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If-First Session-  作者: 蓮飼ななめ
序章-祈者集結の章-
6/8

If I try to save.-太陽と月の世界断裂-

「えー……現在確認されているだけでも末端研究施設376棟、主要研究施設84棟の破壊、民間建築物129棟の破壊、防護結界2068枚の損傷及び破壊、駐屯部隊一個中隊の壊滅、民間人35名の死亡が判明しています。負傷人員の総数は未明、民間人の避難は完了していますが今後も交戦を行う駐屯部隊から無数の被害者が出るものと予想されます」

「うーん、まずいな……。民間人の居る場所を白昼堂々攻撃するあたり、敵の魔術師は博士協会に所属する魔術師の使い走りってところか……。二人だけでの襲撃っていうのもかなり破滅的だし。戦力を集結させて早期に対処すべきだな」


 予期せぬ敵の襲来に始間大悟は頭を悩ませる。


「増援の件に関してなのですが、Aクラス相当の魔術師を派遣していただくことは可能でしょうか?」

「ああ。流石に学部長クラスを派遣するわけにはいかないが、相性のよさそうな魔術師を何人か派遣しよう。デルタ・グリーンには防衛重視の作戦を指示して此方の増援が到着するまで敵を食い止めてくれ」

「了解しました。御尽力感謝致します。では、失礼します」

「はいよー」


 軍の使者が退出し、大悟は部屋で独りになる。


「はぁー……奴等こっちの準備が整ってないのをいいことに大胆な攻め方をしてきたもんだな……。蒼志も入学早々お友達と喧嘩して大暴れしたみたいだし……どうしてこの街はこうも落ち着かないもんかねえ」


 大悟は窓の外を眺める。そこにはいつもと変わらぬ街の風景が広がっていた。


「やだねえ、待つ身ってやつは」



 一方、蒼志達の教室。

 昼食を終えて翠が来るのを待つ生徒達は襲撃の噂でもちきりだった。


「聞いたか? さっき研究施設地区の方で爆破テロがあったらしい! 噂によるとその実行犯は学部長クラスの大魔術師で、デルタ・グリーンの駐屯部隊を蹴散らしながらこっちに向かって来てるらしいぜ!」


【ソロモンの覗き窓バージョン7-Windows of Solomon Ver.7-】を指差してスコルビが興奮気味に喚く。


「ちょっとお、デルタ・グリーンが弱いみたいな言い方しないでよね! デルタ・グリーンは世界最強の対悪性魔術機関よ? そのテロリストがバケモン過ぎるのよ!」

「分ーかってるって、早苗ちゃん。だから俺ちゃんも興奮してんじゃねえの! こりゃもしかしたら学部長達の戦闘を間近で見られるかもしれないぜ!?」

「はー? 男子ってほんとバカ!」


 スコルビの言葉を聞いて蒼志は大悟に会いに行った日のことを思いだす。

 ……あれを間近で体験するのは正直言って御免だ。あんなの死線の満漢全席以外の何物でもない。


「しかし、テロリストの目的は何なんだろうな? この街で魔術師がテロを起こす程の不満を持つなんて考えられねえけど……」

「さあ、踏破大学に落ちた受験生が腹いせで暴れてるんじゃないの?」

「そんな奴がデルタ・グリーンに勝てるわけないでしょうよ」

「た、確かにそれもそうね……」


 魔術師による攻撃。蒼志には大方予想がついていた。


「敵組織の名は全国博士協会。第四存在と交信し世界の真理を知ることを目的とする魔術師の集団だ。世界の滅亡は奴等にとって真理を得る為の代償に過ぎない」

 

  「上位の第四存在と交信するための忌まわしい儀式があってな。奴等はこの世羅島を舞台にしてそれを行うつもりらしい。既に多数の魔術師がこの島に集結して儀式を阻止するために動き始めているところだ」


 恐らく、東京踏破大学へと迫っている魔術師こそが大悟の闘っている全国博士協会の魔術師なのだろう。


「お、皆そろってるみたいだね。それじゃあホームルームの続きを始めようか!」


 翠が5分程遅れて教室に戻ってくる。


「さて、さっきも言った通り今日は初日のホームルームだから、皆に授業を受ける上で大切な事項を説明していくよ。わかってる人が殆どだと思うけど取りあえず最初は本校のカリキュラムについてだ」


