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本当にこのパーティ潰せるわけ?

ギルド。

それはこのサーペント国にとって、そこそこ重要な位置を占めている。


今この国は10年前に現れた魔王の影響で魔物が蔓延っていた。

割と魔王がよく現れる世界なのでどうしようもない。隣国も数年前に現れ退治したばかりだ。

この国の魔王も既に退治されたが虫が湧くように現れる魔物を根絶することは未だ叶わず、人々の生活を脅かしていた。


そこで出来たのがギルドである。

魔物を殺そうという勇猛果敢な者達が集まり冒険者として名乗り、その冒険者達に仕事を斡旋する組合のこと。仲介業者あるいは代理店のようなものである。

この国では各街にあって、その街周辺の魔物の情報を集めそれをクエストとして冒険者たちに紹介する。

ギルドの大元は同じなのでA街のクエストをB街でこなすこともよくある。


ギルドの実際の仕事をするのが、パーティと呼ばれるものだ。同じ目的のものが団を作って目的を達成する、というのが基本であり、短期間で解散するところもあれば5年以上同じ面々でパーティを組む所もある。


つまり……世界に蔓延る魔物を退治するためにどこかギルドに所属し、その所属内の複数人がパーティを組んで、ギルドから魔物退治の仕事を請け負う。それらがサーペント国の主要な職業の一つになっていた。


話はまだ終わらない。

このパーティにはギルド内ランキングというものがあった。

魔物退治をしっかりできるパーティはランキング上位、ままならないようなパーティはランキング下位になる。


大きなギルドであればあるほど、そこでのランキングが重要になってくる。

仕事の配分が変わってくるのだ。


各街のギルドの1番偉い人、ギルドマスターも信頼に関わってくるのでギルドランキング下位のパーティには大した仕事は渡さない。

上位のパーティに大変ではあるがお金のたくさん貰える仕事を渡す。

下位のパーティが頑張って実地を積めば上位になれるのかというとそうではなく、下位になったパーティには大した仕事しか回ってこないのでいつまでも実地が積めずランキング下位のままなのだ。悲しいかな、これが現実。


このままでは仕事にならない。

そう思った男がいた。

そしてこの男、ギルドマスターにランキングのあり方を変えるよう直訴するでも所属ギルドを変えるでもなく、ランキング上位のパーティを潰すことにしたのだ。

こういう人がいるからこの世から争いがなくならない。


それはともかくとして、この男の働きはすごかった。

ランキング上位のパーティを次々と解体して、そのメンバーを自分のパーティに引き抜いたのだ。

素晴らしい行動力だ。使いどころが間違っているが。


そしてこの男のパーティはついにランキング2位にまで上り詰めた。

ここまで来れば仕事も安定、左うちわのウッハウハ。しかしここまで来たなら1位になりたい。

男の欲望は尽きなかった。


「そんなわけだ……。ギルド・ヤコブソンの1位に輝くパーティ、ナジャシュを潰してくれ!」


男がガバリと頭を下げた。

下げられた相手の女は、眉を寄せ嫌悪感を露わにする。

飲みに誘われたかと思ったら厄介事を押し付けられている。この男はキャッチセールス以上に厄介な男ということをすっかり忘れていた。


「いや、どんなわけですか。

いいじゃないですか。2位で。2位じゃだめなんですか?」


「でも、ここまで来たらもうあと一歩じゃないか!」


そこまで欲を出すなと言っているのだ。

女……ウォマはこっそりため息をついた。

彼女は16歳の時にこのギルド・ヤコブソンに入り2年が経とうとしているが誰ともパーティを組んでいない野良の団員だ。

プラチナブロンドのボサボサの髪を後ろでまとめただらしないスタイル。

顔もソバカスだらけで、灰色の目は二重の幅が広くいつも眠そうだ。


この訳のわからない理由でランキング1位になろうとしている小太りの親父、サヴ・ワモン・オーエンペリーは根っこから悪い人で、しかしラスボスほどの器の無いまさに小物という男だ。ダースベイダーにはなれないけれどジャバザハットにはなれる。

ウォマはそんな彼には借りがあった。

このギルド・ヤコブソンを紹介してくれたのは彼なのだ。ギルドに入るには紹介が必要で、紹介が無ければ一生入れないこともある。京都のお茶屋以上に一見さんお断りなのだ。

大きな恩だ。無下にはできない。

が、こんなくだらない願いは聞きたくもない。


「あのですねー……。私、ナジャシュに入れるほど強くないんですよ。

どうにかこうにか入れたとしても、パーティを潰せるほどの力はありません」


「そんなこたぁわかってるさ!

いや良いんだよ、強さなんて。ただパーティ内に亀裂を作るだけで良い」


「亀裂?」


「ちょっとパーティ内の男全員と寝てくれればいい」


何がちょっとだ!

