魔王と呼ばれた者
俺達は王都の外壁の上に立ち、敵が来るであろう進行方向を見つめる。
「見えて来た。しょっぱなデカイのかまして強い奴を抑えるからそれ以外を頼む」
アイリ達四人と、アラステア、エレクトラ、アイナに声を掛ける。そして俺は今回は最初から本気で行くべきだと、最初の範囲魔法にもブーストを乗せる為、リミットオーバーで魔法攻撃力を含めた全ステータスを二倍に強化させる。
「リミットオーバー、アイスストーム×10」
「……半数くらいは落ちたね」
氷の吹き荒れる氷塊が収まり、視界が開けたと同時に俺は動き出した。一番の強敵と思われる相手に。
相手はアイスストームから逃れる様に地面に降りていた。それに警戒するように俺達はゆっくりと進む。そして、とうとう魔王の存在であろう人物を確認し、度肝を抜かれた。
それは真っ黒な衣装をしただけの普通の少女。いや、普通では無いか、とても顔立ちが整っている。真っ黒で少しフリルの付いたワンピースを着た黒髪ロングの少女、まるで葬式にでも出席するかのようだ。そんな少女を見た俺は、動揺と皮肉を同時に感じ、気持ちを落ち着ける為に適当な質問をする。
「お前らさ、そんなに黒が好きなの?」
質問された魔王であろう少女は目を見開く。他の魔族の者は大半が凍り付いていて地面に突き刺さっており、耐え抜いた者も余裕はなさそうだ。片膝を付いていたり、苦々しい顔でこちらを睨んでいる。
「あはは、そんな質問から入ったのはお前が初めてだな。だが、好きでは無いよ。高純度の魔力で作られた場合、基本的に着色でもしない限り黒になるのだ」
少女は仲間であろう面々の多くが倒された事を歯牙にもかけていない様だ。律儀にも、質問を答えて来た。
「そうなのか。真面に話が出来るとは思わなかったな。お前の目的、教えて貰えるか?」
少女に目的を問う。もちろんそれでどうなるとか思った訳では無い。運よく口を滑らせてくれれば、相手がどう動こうとするかを把握出るかも知れないからだ。
「ふむ、攻撃をして来たのだから話し合いを始めるとは思わなかったが。まあ、何が変わるわけでもない。教えてやろう、私の目的は女神を殺す事だ。500年ほど前に恨みがあってな」
「……あの馬鹿は殺された。どんな理由があったかは知らないが、あの傲慢な女神が悪いであろうことは俺も理解してる。だからと言って、町を滅ぼす意味があったのか?」
「待て。……ああ、だから待ち伏せがされていたのか。こちらの総意では無いよ。お前には色々聞かなければいけない事がありそうだ。ふむ。どちらがいい? 戦うか、和解して話し合うか」
本気なのか? いや、俺一人ついて行くのなら好都合かも知れない。ここで戦うよりアイリ達は此処に置いて行き、気兼ねなく話し合いをして決裂したら戦闘開始でも遅くないだろう。
それに正直過去の事にも興味がある。長く生きていればこの星の事も色々知っているだろう。
「俺個人として、和解して話し合う事を望む。まあ、話の結果次第だし。お互い情報交換するのはどうだ?」
「それで良い。場所はどうする? ここでも良いが」
「あ~、決裂した時の為に人気のない場所を希望する。ま、変に疑われるのも困るから、場所は国内なら任せるよ」
そう伝えつつ、アイリ達に説明をした。周りの魔族はもう戦えそうになく、元々魔王は俺がやる予定だった。話し合いをして、なお戦うようになっても予定通りだと。
「まあ、そうよね。私等の倍のレベル以上の強さってなると足手まとい以外の何物でもないわね」
そのケイの一言でその場の全員が納得してくれた。悲痛な面持ちを浮かべるアイリの頭を撫でて、『まあ、ちょっと行って来るよ』と伝え、魔族の王であろう彼女と共に移動を開始した。
しばらく離れ、見えなくなると彼女は移動をしながら口を開く。
「キミは大賢者の子孫か何か?」
魔王である少女は唐突にそんな質問をする。おそらく感知で俺の魔力量を計ったのだろう。流石に可笑しいからな、俺の魔力の量は。
「いや、関係無いはずだ。大賢者という存在は今でも有名だが、個人的には恨んでる。知り合いか?」
そう、あんな称号を……と、おそらく彼が称号を作った訳では無いかも知れないので、逆恨みの可能性もあるが。
「まあな、敵になったが変な立ち位置に居た奴でな。一応知り合いではある」
「こっちも質問だ。女神は今不在の状況だ。お前はこれからどうするんだ?」
