If you fight!-初めての試練-
鳥の声が聞こえる。
沈んでいた意識が水面に近づく様に呼び起こされていく。
窓から木漏れ日とそよ風の吹き込む部屋で始間蒼志は目を醒ました。
「……ここは……?」
いつの間にか寝てしまっていたのか。昨晩はどうしたんだったっけ。父親に会って、帰る途中に凪沙と喧嘩して……そこから何も思い出せない。
取りあえず起き上がり、辺りを見渡してみる。お洒落さに欠ける白いベッド。枕元の治療機器、そして父親の名前が書かれたカード入りの花束と切り分けられた林檎。
……成程。ここは病室か。
「やっと目を醒ました様だな」
「…………キリコ学部長!?」
毒々しい水色のツインテール、身体のあちこちに巻かれた包帯。紛れもなく東京踏破大学が誇る9人の大魔術師の一人、葛原キリコだった。
「ど、どうして学部長がこんなところに!?」
「安心しろ。お前の貞操を脅かす様な事は殆どしていない」
「ほ、殆どって」
「ワタシは第四医学部の学長だからな。大悟にお前の治療を任されてたんだ」
「学部長が直々に治療って……幾ら何でも甘やかし過ぎだろ……! 父さんは何を考えてるんだ!」
「落ち着け。大悟がワタシを呼んだのにはちゃんと理由がある。お前はつい数時間前まで半分死にかけていたんだ。ワタシでなければ治せない程にな」
「死にかけてた……? っていうか、そもそも何で俺は治療なんか受けてるんですか!? あの後何があったんだ……?」
「街道に瀕死のお前と白夜姫凪沙が倒れているのが見つかったのが昨日の深夜一時頃だ。白夜姫凪沙の身体から高度隠蔽術式である【ハズの八百八室-Fire wall of Hazz-】が展開されていたことにより発見が遅れてしまった。今日の巡回職員が『ツナ缶』の奴じゃなかったらお前達が死ぬまで気づけなかったかもしれないな。そんな感じだから残念ながら目撃者は一人もいない。だが、被害者である白夜姫凪沙の発言であの時間に何があったのかは先程明らかになった。……お前達はどうやら敵の魔術師から攻撃を受けたらしい」
「敵の攻撃って……凪沙は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だ、既にワタシが治療を施してある。先程一人で入学式に向かっていったよ。君のそばに居ると言って聞かなかったのだが、傍にいられても邪魔だったからな。無理矢理入学式に向かわせた」
「入学式……?」
「そうだ。もうとっくに終わってしまっているがな」
「し、しまったあああ! まさか初日から寝過ごしちまうとは……! 最悪だ……俺の華々しい大学デビューが……!」
「お、おい。何処へ行く気だ?」
「ホームルームに行ってきます! 今ならまだ間に合うかもしれないし!」
通常、大学にはホームルームといったものが存在しない。生徒達は自分の受けたい授業だけを選んで好きに個人の時間割を組むことができる。つまりクラスメートという概念が存在せず、決まった生徒が決まった時間に決まった場所に集うという機会が非常に少ないわけである。だが、ここ東京踏破大学には毎朝ホームルームが存在し、学校からの諸連絡をクラス単位で行うというシステムがある。これは実習科目の多い魔術学校において生徒の結束力を重視するが故のシステムなのだが、生徒側からしても友人を得る機会を得られる為に非常に好ましい制度なのである。
当然、蒼志もこのホームルームにかなりの期待を込めていたわけで。
「急げえええええええっ! あっ、てか教室何処だ!? 写本イグファントス第十二小節【ソロモンの覗き窓バージョン7-Windows of Solomon Ver.7-】!」
空中にスマートフォンの画面の様になった立体映像が出現し、蒼志の思考に沿って検索を開始する。音の100メートル走が永遠に感じる程の早さで【ソロモンの覗き窓バージョン7-Windows of Solomon Ver.7-】は検索結果を映し出した。
「第二講義堂の1073番教室か……よかった、そんなに遠くないぞ!」
