。

この男……スリだ。

ハッとなってポケットを取り出した。そこにはヒバカリへのお土産しかない。


「良かった、スられませんでしたね」


「……無い……」


「え?あ、お財布ですかあ?」


「違う!あいつめ!!」


ウォマはフードの男を追いかけ走り出した。

ハララカは慌ててその後を追う。


フードの男は後ろを振り返りギョッとなる。

ウォマが鬼のような顔で追いかけて来たのだ。


「待ちやがれ!!」


「ヒェッ!!」


彼女はあっという間に男に追いつくとその背中をめがけて回し蹴りをする。

男は腹から激しく転倒。その背中にウォマは乗った。


「なに人から物盗んでんだよ!」


「ヒ……!か、返すよ!返す!!」


男のフードが外れ、情けないその顔面が露わになる。

右耳が削ぎ落とされ、顔中ヤニだらけだ。

反社会的な組織と一悶着あったのだろうか。


ウォマのプレデターのような形相にその男は怯えきり、泣きながら盗んだ物を押し付ける。

彼から物を盗られた娘が追いかけて来て、更には回し蹴りをして来たのは男にとって初めてことであった。

ちなみにハララカは手伝うべきかコンマ1秒だけ悩んだが、あれならその必要は無いなと傍観していた。


「ったく、返すなら最初からやんなってんだよ。

ほらもう行けよ。二度とこんなことするなよ」


ウォマは睨みながら男を離す。男は形振り構わず逃げ出した。

このままここにいたらウォマに何されるか分からないと思ったのだ。


「お見事です」


ハララカは逃げ去る男の背中を見て拍手をした。


「いえいえ……」


「あんなに怒って……何を盗まれたんですか?」


「そ、れは……」


ウォマはそれを隠そうとしたが、隠す前にハララカが「その袋って、さっきのアクセサリーですか?」と言った。

バレてしまっては仕方がない。


「……目の色を……月の色って言ってくれたの……嬉しくて……その……」


顔を真っ赤にしながらウォマはボソボソと言い訳をした。

恥ずかしくてハララカの顔を見れない。赤い顔を見られたくなくて手の甲で顔を隠した。


その仕草にハララカはちょっと……いやかなり、可愛いと思ってしまった。

さっきまでプレデターのような顔をしていたにも関わらずだ。


「ウォマさんもそんな顔出来るんですねえ」


「…………見ないでください……」


彼女は更に顔を覆う。

それにハララカはゾクゾクした。

もっと羞恥させてのたうち回らせたくなる。


「いえ、折角の機会なので是非もっと見せてください」


「何が折角ですか!?」


ウォマの言葉を無視し、ハララカが彼女の腕を退かす。

自分の顔を隠していたものを外され彼女は慌てた。何するんだ!!


「わあ、真っ赤。

人に胸を押し付けるのは恥ずかしくないのに、褒められた思い出を買うのは恥ずかしいんですかあ?」


「それはそうなんだけど……!」


「耳も赤い、首筋も赤い。何処もかしこも赤いですね。

指摘すればするほど赤くなる」


「い、意地悪だなあ!!」


「すみません。面白くてつい」


人で遊んでくれるなとウォマは赤い顔のままハララカを睨む。

ハララカは楽しそうに笑うだけだ。


「でも俺も嬉しかったですよ。思い出に残そうとしてくれるほど喜んでもらえて」


ハララカの指がウォマの瞼に触れる。

彼女のこの薄い皮膚の下に冷たい銀色の瞳があるのだ。

その事と、ウォマの眼球のピクピクとした動きの気持ち良さが相俟って再びハララカの背筋は震えた。


「ハララカさんの指冷たいですね」


「ウォマさんがあったかいんでしょう。特に今は」


彼は指を頬に滑らす。

ウォマの頬が未だ赤いことを指摘したのだ。

そうやって指摘されるから中々熱が冷めないのだ。


「……意地悪いね」


「すみませんねえ?

治ったら街案内再開しましょう」


「別に、今すぐでも構いませんよ!」


「そんな赤い顔を見せびらかしたいんですかあ?」


ハララカはなんとなく嫌だった。

この顔は自分だけが見ていればいい。


「ほんと意地悪……」


ウォマの呟きが聞こえて来たが、彼は聞こえないふりをして彼女の赤い頬と月の瞳を見つめていた。

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