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真の強者


「今日はここで睡眠を取ろう、散策は無しで」


 俺は町が近くなって来た事もあり、警戒をする為と、今が夜な事を懸念して提案した。


「なんでだ? 町があるんだろ? そっちで寝た方がいいんじゃないか?」


 エミールは町があるなら早く行こうぜと言い。


「知らない町に夜に入って行って、どこで寝るって言うのよ」


 ジェニは俺と同じ思いだったらしく、注意してくれた。


「まったく、お馬鹿さんなんだから」


 ミラは何故かそわそわしながら、ジェニの言葉に乗っかった。


「ミラ、お前分かって無かった癖に何言ってんだ?」


「どうして分かったのよう」


 と、エミールはミラのそわそわしていた理由を言い当て話を始めたので、ジェニに目配せをして俺達は二人で先に寝かせて貰った。


「あ、いつの間にか寝てる、ずっりぃぞ~」


 そんなエミールの声が聞こえてきたがもう寝ているふりをして、俺は眠りに落ちた。


「エル、ねぇエルっ起きて」と、ミラの声で目を覚ますと、


 魔物の大群が、遠目に俺達の進行方向へ向かっている最中だった。明るくなって来ていたからか、町もしっかりと確認できた。


「な……なに……が起こっている……」


 魔物のレベルを確認すると150レベル、遠いからはっきりとは言えないが結構な大きさだ、3メートルは超えている。数はぱっと見、千体以上はいるだろう。


「分かんないよう。いきなり地響きがして来たと思ったらあれが見えて来て、やばいと思って、起こしたの。」


 ジェニはもう起きていて、その光景に唖然としていた。


「取り合えず逃げるぞ。目視で見えてるなんて近すぎる。一匹だって相手できないんだからな。」


 と、言うと、全員の視線が集まり、頷いた。


 俺達は、一先ず町から見て魔物の反対側にある小さな山の山道を駆け上がり、山頂付近にある崖を目指した。そこからなら群れの進攻を伺える。それ次第では別の国境を目指さなくてはならないだろう。だが、その前に問題が発生した。山道を上がったは良い物の、ここに生息する魔物が何か分からないからだ。


「せめて、一匹でもレベルが把握出来れば、進めるんだけどな」


 少しだけ山道をそれ山を登りながら慎重に索敵をしつつ上がって行くと。


「いたっ、88レベル、ど、どうしよう」


「逃げるに決まってる、急げ」


 俺達は身を潜め、山道に出て、さらに駆け上がる。


「またかよ。くっそう、強くなりてーなぁ」


「そうだな、煩わしいったらない」


 そんな愚痴をこぼしながら登って行くと、若干視界は悪い物の山道からでも国境が見渡せる場所に出た。


「ねぇ、お兄、こっちのが早いし、正解だったんじゃない?」


「ああ、助かった。これで、一応確認は出来る」


 そして、俺達は驚愕した。今この時に、町が魔物の進攻で壊されている。そんなさなかであった。


「ヤダ、ダメだよ……」


「こりゃ、無理だな。終わったわ」


「お兄、どう、しようか」


「もう少し……いや、最後まで見よう、力の無い俺達は此処から見るだけしか出来ない……だけど、俺達はあの国境を越えなければならない」


 あまりに凄惨な状況を見せつけられ、俺達は絶句した。


「ここからだと、家すらはっきり見えないのが救いだな」


 と、エミールがこぼし、俺達はさらに沈黙した。そう、ぎりぎり魔物が動いているのは把握できるが、人を確認するのは厳しい、そんな距離だったのだ。そして、ミラが呟いた。


「あれ、あそこ、魔物が倒れて行ってない?」


 そう、ミラが指を差した方向を皆が見つめ、それぞれに口を開く。


「マジだ、なんだあれ、くっそ、遠くて良く見えねぇ」


「私、少しは見えるけど、一人しかいない様に見えるんだけど」


 ジェニは必死に目を凝らしながら、ミラが指を差す方向を見つめている。


「まさか。見間違いだろ? 150レベルの大群だぞ、英雄クラスじゃ無いか」


 と、言いながらも、俺達は胸が熱くなり、少しづつ口数が増えて行った。


「なぁ、エル、俺達も行かないか?」


 エミールがいつもの、ノリだけで、行動しようと言い出した。


「何しに?」


 俺の代わりに珍しくミラが答えてくれた。


「……くっそう、どうして俺は……いつも何も出来ないんだ。」


「あそこに入って行くには、せめて160は欲しい所だな、せめて格下じゃ無いとあの数は厳しいだろう。」


 俺はいつもなら、当たり前すぎて言わない事を、こぶしを握り締めながら口走っていた。


 そして、大惨事を見つめながら、時間が過ぎて行き、騒動が収まった。


 俺達は、自然と体が動き、国境の町に向かって走り出した。そして、1時間ほどでたどり着き、めちゃくちゃにされた町中を見回しながら、小走りして魔物が倒れて行っていた広間へと足を進めた。