【リントヴルムの羽-Drive of Lindworm-】を起動し、蒼志は第二講義堂へと駆け込んだ。
「1073……1073……あっ! ここか!」
息を切らせながら教室の扉を開け、中に駆け込む。
「お、遅れてすいませーん!」
顔を上げると、
そこは只只巨大で真っ白な空間だった。
「え?」
振り返ると、自分が入ってきた入り口も消滅している。
「あーあ、君も入って来ちゃったんだね」
部屋の中には蒼志の他に9人の先客がいた。
「……初日から遅れてくるとはいい身分だな、流石は学長の息子ってやつか」
「な、何だと!?」
首元にヘッドホンを下げた大男が的確に蒼志の怒りの琴線に触れる。
「まあまあ落研さん。今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。ここから脱出する方法を考えないと」
目元と口元にピアスをつけたチャラそうな青年が今にも殴り合いそうな落研と蒼志の間に割って入る。
「……フン」
「悪いな、俺達みんなかれこれ二時間程ここに閉じ込められてるもんでね、イライラしだす奴がいるのも分かってやってくれ」
「お、おう」
「俺は馬場彰。あんたは?」
「俺は始間蒼志。ここにいる人たちは皆クラスメートなのか?」
「ああ。つい二時間前に入学式を終えて指定された教室に来たらこれだよ。ぼちぼち俺達も煮詰まってきたところでな、そろそろ魔術でもぶっ放してやろうと思ってたところさ」
「致傷性魔術の許可のない使用は原則禁止なんじゃないのか?」
魔術、それは人の手による超常現象の行使。当然ながら私怨や自己の利益の為にその力を利用するものが現れ、魔術社会黎明期には魔術による死傷事件が社会問題となった。その防止の為比較的早期に国連による魔術に関する国際法が作られ、それを遵守させる為の国際組織も発足したのである。特に致死性及び致傷性魔術を資格若しくは特別な許可なしに使用することは場合によっては死刑も適応される重大な罪であり、白夜姫凪沙が致命傷を負いながらも【ハズの八百八室-Fire wall of Hazz-】を解かなかった理由の一つとしてこれが挙げられる。
「そうなんだけどよお、俺ちゃんはどうもこの状況が学生証の受け取りに関係ある様な気がしてならないんだよなあ」
クラスメートの中でもひと際身長の高い銀髪の男-恐らくは北欧系の外国人-が流暢な日本語で話に割り込んできた。
「……あんたは?」
「俺ちゃんはスコルビ。スコルビ=キヲザネ=ヴラディーミルだ。よろしくな」
スコルビはニッと笑って蒼志の手を取る。
「おう、よろしく! ところで、学生証って何のことだ?」
「そっか、蒼ちゃんは入学式に居なかったんだったな。俺ちゃん達みんなホームルーム教室に学生証を取りに行くようにって言われてんのよ。ここは魔術師の学校だぜ? 入学早々こんな試練があってもおかしくないと思うんだよなあ」
「スコルビ君、気持ちはわかるが落ち着きたまえ。確かに魔術師にとって魔術の実践は日常茶飯事だが、だからこそ慎重にならなくてはなるまい。逆にこの試験は軽率な魔術使用者でないかを確かめる為のものかもしれないからね」
眼鏡をかけた如何にも秀才そうな男がスコルビに静止をかける。
「にしても二時間は長過ぎないか? 慧ちゃん」
「何にせよそんなに簡単に使用を許可するわけにはいかないよ。許可のない致傷性魔法の行使は連帯責任だからね。蒼志君、君もそう思うだろ?」
「え? あ、ああ。俺は来たばっかりだから何とも言えないけど、できれば派手な魔術は使わずに出たいかなあ……」
「でも私第四防衛学科志望だから戦闘用の魔術しか習得してないよ? 非常事態用の魔術行使ライセンスも持ってるし普通に使う気満々なんだけど」
先程から床に座り込んで話を聞いていた眼帯のおかっぱ少女が立ち上がり、ライセンスを見せつける。
「さ、早苗君。君ライセンスなんて持ってるのか……!?」
「私の両親二人共デルタ・グリーンの人間なの。曾祖父の代からそういう家系らしくてね、私がこのライセンスをとったのも高校二年生の冬よ」
