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If-First Session-  作者: 蓮飼ななめ
序章-祈者集結の章-
1/8

If He is me.-始局特異点始間蒼志-

 挿絵(By みてみん)


 それは星の降るような夜だった。

 星々の明かりに照らされた街路を始間蒼志(はざまそうし)は走る。


「くそっ! どうなってんだよっ……!」


 蒼志はその蒼い目に涙を浮かべながら叫ぶ。

 蒼志の隣を走る少年は脇腹から血を流し、今にも崩れ落ちそうな様子で走っていた。


(さかき)! 諦めんなよ! もうじき病院に着けるからな!」

「……悪い、蒼志まで巻き込んじまって」

「何言ってんだよ! 榊のせいじゃない!……ここには俺が連れて来ちまったんだから」


 榊は首を振ろうとして激しく咳き込んだ。喀血したのだろう、白い歯は紅く染まり、口の端からも血が垂れていた。


「くっ……、何で誰も警察も来ないんだよ……?」

「蒼志」

「……何だよ」

「俺のことはいい、お前だけでも逃げろ」

「月並みな台詞吐いてんじゃねえ」

「……俺は本気だぞ」

「俺だって本気だ!」

「……俺はこれ以上走れない。俺を担いでいくつもりか?」

「やってやるよ!」

「二人で死んで何になるって言うんだ。いいから早く行け!」

「……俺が逃げたら、お前が死ぬだろ」

「逃げなくたって一緒だ!」

「逃げたらもう一緒じゃないだろ! 死ぬんだぞ!? わかってるのか!?」

「……死ぬのなんてゴメンだが、お前に目の前で死なれるくらいなら独りで死んだ方がずっといい」


 そう言うと、榊はどろりと大量の血を吐いた。


「榊……!」

「……蒼志、ま、え」


 物陰から飛び出してきた手が蒼志の胸元を掴みそのまま地面に叩きつける。


「げあっ……!」


 榊の身体を切り裂いた者、身体中に返り血を浴びた刺客が星の漏光を背にそこに立っていた。刺客は蒼志には何もせず、手にした剣を下げて榊の元へと向かう。今の衝撃で倒れた榊はもう動いていない。振り上げられた刃に視線を向けることすらせずに沈黙していた。


「や、止めろ……!」


 少し裏返った蒼志の声が異常な程の沈黙に空しく消える。


「どうして榊なんだよ……?」


 始間蒼志は嫌だった。


「殺すなら俺を殺せよ……!」


 榊という人間を失うことが。


「そいつは……死んじゃいけない人間なんだよ……!」


 否、榊という人間を失った世界で生きていくことが。

 だが、そんな事を始間蒼志以外の誰が気にするというのだろう。

 榊さえ知らない、そんな思いを。

 刺客の振り下ろした刃が榊の胸に突き刺さる。影を落としていた榊の眼球が大きく見開かれ、星の光を反射して最期の表情を生み出した。静止していた肉体が大きく痙攣し、再び動かなくなる。噴出した血肉はもうこれ以上刺客の服を汚すことはなかった。

 ぐちゅりと刀剣が榊の身体から引き抜かれ、刺客は去っていく。

 終わったのだ。

 あまりにも突然で、理不尽で、恐ろしい殺戮が。

 そのはずだった。

 だが、

 一条の火柱がたった一つの理解可能な事実を告げる。

 何かが、始まると。

 その火柱は榊の胸元から放たれていた。死んでいたはずの榊の肉体が起き上がる。その目にヒトのものとは思えぬ光を湛えて。火柱は榊の身体を包み、巨大な人型となってその形を成す。


「チッ……覚醒したか……!」


 刺客は再び榊へと向き直り、剣を構えた。

 それは鈴が鳴るような凛とした声だった。

 灼熱の業火が空気を焼き、その熱は浸み込んだ返り血を焦がして衣服をバリバリに固める。黒く散る灰の中刺客は懐から一冊の本を取り出した。


「詠唱、写本グーリンガム第十四小節【カルナマゴスの秒針-Sweep hand of Carnamagos-】!」


 冗談の様な文句と共に刺客の眼前に魔法陣が展開され、白亜の光条が榊に向かって放たれる。光の矢はその射線上にある塵を消し去り、虚空の軌跡を残しながら榊の心臓を狙っていた。

 炎の巨人は自らの手が光の矢に貫通されたのを見ると、その烏の様な頭を擡げけたたましく咆哮し、羽ばたく様にして飛び上がった。尋常ではない膂力は榊の両脚を破壊し、莫大な浮力を生み出してその肉体を摩天楼の上空へと運ぶ。破損し露出した筋肉はまるで時間を巻き戻す様に再生し、榊は弱弱しい夜の闇へと駆けていった。


「やはり秒針如きでは足りないか。一撃で葬り去らなくてはな」


 轟轟と燃える火柱を見逃すはずもなく、刺客は迅速に獲物の追跡を再開する。蒼志は独り、地面にへたり込んでその背中を見ていることしかできなかった。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 昨晩、この世羅島(せらじま)で働く父、始間大悟(だいご)から招待を受け、友人の榊と共に父の職場がある第三区画都市始間へとやって来た。予定ではそこで五年ぶりに父と再会し、一緒に楽しい時間を過ごせるはずだった。

 だが、父大悟は現れなかった。まるで餌につられたように、蒼志と榊は右も左もわからない街をさ迷った。

 迎えも、島から出る為の船も、道行く人々からの返事も来なかった。

 気がつけば何かが彼等を殺しに、否、何かが榊を殺しに来ていた。

 一体何をしたって言うんだ。

 呼ばれたから来た。

 言うことも聞いてきた。

 努力もしてきた。

 期待に応えられるように。

 皆を失望させないように。

 己さえ捨てて。

 だからこそ、大切だった。

 自分の道を行く(ゆうしゃ)が。

 羨ましくて、眩しくて、綺麗でいつまでも見ていたかった。

 それなのに、

 どうしてなんだろう。


「詠唱、写本グーリンガム第三十三小節【カルナマゴスの分針-Big hand of Carnamagos-】!」


 刺客の鋭い声と同時に白く巨大な光の矢が上空で炸裂し、蒼志の絡まった意識を断ち切る。

 やわらかい果実を投げ落とした様な音を立て、炎の塊が蒼志の傍に落ちてきた。その塊の目に光はなく、その命を守っていた炎は今やその肉を焦がし、燻ぶっている。

 最期に、その唇が動いた様な気がした。

 鈍く耳障りな金属音と共に。

 それが無慈悲な刃が榊の頭を砕いた衝撃によるものだと気付くのにさ程時間はかからなかった。

 涙も叫び声も出なかった。恐怖で思考が麻痺しているわけでもない。むしろ、今までで一番鮮明に、たった一つのことだけを望んでいた。


 死にたい。


 大切なものを全て喪ったこの世界から消えてしまいたい。


 そして全てが揺らぎ始めた。

 そう、それはまるで夢から覚醒(めざ)めるかのように。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。

 覚醒めたい。









 ………………お前も覚醒めを望む者か?


はじめまして、蓮飼ななめと申します。この度はお目を通していただき有り難い限りです。この物語は「宇宙の果てより向こう側は一体どうなっているのだろう?」なんて小さな疑問から生まれたものですが、自分のカッコいいと思う要素や魅力的なキャラクター達、個人の価値観なんてものをアツく全力投球していけたらいいなと思います。俺、私もこんな世界に生まれたかった!って思ってもらえるようなトンデモ異世界を構築していきますのでご愛読の程よろしくお願いいたします!

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