「すげぇ……これ全部倒したのか……」


 そう、エミールが口走ると、他の野次馬が興奮したように語って来た。


「ああ、ああ、そうだ! 我らの王、アルテミシア様がお一人でだ! もうダメだと皆が思っていたのにいきなり転移で現れて……あのお方とすれ違うだけで魔物すべてが一瞬で倒れたんだ。我らの王は英雄だったんだ!」


 そう語り、胸を書き抱くように泣いていた。俺達ですら胸が熱くなったのだ、当事者であり殺されかかっていた者達には、凄まじい恐怖からの絶対的な希望だったのだろう。その心情を考えていると、つい俺は口走ってしまった。


「もはや、神だな」


 俺は、誉め言葉として言った訳では無い、ただ、周りにいる者すべてが圧倒的な崇拝をしているのが見て取れてしまったから、つい口走ってしまっただけなのだ。


「そうだな。少年、よく言った! 間違いない、あのお方は神だ! アルテミシア様ぁぁ」


 と、泣いて熱く語って来た者が、立ち上がり大声で俺の言葉を言い直したのだ。すると、多くの人間がその言葉に賛同し、『そうだ! 我らの王は神だったのだ』と叫ぶ始末、そんな事態を引き起こしてしまった事に後悔をしていると、一人の女性が突如俺の隣に現れ、頭をぽんっと叩いた。


「こらっ、少年、私は神では無いよ。もう、君のせいで皆が変な事を言い出しちゃったじゃ無いか」


 20代、いや、30代くらいだろうか、年齢が読みにくい程、整った顔立ちの女性が、この国の王、アルテミシアだとしか、取れない発言をして、俺の頭に手を乗せ、立っている。


 ジェニ、ミラ、エミールはぽかーと口を開けて、ただ突っ立っていた。


「ええ? あの、僕たちは売り物にされないために国境を超えに来ただけで、そんなつもりは……」


 俺は、あまりの予想外の事態に、自分がしようとしていた事を聞かれても居ないのに話してしまった。


「はぁ、そっか、散々言って聞かせてるんだけどね。いつになったらその風習は無くなるのかな。分かった、少年、どうせ金は無いだろ? 私が連れて行ってやる。ほら、連れのお前たちも来い」


 そう、おそらくはアルテミシア王であると思われる女性が、俺達を連れ、関所の門を開かせた。


「お前たち、ここまで来れたって事はある程度のレベルはあるんだよね?」


 と、そうアルテミシア王に尋ねられた。


「は、はい、いえ、まだ60レベルしかありません」


「うん、子供にしちゃ上等上等、まあフェルみたいのと比べれば……いや、異常と比べちゃいけないな」


 と、彼女はふっと笑い、門の手前で止まり頷いた。


「そ、それってもしかして、フェ、フェルディナンド様の事でしょうか?」


 ジェニがどうしても黙って居られなかったらしく恐縮しながらも声を上げる。


「ん。そうだけど、ファンなの?知り合いって事は無いよね?」


「ファ、ファンです」


 力一杯に叫ぶようにジェニは言った。


「はは、そうか、じゃあ一つだけ教えてあげる。あいつのイメージ魔法は、半端じゃ無かったよ、350レベルで700レベル位の動きを出来る程にね」


「な、700……」


 ジェニだけでなく俺達も驚愕し茫然としていると、彼女は会話を終わらせた。


「まあ、これはたまたま運が良かったと思って忘れなさい。頑張りなさい少年」


 言外にこれ以上の手助けをしない事を、そして行けと告げられた。


「わ、私は忘れません。あのお方はイメージ魔法をお使いになったのですね」


 ジェニはとても興奮した様に、戦った事があると言われるアルテミシア王を見つめた。


「ああ、そっち? うん、そっちはいいよ、覚えていても」


 俺は、本当に通っていいのだろうか? と思いながらも、気まぐれが終わってしまわないうちにと思い、立ち去ろうとした。


「あの、ありがとうございました」


 そう言って頭を下げながら、俺は今日、この人族の国アルテミシアを出た。


 そして、国境の町ローレンに、たどり着いた。正確にはもう入っていたのだが……この町は三大大国である、アルテミシア、オルセン、ミルフォード、をまたいで存在している。簡単に言うとウィシュタルの様な町が三つくっついて存在している状況だ、町中に国境がある為、同じ名前の町でも別物なのだろうが。