「で、デルタ・グリーンだって……? 国連直属の対悪性魔術機関じゃないか……!」
蒼志にはよく分からない話だが、慧の驚き様から察するに早苗の家系は相当なエリートらしい。
「これが試験だって言うなら尚更実力見せておきたいし。何か、異論ある?」
「ライセンスを持っていると言われては流石に止めようがないね……やりたまえ」
「そ、じゃあ遠慮なく」
そう言うと、早苗は持参していた大きなトランクケースを開ける。そこに入っていたのは大小さまざまな大量の銃火器だった。
「な、何じゃこりゃあ!? 拳銃にマシンガン……スナイパーライフルまで持ってんのか早苗ちゃん!?」
「ま、魔術じゃないのか!?」
蒼志も驚きを隠せない。平和な世界に生きてきた蒼志にとっては銃火器そのものを見ることが何よりも新鮮だった。
「何言ってんの、これは只の媒介よ。魔法の杖の様な物……と言ったら理解できるかしら?」
「魔法の杖……? 只の銃じゃないってことか?」
「魔機っていってね。製造過程で特定の魔術陣を刻んでおくことで対応した魔術を強化できるの。デルタ・グリーンに限らずあらゆる対悪性魔術機関で利用されている技術よ」
早苗はマシンガンを手に取り、写本を開いて詠唱を始める。
「写本アカム第二十八小節【タスラムの弾薬庫-Magazine of Tathlum-】!」
空の銃身から力の塊が発射され、真っ白な空間に爆弾の様な衝撃が撃ち込まれていく。
「げええ……こんなの生身の人間が食らったらひとたまりもねえなあ……」
そのあまりの威力にスコルビは顔を青くした。
無慈悲な射撃は数分間にわたって続けられ、辺りに濛濛と魔術の硝煙が立ち込める。
「ふう、こんなもんでしょ!」
「やり過ぎだよ早苗君! この異空間の向こう側にまで被害が及んでたらどうするんだ!」
「うるさいわねー。ちゃんと壊してやったんだからいいでしょ! 屁理屈メガネ!」
「へ、屁理屈メガネぇ!?」
「……待て、壊れてねえぞ」
いつの間にか崩れた壁の辺りに移動していた落研が冷静な声で呟く。
「へ?」
「確かに壁は崩れちゃいるが、只削り取ってるだけだ。小さい風穴すら空いてねえ」
「嘘!? どれだけ分厚い壁なのよ!?」
「でも早苗君の魔術ならあともう少し撃ち込めば貫通させられるんじゃないか?」
「……無理よ、もう撃ち尽くしちゃったし」
「ま、魔力限界か……」
魔術というのは無限の資源である。何かを消費して発動するものではないため、魔術に枯渇という概念は存在しない。では魔術とは無限に使えるものなのか? 答えは否である。魔術の源は意思の力。術者が写本を通して契約している第四存在と交信し、その意思の力が大気中のオリハルコンに作用することで様々な超常現象を引き起こすことができる。この意思の力というのは振動のようなもので術者の実力によってその強さが異なるのだが、意思の力を作用させるオリハルコンそのものの振動が魔術の持続的な行使によって術者が発生させることができる振動の強さと同じ波長に達すると、魔術の行使ができなくなってしまうのだ。魔術師達はこの術者が発生させられる振動の強さの上限のことを『魔力』と呼び、オリハルコンの振動が術者の魔力の波長と同じまで高まってしまうことを『魔力限界』と呼ぶのである。
つまり魔術師は魔力が高ければ高い程長時間魔術を行使する事が可能であり、魔力養成の訓練を大して受けていない蒼志達ではすぐに魔力限界で魔術を使えなくなってしまうということである。
「こんな密封空間では利用できるオリハルコンの量も少ないからね。すぐにオリハルコンも暖まってしまうよ」
赤毛の小さな少年が猫を抱えながら立ち上がる。
意思の力は振動のようなものであり、その力は写本を中心に波紋の様に周囲に広がっていく。その性質上魔術は力の反響する密閉空間の方が素早く出力を上げられる反面、直ぐに空間内全体のオリハルコンが魔力限界に達してしまうという特性があるのだ。奇襲、暗殺は屋内で。持久戦は屋外でというのが魔術師達のジンクスである。
「アルマ、お前はこの試験、単純な魔術の強さを計るためのものだと思うか?」
