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If-First Session-  作者: 蓮飼ななめ
序章-祈者集結の章-
7/8

If you call me-そして、僕等のあの日へ-

 景色が色彩を増す。


 高鳴る鼓動さえ愛おしく感じる。


 外の世界と自分とを隔てる壁を引き裂き、大悟は空へと飛び出した。


「写本ヨグ・ソトース第九十九小節【森羅創世万象壊帰の時空門-Key of the Master-】」


 巨大な意思の力の火柱が天と地を貫き、世界が意思の炎で満たされてゆく。


 その光は在りと在らゆる魔術師の目に留まり、その存在を知らしめる。


 蒼志、凪沙、

 そして悪しき心を持つ魔術師達にも。


「流那……! あれが始間大悟だよ! 僕達の殺すべき相手だ!」

「うふふふふふ! さあ、踊りましょ、姐流! 御館様の為に!」


 姐流と流那が互いに胸をはだけ、そこに刻まれた太陽と月の魔術陣を重ね合わせる。

 断裂の力は二人の命すら切り離し、莫大な意思の炎へと昇華させ天を焦がした。




「やれやれ、始まっちまったか」


 第四法学部長、鶏鶏大納言三世昴は己の持ち場から大悟の決意の炎を見届ける。


「……昴。貴様はこれで良かったのだと思うか?」


 昴の隣に居る背の高い金髪碧眼の魔術師、第四文学部長のルハネ=グランヴァール=アーミテイジが静かに呟く。


「当たり前だ。大悟の奴がいいって言うなら、それは正しい事だ。俺達はその為に大悟の仲間になった魔術師だろう。俺は最後まで大悟のやつを信じるぜ」

「……そうか」


 円形に構築された踏破大学学園都市。その外壁の半円上四ケ所に八人の学部長達が二人ずつとなって等間隔に配置されていた。


 円の中心には東京踏破大学第一講義堂。その最上階に第四防衛学部長結城春美が待機し、来たるべき時を待つ。




「えへへ、もりあがってるみたいだね、()()()()()! ぼくたちもまざっちゃおっか?」


 踏破大学学園都市城壁の外。

 血に濡れた死体の転がる路地裏に少年と異形が立ち尽くし、立ち昇る火柱を見上げていた。


 少年の問いかけに犬面の巨人は唸り声で応える。


「ピックマンもおなかすいた? じゃあいっぱいころそっか! きょうはおなかいっぱいたべよう!」


 少年がピックマンの肩に飛び乗り、ピックマンも高く跳躍する。


「……おにいさんにもあえるといいねえ」




 始間大悟は詠唱する。


「王の名に於いて命ずる。此の手に握るは銀の鍵、最果てに至る至高の権限。此と引き換えに受け入れよ。森羅万象、我は星間を征く者、満ちぬ真理の探究者。此は全てを手放そう。此は汝等への償いである。見届けよ、其が生み出したもの共の結末を。……王の名に於いて銘ずる。【絶園の腐神剣-Re:Exile-】!」


 大悟の身体から放たれた炎が収束し、巨大な光の刃を形成する。その刀身からは無数の光の鎖が伸び、空中に吸い込まれていた。


「凄い()()()……。流石は学長といったところだけど、それだけじゃ僕達には勝てないよ? だってほら! 僕達の()()()だって凄いんだから!」


 流那の左手が輝き、その直線上に七重の紅い魔術陣が浮かび上がる。

 その予備動作だけで周囲の建築物の組成は崩壊し、風化して塵となった。


「貴方には詠唱してあげるわ! 【掻き毟れ、己が魂の露出するまで-Nal gulm ultaftagun-】!」


 英語ではない謎の言語で詠唱された魔術は、未知の言語を具現化したような不可解な形状の柴電奔る熱線となり、周囲の空間に陽炎の如き歪みを生じさせながら大悟に襲い掛かる。


「一定空間内に於けるエネルギー量の限界を()()()密度を誇る熱線で()()()()()()()()()()()()()()()()破壊の奔流よ! この魔術……否、魔法の前には如何なる防御術式も成立しないわ! 始間大悟……跡形もなく消え去りなさい!」


 それはまさしくこの世の法則を超越した「魔法」だった。ヒトの到達できぬ領域。神の定めた法則から外れた、新たな神による新たな法則。


「成程な……お前達は第三存在(にんげん)ではなくヒトの皮を被った第四存在だったというわけか。()()()()()()()()()()()御目にかかるのはこれが初めてだよな? そんなにあんたの怒りに触れる様なことやっちまったかい?」