ウォマは机に突っ伏したくなった。


「できるわけないじゃないですか!」


「わかってるよ。俺だってお前じゃなくてズグロちゃんに頼みたかったんだけどさ……」


ズグロとはこの辺りじゃ知らぬ者はいないというほどの美人だ。そしてかなりイかれてる女。


「あそこのパーティ、剣が使える奴を募集しててな……。ほら、ズグロちゃんは戦えないじゃん」


「私も戦えませんよ!?」


「まあまあ、魔物倒すくらいは出来るだろ?」


それは魔物にもよるよとウォマは思った。極端な話、犬のような中型の物なら余裕で殺せるが、象のような大きな魔物になると一人では無理だ。

ウォマはこれは話にならないと席を立とうとした。

ナジャシュはギルドランキング1位のパーティ。剣が使えれば入れるというほど甘くないだろう。


「わー!待て待て!

お前がナジャシュを潰してくれた暁には、お前が欲しがってた小屋買ってやるからさ!」


サヴはウォマが乗り気じゃないと察すると慌てて切り札を切った。

彼は切り札を切るのが早い。だからいつもギャンブルに負け借金を抱えているのだ。

サヴのその言葉に、ウォマの動きは止まる。

小屋……彼女が喉からマドハンドが出るほど欲しいもの。

今は宿や教会に泊まりっぱなしの生活。落ち着いて眠ることもままならない。しかし小屋が手に入ればそんな生活とはおさらばだ。


「……ナジャシュに入る算段はあるんですか?」


「ああ!実はナジャシュのリーダーに誰か紹介してくれないかと、ギルドマスターから頼まれててな!

大丈夫、あそこは優男しかいない。使えないとクビになる前に男全員落せばいい話だ!」


親指を立てるサヴを冷ややかな目で睨みながらも、ウォマは考えていた。

残念ながら彼女は囁くだけで男が落ちるほどの顔は持ち合わせていない。が、顔じゃない。

気のいいことを言って相手を立てて全員をその気にさせておきながら「私今、誰かと付き合うつもりないの……」と悲しげに言えばいいのだ。顔面偏差値が低かろうとなんだろうと、性格をよく見せれば、というかヤらせてくれそうなフリすれば簡単に落ちる。はず。

特に冒険者なんか女に飢えてるからな……。

と、サヴ並みの屑の思考回路を持つウォマは考え、彼に頷いてみせた。


「わかりました。

ちなみに、パーティメンバーの詳細を教えてもらえますか?」


サヴはウォマがやる気になったと感じ、目を輝かせた。

ウォマはちょっとまだ頼りないところもあるが今のところサヴの依頼を失敗したことはない。

かつて、領主の娘と関係を持ったサヴの尻拭いも物の見事に成し遂げてくれた。

これは期待できそうだ……。サヴは内心で悪どい笑みを浮かべた。


「男が3人、女が1人だ。

女は貴族の道楽みたいだし、あんまり気にしなくていい。まだ幼いし、貴族なんだ、どうせ婚約者でもなんでもいるだろう。

男はさっきも言ったみたいに優男の集まりだ。お前なら出来るよ」


女がいるというのが気になるが、でも成し遂げられそうだ。

ウォマはサヴに契約書を作成させて早速、ナジャシュのパーティメンバーに会いに向かった。


✳︎


話と違う!

ウォマは叫び出しそうだった。

サヴは優男の集まりだと言っていたのに……!


「おい?聞いているのか?

まあ確かにこんなに美しい僕を前にしたら放心してしまうのもわかるが……大事な話の途中だぞ?」


「あ、今のってもしかして冗談ですかあ?そうですよねえ?」


「フフフ、冗談じゃないだろうね。

でもまあ面白いことには変わりないよ、うん」


なんなんだこの3人組は……!

いきなり強烈なナルシストっぷりを見せつけてきたのはこのナジャシュのリーダーであり剣士のデュメリル。

彼は確かに目が潰れるんじゃないかというくらいの美形だ。

高身長でスタイルも良く、金髪碧眼の王子様のような外見。

でも出会い頭に「初めまして。僕のような美形と話せることを神に感謝したまえ」と言ってくる奴は社会病質者の可能性が高い。


その次に喋ったのは射手のハララカ。異国風な雰囲気のある黒い短髪に少年と青年の間の歳、黒のタレ目につり眉で優しげに見えたがよく見ると目に光がない。

「今のって冗談ですかあ?」という発言も、嫌味なのか本気なのかウォマには判断がつかない。多分嫌味だ。


最後にフフフなんて上品に笑ったのは魔術師のユウダ。恐らく1番彼が年上で、20代後半に見える。

茶色の瞳に長い金髪を三つ編みにしてラプンツェルかって感じだが、紅茶を入れようとして床に全部のコップをぶちまけているあたりラプンツェルとは比べ物にならないほどポンコツだろう。