赤毛の少年、アルマに落研が問いかける。
「思わないね。魔術師の価値は殺傷能力の高さで決まるものではないし、進みたい進路によって習得している魔術の系統もバラバラだ。もしこの試験の達成条件が壁を破壊して外に出ること、なら戦闘を目的に魔術を修めた者以外にとってあまりに不公平な試験になってしまう。丁度今早苗さんの射撃を指をくわえて見ているしかなかった僕達の様にね。僕達に告げられた任務が学生証の受け取りならばこの部屋のどこかに隠された学生証を見つけ出す、というのが試験内容なんじゃないかと僕は思うよ」
「……アルちゃん、滅茶苦茶喋るじゃん……」
「ともかく、アルマの言う通りこの試験は壁をぶち抜く為のもんじゃねえ。正直さっきの一撃はそこ等のプロに匹敵するレベルの威力だ。そんなもんを入学したての生徒に求める筈がねえからな。一旦落ち着いて他の手を考えるのが得策だろ」
「俺も落研さんの意見に賛成かなー。どの道ライセンス持ってない俺達は別の方法しかとれないし」
彰は自分の写本を開き、使えそうな魔術を探し始める。
「あのー……」
大きな帽子をかぶった大人しそうな女の子がおずおずと声をあげる。
「おや、空君、どうしたのかね?」
恐る恐る話しかける空に慧は紳士的な笑みで応える。
「その、この部屋のオリハルコンが魔力限界に達しちゃってるなら他の人達も魔術を使えないんじゃないですか……? 早苗さんよりも魔力が高いなら話は別ですけど……」
「否、そんなことはないよ。意思の力には各々に波長の形の違いが存在していてね、波長の違う力であれば例え他人の魔術行使で魔力限界に達しているオリハルコンであっても新品のそれと同様に意思の力を受け入れることが可能なんだ。つまり今は早苗君以外の全員が魔術を使える状態ということだよ」
「そ、そうなんですね」
始間蒼志は激しい胸の高鳴りを感じていた。世界中から集められた魔術師の卵達。その語らいは蒼志にとっては魔術の授業そのもので、その一言一句が蒼志に新たな世界を見せてくれる。
…………これが魔術学校か!
「そういうことなら私から試させてもらおうか」
燃えるような緋色の髪、黄緑色の美しい目、キリコ学部長に負けずとも劣らない抜群のプロポーション、ビキニにダメージジーンズといった開放的な格好の上に魔術師らしい宝石付きのローブを纏った派手な女性が写本を手に立ち上がる。
「紅神流魔術創家紅神家二十三代目当主、紅神薊、参る!」
猛猛しい名乗りと同時に無数の魔術陣が展開され、白い部屋の床が変形してゆく。
「え……詠唱なしかよ……!? ハウル学部長みたいだ……!」
「フッ、蒼志。褒めるのは構わんが例えがあまりよろしくないぞ?」
薊は蒼志に余裕の笑みをこぼしながら、片手間で大理石の庭園を創りあげてしまった。繊細な薔薇の花や立派な花瓶、手入れの行き届いた土壌の質感まで再現されており、神話の一場面を彷彿とさせるような彫像まで飾られていた。
そして、その彫像の手には小さなカードの様なものが挟まれていた。
「成程、そういうことか」
薊はカードを彫像の手から取り、その表面を確かめる。
それは何処からどう見ても学生証だった。
「この空間は私達を閉じ込める為の牢獄ではない。私達が思う存分に力を振るえるようにするためのアトリエだよ」
「自分の得意な魔術を行使して実力が認められれば自動的に学生証が手に入るというわけか……! 流石は東京踏破大学、公平さのスケールまで桁違いというわけだね!」
慧も興奮した様子で写本と睨めっこを始める。
「ちょっと待ってよ! じゃあ私の実力は認められなかったって言うわけ!?」
薊の言葉に、一度失敗している早苗が食ってかかる。
「瓦礫の中にでも埋まってるんじゃないか? 探してみるがいい」
「そんなのもうとっくにやってるわよ! 自分で言うのもなんだけど私の実力は既にそこ等のプロより上よ! 不合格なんてあり得ないわ!」
「そんな事を私に言われても困る。私は試験官ではないからな」
「ううーっ!」
早苗は目に涙を浮かべ、悔しそうに唇を噛んだ。
