動き出した敵。
会議の日から数日、収穫も一先ず終わりを告げ、木材の調達もようやく終わった。ようやく俺はゆっくり出来るかなと思い、庭を歩き屋敷の中に向かおうとしていた。そんな時、若干焦り気味のエミールが走り寄って来た。
「ああ~居た居た。なんか国の兵士が書状を持ってきたからエルに合わせろって言ってて、こっちに通して良いんだよな?」
国の兵士……って、グラディスの件での褒美の話しかないよな。結構時間かかったなぁ、俺に爵位をやるのを反対でもされたかな? まあ、なんにせよ確認しないとな。
「ああ、やっと来たのか。もちろん構わない。エミールが担当してくれ。失礼の無いようにな」
流石に門番に据えてる復讐に燃えている奴等だと不安だ、特にあの眼力が強いと言うか、とにかくガンつけてくるあの少女はダメだ。
「えっ? あ~そうか、あいつらじゃ俺より不安だわな。俺も丁寧にとか苦手なんだけど」
確かに、とは言え案内くらいなら問題無いだろう。姉さんの時は、余りに意外な話を振られていつもの口調が出ただけだしな。貴族が相手でも普通は謝罪すれば笑って許してくれるだろうし。
「そう言う事だ。まあ、兵士が相手な訳だし口調荒くしたり嫌味な事とか言わなきゃ大丈夫だろ?」
「そっか、それなら問題無いぜ。じゃあ連れてくる」
エミールは少し安心した様だ、落ち着いた表情を見せると飛ぶように駆けて行った。
「さてと、こういう場合はどうしたもんかね。って、貴族相手じゃないんだし。でも普通客には茶くらい出すよな。うーんここに居てばったり出くわした系で良いか。すぐ帰ると言いださなければ客室にでも通せばいいし」
俺は領主と言うポジションになってから誰かが訪ねてくると言う事が初めてだった為、ぶつぶつと独り言を言いながら、頭の中でやるべき事の確認をしていた。そして、5分もしないうちにエミールがフルプレートアーマーを着込んだ三人の兵士を連れて来た。
「え、ええと……エルバート様? と言った方がいいのか? 要件がある者を連れて来た」
エミールは一応俺のメンツを立てようとしてくれてるみたいだ。後でローズに教育して貰おう。
「ああ、ご苦労様。仕事に戻ってくれ。お待たせしました。私がここを治めるエルバートと言う者です。本日はどの様なご用向きでしょう?」
エミールとお互いにいつもと違う口調をして居る事に凄い違和感を感じた。が、これからはこういう事が多々あるだろう、慣れて行かなきゃな。などと思いながらも兵士の彼に声を掛けた。
「ハッ、私は王国近衛騎士団所属、コナーと申します。この度は国からの書状を届けに参りました」
近衛騎士か、そう言えばこの前、陛下にけしかけられて戦ったな。要件も予想通りか。
「そうですか、ご苦労様です。では、ここでは何ですし、上がって行かれますか?」
「い、いえ! 我らの事はお構いなく、書状はこちらになります。大至急、読む様にお願いしたします」
ふむ。それが普通なのかな? ん? 大至急? 褒美の話じゃ無いのか?
「はい、確かに受け取りました、すぐ読む様に致しましょう。ご用件は以上で?」
「はい、あ、いえ、今すぐ書状を読む様にと。その確認もしてくる様にと仰せつかっています。お手数ですが、黙読で良いのでお願いします」
「え? もちろん構いませんが、いや、読めば分かるのでしょうね。お待ちください」
と、そこには、色々な面倒事が書き綴ってあった。
「はぁ? マジかよ、町が滅んだ? アラステアが居る隣町じゃねーか。確かに大至急だな。くそっ、連れてきたら爵位を授けるってそんな場合じゃねーだろ。テレポート」
書状には、グラディスを見張る者からの報告があり、旧魔族によって町が滅ぼされた事。そしてその場所を記された地図、その事により危険度が増した為、アラステアを連れ戻せと言う依頼。そしてそれが達成されたら子爵位を授ける。と言う旨が記された書状だった。
俺はとてつもない不安感に襲われた。そして頭に過った。『また、俺は仲間を失うのか?』と、俺は、兵士を置いてけぼりにして、アラステア達が居るであろうアイナの店へ転移し声を掛けた。
「アイナ、エレクトラ、アラステア」
「あ、あのう、お姉ちゃんはいません。今日は店はお休みです」
二人の小さな子供がのぞき込む様に現れ、告げた。俺はこの様子だとまだここは攻められてはいないんだなと安心してそのまま彼らを探す事にした。
「ああ、そうか、分かった」
そう言って店を出てすぐに転移でギルド内部に飛んだ。俺は前に担当してくれたギルド職員の女性に声を掛けた。
「済まない、訊ねたい事がある。前回パーティーを組んでいた俺の仲間は今日は依頼を受けて行っただろう?」
俺は、彼らの行先は、それ位しか無いだろうと決めつける様に問いかけた。
