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「間違い」と「正解」は――  作者: 六土里杜
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Birds of a feather(GL)

苛め。


人を無視したり馬鹿にしたり、嫌な事をする事を人は【いじめ】と称した。

何処の誰がなんてものはタイムマシンが無い限り分からないだろう。

いじめは無くならない。

誰かがそう言ったのをふと思い出した。

人から人へ、それは感染病の様に広がってしまう。


いじめられる人に原因はあるとも言われる。

それは責任を被害者に押し付けているのではないだろうか。


もし、いじめられている本人に全く原因はなく、ただの気まぐれでいじめが行われいると言うならば、本当にそれは楽しいのだろうか。


加速していき、後先考えず、後悔する程酷くなるのだろうか。

私はそれが疑問だ。

【無関心/Indifference】


 苛め。

人を無視したり馬鹿にしたり、嫌な事をする事を人は【いじめ】と称した。

 何処の誰がなんてものはタイムマシンが無い限り分からないだろう。

 いじめは無くならない。誰かがそう言ったのをふと思い出した。

 人から人へ、それは感染病の様に広がってしまう。


 いじめられる人に原因はあるとも言われる。

それは責任を被害者に押し付けているのではないだろうか。

 もし、いじめられている本人に全く原因はなく、ただの気まぐれでいじめが行われいると言うならば、本当にそれは楽しいのだろうか。

 加速していき、後先考えず、後悔する程酷くなるのだろうか。


 私はそれが疑問だ。


**


 時は高校入学したての5月の上旬。毎日暖かい気候は眠気を誘う春の特権。

 教室から見える大きな桜の木は今日も今日とて咲き誇っている。


 ――ガラッ。


 普通棟にある教室のドアを開ける。白いそのドアは所々傷んでおり、そろそろ新しく設置されるだろう。

 ドアを開けて目の前に映る光景は、いつもの様に桜の木が何かを言いたげに花びらを一枚落とした。

 窓際の後ろの席の人はこの桜の花びらが邪魔そうだけれど、私はこの桜の木は嫌いではない。


「…………」


 教室には沈黙が訪れる。後ろのドアから入ったのだから、全員振り向いているのだ。

 けれどそんな事に気を配られていれば他に手が回らないと、自分自身でも思う。

 さりげなくドアを閉めて全六列のドアからみて三列目の、一番後ろの席に座る為に歩みを進める。


 5月に入って席替えを行ったので出席番号は関係がなくなった。


 机の目の前に着けば、机の上には油性マジックでカラフルに落書きがされているのを目にする。


『ヤクザ親父』

『ヤクザの娘!』

『総長(笑)』

『万引き女!』

『警察行け』

『学校来るな』

『ギャンブル好き』


 赤、青、緑、ピンク、黄色、オレンジ、水色、上から順に左記の色で書かれている。

 ヤクザと言う文字が2回も登場しているのだけれど、事実なので仕方ない。私の父は学生時代、私と同じ歳ぐらいにバイクの免許を取り、走り回っていたという歴史があるのだけれど、父曰く『走り屋』。


 ヤクザと一緒にはして欲しくないと何度か聞いたことがある。

 父との仲は悪くない。


 ヤクザ、ツッパリ、走り屋、暴走族、全て『不良』とまとめてしまえばそうなのだけれど、学校の授業、この場合数学で説明した方が分かりやすいと思う。

 展開、二次関数、因数分解、連立方程式、不等号式、相似、数学とまとめてしまえば全て『数学』である。その『数学』の中の「展開」「二次関数」「因数分解」……なのだ。


 同じ数学でも公式や解き方が違う、それと同じで『不良』と言っても「ヤクザ」と「ツッパリ」じゃ定義が違う。

 私は定義の内容までは知らないのでこの話はここまでとしよう。


 それよりもこの机の落書きをどうやって消すか、はたまた悲しんでいる姿を見たいのだろうかとあたりをぐるりと見渡す。


「それでさー」

「そういえばさ」

「あとさ」


 発した者は全員別人。


 一人はロングの黒髪を束ねる事も無く下ろして、ブレザーを肩から掛けて耳にピアスを空けている、このクラスの女子で一番権力がトップに当たるだろう存在の女子。胸はそんなに大きくなく、シャツのボタンを二つ開けてネックレスを毎日つけている。名前は確か西城さいじょうしなの。