 大悟は只【絶園の腐神剣-Re:Exile-】を構える。

 魔術の及ばぬ領域である筈の一撃はその刃に触れて切り裂かれ、蒼い稲妻に砕かれながら霧散した。


「な……馬鹿な、魔法だと!? どうして人間風情が魔法を……!?」


 うろたえる姐流。


「どうして、だって? 俺は東京踏破大学学長にして世界最高の大魔術師、始間大悟だぜ?」

「うふふ、傲慢な返答ね、始間大悟。私達は御館様に()()()()()()()()だけの存在に過ぎないから第四存在や貴方のことはよく分からないし、別に興味も無いのだけれど……その魔法は何なのかしら? 神の一撃を止めるなんて目覚めに悪くてよ?」


 冷ややかな笑みを崩さない流那。


「そいつはどうも。なに、こいつは()()()()()()()()()()()()さ。俺はね、こう見えて同じ世界線を一万回はやり直してるんだ。詳しい数は千を超えたあたりから数えるのを止めちまったから忘れたけどね」

「……世界を終わらせてまた一からやり直してると言うわけ? 世界の終焉を防ぐための組織が聞いてあきれるわね」

「世界の終焉と世界を終わらせる事は同意義じゃないってことさ。お前等みたいなガキんちょには難しい話かもしれないけどな。俺は必要な結末を手に入れるためなら何度だって世界を終わらせる。何度だって最初からやり直す。そうじゃないと()()()()()()からな」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い! 流那、早くこいつを殺して!」

「ええそうね。お喋りが過ぎると御館様に叱られちゃうわ」


 流那が姐流の顔を掴み、その口の中に自分の舌を滑り込ませた。


「りゅ……りゅにゃ……?」


 姐流が目を見開いた次の瞬間、流那は姐流の舌を噛み切った。絶叫と共に姐流の口から血液が溢れ出し、胸の太陽印を紅く染める。流那は自分の胸を太陽印へと押し付け、姐流から残りの意思の力を搾り取った。生気を失った姐流の身体が地面に激突し、その小さな身体が血飛沫に飲み込まれる。


 流那は噛み切った姐流の舌をごくりと飲み込み、大悟の方を向いて笑った。

 その目は両目が紅く輝き、ヒトのものとは思えぬ笑みを湛えていた。


「えげつないことするねェ」


『あ、あああああああああああああ! 素晴らしいわ! これが二柱の神を取り込んだ力! 本来私に与えられる筈だった意思の力なのね!』


 流那の言葉はもはやその一言一句が魔術と化し、彼女の意思のままに辺りの地形を破壊する。


『離反せよ! 離反せよ! 放蕩なる我等が(さが)よ! この世全ての善に抗い忌々しきしがらみの腱を断ち切りて往生せよ!-Ria! Ria! Ururuia Hastur! Nanglum Efcaria Mecmeto!-』


 今までのものとは明らかに質の違う魔法、全てを焼き尽くす熱線ではなく、風の形態をとった力の奔流、断裂の至上命令が大悟へと襲い掛かる。


『あははははは! 分子間結合の法則性を失って死ね! 原子レベルまで分解されて魂の依代がなくなって死ね! 粉々になって死ね!』


 流那が気の狂ったように歓喜の雄叫びをあげる。


「やれやれ……叡智を失った神ほどはしたないものはないぜ? ……恨むなよ、祀られぬ神に祟りなしってなぁ!」


 大悟は真正面から断裂の至上命令を受け止め、激しい水流を切り裂く様に豪快に流那の元へと近づいていく。


 流那の魔法はまるで織物が解ける様に何条もの光となって宙に消えていく。


 霧散した魔法は取るに足らない魔術へと成り下がり柔剛問わずあらゆる物質を塵へと変えた。


「霊峰の神秘よ、今この瞬間を持ちて来訪せよ。灰は灰へ、塵は塵へ、在らざるものは在り得るものへ、大いなる意思に従いて(まつろ)わぬ愚者を粛清せよ!【絶園の虚焼刃-Fake Blade Re:Exile-】!」