「ええと、誰が依頼を受けたかはお教え出来ない決まりがございまして」
ああ、もどかしい。と、俺は先ほど受け取った書状を出して、彼女に見せた。
「こういう事情で俺は彼を連れ戻さなければならない。おそらく隣町からの要請で動いているんだろうが、これは国の要請でもある。言わないなら言わないで大至急決めてくれ。俺は急いで移動しなければならない」
彼女は目を通した後『そんな、私……知らなくて……』と、彼女の手は震え声は涙声に変わっていった。おそらく隣町が滅んでいると言う状況と、王子がそこに向かっていると言う状況をちゃんと把握してくれたのだろう。
「責めてはいない。隠したのは彼の意思だ。それよりも情報を開示してくれ、独り言として呟くのでも何でもいい。依頼の内容、彼らが出た時間、知りたいのはそれだけだ」
俺は、目の前の彼女に、罪に問おうとしてるのでは無いと告げたが表情はこわばったままだ。だが、彼女は即座に動き出し。依頼書をペラペラとめくりながら説明を始めた。
「も、申し訳ございません。救援要請の依頼が来たのは昨日の夕刻です。その場に居合わせた王子様はその足で向かっております。ここから隣町までは三日から四日の距離です。急げばまだ間に会うかも知れません」
昨日の夕方か、確かに地図で確認する限り、転移持ちで無ければ余裕で追いつけるな。先回りして倒すか? いや、まずは安全確保が先だな。もう前世みたいな事はもう死んでもごめんだ。
「そうか、依頼内容の詳細はどうなっている?」
彼女にそう問うと。依頼書の束をペラペラとめくる手が止まった。
「これです。特殊依頼でCランク以上、全身が黒く二足歩行のステータスの見れない強敵の討伐となっております」
彼女が依頼書を差し出しながら説明してくれたが、この状況で情報がそれだけなのか?
「なっ、何だよ、この依頼書……連携の指示も何も無いのか。それだけひどい状況なのか?いや、それよりも教えてくれてありがとう。俺は彼を追う。君は責任者だけに報告、他の者には秘密にするように」
一応念のため、魔族の事は伏せた方が良いかも知れない可能性を考慮してそう伝えた。王子の冒険の件はもう流石に厳しいだろう。この町でと言うよりは国王が外出を許してくれなそうだ。
「は、はいっ、お気をつけてっ」
俺は返事も返さずに、転移で町を出て魔法で飛び上がり隣町の方向に低空飛行で向かった。このまま向かえば魔力探知でアラステアを発見する事は可能だろう。あのレベル帯の者なんてここらへんじゃあいつしかいないだろうから。と、俺は感知を出来る限り広げながら飛んでいるが、高速移動している事もあり、いつもより感知範囲が狭い事を不安に感じて一人愚痴る。
「くそっ、分かりづらいなぁ……こんな事なら潰して置けば良かった。いや、落ち着け。グラディスを泳がせたから今の段階で危険を察知してアラステア達を追えるんだろ。隣町の人間には悪いが正直知らない奴等だしな」
俺は焦る気持ちを独り言で落ち着け、ひたすら飛び続ける。おそらく責任感の強いアラステアだ、ひたすら高速移動してるだろう。だとするともう少し先だな。このまま飛ぶとどのくらいで町に着くだろうか?ええと、4時間くらいか?いや、3時間ちょっと位か。今なら降りて走った方が早いかも知れないな。
「ああ、そう言えばそうだった。レベル前と比べて200も上がってるんだもんな。降りて走るか。いや、森の中走るくらいならこっちの方が早いな。この森を抜けたら走ろう」
そう呟いて、森を抜けると同時に落下着陸して、そのまま全力で走り出した。ぬぐえぬ不安に駆られわき目もふらずに走った。砂ぼこりを巻き上げながら高速移動して行った。そして、もうそろそろ居てもおかしくない範囲に入って来た。速度を緩めて感知の範囲を広げると、割りと近い場所でおかしな反応を見つけた。反応は四つ、三人は倒れてる。そして倒れている三人の魔力の大きさはアラステア達だ。
「マジかよ。もう戦ってるんじゃねーか」
俺は感知を止めそっちの方向に全力疾走で向かった。後5秒もあれば着く距離だ。
「っと、いたぁぁああ。アラステア! 無事か?」
と、反応があった場所に視線を向けると、黒い二足歩行のああ、これは魔族だわ、と言わんばかりの見た目をした奴が、アラステアを蹴り上げて血が舞う。エレクトラが血だらけになりながらも地を這い彼に近づこうとしていた。アイナは倒れていて反応が無い。やばいやばいやばい……
「ヒーリングフィールド。アイスランス×10アイスシールド×20」
俺は、即座に彼らにヒールを掛けて、魔族の体をアイスランスでひたすら貫きアイスシールドを盾では無く、魔物をひたすら囲む様にかけて閉じ込めた。
「おい、大丈夫か? アイナ! おいっ!」