 一人は金髪に染めた髪を後ろで一つで束ね、カーディガンを羽織っている女子。どちらかと言うと巨乳の類に入り、西城派閥この学校では西城閥と呼ばれている、の一員で一員なのに、他の派閥の人と話をする事で有名。名前は名取良子なとりりょうこ


 一人はシャツのボタンを全て開けて、黒のTシャツを着ている男子。見た目は今で言う『不良』なのだが時々見せるドジや、天然発言が不良とは思えないらしい。茶髪で短髪で目はつり目、ベルトに家の鍵らしきものが付けられており、歩く度に鍵が揺れていたりとしている。名前は長谷部公太はせべこうた


 西城は教卓に腰掛け、脚を組みながらクスクスと笑いながら私をチラッと見て、すぐ隣に居る西城閥の女子と視線を合わす。

 名取は前のドアに凭れながらすぐ近くに座っている、男子に話しかけては時々私を見てはスマホを取り出したりとして男子に見せている。

 長谷部は私の二席前の机の上にあぐらを掻いて、周りに三人ほど友人とPSPで何やらゲームをしている。


「誰が書いたの?」


 茶髪で赤色がが多い髪を肩まで伸ばし、特に束ねてもいなく頬杖を付きながら私を見ていた一人の女子に声を掛ける。


 席は窓際の一番後ろ。


「……さぁ、知らない。何処かの誰かが勝手に書いたんじゃない? 興味ないけど」


 冷たく言い放つ。

 その瞬間クスクスと西城が笑うのを聞きながらも、机の上に鞄を置いて腰を下ろす。机の中には何も入れていないので、何もされなかったようだった。


 問いに返答してくれた女子、名前は自己紹介の時に聞いていなかったのだから仕方ない、後で名簿標を見ておこうと決め、心中で礼を述べながらも、机の中に教科書類を入れるのは気が引けたので鞄の中に入れたままで鞄を机の横に掛けた。


「ねぇ、何とか言ったらどうなの?」


 西城が教卓から私に問いかけた。うざったい、という態度というより何も言わないので痺れを切らしたようにも思える。


「油性マジックで書いても重曹で消えると思うよ」


 敢えて何で書いたのや何でそんな事思うの等の事は言わなかった。全て事実という訳ではない。


 万引きは只容姿が似ているだけで、万引きの現場には居合わせたものの、実際私はノートを買いにコンビニまで行き、万引き犯はパチンコ雑誌を服の下に入れて店を出ようとした所で、店員に見つかった。似ていると言っても同じ茶髪で身長的もあまり変化が無いだけで、よく見れば私よりも万引き犯の方が胸はあったり、ウエストがくっきりしていたりした。


 それで万引き女と言われると反論したい部分もあるのだけれど、私が反論したところで意味が無いだろう。それよりも私の返答が気に食わなかったのか、西城は怒りを含めた表情で「そんな事聞いてねぇよ!」と怒鳴った。


 怒鳴る程のものなのかと思いつつも、溜息等は零さず俯いた。そうしている方が西城は喜ぶから。案の定、嬉しそうに声を高くして笑っていた。


「初めからそうしてれば良いのよ」


 西城の声はそれが最後だった。教室に担任の武中亮輔たけなかりょうすけがやって来たのだ。さすがにいじめと呼べるのかは怪しいが、西城には見られたくないと判断したのだろう、ドアに武中のシルエットが映った途端、教卓から飛び降りて自分の席まで何でもない顔で戻った。因みに西城の席は私の右斜め前である。


