怒る人、必死な人、残念な人?
俺達は通信魔道具を通した対談が終了した状態のまま、これからの作戦を考える事にした。
「さて、これでやっと心置きなくあいつを探し始める事が出来るな」
「そうね。アカネの気持ち次第でこの国でも暮らせる事になったのは大きいわね。」
ケイがそう言ってアカネに微笑む、アカネは頭を掻いている。未だに心が決まっていないのだろう。何にせよ、取り合えずは女神を探し出さないとだな。
「そう言えばよ。何でミラはこんなに大人しいんだ?」
エミールは未だに縮こまっているミラを見て、そう口にした。
「べ、別に大人しくないもん。普通だもん」
「あ~、ミラちゃんは思った事が口に出ちゃうからアカネちゃんに不快な思いをさせるのが怖いんだよ」
アイリがミラの気持ちを代弁すると、アカネが立ち上がってミラの近くに座り直した。
「ごめんね。私魔力が大きすぎるから精神を圧迫させちゃうんだよね。ミラちゃんは感知が上手いんだね。なるべく隠してるんだけど。ミラちゃんが不名誉を解消しておこうかな。皆、引かないでね。」
そう言って、アカネはまるで体の周りに黒い靄が掛かって見える位に魔力を解放させた。そしてすぐ魔力を体の中にしまい込んだ。その場にいる全員が息をのみ、言葉を発せない状況に陥っている様だ。それを見たアカネは少し落ち込んでいる。
「凄いなそれ、どうやるんだ?」
だが、そんな空気を無視して俺は思わずちょっとカッコイイと思ってしまい。やり方を聞いて見た。
「え? いや、君の方が魔力大きいからね? 倍くらいあるからね? 普通にしてたら勝手に出ちゃうでしょ?」
「あ~、出ない原因分かったかも。転生時に女神に魔力感知と魔力操作の多分最高峰のスキル貰ってるから。勝手に制御しちゃうんだと思う。あ、アカネは何を貰ったんだ? 不死以外で」
「あ~、身体能力とこの美貌?」
「ふんっ、やっぱりそれは作り物か、羨ましい。ってそれだけ?」
「羨ましいってキミはもう相手が居るじゃない……それだけって、貴方はもっと貰ってるの?」
「ああ、言語理解と、身体能力、後はスキルと魔法を経験値消費して覚えられる様にして貰った。今はもう生まれ変わってるから使えないけどな」
「何それ。多くない? ああ、余計に腹立ってきた」
「あ~それは多分あれだな。あいつは死んで復活したてだったのと、あの真っ白な空間でも割と言葉攻めしてたからかも。」
「言葉攻めって……」
「いや、夢だと思ってたんだよ。いきなりあんな空間に連れてかれても分からないだろ。そんな場所で馬鹿みたいな事言われたらちょっと虐めてやろうとか思うじゃ無いか」
「まあね。まあ、それは良いとして、探すのはどうやるの?」
アカネがそう言うと、復活していたアイリとジェニがこちらに視線を送った。
「あ~、あいつの事だからきっと縁を作ってるはず。もう会ってると思うわよ」
「うん、私もそう思うよ。ローズさんとか違う?」
二人とも近くに居ると思っている様だ。俺もそう思う。だが、ローズは違うと思うなぁ。
「私ですか? 名前を呼ばれたら分かるんですよね? と言うか、虐められると聞いた以上怖いです」
ローズは久々にきりっとした表情を崩し、純粋に怯えている。それを見たエミールが立ち上がり、ローズの前に立つ。
「はいはい、お似合いなのは分かってるから。でも、ローズじゃ無いよ。リーアミール!」
俺は、皆に信じさせる為、一応名前を呼んだ。
「ホントだ、何とも無さそうだね。ローズちゃん」
「やっと復活したか。ミラ、アカネは俺よりは弱いし俺よりも優しいぞ? 多分力加減も俺よりうまい」
「……手加減されてたんじゃ無いの? エルは強いけど、そこまでじゃ無いよ」
俺はミラにそう言われて、確かに否定できないかもと思った。アカネは素手でしかも単純に体術の攻撃しかしていない。恐る恐るアカネに視線を向けた。
「あはは、まあね? あの時の私はあれが全力だった。だって私剣士だし? 奥の手はあるけど剣ありきだしね。まあ、エルバートの剣を借りれたら私が最強だろうね。純正オリハルコンの上に名刀過ぎるよ」
「うん、英雄の剣なの!」