 止めの詠唱と共に大悟の放った一閃は、断裂を切り裂き流那の肉体を両断した。

 流那は血を吐く音とも声にならぬ声とも分からぬ音をたて、姐流の沈む血溜まりの中へと姿を消した。


「……終わったか」


 大悟はふらつきながら剣を握り締める。


「なあ? 今回は随分と勿体ぶった登場じゃないか」


 大悟の見上げた先、八本の時計塔の上に八人の魔術師が立っていた。

 白い軍服風のロングコートに身を包んだ男、筋肉質な偉丈夫、美しい黒髪の少女、紅い裏地の黒コートを纏った白髪褐色の女、そして儀式の生贄と思われる虚ろな表情の四人の白装束達。


「ガハハ! やっと俺達の出番が回ってきたかあ!」

「随分とお疲れみたいね、世界最強の魔術師さん。今なら私でも勝てるんじゃないかしら?」

「ケッ……あの化け物を倒すとか本物の魔法使いじゃねえかよ……なんだってこんなくだらないことに力を使うのか全く理解できねえなあ!」

「フッ……初めましてだね、始間大悟。と言っても君は初めてではない様だがね。悪いが、今回は我々が勝利させてもらうよ」


 魔術師達は塔を飛び降りて地面に着地する。


「東京踏破大学学長、始間大悟。世界最高の魔術師に敬意を表して名乗らせていただこう。シュリュズベリィ家現当主、ユージーン=イアリア=シュリュズベリィ」

「アーミテイジ家現当主、ヴルガー=アーミテイジ!」

「ウェスト家現当主、(レイ)御崎(ミサキ)=ウェスト」

「ウィルマース家現当主のザニア=キザイア=ウィルマースだ! 憶えとけよオッサン!」


 ザニアが大悟に向けて堂々と中指を立てる。


「ちょっと、ザニア? そういうのははしたなくてよ? 博士協会の品格を下げる様な真似は止めてもらえるかしら?」

「ああ? うるせえぞ零。いいとこのお嬢様気取りかァ!? 反吐出るぜ!」

「あら、いいところのお嬢様じゃないザニアに品性なんて期待するものではなかったかしら? 御免なさいね」

「ああ!? やんのかテメェ!」


「止めたまえ、君達。至高の魔術師に対して失礼だろう?」


 白軍服の男、ユージーンが姦しく騒ぐ零とザニアの仲裁に入る。


「……へっ、お気遣いどうも。今回は随分と数が少ないんだな、どういう風の吹き回しだ?」

「ほう、今回は貴方の知る世界とは異なる、という事ですか? どう違うのか、ぜひお聞かせいただきたい」

「今までは空間転移の魔術で大軍を送り込んでその間に儀式を完遂されるっていうパターンの一辺倒だったもんでな、こっちもそれに合わせて今回は妨害用の魔術を大量に仕込んでおいたんだが」

「成程、転移が上手くいかなかったのはそれが原因だったのですね。どうやら我々は上手くしてやられた様です。全く、世界をやり直せる魔法だなんて反則級ですねえ」

「……やけにあっさり自陣の不利を認めるんだな。これは負けを認めたと受け取っていいのかい?」

「ええ。ただ、我々もこの日を待ち望んでいたわけですから、最後に玉砕位はさせてもらいますけどね? さあ、世界最高の魔術師よ、その力を私達に見せてくれ!」


 四人の魔術師が写本を開き大悟に襲い掛かる。


「ああ……そうかよ!」


 大悟が神をも切り捨てる光剣を振り抜き、八人をまとめてぶった切った



 ……筈だった。



 光の刃は振った途端に蝋燭の火の様に掻き消え、大悟の手が空しく空を切った。


「おやおや、どうしました? 始間大悟。我々に情けでもかけるおつもりで? ……それとも、神との戦闘で切り札を使い切ってしまいましたか?」


 大悟の身体からは最早意思の炎すらも消えていた。


「どうやらこれも今までになかった事象の様ですね。……まあ、()()()()()()()()だったのですがね。これでもう二度とやり直す事はできないというわけです。チェックメイトですよ始間大悟、それでは」


 八人の魔術師達は儀式を遂行すべく踏破大学の外壁へと飛び去っていく。



「……それはどうかな、何の為に俺が独りで闘ったと思ってる……!」



 大悟は最後の力を振り絞って信号弾を上げた。


 外壁に待機させていた八人の学部長達。

 万が一の時には、儀式の為に分断した博士協会の魔術師を彼等が迎撃する作戦になっていたのだ。


 だが、作戦が実行されることはなかった。


「ご苦労様です、ルハネ=グランヴァール=アーミテイジ先生」


 ルハネを除く七人の学部長達はルハネの手によって既に倒されていた。


「どうやら其方も首尾よくいったようだな。()()()()()()()()()()()かと思って冷や冷やしたぞ、ユージーン君」

「先生の下さった機会をそう易々と無駄にはしませんよ」


「……まてい! どういうことだ!? 今回の儀式にはアーミテイジ家代表としてこのヴルガー様が参加する事にはなっていただろう! 何故そんな奴がここに居る!? さっさとつまみ出せ……おは?」