「お前らそのゲーム好きだな」


 武中は教室に入ってくるなり、長谷部がしているゲームに気付き、気さく話しかける。


「あ、ちょっ……」


 話しかけられて返答しようとしたのか、顔を逸らした隙にモンスターに攻撃を食らい、危うく死に掛ける所だった。


 それでも気を取り直して友人とゲームに集中する。ここまでは何となくだけれど見えていた。

 武中の服はいつも黒スーツでネクタイはしていないけれど、ボタンを開けてシャツをスラックスの中に入れている。

 身長は長身になるのだろうか、見た感じは170前後。

 武中が教卓に名簿を置いた表情を変えた。私に気が付いたのだ。


仲田なかた……。その机、どうしたんだ?」


 当然教卓からでも見える落書き。詳しく見えずとも何かが書かれていることは分かる。

 それが普通ではないことも武中は気が付いたのだろう。

 下に向いていたので顔をゆっくりと上げて前の教卓を見つめる。確かに目の前の武中は『教師』として、私を心配する。

 一人の生徒として私を心配し、一人の生徒として接する。だからなんだという話なのだけれど、教師というのは教師でしかない。

 教師が教師なら生徒も生徒だ。


「いえ別に。特に気にしてませんけど」


 気にしているわけではない。書きたいのなら書けば良いとさえ思っている。書くなら真実だけを書いて欲しいというのが本音だったりする。


 気にしていないから首を振って返答する。

 だけど武中は気にしている気にしていないの問題ではなく、誰が書いたのかという事を尋ねていたと言う事には気が付いていた。


「自分で書いたのか?」

「読んでいた本で同じ事が書かれていたので真似してみただけ――」

「西城さんと名取さんが書いていました」


 私の声を遮って誰かが喋った。聞いたことある声の方を向けば、さっき冷たく言い放った女子だった。


 頬杖を付きながら、本当に興味が無いのだろう、つまらなそうに欠伸をしてはHRまではあと10分あるのを黒板の隣に掛けられている時計を確認して、席を立った。


 何処に行くのだろうかと思っていれば、後ろのドアを開けて右側に歩いて行った。方向的には女子トイレと西多目的教室とその他の教室がある。


「西城、名取、今すぐ職員室に行きなさい」


 武中は2人に命令して、ほぼ無理矢理と言う形で西城と名取と職員室に向かっていった。

 茶髪の女子が戻って来て数分後に、副担任の岡本洋太なかもとようたがやって来て、HRが行われた。


 **


 時は変わって放課後。

 ほとんどが帰宅し、どこかのゲームセンターやスーパー、コンビニでたむろって居る時間帯であると言える。


 私は昼休みに食べなかった昼食を食べる為に普通棟の方に足を向ける。

 片手にコンビニ袋を持ち、もう片手をブレザーのポケットに入れて、肩にスクバを掛け普通棟の階段まで歩いている。


 特別棟と普通棟の間には道があり、その左右には桜の木やその他諸々の木がある。簡単に言えば平原に道を作って校舎を作った、と言った方が早いかもしれない。あの机はすぐに回収されて他の机と交換された。