 大切な事項、と聞いて生徒達は静まり返る。


「先ず、東京踏破大学には通常の大学と同じ様に幾つもの学部が存在する。具体的には第四文学部、第四防衛学部、第四存在学部、第四経済学部、第四法学部、第四言語学部、第四地質学部、第四医学部、第四理工学部の九つなんだけど、ここからは普通の大学とは違って一年時前期の生徒がこれらの学部に配属されることはないんだ。一年生は先ず前期、具体的には七月の終盤まで学部別に分かれることなく同一の基礎魔術カリキュラムを履修することになる。この基礎魔術カリキュラムというのは魔術を運用するための絶対必要事項を身に着けるためのものでね。正直な話これを習得できなければ魔術師になることはできない。如何に凄い魔術師の家系に生まれていようともね」


「先生、それじゃ僕達は前期の間は学部個別の技能や知識を習得できないという事ですか?」


 慧が優等生らしく手を上げて質問する。


「否、そんなことはないよ。この基礎魔術カリキュラムは午前の間に実施されるプログラムでね、午後からは普通の大学と同じ様に自分で興味のある授業を選択して履修することができるんだ。そこで学部別の基礎科目を履修することが可能だよ」


「学部かー。蒼志はどの学部に行くつもりなの?」


 蒼志の後ろに座っていたアルマが頬杖をつきながら問いかける。


「俺か? 俺は第四経済学部に進むつもりだよ。父さんも母さんも会社を経営してるから、いずれは二人を手伝えればいいなと思ってるんだ」

「へー。お母さんの方はともかく、お父さんと仲が悪いわけじゃないんだね」

「まあな。比較されるのが嫌なだけで父さん自身の事を嫌だと思った事はないよ。ここに来るまでは両親だけが俺自身の事を見てくれる人だったし、父さんのことは偉大な魔術師として尊敬もしてるんだ。憧れた事はないけどな」

「なんか複雑なんだねえ……」

「そう言うお前はどうなんだよ? やっぱり第四文学部なのか?」

「うん。僕の両親は勇吾の会社の従業員でね、僕も将来はそこで働くつもりなんだ。勇吾は戦闘用の魔術を人を傷つける物だって嫌がるけど、僕は逆。僕は自分が作った魔術で誰かの命を救いたいんだ。世界を脅かす悪を討つ正義の魔術。否、魔法を僕は創りたい!」

「ほおー。良いなそれ! 自分の創った魔法が世界を救うって浪漫あるよな!」


「奇遇だね! 僕も第四文学部を志しているのさ!」


 盛り上がる蒼志達の輪に慧が目を輝かせて割り込んでくる。


「慧も魔術を作りたいのか?」

「否、僕の場合は少しベクトルが違うかもね。僕は魔術の解析が得意でね、いつか自分の手で魔術界の七不思議と呼ばれる七つの古代魔法の謎を解明するのが僕の夢なのさ」

「そうか、第四文学部は取り扱ってる分野が幅広いもんな。魔術史とか考古魔術学も取り扱ってるんだっけ」


「…………そうですか、はい。分かりました」


 翠が通信用魔術を切り、生徒に向き直る。


「皆、聞いてくれ。今しがた職員連絡が入ったんだけど、件の魔術師が大学所属の魔術師と交戦状態に入ったらしい。これによって敵魔術師の侵攻が一時的に停滞する事が予想されることを考慮して大学側は君達生徒に一時退避命令を出した。突然で申し訳ないんだけど、今から学園地下に移動して大規模退避用転送装置(E.アパラタス)で最寄りの避難用フィルターに退避してくれ」


「むう……初日だというのに邪魔が入ってしまうとは……全く無粋な輩だな」


 薊が不満そうに頬を膨らます。


「大学の人達も闘ってるんだね……。誰も怪我しなかったらいいけど」

「心配し過ぎだぞ空、戦闘に参加するのは基本的に専門の教職員だ。テロリスト程度に遅れはとらねえよ」

「…………うん」


 彰が空の帽子にポムポムと手を置きながら諭す。

 二人は大学に入る前からの友人だったりするのだろうか?