 ヴルガーの脳天をユージーンの放った光線が貫き、その死体が城壁の下へと落ちていく。


「五月蠅いんだよグズが……。儀式に何の貢献もせず利益のみを貪ろうとする魔術師もどきめ。ま、最後にルハネ先生の妨害工作をカモフラージュしてくれたのには感謝しておくよ」

「上空には既に侵入を防ぐ為の結界を張ってある。第一講義堂には此方の侵入を防ぐために結界を張っていた第四防衛学部長の結城春美が居るが、此方の援軍を侵入させないために講義堂からは出てこないだろう。念の為に味方には何時でも突入できるように準備をさせておきたまえ」

「分かりました。それでは始めましょうか、【星辰帰納-Call of Chaos-】を!」



 上空にいる蒼志と凪沙にはもうどうすることもできなかった。


「何なんだよこの結界……! 中に入れないじゃねえか……! 中で一体何が起こってるんだよ……!?」

「そんな馬鹿な……! 失敗したのか……僕達は何もできなかったのか……?」

「おい、凪沙! 独りでぶつぶつ言ってないで教えろ! 何なんだよ、この状況は!? お前は何か知ってるんだろ!?」

「…………これは、【星辰帰納-Call of Chaos-】だ」

「は……? 何言ってんだ、お前、今回の魔術師は儀式を行う為に来たわけじゃないって言ってたじゃないか!」

「そいつじゃない! この結界の中に大魔術師クラスの反応が4つ、恐らくは儀式用と思われる魔術師の反応が4つ増えてる。今回の事件を隠れ蓑にしてこっそり計画を進めてたんだ……! もう終わりだ、世界はここで終焉する………!」

「そんな……何とかならねえのかよ!?」



「さて、魔術陣は刻み終わった。後は時が来るのを待つのみだな。……その前に、少しでも可能性の芽を摘んでおくか」


 ユージーンが外壁を降下し、大悟の元へと向かう。

 大悟の意思の力は既に無くなり、うつ伏せに倒れて殆ど動かなかった。


「これが世界を救おうとした英雄の末路か。死を見届ける従者もいないとは哀れなものだな?」


 ユージーンは写本を開く。


 その背後にユージーンと同じコートを羽織う、逆立つ黒髪を持った男が()()()