「次は僕がいこうかな。本当は一番乗りで合格したかったけど、まあ試験の全貌をあばいてくれたのには感謝するよ」
アルマが人の空いている場所へと進んでいき、写本を開く。
「写本クルルカン第十二小節【ウルタールの猫-Sage of Ulthar-】!」
詠唱と同時に地面に魔術陣が刻まれ、アルマの抱いていた猫がその中心へと移動する。
「写本クルルカン第十八小節【ウルタールの慧眼-Eyes of Ulthar-】!」
「おお!? 連続で詠唱するのか!」
同じく連続詠唱が得意な蒼志は少し親近感が湧いた。
アルマの唱えた魔術は小さな落雷のような光を呼び、その光が猫に落ちる。
「猫には九つの魂があるってよく言うよね、その伝承の通り猫には八つの種類の第四存在を降ろすことができるんだ。僕の書いた写本はそれに特化したものでね」
猫は何もないところに歩いていくと、そこの地面をつつき始めた。
「写本クルルカン第二十七小節【ウルタールの爪痕-Sword of Ulthar-】!」
猫の右前脚に小さな稲妻が宿り、鋭い猫パンチが床石を破壊する。そして猫は瓦礫の中からアルマの学生証を取り出した。
アルマは猫缶を開け、戻ってきた猫の前に差し出す。
「よくやったぞイクツァルハイム! 流石は僕の相棒だ!」
アルマは人が変わったかの様に愛猫、イクツァルハイムと戯れ始めた。
「すげえ……皆それぞれの魔法を持ってんだな!」
「はあ? 何言ってんだ。ここは特待生クラスだぞ? そんなもん持ってて当然だろうが。冗談のつもりか?」
「……え?」
落研の挑発が脳に届く前に蒼志の思考が停止する。
「特待生……クラス?」
「そうだっつってんだろ」
「ま、マジかよ……!」
特待生クラス。その名の通り優秀な学生が集められ一段上のカリキュラムを提供されるため為のシステムだが、東京踏破大学でこのクラスに行くには二つの方法がある。一つは申請制の実技試験。学部長達の審査の元で魔術の実践試験において優秀な結果を残したものがその資格を得ることができる。そしてもう一つは筆記試験における全問正解での合格。こちらは筆記試験を受けた全生徒が審査対象であり、蒼志はどうやらこの方法で特待生クラスに配属されたようである。
(やった……! 満点取れてたのか……!)
「ま、どうせお前は親のコネで入ってきたんだろ? いいよな、学長の息子は。学費なんて払わなくても一流の教育受けられるし、努力なんてしなくてもエリート人生が約束されてるんだもんなあ?」
「……何だと?」
今度は聞き逃せなかった。
努力によって偉大な父親の重圧から逃れようとしてきた蒼志にとって、自分の努力を血筋で否定される事は何よりも耐え難い屈辱だった。
それが正しい行いでないことなんて分かっている。
ぐっとこらえて我慢する事ができないわけじゃない。
それでも、それだけは認めるわけにはいかないんだ。
それは始間蒼志という人間を否定するということと同じだから。
「もういっぺん言ってみろよお前!」
怒号を上げ、蒼志は落研を殴り飛ばした。
不意を衝かれた落研の身体が白い床の上を跳ねて吹き飛ぶ。落研は勢いのままに態勢を立て直し、蒼志を睨みつける。
「てめぇ……死んで後悔すんじゃねーぞ!」
落研の身体から炎のようなものが噴き出し、押し潰されそうな程の威圧感を放つ。
「勇吾! 何してんのさ!」
イクツァルハイムと戯れていたアルマがその威圧感に気づき、駆け寄ってくる。
「アルマ! お前は手を出すんじゃねえ! こいつは俺とこのクソ野郎の問題だ!」
蒼志には自分だけの魔術というものがなかった。恵まれた環境にあったとはいえど魔術師としての人生をまともに歩んできたわけでもなく、踏破大学への入学も実技ではなく殆どが座学によるものである。
それでも、負ける気なんて更更ない。
「起きろ! 写本イグファントス!」
蒼志は、写本を開いた。
またしても新キャラ大量出現です! 物語って最初のこのどんどん新キャラが出てくる時が書いてて楽しいんですよね。皆のキャラをしっかり引き立てていけるように頑張ります!