 俺達は、アルテミシア王の計らいで無料で国境を超えられた為、ある程度お金に余裕が出来た。そして情報を集めようと、聞き込みを始めた。


「あのう、すみません。ここら辺の地理についてお尋ねしたいのですが」


 と、俺は暇そうにしている通行人に尋ねた。


「おお、お前たち向こう側から来たよな? どうなっているんだ? 大騒ぎだった上に封鎖されてたんだが……」


「あ、はい、では情報交換をしませんか?」


「ああ、良いぜ。何があったんだ?」


「はい、魔物の群れに襲われました。ここら辺の魔物の生息レベルをお聞きしたいのですが」


「ん?ああ、人族の国には無いんだったな。ギルド行けば大銅貨一枚で情報なんて見放題だぞ。地図の場合は大銀貨一枚かかるが、それでどうなったんだ?」


 ん?ああ、そうか、こっちは冒険者って職業があるんだよな。うちの国は全部、領主が魔物関連は請け負っていたから、戦える者はいても、そういう場所ってなかったんだよな。


「ええと、魔物の群れの数は1000以上。ギルドの場所教えて貰えます?」


「まどろっこしいな、まず聞いてくれ。ギルドの場所はあそこだ、あの上に剣のマークが掲げてある、どの町でもこの国ならあのマークで統一されている」


 ……危機感が薄く無いか? 情報は金だろう? 仲間でもあるまいし。まあ、こっちが損しないならいいか。


「お金を稼げると聞きましたが、50レベル程でも受けれる仕事ってありますか?」


「ああ~、ねーな。せめて90レベルは行かないと厳しいぜ? 50レベルやそこらじゃ、あっても銀貨2枚とかだから肉体労働した方が得だぜ?」


 なんて、夢の無い職業だ。大人のレベルでも稼げないのか。


「そうですか、ではこちらの情報ですが、150レベルの魔物の群れが町の4割ほどを破壊した所で国王アルテミシア様が到着し、お一人で討伐されました。あっちではもう大騒ぎですよ」


「本当か!? それは凄いな、アルテミシア様ってそんなに強かったのか?」


 と、彼が言った所でジェニが耐え切れず口を開いた。


「かの大英雄と戦った話を知らないんですか? あなたは!」


「ん? あんなのおとぎ話だろう?」


 そう、言った瞬間ジェニがキレかかったのを感じて、俺は間に入り話を変えた。


「この町で宿を取ると、いくら位掛かりますかね?」


「ん~、あそこのぼろいので良いなら、一部屋、銀貨3枚で泊まれるぞ。なんも出ねーがな」


 なるほど、思ったよりは安いな、そういう場所を進めてくれたんだろう。


「ありがとうございました。そちらの質問はもうよろしいですか? 知ってる事大体お話しましたが」


「ああ、有意義だったぜ、がんばれよ、少年少女」


 と、俺達は通行人と会話を終え、ギルドを目指した。


「なあ、もしかして今日は部屋で寝れんのか?」


 そう、エミールが食いついて来た。


「一部屋で銀貨三枚ならありだが、ギルドで情報を得て、金が無くても生活出来る事を確定させてから色々と決めよう。金が無くなる前なら稼げなくても代案をだせるだろう?」


「はぁ、エルと一緒で本当に良かった。私じゃどうして良いかも分からないよ」


 確かに、ミラじゃ不安だな。


「確かに、お兄はそこら辺ウェズ兄みたいだからなぁ。私なら取り合えず使う。まあそれでも生活は出来る自信はあるけど」


 ジェニなら、生き残る事は出来るだろうな。何だかんだ頭良いし。


「そうだな、エルが居なかったらミラも妹ちゃんも売られてただろうし、俺も一人で今以上に何も出来なかっただろうからなぁ」


 俺は、その言葉を言われようやく実感を得た、もうジェニは売られなくて済むのだと。だが、同時にこれからはどうするんだ? と言う疑問が浮かんだ。俺はウェズ兄さんを見て思っていた。俺達にも作れるんだろうか、こんな居場所を、と。だが、その為に何をどうしていいのかが分からない。