俺は、一応生き返って居る事は伏せて、これから戦うのか? と聞いた。
「そんなの決まってる。復活した後もう一度殺す。あの馬鹿と言う位は恨みがあるのだろう。キミも協力しないか?」
やっぱり、そうなるか。けど、女神が居なくなると世界的に困るんだよな。前世で神が治めていないと天変地異が起こるとか言ってたし。あれ? でも考えてみれば、女神が死んで復活するまでの期間、500年不在だったんだよな。その間人は無事だったし……まあ、分からん事は後回しでいいや。
「俺は恨みを晴らしたよ」
「おぉ、何をした!」
魔王と言われる美少女は小さな子供の様にはしゃぎ、悪い笑みを浮かべ、こぶしを握り早く話せと視線をこちらに向けている。
「あ~俺は前世の記憶があるんだが……いや、説明が面倒だな。俺がやった事はあれだ。非道な事をされた仕返しに、人に転生させて散々小馬鹿にした上に敵地で分が悪い場所に送り死なせた」
実際は同意の上で復讐に行ったわけでもあるが、散々小馬鹿にしたし結果的に間違って無い。
「あはははははは、良くやった! だけど、人に転生なんてどうやったの」
魔王である少女は腹を抱えて大声で笑った後、元気よくこちらに向かって親指を立てた。だが、女神を人に生まれ変わらせた事が疑問だったらしい。顎に手を当てて考え込んでいる。
俺達は、どこに向かうでもなくゆっくりと歩きながら会話を続ける。
「俺は前世の前世が異世界人だ。あいつは俺を殺して魂を抜き取って無理やり呼び寄せたんだ。そしてこの世界に転生させてこの世界の問題を俺に投げた」
懐かしいな。まあこっちに飛ばされる前は信じていなかったけど。確かに女神を人に生まれ変わらせたのはグッジョブだったな。おかげでもうしこりも無いわけだし。
「はっ! キミもなの? 地球人?」
「え? お前もって……お前も?」
ああ、そう言う事か。こいつも俺と同様女神に呼ばれたんだな。て事はこいつも元勇者か?
「なんだ。一緒なの。まあ、私は多分、キミより過酷だったとおもうけど」
「ってマジなのか? 一緒ならなんでそんなに長く生きれてるんだよ。可笑しいだろ」
そう、年齢が合わない。封印されてたから? にしても少女は無いでしょ。
「まあ、私は特別とだけ。仮に出来ても止めときなよ、死ねなくなるのは辛い」
と、同郷であろう少女は少し、表情をゆがませた。
「あ~同郷なら気兼ねないな。頼みがある。女神は自業自得だから良いが、この三国に被害が出ない様にやってくれないか?」
「……どうやって女神呼び出す。あいつの庇護下の奴等大量に殺して呼び出そうと思ってたのに」
マジかよ……まあ、500年前の女神の事知らないし、あの傲慢な女神がベースなら相当ひどくてもおかしく無い。あいつ、凄く馬鹿だったし。
「じゃあ、探すか」
「キミ、女神探せる能力とかあるの?」
「まあ、あるかな。どうだ? さっきの条件誓うなら、探し出して恨みを果たさせてやってもいいぞ」
うん、あいつも人に転生してるはずだし、記憶戻させて一度死なせよう。今のあいつは死んでもすぐ女神として復活するわけだし。
「ああ、キミが嘘をついて居ない限りは守る。あ、でもふざけた事して来た奴は別、私は手を出して来た奴には容赦する気は無い」
あ~、嘘はついて無いんだけど、怒らないといいなぁ。ってそれより容赦する気ないって……
「俺、さっき手を出したけど……」
俺は、出合頭に魔法を打って、半数位殺した事に対して聞いて見た。
「それはグラディスの馬鹿のせい。先に町滅ぼしてたんなら攻撃して当然。私一人でくれば良かった。あいつら心配だから付いて行くって聞かなかったんだ」
「じゃあ、これからどうするんだ? あいつまた人に転生してるから、全種族一人一人見る必要がある。年齢は分かってるし、多分俺達と縁を作って転生したはずだから、ある程度近い所にいるはずだが」
「キミ……まさかあれと仲良くしてる訳?」
「あ、言って置くが、500年前勇者に殺された時に一瞬で消されたせいであいつ記憶引き継いで無いよ? そのせいかは知らないが馬鹿だったから教育の為に人の世界に来させてる感じ? まあ、あいつが仕出かした事の責任としてお前とは会わせるけど」
「……そっか勇者が。あいつ、結局やってくれたんだな。じゃあ、良いか。取り合えず会って苛め抜く事にするよ。それから考える。まあ、多分殺すけど」