「おい、蒼ちゃん! アルちゃん! 慧ちゃん!」


 既に荷物をまとめたスコルビが此方に走ってきた。


「どうしたんだ? やけにウキウキしてるな」

「そ、そうか? 兎に角これ持っててくれよ!」


 そう言ってスコルビは小さなガラス玉の様な物を蒼志達に渡す。


「何だこれ?」

「俺ちゃんの発明品よ。もう他の皆にも渡してあるんだ。家に着いたらそいつを起動させてみてくれ! そんじゃーな!」


 スコルビはそわそわしながら教室の外に駆け出していった。


「……何だろ。彼は第四理工学部にでも入るつもりなのかな」

「魔術式が内部に組み込んであるみたいだね。ふむ……解析してみたいところだがそれは紳士的ではないな。スコルビ君の言う通り家に帰ってから使うとしよう」


 蒼志がアルマと翠と共に教室の出口に向かっていると、突然ドアがガラリと開けられた。


「蒼志、ここにいたのか!」


 息を切らせて凪沙がつかつかと此方に向かってくる。


「な、凪沙!? わざわざ俺を探しに来たのか!?」

「当たり前だ。 僕は君の世話係だぞ? 君を置いて一人で避難するわけにはいかないだろう」

「ちょ、おい! 引っ張んなって!」


 蒼志は凪沙に引きずられる様にして教室を出ていく。


「…………あれがガールフレンドというやつなのだろうか? アルマ君」

「さあ?」



「おい、凪沙! 放せってば! 自分で歩けるよ!」

「……すまなかった。蒼志を守ってやれなくて」

「へ?」

「君には何の事か分からないだろうけど、僕には君を守る義務があるんだ。その為だったら僕は何だってするしこの命だって棄ててみせる」

「な、何急に変なこと言ってるんだよ!?」


「君の傍に騎士が現れるまで、僕が君の騎士となる」


「んなっ……!」


 思わず蒼志の顔が赤くなる。


 人前で何を言ってるんだコイツは!


 それ以上言葉を交わすこともなく(交わせるか!)二人は転送術式へと乗り込む。


「蒼志、今回の敵が博士協会の連中だというのには気づいているか?」

「……ん、ああ。あいつ等は今回その儀式ってやつをするためにここに来たのか?」

「否、今回のは只の様子見、若しくは牽制といったところだろう。実行犯は明らかに使()()()()の魔術師だ。そもそも本格的に儀式を行う為には八人の魔術師が集う必要があるからな」

「……凪沙はその儀式について詳しく知ってるのか?」

「ああ。連中が行おうとしている儀式は【星辰帰納-Call of Chaos-】と呼ばれるものだ。蒼志にはまだ難しい話かもしれないが、この世の全ての魔術式は全てがたった一つの世界構築式、つまり連中が言うところの真理に帰納すると言われている。これは魔術の第一法則であり、あらゆる魔術理論において絶対とされるものだ。【星辰帰納-Call of Chaos-】はこの理論を基に考案された真理到達術式、魔術において基本とされる火、風、土、水の四大属性を持つ一対八冊の写本を競い合わせ、敵陣営の写本を全て破壊して帰納することで真理へと到達する道を構築しようというものだ」

「…………全然分からん」

「要は真理と呼ばれる第四存在をめぐって四人一組の魔術師チームが二組集まって殺し合うという儀式という事だ」

「成程な……取りあえず今回の魔術師の所為で儀式が完了して世界滅亡なんて事にはならないわけか」

「まあそうだな。だが、儀式に参加する魔術師は無益な殺生を行わない誇り高い魔術師が殆どだ。蒼志を守らなくてはならない僕としては今回の様な手合いの方がよっぽど恐ろしい」