『よお、ユージーン。俺に何か用かい? 儀式までにはあと少しだけ時間があるみたいだが?』

「なに、簡単な後始末を頼みたいだけさ。北風(ボレアス)、そこに転がっている男を殺せ」

『こいつをか? 魔力もろくに感じないぞ? そういうのはあんたの信条に反ずるんじゃなかったっけか?』

「油断するな、そいつはヒトの身でありながら魔法を行使するに至った程の魔術師だぞ」


 ボレアスの目が大きく開かれ、その口が邪悪な笑みで大きく裂ける。


『へえ……! そいつはすげえや……! じゃあこいつを殺せば俺が()()()()って事になんのかねえ?』

「フッ、心配せずともお前は元から最強だ。この俺が契約した()()()なのだからな」

『そこまで言われちゃ期待に応えなくっちゃなァ! こんな仕事造作もねェよ!』


 ボレアスが左手を天に掲げると、彼の頭上の空間が渦を巻き、巨大な竜巻となった。竜巻は空中で一本の槍の様になり、大悟めがけて墜落する。


「……さらばだ、最高にして最低の魔術師よ」



 その様子は蒼志にもはっきりと見て取れた。

 人知を超えた魔法級の力が死体の様に横たわった大悟めがけて降り注ぐ。


 幼い頃から超えるべき壁だった。

 何を成しても、幾ら努力しても、「天才」としてその全てを軽々と乗り越えてくる偉大な父親という幻想。

 始間大悟の息子でさえなければ、そう思った事も一度や二度ではない。


 だが、

 そんな父こそが世界で最も蒼志の魔術師になりたいという夢に期待している男だった。


 だからこそ、


 父さんには俺の未来を見て欲しかったんだ。


 だから勝手に父さんを奪うな。


 父さんは偉大な人だ。それは良くも悪くもそうであると言える。


 だからお前達にとって、父さんを殺すという事は「必要な事」なんだろう。




 ふざけるな。


 例えお前達が真理を手にする程の賢者であっても


 そんな愚行は許さない。


「写本イグファントス第一小節【虚焼刃-Fake Blade-】!」


 蒼志が手にした小さな刃で結界に斬りかかる。

 強大な結界はまだ弱い蒼志の意思の力を跳ね飛ばし、跳ね返った力は剥き身の刃となって蒼志の身体を切り刻む。


「蒼志……止めろ! そのままじゃお前が……!」

「父さんは……死なせねえ……! 絶対に俺が守るんだ! だって約束したじゃねえか! 一人前の魔術師になって父さんの仕事を手伝うって! 俺は……まだ父さんに何も見せられてないんだよ……!」


 その少年に力はなく、辛うじてその手に握るはたった一本の付け焼き刃。超えるべき壁は海より深く、掴んだ力はその旅路を切り開くにはあまりに脆い。


 ならば私が手を添えよう。


 虚ろで脆い、しかしてすべてを切り裂く付け焼き刃に。


 例えそれが、ヒトの力の及ばぬものであろうとも、私が君の刃となって君の旅路を切り開こう。




 それが、あの日交わした約束だから。




 ボレアスの左手が宙を舞い、血の放物線を描いて地面に落ちる。


『……あ?』


 ボレアスはその目の端に一人の男の影を見た。


 その男の手に武器は無く、その肉体も豪傑のそれとは程遠い。

 だが、その身体から立ち昇る意思の炎がその場にいる全てのものにその脅威を確信させる。

 男はその手に蒼志の身体を抱き上げていた。


「な……誰だお前……? どうなってんだ……?」

『そうか、意識のある時に会うのはこれが初めてだったな。私の名はエリック=マーシュ。君の写本によって呼び出された()()()だ』


「……探索者、だと……? こんな汚いガキ如きが……?」


 ユージーンが面食らった様子で写本を構える。


 その時、遠方から絶叫が鳴り響いた。


「あれは………生贄どもの声か……!?」

『ユージーン! もう儀式が発動しちまう時間だ! 魔術陣に戻れ!』

「チッ……! ボレアス、そいつ等を押さえておけ!」


 ユージーンが自分の持ち場へと飛び去っていく。


『逃がさん!』


 エリックが銀炎を纏い、ユージーンの後を追おうとする。

 だが、ボレアスの巻き起こした旋風がエリックの追尾を阻害した。


『追わせねえぜ、同類ィ!』

『フン、君と同類扱いは心外だな』


 巨大な銀炎と爆風がぶつかり合い、ヒトならざる者たちの闘いが始まる。



 凪沙は上空から全てを見ていた。

 突如現れた二人の魔術師、それによって生贄が殺され、空いている魔術陣が二つ存在しているということ。

 凪沙は、自分のするべき事が分かっていた。


 私は、何としてもこの儀式を()()()()()()()()()()()()


 凪沙は魔術陣の方へと飛び出してゆく。


「な……あいつ何しやがる気だ!? クソ、結界破られてんじゃねえか!」


 怒号とともにザニアが背中に下げていたマシンガンをぶっ放す。


「うっ……!」


 弾丸は凪沙を掠めたが、凪沙は意に介さず魔術陣へと突っ込んだ。



 そして、眩いばかりの閃光が放たれた。暖かい光は周囲の物体を飲み込み、世界を真っ白に塗りつぶしていく。


「……ここに【星辰帰納-Call of Chaos-】は完了した。我々は真理に至るための鍵を得たが、どうやらそうそう楽にはいかない様だな……。今回は引かせてもらうが、直ぐに貴様等を一掃し真理へと到達させてもらうぞ。…………フフフ、フハハハハハハハハハハ!」


 白い世界の中にユージーンの笑い声がこだまし、消える。



 世界の命運を懸けた本当の戦い、

【星辰帰納-Call of Chaos-】が始まった。

これにて序章完結です。次回からはバトルロワイヤルが始まるのですが、日常パートや学園物スタイルもしっかり変えずにやっていくのでよろしくお願いします! また、感想等もいただけたりすると嬉しいです。それではまた近いうちにお会いしましょう!

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