「……あの、大丈夫ですか」


見かねたウォマがコップを拾おうとすると、横から「わたくしがやりましてよ!」という高らかな声が聞こえてきた。

ナジャシュの紅一点、ヒバカリだ。


サヴは彼女を子供だと言っていたがそれは単純に背が低いからで、恐らく歳はウォマより少し下の16歳くらいだろう。

茶色の長い髪をポニーテールにして、緑色の鮮やかな目は鋭くこちらを睨んでいる。

女の勘が働いているのかもしれない。ウォマが男を狙いに来た厄介人だと。


「さあ、先生。わたくしが片付けますし紅茶も準備いたしますから何もしないでくださいませ!」


「そんな悪いよ……。あ、そうだ、お茶請けを用意しようかな」


ヒバカリはユウダのことを先生と呼んでいるようだ。魔術師だからかもしれない。


ユウダがおもむろに立ち上がるとデュメリルはウォマの腕を引いてさっとその場を離れ、ハララカはユウダの側に寄り、ヒバカリはコップを素早く退けた。

何事だとウォマが疑問に思うよりも早く、ユウダは足を滑らせずっこけた。

あわや全身打撲……の前に素早くハララカがユウダを受け止める。


……なんという連携プレー。ピタゴラスイッチのような美しい動きだった。


「ああ、悪いね」


「いいんですよお。

ユウダ先生の足元が覚束ないのはいつものことですから」


嫌味なのか本気なのか、ハララカは彼を立たせると何事もなかったかのように席に着いた。


「……それで、僕が美しい話以外なに話してたんだっけ?」


「そんな話はしてなくてよ。

彼女をパーティに入れるかどうかでしょう?」


ヒバカリがこぼれた紅茶を拭きながら鋭くツッコミを入れる。有能だ。

やっと本題に入った、とウォマは背筋を伸ばす。

サヴの話と聞いてた人相は異なるがギルドランキング1位のパーティだ。きっとかなりの高倍率。

しかしここでパーティに入れなければ小屋を手に入れることができない。


「是非お願いします。私……ずっと……ここのパーティに憧れてまして」


「具体的な志望理由は?」


「デュ、デュメリルさんのような美しい……?いや、美しい方が美しいだけでなくお強くもあると聞いて、それで興味を持ちまして……。

私はまだ未熟者ですが、剣の腕はそこそこありますしトラップを仕掛けることも得意です。どうか御社……御パーティに入隊出来ればと存じます」


「ちなみに弊パーティ以外に志望しているパーティはありますか?」


「いえ!御パーティのみです!」


ウォマはドキドキしながら質問に答える。

就活、いやパティ活として基本的な質問を想定しておいてよかった。


「いいんじゃないですか?剣士、募集してましたよねえ?」


「トラップを仕掛けられるのはありがたいよね。私たち、依頼は全部殴って解決してるし。トラップ使って余計な労力を使わないで済むならそれが良いよ」


「うーん。確かになあ」


これは……!案外いけそう……!

ウォマは心の中でガッツポーズを作った。

ギルドランキング1位の割には人手不足だったようだ。


「お、お待ちください!

まだ彼女の実力もわからないのに……!

大体デュメリル、貴方いつも新入りが来ると嫌がるじゃない!どうして今回はそんなあっさり……」


「常々我がパーティは男女比が悪いと思ってたんだよ。まあ元を辿れば仕方ないことではあるけどな。

彼女が入ってくれれば女2人男3人でそこそこバランス取れてるだろ?君も女1人よりは2人のが楽だろうし……。

何より、ナジャシュは顔のいい奴しか入れないなんて噂されててな。彼女ならその噂を払拭してくれるだろう」


デュメリルはサラリとウォマの顔があまり良くないと貶めた。

確かに、残念ながら、ウォマは美人ではない。ここのパーティにいると1番顔が良くない。

だが、それは初対面の相手に言っていいことではない。やはり社会病質者かとウォマは納得する。


「そうですかあ?ウォマさんは可愛いと思いますよ。少なくとも石ころよりは」


「初対面の人に失礼なこと言わないの。

そもそもデュメリルのお眼鏡に叶う人間なんてこの世にいるのか?」


「いるさ。鏡の向こう側に」


「ウォマさん?貴女本当にこんなパーティに入りたいのかしら?」


入りたくないです。そう言いたかったがウォマはぐっと堪えて「とても楽しそうです」と当たり障りのない返事をした。


「この2人のような人格破綻者についていけるならアリかもしれないわ」


ウォマの回答にヒバカリはあっさり手のひらを返す。

というのも、今まで2人、特にデュメリルの顔面に惹かれて入隊希望して来た者共は何人も居たが彼の言葉に幻滅してその場で皆帰っていったのだ。

ヒバカリはそういった人たちにウンザリしていたし。しかしウォマはそうではないどころか、デュメリルやハララカのような病質的な人と会話が成立している。


「うん。これは素晴らしい。

2週間仮入隊してもらって、それから見極めていけばいいんじゃない?」


ユウダの言葉にウォマは大きく頷いた。

2週間でパーティを解散できるとも思えないが、亀裂は入れられる。

これでやっぱりダメとなってもそこそこの成果は出るだろうし、もし本入隊出来れば万々歳だ。


「じゃ、そういうことで」


デュメリルはあっさり頷くとウォマの手を握った。


「僕のような美しい人間の側にいると自信を無くすこともあると思う。

けど、君は君の良さが多分おそらくきっともしかしたらあると思うから挫けないで一緒に頑張っていこう!」


この言葉に、ウォマの望みは変わった。

—小屋なんかいらない。今すぐ脱退したい。

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