アイリが嬉しそうに彼女の話に乗っかったが俺は少し笑えなかった。ちゃんとした剣を手に入れたアカネと戦う事になったらもしかして俺勝てないのかも。
「よし、同じ剣持たせて模擬戦やってみろよ。見てるだけで楽しそうだ」
「あ、本当? 私も久々に剣握りたい。打ち合える相手なんていなかったから持ってなかったんだよね。そのせいで次代の勇者には負けちゃったし。無くても勝てると思ったんだよなぁ……浅はかだった」
ぐぬ、こいつら、好きかって言いやがって。
「お前らな! 自分はやらなくて済むとか、不死身だからとか、気楽な立場だからって適当言いやがって。ふざけんなよ。俺だって危険な思いは嫌なんだよ!後負けるのもヤダ」
「……最後のが本音ね。自信無いの?」
「ジェニ、それ以上は言うな。それよりリーア探すんだろ!提案無いのかよ」
「あるわよ。だから言ったじゃない。多分縁作ってるって。取り合えず村に居るすべての人間対象で同年代の子集めるわよ。それがスカったらどうしたら良いか分かんないけど」
ああ、そうか。ん? 俺は何か忘れてる気がする。姉さん関係で何かあった様な……
「あれ? ちょっと待った。今考えるから」
何か引っかかるな。ええと姉さん……ルディ……は関係ないか。えっと、あ! グラディスの奴隷だった子。確かあの子の名前リアだったよな。いや、まさかね。今回も同じような名前付けさせてるとは限らないし。
あ、でもそうっぽい気がして来た。
「ラティーシャさんにさ、グラディスの元奴隷のリアって子連れて来てって行って貰える?」
「あんた、そんな怪しい名前知ってたんならすぐ思い出しなさいよ」
「ジェニ……もうあんたって呼ぶの止めないか? 懐かしいけどなんかヤダ」
そんな緩いやり取りをしていたが、俺が当りを付けた瞬間アカネの表情が一変した。アカネの隣に座っていたミラが驚かされて緊張した様に立ち上がり『私呼んで来る』と言って走って出て行った。
そしてすぐにラティーシャさんが入って来て『お連れしました』とその子を置いて出て行った。
「えっと、もしこの子だったとしても速攻でミンチとか止めてくれよ」
「分かった。気を付ける」
そう、気を付けないといけない事なのね。把握した。リアと言う少女はこちらを見て、情況が分からないが不穏な事を感じ取ったのか緊張した面持ちで問いかけて来た。
「あのう、何か粗相をしてしまったのでしょうか?」
「リーアミール・アードレイ」
そう、女神の名前を前世で使っていた性と一緒に呼んでみた。……ビンゴだった。彼女はうめき声を上げた後、口を尖らせて言う。
「何で私が最後なのよ。馬鹿じゃ無いの」
女神リーアがそう言った瞬間、アカネが瞬間移動の様に動き、ボディブローをかました。レベル差が800近いだけはあり、リーアは吹き飛ばず、お腹に穴が開いた。
不思議な光景だった。アカネは突き抜ける程腕を伸ばした訳では無い。お腹に当たった瞬間腕を止めたはずなのだ。何故か小さな爆発でも起こったかの様に穴が開いた。
「フルヒーリング……」
俺は、ある程度予測はしていた。だからとっさに回復させたが、そこから声が出ずに絶句してしまった。
「な、何で……私お腹吹き飛ばされた訳?」
リーアが服が破け飛んでいるお腹を押さえ、青い顔をしてへたり込みながら問う。しばらく絶句していたが、俺はアカネを後ろから抱き留めて、取り合えず話し合いからスタートする事に決めた。
「エルバート、大丈夫だから」
「うん、気を付けてもダメだっただろ。取り合えず、今だけはこの状態で我慢しろ」
「分かった。私の名前はアカネ・ヨシノ。まだ思い出せない?」
「誰よ。会った事も無いわ。いきなり殺そうとするとかどういう事? あんた馬鹿じゃ無いの?」
リーアがそう言った瞬間俺の体が引きずられ、アカネはリーアに顔を寄せた。
「馬鹿、フェル、ちゃんと抑えてなさいよ! これは命令よ! 女神の! 女神の!」
「黙れこのあほ! 正直お前は死んでも女神に戻るだけだからどうでも良いんだよ! このまま相手に分からせないままじゃアカネが可哀そうだから止めてんだよ。このあほ!」
そう、数百年探し続けてこれで終わりじゃ割り切れないだろう。まあいくらやっても完全にスッキリする事なんて無いんだけど。それでもこれはあんまりだ。