「取り合えず、ギルドに行って見ようか」


 そう言って、思考を止め、俺達はギルドに入って行った。


 入ってみると、人だかりが出来ている掲示板、カウンターに並んでいる女性、その手前のテーブルには値札が付いている地図や情報が載っているであろう書物がならんでいた。そして、真ん中の仕切りを挟んで飲食店の様な場所があり、いい匂いをさせていた。


 まず、俺はカウンターに行き、質問を投げかけた。


「俺達は、さっき人族の町から来たんですが、俺達もここで依頼を受ける事は可能でしょうか?」


「登録をして頂ければ可能です。レベルが20以上、登録料で大銅貨一枚、掛かります。先にお断りさせて頂きますが、依頼毎にレベル指定がございます。自分より上のレベルの依頼は受けられませんのであしからず」


 そうギルド職員の女性は答えてくれた。


「ねぇここに並んでるのって、登録しなくも買えるの?」


 と、ミラが聞いた。確かに、今のレベルで稼げないのなら、地図や情報だけを買った方が得だ。


「ええ、もちろんです。商人の方や御者の方もよく買いに来られますよ、お嬢さん」


 そう言われたミラはもじもじしながら俺の後ろに隠れた。何か言ってからにしろよ……


「そうですか、それは助かります。まだ平均50程度なので、もう少し上げてから登録させて頂こうかと思います」


「そうですか、お若いのに良く知っていますね、説明が省けて助かります」


 と、ギルド職員の女性は、50程度じゃ稼げない事を、知っていた事に安心した様だ。


「では、ここら辺の周辺、えっと一日以内に行ける場所までの生息レベルが乗っている地図、を頂けませんか?」


「ええと、範囲の狭い地図はありませんので、こちらになります。大銀貨一枚になりますが、オルセン全体の地図と、各町や村、街道、全域の魔物生息レベル、がすべて記されております」


 俺は感動した。ここまで事細かに記されている地図を見たのは初めてだったのだ。ウィシュタルの町でも地図は売っていたが、大銀貨三枚でもこれほどの物は無かった。これがあればもう他の情報は無くてもどうにかなってしまう。と、俺は金貨一枚を差し出しお釣りを貰った。


「では、これを頂きます。あと、魔物の種類、食べられるか否かを知りたいのですが。その情報はおいくらでしょうか?」


「ああ、それでしたら、登録をして頂ければ無料で見られますよ?」


 と、言われたが俺は不安に駆られ質問をした。


「登録をすると、出来なくなる事はありますか?」


「いえ、特には、そうですね、意味合い的にはこの場所を利用する為の証でしょうか。注意点は証を無くしたら再発行に同額が掛かる事、犯罪を犯して取り上げられた者は償うまで再度利用が出来ない事位ですね」


 その言葉を聞き、一応は安心をした俺達は登録をした。俺だけでも良かったが、エミールが登録をしたがった為、値は安いし皆でする事になった。ステータスの確認後に名前入りのプレートを貰い、俺達は魔物の種別をチェックしてギルドを後にした。


「なぁ、早速行こうぜ。あれだけ前もって情報を貰えば余裕だろ? 俺だってこれならって思ったぜ?」


 確かに、凄かった。攻撃手段から、移動速度、群れる平均数、そして安全を見越した討伐可能レベルまで書き込んであったのだ。俺は不思議でしょうがなかった。こんな情報を大銅貨一枚で見放題なんて、と。


「疲れて無いか? もう割といい時間だけど」


 俺達は早朝から山を登ったり、凄惨な状況を緊張しながら何時間か見張り、山を駆け下りた。そんなこんなで今はもう13時過ぎだろうか? 移動時間を含めると結構いい時間なのだ。それに何よりミラ、エミールは寝ていないのだが。


「お兄、私、行きたい」


「うん、私も、強くなりたい」


 と、あの熱がまだ収まっていないのだろうか? 満場一致で俺達は狩りに向かう事になった。そして、エミールのレベルを考えた上で、一番近いブルーフェレットと言う青白く細長い体躯の平均45レベルの魔物の狩場に向かい、俺達はレベル上げを行った。そして、すぐに日は落ちて、そろそろ止めようかと言う雰囲気になって来た頃。