 私が通っている学校は至ってバカ校である。偏差値は37だった。当然と言えば当然なのだけれど、結構荒れている。校舎も名門私立校と比べるとボロボロだと思う。

 それでも進路の関係でこの学校に来たので、文句を言うわけではないし、入学できただけでも有り難いと言って良いと思う。


 特別棟に図書室があり、その図書室に借りていた本を返す為に行き、帰り道に鞄からコンビニ袋を取り出して歩いていると言うことになる。


 昼休みに食べれば良いだろうと言われればそれまでなのだが、何かを食べる時ぐらいはゆったりとした気分で食べていたいので、放課後、誰も居ない教室で食べる事にしている。

 家に帰ってからでも良いのだけれど、帰る道中西城や名取に出くわすのが嫌なので、極力放課後学校で食べるようにしている。


 普通棟に着き、自分のクラスの前に着いてドアを開ける。特に変化は無く机も交換してから落書きされる事は無くドアを閉めて、自分の席に着く。


 赤く染まった光が教室の三分の一を占めていて、時々桜の花びらが風で舞っているのを見つめながら足をクロスさせる。

 鞄を下ろしてイスに座り、コンビニ袋からガサガサと音を立てながら、メロンパンと抹茶オレを取り出した所でドアに人影が映った。

 確か西城や名取は早退をさせられていたはず、と思いつつもベリッ、とメロンパンの封を開けて紙パックの封を開け、透明のストローを差していた。


 ガラッ、と音がすると「あっ……」と言う声が聞こえた。


「忘れ物でもした?」


 姿は見えないけどメロンパンを咥えながら尋ねた。前を見ていれば姿は見えないな、と誰にでもなく呟きメロンパンを飲み込み抹茶オレを飲む。

 右側からドアが閉められるのを聞きながら、遅めの昼食を口に運ぶ。


「お手洗い行ってた」


 その冷たさからあぁ、あの子かと思いつつもメロンパンを食べながら「何で朝、西城さんと名取さんだって言ったの?」と礼も言わずに尋ねた。


 名前が分からないのでどうとも表す事ができないので、ここでは一応女子と称しておく。

 女子は自分の席に向かって歩いて行き、机の隣に掛けてある鞄を取って「興味ないって言った」と返答した。

 表情は見えないけれど、会話が成り立っていない雰囲気なので「興味ないなら普通は言わないと思うけど」と、苦笑いを浮かべた。


「落書きされていた事にも、落書きをしていた事にも興味がないけど、あのままダラダラとした時間が続くのは嫌だったから言っただけ」


 よいしょ、と言って女子は机に座ったのを横目で見た。行儀が悪いけれどそんな事を言っても仕方ないと思う。


「帰らないの?」

「帰って欲しいって事?」


 質問を質問で返される。頬杖を付いて話しているんだろうなと思いながらも、少し気まずさを覚えて抹茶オレを飲む。

 少しでも気が紛れたら良いなと思ったのだけれど気は紛れない。


「家何処?」


 初めて女子が話しかけてきたと思う。急な事に驚きつつもストローから口を離して「丹神橋にしんばし市」と答えた。


「同じ所に住んでるんだ。俺も丹神橋」


 一瞬「俺」と聞こえて女子の方に向く。

 確かに見た目は女の子、紺色のブレザーを身に纏って、チェックのスカートを穿いて、黒のハイソックスを穿いて、緑色のスリッパを履いている女の子。


「……一緒に帰って良い?」


 不意に尋ねられた。多分、初めてだと思う。

 誰かに「一緒に帰っても良い」と聞かれるのは小学校以来だと思う。


「良い、けど……」


 どうなっても知らないよ、と言いたかった私の表情を読み取ったのか、顔にそう書いていたのか私には判断できる事ではないけれど、気を遣ったのか「西城さんと名取さんは「古川ふるかわ市だった」と言った。


 だった、と言う言い方に違和感を覚えたので首を傾げながら「だった?」と尋ねると「クラス発表の時に名前の横に中学校の名前と住んでいる市が書かれてた」と答えた。


「知ってて、私の住んでるとこ聞いたんだ」


 ムッとした。


 知っているなら聞かなくても良いと思いながら、最後の一口のメロンパンと、抹茶オレを口に入れて流し込んだ。

 席から立ち上がり、コンビニ袋に空になった袋と、紙パックを入れてゴミ箱にコンビニ袋を捨てる。


「俺の記憶が正しいかなんて俺だって分からないから、確認した」


 机から飛び降りて、鞄を持って私の目の前に立つ。と言っても教卓から私の席までの距離はあるけれど。


「で、一緒に帰っても良い?」


 再度同じ質問をされて、両手にポケットに入れて「名前、教えてくれたら……」と俯いた。今度はワザとではなく、どうしようもなく恥ずかしさを覚えたから。


西東さいとうちあき。そっちは?」

「仲田ちとせ」


 互いに自己紹介をして暫く沈黙が続くも、ちあきが口を開いた。


「帰ろうか」


 私は頷いて、席に戻って鞄を持ち、真っ赤な教室を後にした。

 ちなみに私が人の名前を「さん」も「君」も「先生」も付けていないのは、特に理由はないが敢えて理由を付けるとするなら慣れないから。



『5月上旬。


 今日一番嬉しいと感じたのは、図々しいかも知れないが、ちあきが私を庇った事でもなく、単純に一緒に帰って良いかと聞いてくれた事です。』

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