「あほって言ったわね! 許さないわ。二回も言ったわね。あほはあんたよ、あほ!」
ああ、この女神のダメっぷり懐かしい。懐かしいが、今は黙れよこの馬鹿ぁぁ。
「アカネ、今のやり取りだけでも分かるだろう。こいつはこの位あほなんだ。分からせるまでに時間が掛かる頑張って耐えてくれ」
「エルバート、もういいよ。このまま終わらそう。こんなあほに貶められたとか屈辱過ぎるよ」
アカネは体からまた黒い靄が吹き出し、その靄からか殺気を物凄く感じる。なんて言ったらよいのか。
物理的に殺気を感じるとでも言えばいいのだろうか……とにかく、止めねば。
「気持ちは分かる。が、もう少しアカネには満足して欲しいんだよ。気持ち切り替えて新しい幸せを探すとか出来る位には」
「……口説いてるの? もうこんなに一杯可愛い彼女が居るのに?」
あれ? 可笑しいぞ? 何故殺気を纏ったままこっち向くの? 止めてね。
「待て、幸せってそう言う事だけじゃ無いだろうがっ! 俺に飛び火させるなよ。本気で怖いんだからな、俺の嫁さん達は……後アカネも」
「……ありがと、少し落ち着いた。うん、これからは発言に気を付けるよ」
アカネは何とか殺気と魔力を収めた。そして俺はこれからこのあほ女神に自分のした事を説明してやらねばならない。なるべくアカネを刺激しない様に。なんて無理ゲ?なので視界に収まる様にはして、出来る限り遠ざけて、小声で話した。
良かったよ、此処が広くて。そうそう、言葉が聞こえなければ良いんだ。
「リーア、この人はお前が勇者に殺される前の時代に転生させた日本人だ。要するに俺の同郷だな」
「馬鹿なの? 人はそんなに長く生きれないのよ。私くらい高貴な存在で無きゃ無理よ」
「だから昔のお前が能力で不死を与えたんだと。後身体強化系と容姿も弄ったらしい。どうやったかは知らんが俺とは違って転生じゃ無くて転移っぽいな」
「ふーん。それで?」
やっべぇこいつ殴りてぇ。そう思った俺は既に殴っていた顔面を。ちゃんと手加減はしたが。
「いだ、い゛だいよぉ。何であんたまで殴るのよぉ。じんじてだのに……」
女神、リーアミールは四つん這いになり無様に泣き出した。
「ちゃんと聞かないともう一度殴るし回復もしないからな」
俺は、リーアにそう告げて、アカネから聞いた話を全て伝えた。
「って訳だ。俺の時も同じ事してたし。俺は許したが、アカネにはお前に仕返しする権利があると思ってる。申し開きはあるか?」
「ぐすっ、それについては悪いとは思うわよ。けど、私死んでるから記憶が無いもん。やった覚えも無いのに償えとか言われたって嫌に決まってるじゃない」
「そうだよなぁ。それも分かるが、やられた方はそんな事関係無いんだよ。前世でお前の父を殺した奴が記憶が無いから知らないって言ったらどうしたよ?」
「そんなのぶっ殺すに決まってるわ! 絶対よ」
「ならアカネもお前をぶっ殺すに決まってるよな? 絶対に」
「そう、なるのね。どうしたら良い? 助けなさいよ」
「いいじゃん、お前女神としてすぐ生き返れるんだし殺されとけよ。前世の清算を今のうちにやって置けよ」
と俺がリーアに伝えると、いつの間にかアカネは近くに来ており、椅子に座ったまま、俺達の会話を聞いていた。そしてアカネは口を開く。
「へぇ、やっと、そう言う事を理解したんだ。分かった。エルバート。私こいつ殺さない様にするよ」
「え? ああ、でも、良いのか?」
「ばっ! フェルが何でそこで水を差すのよ! このあほぉ!」
そこでパチンとほっぺを叩く音がする。リーアが頬を抑えて黙り込む。もちろん叩いたのはアカネだ。
「うん、私がこの女神を教育する事にするわ。それを今後の生き方にする。私の不死をすぐにでも解きたくなるくらい頑張る。任せてくれる?」
「ああ、もちろんだ。ここで良いなら場所も提供するし。好きにやってくれ」
「ありがとう。じゃあたまに回復してあげて。私不死だから回復魔法使えないのよね。痛みって継続的に与えると麻痺するでしょ?」
俺はその言葉に『ああ、分かった』と答えたが、その声は少し震えていた。女神リーアミールも『いやよ、いやぁ』と顔を青くして蹲っていた。