「ねぇお兄、これからどうする? すぐに王都に向かっちゃう?」


 そう、俺達の目的は一応もう一度、ルクレーシャさんに会いに行く、その位しか無いのだ。


「そうだな、無理に金を使う必要も、稼ぐ必要も無いな。このままレベルを上げながら、王都でも目指すか」


「おお、レベルを上げるのは賛成だぜ、宿は惜しいけど」


「でもさ~、せめて体拭きたいよね、川とかないのぉ?」


 ミラだけはちょっと不満気だ。確かに俺達の格好は不衛生すぎる。ウィシュタルでは浮かなかったがこの町ローレンでは、少し目立ってしまう汚さだ。


「そうだな、宿とか取らない代わりに服を買って、川で身ぎれいにするか。ここはまだローレンに近いし」


「やったぁ、お兄ありがと、賛成! 賛成!」


「流石は私のご主人様、気前がいいねぇ」


 ミラとジェニはテンションが上がる程、喜んでいる。


「俺とジェニに関しては、服じゃなくて布だしな……」


 と、俺は、装備を付けているおかげでまだマシに見えるこの格好を指し、嘆いた。


 そうして町に戻り、一番安いと言われる呉服屋を見つけ出した俺達は思い思いに服を選び、地図に従い川が流れている場所にたどり着き、今までの服で体を洗い着替えた後、先ほどの狩場で取った魔物を焼き食事にした。


「ぐぬ、これ、不味くね?」


「そうね、これは……不味いわね……」


「うん、食欲沸かない」


 と、食べられなくは無い物の、お腹が減っていても食べたく無い程美味しくない物を嘆きながら、食事を終え、俺達は後退で眠りについた。最近エミールとペアで見張りをする様になった。


 それから俺達は、狩場を卒業するごとに、王都への方角へ進んでいった。




 そして二か月が経った頃、ジェニがぼやいた。


「お兄、ここ、ミルフォードとの国境線よね? 私達王都目指してるんじゃ?」


 そう、レベルを上げると同時に食べられる魔物の狩場、と言う縛りを守ると、こうするしか無かったのだ。最近はレベルも上がりづらくなって来ており、一つの狩場で1週間以上は狩りをしないと次の狩場には行けなかった。いや、最近は二週間こもってようやく、だろうか。もう96レベルだしな。


「ああ、平均レベルが合う狩場をたどって行ったらこうなった」


「あちゃーもしかして、エル迷子になっちゃった?」


 俺はミラにチョップをかまそうと、近づいて行くと、エミールが口を開く。


「いや、地図があって場所がわかってるんだろ? エルがそんなの分からねーわけねーだろ」


 最近、見張りの時に色々話をしているせいか、エミールは俺の事を良く分かってきている様だ。


「あいたっ、叩かなくても、いいじゃないのよう」


 俺はミラにチョップをかまして、これからを考えていた。


「ここからどうするかなぁ。虫系統だと食べられる魔物は少ないし、嫌だろう? ここの魔物はうまいし処理を多めにやって燻製にでもして、あまり狩りをせずに王都に向かっちゃうか?」


「そうね、じゃあミラとエミールで狩りして来なさいよ、そうすれば、レベルも少しは追いつくでしょう?」


 そう、俺とジェニは普通に狩りをしていると、討伐数が多くなってしまうのだ。俺は元々レベルが高いからその流れでだが、ジェニは……才能だな。俺が守る必要は無いんじゃないかと最近思う。


 やはり、どんくさいミラと出だしのレベルが低かったエミールは、どうしても討伐数が落ちてしまう。


「おお、そうだな。よし、行くぞミラ」


「あいよ、しょうがない、手助けしてあげる」


「なんだとぉーミラの癖にぃ」


 二人はじゃれ合いながら森に戻って行った。


「さて、俺達はどうしようか。なんか二人になるのは久々だな」


「あ~そうね、そうかも、考えてみたらやる事ないね」


 と、手持無沙汰になった俺達は、国境の壁沿いに通っている街道の脇で、大きな石を椅子代わりに、昔話をぽつぽつと、雑談をしていた。


「あの人、何してるかなぁ」


「気になるのか?俺はもう、気にならなくなったが」


「うーん、まあ、少しだけね。だけど、後悔だけは絶対にしない、何度繰り返してもあの家は出る」


「ああ、俺もだよ」


 と、俺達は手を握りながら、未だに残る恐怖を少しずつ乗り越えようとしていた。


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