「そこら辺は任せる。俺は復讐肯定派だからな。と言うか前世であれだけやって置いて否定できない」
「キミも相当暴れたんだね。まあ、私程じゃ無いだろうけど。うん、信じる事にする。裏切ったらやばい事になるからね。あっ、そうだ。戦って置こう。私の強さ、知って貰わないとね」
あれ? 戦い回避出来たと思ったのに。まあ、模擬戦だと思えば良いか。でもなぁ……買っても負けても俺にとっていい事無いんじゃ無いかなぁ……負けとくか? 勝って下手に策をめぐらされるより良さそう。
いや、だけど対外的にはそれもやだなぁ。よし、やっぱり全力でやろう。勝てたら全力で調教してやればいい。同じ人間だったと聞いてちょっと安心したし。まあ、回避出来るのが一番良いんだけど。
「確かに、あったばかりでお互い信じられないよな。まあ、俺の前世の話はまだ15年位しか経ってないから調べればわかるよ。……それでもやるんだよね? 女の子殴るのとか嫌なんだけど」
「あはは、女の子だからか。そんな事言われたのは勇者ぶりだよ。取りあえずはキミに勝って色々調べる事にする。行くよ」
魔王と呼ばれた少女は体がぶれる様な速度でその場から移動した。こういう時は目で追う事はしない方が良い、眼球を動かして判断するより、感知による全方位で把握し続けた方が反応が断然早い。そう判断した彼は視線を送らずに側面に来た彼女の手刀を軽く避けた。
「また、大賢者みたいな動きして、ホントに違うんだよね?」
「違う。もしそうだったとしても俺にその自覚は無い」
そんな会話を交わしながらも振り向きざまに回し蹴りを放つ。魔王も軽くバックステップでかわして構える。
「ふーん。手加減したんじゃ終わらなそうだからちょっと本気出すけど、死なないでね」
魔王はこちらにそう告げた後、魔力を全身に這わせて先ほどよりも早い速度で全身して回し蹴りを放つ。
流石に避けきれる速度では無く、足の裏で蹴りを受け止め、衝撃を殺す様に魔王の足に乗って後ろに飛んだ。
もう一手一手会話を交わす気は無い様だ。まだ、空中に居る俺に即座に距離を詰めて来た。着地の時間を作る為に、魔法で防壁を作り、感知妨害の為にイメージで軽い風魔法を放つ。
「アイスウォール」
着地後、アイスウォールが砕けると同時に後方に回り込み、彼女の背後を取ったまま、愛刀であるオリハルコンの黒剣で魔王の背後から切りかかった。
声を潜め、剣を振り下ろす。とっさに振り返った魔王は防御姿勢を取ろうとするが間に合わず、魔王の胸から鮮血の赤いしぶきが舞った。
「ぐはっ」
俺は、当然これで終わりじゃ無いだろう。と、再度魔王に剣を向けて様子を伺う。だが、魔王は『ゴホッ』と咳き込み、口から血を流した。
「ちょ、待て待て、フルヒーリング」
本気で苦しがっている様子の少女を見た俺は、焦る様に回復魔法を唱えた。討伐に出た国の貴族としては、このまま倒すべきなのだろうが、彼女の事情を聴き、模擬戦と称したこの戦いでこのまま殺す事は流石に嫌だった。
「はっ!? キミそんな魔法まで……降参だ。よもや、私を傷つけられる人間が居ようとは思わなかった」
「えーと……まあ、あれだ。これで信じて貰えたと思う。共存する形で良いか?」
もしかして、こいつはレベルによる身体能力の高さのみで強さを誇っていたのか? 確かに、このレベルなら人がいくら大魔法を放った所で効かないだろう。国内には最高でも260レベル位の魔物までしかいないのだから。
生きている間にどれだけ時間かけても、国内だと対人要素を入れても400レベル付近が最高値だろう。そう考えると推定レベル900近い彼女を傷つける事は不可能。彼女がどうやって強くなったか次第ではこの状態もありえるのか。と、結論付けた。
「う、うん。流石に恥ずかしいけど……回復ありがとう。信じるよ」
「じゃ、これからどうするかの話し合いをしようか」
そうして魔王との闘いは拍子抜けで終了した。
聞くところによると、彼女は俺と同じく女神への信仰が薄れ始めた頃に呼ばれた転生者だった。要するに諍いの火種として呼ばれたのだ。絶対的な力の前に、もう神に祈るしか無くなる様に。そうして対抗できる勇者を呼び信仰を確かなものとする。マッチポンプ方式で信仰を集めようとしたそうだ。
俺は心底同情し思わず言ってしまった。
「……それは許せるはずがない。記憶が無い位で忘れてやれるほどぬるいもんじゃないな」