 光の門が開き、蒼志と凪沙は自宅へと戻ってくる。


「なんだかんだで初の帰宅だな。……ここが新しい家かー、やっぱりこれくらいの小さい家が丁度いいよな」

「狭い方が此方としても警護がし易くて助かる。蒼志、夕飯の準備をしておくから君は二階で休んでおいてくれ」

「おう、ありがとな」


 蒼志は荷物を担いで二階へと上がる。

 その時、ポケットに入っているガラス玉のことを思いだした。


「そういやスコルビのやつ家に着いてから見ろとか言ってたな」


 蒼志は荷物を降ろし自分の部屋の床に座り込むと、ガラス玉を取り出してみた。

 成程、一部がボタンの様に押せばへこむ様になっている。


 まさか入学早々如何わしいものを渡したりもしないだろう。蒼志は気軽にスイッチを押してみる。


 すると、術式が起動して空中にスクリーンが展開され、そこに映像が映し出された。

 それは街中での戦闘の中継映像だった。


「な……何だこりゃ……! あいつ何やってんだ!」


 瓦礫の中で背中合わせに立つ二人組の……恐らく少女が二人。そしてそれを取り囲む大学側の魔術師が三人。



「進藤ォ! 様子見なしで一気にケリ着けるぞ!」

「分ーかってんよ葛原。相手さんの魔術は割れてっからなあ。只油断はすんじゃねーぞ」

「お二人さーん、イチャイチャするのは構わないけど俺も居ますからねー?」

綱十(つなし)、お前はまだ新人だろ。先陣切らせるわけにはいかないんだ。私と進藤であいつ等を叩くからお前は後方から援護してろ!」


 進藤と呼ばれた魔術師はぼさぼさの黒髪、顎髭を生やしたガタイのいい男で、支給品の白衣の袖を六分丈にまくっている。その腕には槍と花束を混ぜたような大きな刺青が彫られていた。


 葛原と呼ばれた魔術師は透き通るような水色の長髪、顔に左眉から眉間を通って頬まで延びる大きな疵がある女性で、白いぴっちりしたスーツの上に支給品の白衣を羽織っている。


 綱十と呼ばれた魔術師はふわふわの金髪、おでこにバンダナを巻いた若い男で、此方も右目から頬に縦一文字の疵が入っている。目元や口元、耳にもピアスを入れており、衣服の至る所に大量の缶バッジをつけた派手な格好をしていた。


「写本ウルヴァース第四十七小節【ヴァスカザリの大鎧-Borns of Vascazarre-】!」


 進藤の詠唱に呼応し炎のような気がその身体から放たれ、彼の周囲を赤い雷が奔る。


 その炎の如き力の奔流は葛原と綱十の身体からも立ち昇っていた。


「あれって……勇吾も使ってた力だよな……?」


 画面越しに見ても分かる圧倒的な威圧感はまさしく蒼志の体験したそれだ。


「……姐流、今度のは厄介そうね」

「そうだね、恐らく始間大悟が差し向けた刺客だ」

「私達、死んじゃう?」

「まさか。思い知らせてあげよう。こんなゴミを幾ら放り込んだって無駄だってことを」

「うふふ、そうね」


 小さな姐流の身体から進藤達の倍はあろうかという量の炎が噴き出し、その威圧感で魔術師達を圧倒する。


「おいおい……なんて()()()の量してやがるんだ」

「この二人、どうやら学長に用があるみたいだな。進藤、綱十、絶対に逃がすなよ」


 三人のことなど意に介さず、流那は姐流の身体を撫でてその細い胸を両の手のひらで覆う。

 姐流は顔を赤らめ熱い吐息を漏らした。


「うふふ……姐流ったら、凄い量。興奮してるのかしら?」

「流那ぁ……早く()()()()よお……」


 クスッと笑って流那が姐流の右手にその左手を置く。


「……来るぞ!」


 地面がばっくりと裂け、裂け目から白熱した溶岩が顔を覗かせる。


 それを予想していた綱十が素早く写本を開き、魔術を発動させた。


 が、綱十の詠唱を掻き消す程の轟音が鳴り響き、爆炎が三人の魔術師をあっという間に飲み込んだ。


「……なあんだ。何か対策でもして来たのかと思ってたけど、期待外れだったみたいね。これじゃ姐流の猛りを鎮める方がまだ大変そうだわ」


 そう言って流那が姐流の頸筋を舐める。


「あああっ 流那ぁ……流那ぁ……!」

「我慢できないの……? 姐流ったら、はしたない子」


 流那の左手が輝いて大量の熱線が発射され、周辺の建物を粉粉に粉砕する。


「ちったあ遠慮しな? 下品な魔術師さんよォ!」


 咆哮と共に、何もない空間から現れた拳が姐流の頸をとらえて吹き飛ばす。


 流那の視線の先には、火傷の一つも負っていない三人の魔術師の姿があった。


「……あら、生きてたの。さっきので死んだかと思ってたわ」

「生憎だがバカみてーに自分の手の内を見せる魔術師相手に何の対策もしてこないようなバカじゃあないんでな。爆発の瞬間に空間干渉の魔術を使って異空間に回避させてもらったぜ。……あんた等の魔術は太陽と月の紋章を媒介に発動するタイプだろう? 魔術において太陽と月が現すのは世界の頂点と底辺。それが重なるのは即ち世界の断裂を意味する。地中の溶岩を強制噴出させるとは恐れ入ったが、こうやって分離しちまえば怖くもなんともねえって寸法よ」

