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4 脱

「ありがとう。食事は終わりだ」

 軽食を終え、わたしが円城寺刑事に礼を言う。

「早速だが、先ほどの話の続きがしたい」

「悪いが、詳しいことは教えられない」

「それは残念だ。しかし、わたしはナイフで人を殺したのだろう」

「記憶が蘇ればわかるはずだ」

「そうか、その手があったか」

「……」

「刑事さん、一部を思い出したよ。わたしはナイフで被害者を殺した」

「おい、記憶が戻った真似はよせ」

「真似か、そうでないかは、あなたには判断できないはずだ」

「では、医者を呼んでくる」

「ああ、そうしてくれ」

 円城寺刑事が再度、わたしのベッドサイドから去って行く。今度はカーテンをきっちりと閉めて……。わたしがまた一人になる。思い悩んでも始まらないが、頭が痛い。わたしは本当に殺人犯なのだろうか。それとも誰かに罪を擦り付けられただけなのか。考えたところでわからない。わかるはずもない。今のわたしの境遇では……。

 そう思い悩み、窓側のカーテンに目を遣ると文字がある。どういう仕掛けなのかわからないが文字が映っている。

『この文字に気づいているならば、きみは記憶を失っているはずだ。』

 わたしに向けたメッセージなのか。

『ここから逃げ出さないと殺人犯にされるぞ。』

 すでにされかかっているところだよ。

『近くに人はいないと思うが、もしいた場合、このメッセージを気づかせないようにしろ。』

 ……と言われても、わたしに見えるのだから他の者にも見えるだろう。幸い、近くに人はいないが……。

『残念な報告だが、現時点で真犯人はわからない。』

 なるほど、念だ。

『では、今から脱出方法を教える。』

 わたしは逃げ出さなければならないのか。

『何もわからなければ不安だろうが、ます逃げろ。』

 わかったよ。では、早く方法を教えてくれ。

『きみがある文字列を唱えると両手の拘束が外れる』

 仕掛けがあったのか。

『敷布団の下にはハサミがある。両手の自由で拘束が外せない場合は、それを使え……。』

 何とも用意の良いことで……。

『文字列はイージーオーエヌだ』

 E・G・O・N……。

 それを唱えれば良いのか。

『無事を祈る。一年を数えたら、テリーにも宜しく伝えてくれ。』

 おい、テリーって誰だ。そんな奴は知らないぞ。

 ……って、記憶がないのだから当然か。わたしが自分のすべてを思い出せばわかる知り合いの名前なのだろうか。

 が、そんなことに気を取られている時間はない。円城寺刑事が戻ってくる前に事を済ませなければ……。

 そう思い、わたしが文字列を口にする。

「E・G・O・N」

 すると、痛い。両手首に激痛が走る。少量の火薬を使ったのか。両手首の拘束がそれぞれ真っ二つに千切れている。

「手荒だな……」

 低く呟きつつ、ベルト式の腹拘束を外し、首も解く。自分の手先の器用さに呆れながら……。すぐに足首も自由になる。ハサミを使う必要はなかったわけだ。けれどもハサミがあることは確認する。ここに置いて行っても良いが、軽い武器にはなるだろう。わたしが来ているのは患者着だが、幸いポケットがある。だから、そこに隠す。

 ついで部屋の入口から見えない位置にあるカーテンを捲り、ベッドを出る。窓を開け、下を覗くと三階だ。チッ、と舌打ちし、窓の外に出る。部屋の床位置で外方向に突き出たコンクリートの出っ張りに足を乗せる。わたしの脚の幅まではないが、伝うことはことはできるだろう。五、六メートル先に病院別棟と交差した外部通路が見える。そこまで落ちなければ脱出できる。

 身を伏せ、窓格子と言うのか、窓柵というのか、その下部を手に掴み、先に進む。次の窓まで手を伸ばす。が、届かない。だから勢いをつけ、横に跳ぶ。瞬時、空振りするが、すぐに窓柵を掴み、安堵する。それの繰り返し。幸い、わたしのいる位置を見上げる者はいない。けれども幸運はいつまでも続かない。それを肝に銘じ、わたしが外部廊下に近づいて行く。


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