「ああ。数百年生きた今だから普通に口に出せるけど、許せない。ありがとう、賛同してくれて」
あ~、でも女神リーアミールの事は俺はもう許しているんだよな。一応はあいつも仲間。でも、口出ししていい程ぬるくない話と考えると色々困る話ではあるんだよな……
自業自得過ぎて庇ってやる気も起きないが。頭が痛い話だな、まったく。
「一応言って置く。止める気も無いし探すのも手伝う。だけど、あいつが俺にした事は俺はもうやり返したから許している。それに対して憎む事を強要するのは止めてくれ」
「……どうして許せたんだ?」
ああうん。俺は魔王ほど酷い事はされて無いんだ。せいぜい騙されるように地球で魂を抜かれてこっちで転生された。
あの女神はよく考えたらもう、出会った時には魂抜いてやがったからな。異世界に行くか選ばせると言って置きながら、地球で死ぬか異世界行くかしか無かった訳だ。これは魂の感覚が分かる様になってから知った訳だが。……あっなんかやっぱムカつく。
いや、もう一つあったか。あいつの願いを叶える為にやって来たのに、ちょっとの事で腹が立ったと5歳で国を追い出された。そのおかげで関係が切れて、そこからは自由で戦争が起こるまでは幸せな時間だったけど。
「小さな子供が何も分からずにやった事を永遠と気にして自分の人生棒に振るのは馬鹿らしいからだな。色々当たり散らして一応は忘れられる位すっきりしたから、今回の生は楽しむ事にしたんだ」
そんな話をしつつ、彼女とこれからの事を決めて行った。人の姿から変質させた魔族はどうするか。とかこれから彼女の所在をどこに置くか。とかグラディスがした事の罪をどう捉えるかなどもある。
その件について分かった事は。
魔族はもう魔人族に戻す事は出来ない。
魔王は女神を探す為、俺と共に行動する事を望む。
グラディスの件はこの国の王と話し合う。だが、力は与えたが情報収集から動くつもりだった為、彼が輪を離れて独断でした事。ある程度の約束事はしても良いが女神に復讐する妨げになる様なら従えないと。
結果、取り合えず彼女を拘束して、国王と話し合いをする以外無いと考え、伝えた。
「分かった。けど、こじれたらどうしたら良い?」
「そうだな、うちでかくまってやるよ。逃げて来い。お前なら簡単に抜け出せるだろう。俺は拘束も本気ではやらないし、力技で抜けられるようにするからさ」
俺はそう言って彼女を拘束して片腕に抱えて町の外壁まで戻って行った。
そうしてたどり着くと、思ってなかった状況になって居た。考えれば分かる事ではあったが、魔族の連中は細切れにされ、死体が所々に無残に転がっていた。
「そ、そうか、あの状況で放置すれば戦いになるのは当然か。私もその覚悟で来ていたのだし」
「……俺も戦争のつもりで来ていた。話し合いも半信半疑だったから何も告げていなかったな」
「彼等には済まない事をしてしまったな。献身的に私の封印を解いてくれたと言うのに」
そうして彼女は口を閉ざした。俺は、社交界で彼らの組織の話が出た事を思い出した。
彼らは反政府組織で歴史がある、にも関わらず一度も反乱を起こしていない。変わり者ではあっただろうが、今まで思ってたほどの異常者と言う感じでも無かったのかも知れない。
いや、もう遅いな。と、考える事を止め、アイリ達と合流した。そして彼女達全員に事のあらましを伝える。町を滅ぼしたのはグラディスの独断だった事、此処には情報を集める為に来た事、自ら拘束に応じ目的の人物以外には自分から手出しをしないと約束した事を。
「色々行き違いがあった。彼女を連れてこのまま王様と話し合いに行きたいんだが」
「なっ!馬鹿を言うな。どこに魔王を自国の王を合わせる馬鹿がおるのだ」
アラステアは激怒した。そうか、それならば、と。
「じゃあ、通信魔道具を用意してくれ。俺は魔王と約束したからな。どうしても恨みがある一人を探し出してやると。俺が約束を守らないとお前たちも不味い事になるぞ?」
「ど、どういう事だ? それに、そんな口約束信じるなどどうかしている」
「説明は後だ。取り合えず俺が責任を持って監視する。だから俺の村に通信魔道具を持ってきてくれ」
俺は、国王にこのまま会えないなら目を離せないしこのまま村に帰るから。と告げてアラステア達だけを残し、アイリ達を連れて転移した。