「流石は東京踏破大学の魔術師ね。こうもあっさり手の内を見破られるとは思わなかったわ」

「そりゃどーも。さ、わかったら大人しく投降してくれ。できればこっちも子供をいたぶる様な真似はしたくないんでな」

「……ええ、そうね。それは私も願い下げだわ」


 流那の左手から放たれた光の刃が進藤の脇腹を切り裂く。


「なんだ……と……?」


 進藤が喀血し、大きくその目を見開いた。


「……進藤!?」

「ユリコ……近づくな!」


「私はね、生まれつき意思の力を持ってないの。私の弟、姐流の()()()を溜め込む力が強過ぎてね、母親の胎内に居る時に()()()()()()()()()()()()()ちゃったのよ。だからね、私はこの断裂の術式を習得した。姐流が掴んで離さない意思の力を無理矢理()()()()()私が使う為にね!」


「化け物め……! 進藤から離れろ!」


 葛原……ユリコが魔術を詠唱しながら進藤を助けようと突っ込んでいく。


 が、ユリコの叫びを掻き消す様に光の刃を形成していた左手はそのまま真っ白な熱線へと変化し、魔術師達を包み込んだ。

 その跡には焼き切られた腕だけが一本転がっていた。


「甘いわね、大学の魔術師さん。ま、半分は合ってたし50点くらいはあげようかしら」


 流那は姐流の元へと歩いていき、治癒魔術でその頸を治療する。


「げほっ……! 流那……ありがとう」

「ええ……どういたしまし、て!」


 流那は姐流に馬乗りになってその細い頸を思い切り絞める。


「う……あ……かひゅっ……! る……な……?」

「姐流ぅ、目が脅えちゃってるよ? 頸を折られて怖くなった? 私達は始間大悟を殺さなくちゃならないのよ? 失敗すれば御館様に叱られるわ。わかってるの?」

「ごめ……ごめんなさい……あひゅ……! くびしめないで……るなぁ……!」


 にやっと笑って流那は手に込める力を抜く。


「分かればいいのよ、姐流。私の頼りは姐流だけなんだからしっかりしてよね」

「う、うん……! 僕が流那を守るよ!」


 二人は歩き出す。

 東京踏破大学は既に二人の目前に迫っていた。



「父さんを……殺す……?」


 聞き間違いではない。

 あの二人の魔術師ははっきりと始間大悟を殺すと言った。


 瓦礫と化した街。

 その上に転がる持ち主を失った一本の腕。


 蒼志の頭にさっきの光景がフラッシュバックする。


「父さんが……殺される………!」


 気がつくと、蒼志は走り出していた。


「蒼志!? 待て! 何処へ行くんだ!」


 台所にいた凪沙が泡を食って追いかけてくる。


「写本イグファントス第二小節【リントヴルムの羽-Drive of Lindworm-】!」


 猛烈な風と共に蒼志が空へと消えていく。


「くそっ……あのバカ!」


 凪沙も【リントヴルムの羽-Drive of Lindworm-】を起動し、蒼志の後を追って飛び出した。





「……とうとうこの時が来ちまったか」


 始間大悟は机の上に置かれた妻と息子、そして幸せそうに笑う自分自身の映った写真を手にして微笑む。


「あとの事は頼んだぜ、蒼志」


 大悟は自らの写本を開く。


 運命の時は、もうすぐそこまで迫っていた。

お待たせしました! ぼちぼち序章のクライマックスに差し掛かってきています。新しい要素ばかり出てきて混乱するかもしれませんが、全て本編に入るための下準備ですので今は雰囲気で読んでいてください。これから順次説明していきます! ではでは。

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