俺は唯一倒れて意識が無かったアイナの胸に耳を押しあてた。ちゃんと心臓の音が聞こえた。俺は安堵がこみあげて座り込んだ。
「はぁぁぁ、良かった。間に合ったんだな」
「アイナは大丈夫……なんだな。済まない。本当によく来てくれた。ありがとう」
アラステアが地に手をついて頭を下げた。だが、そんな事どうだっていいんだ。
「あはは、アラステア、助かってくれてありがとう。良く俺が付くまで耐えてくれた」
俺は本当に嬉しかった。ただただ、助けられて良かったと、未だ不安で震えている足を押さえつけながら立ち上がった。くそっ何で今更震えてくるんだよ。まあ、戦闘中よりはいいか……
「敵わぬのに向かって行った事は責めぬのだな」
アラステアは凄く気まずそうな顔で問う。
「あ……あ、責めるぞ。だけ……ど、それと、これとは別だろ」
震えるせいで、声が上手くでないな。
「あのよ、エルバートすっげぇ助かったんだけど。お前アイナの事好きだったのか?」
「は……はは、クトラ、君は……馬鹿だなぁ。俺には彼女7人も居るんだぞ? もうあいつらだけでそう言う好きは一杯一杯だよ。だけど、俺達さ、友達だろ?」
俺は震える声を押さえつける様に言葉を返す。
「お、おお、そうだな、うん、お前の事見直した」
エレクトラは少し首を傾げてから頷き、言う。
「あれ……俺……そんな風に思われてたんだ……」
切なさからか俺はまた上手く声を出せなかった。
「……お前は自分勝手が過ぎるが、そうだな。俺の友だ。これからもよろしく頼む」
「え? アラステアも今くらいそう言う事言わないべきなんじゃ無いかな?」
「ああ、そうだな。済まない、だからそろそろ涙を拭け」
はぁ? 助けに来たのにまだおちょくる気なのかこいつは……あれ、頬が濡れてる……
「はぁ? 涙って……え? 俺泣いてたの? 可笑しいな……前世で母さんや妹とか彼女達が惨殺されてるのを見てトラウマになっちゃってるのかな。前世の記憶ってこれはこれで怖いな……ははは」
俺は羞恥心で急激に顔が赤くなり、ごまかす様に前世の事を上げ早口で適当に捲し立てて、乾いた笑い声を上げた。……やっちまった。これはこれで厄介だな、助けられた今回でもこれなのか。あいつらが命の危険に陥ったら俺はまた壊れてしまうんじゃないかな。異常なくらいレベル上げて置いて良かった。
「お前……そうか、記憶を引き継ぐとはそう言う事なんだな」
「良く分かんねぇけど。お前の涙は良い涙だ。恥ずかしい事じゃねぇ。ありがとうな」
二人は真剣な表情でこちらを見ながらそう言った。いや、俺は慰めて貰うために来た訳じゃ無いんだよ。ってああ、そうだまだ終わりじゃない。何をやってるんだ俺は。
「アラステア、国王陛下から書状が俺の所に届いた。取り合えず見てくれ」
俺は、書状をそのまま渡して、見る様に促した。アラステアは書状をじっと見つめ、苦い表情をし始めた。
「気持ちは分かるが、国へ戻るのは決定事項だ。先に見せた理由は分かるな?」
「ああ、感謝する。アイナとクトラは俺が守る。だから同じ場所に送ってくれ」
エレクトラが口をポカーンと空けて、顔が赤く染まっていく。相変わらず顔に出る奴だな。
「分かった。だけどアイナとエレクトラにも家族が居るだろ。アイナを起こしてちゃんと話してやってくれ。転移でアイナ達の家族を拾って行く事も出来るしな」
「そうだな。エレクトラ、聞いていただろう。アイナを起こしてくれ」
アラステアに呼ばれるとハッとした様にアイナの方に振り返り、エレクトラは荒い声を上げた。
「ああ、おい、アイナいつまで寝てんだよっ! 起きろっ!」
仰向けに寝るアイナの腹を蹴っ飛ばしごろごろと転がしていくエレクトラ。余りのひどい仕打ちに今度はアラステアと俺が口をポカーンと空けてしまった。アイナは顔を歪めせき込みながら起きた。
「ゴホッゴホッ……いったーい。クトラ!何すんのよ!もう怒った」
「馬鹿野郎、怒ってるのはこっちだ! 真っ先にやられてアラステアが守ってくれてエルバートがヒールしてくれなかったら死んでたんだぞ! なのにいつまでも寝こけやがって」
……えっと、仕方が無く無いか? 経験が無いから真っ先にやられちゃうのも、意識を失ったのだからしばらく起きないのも普通だろう……
「あっ。そっか! 魔族は? ってエルバート君が何でいるの?」
アイナはようやく意識がはっきりとしてきた様だ。そんなアイナにエレクトラが近づき両肩をガシッと掴んだ。
「だっから私達の事を心配して駆けつけてくれたんだろうがっ。お前を助ける為に涙まで流してたんだぞっ!」
と、叫ぶようにアイナに伝えるエレクトラって、おいぃぃ!
「待て待て待て待て、お前な、そんな適当な事言ってるんじゃねーよ、仮に事実でも言うんじゃねーよ!」
くっそっ、くっそっ、こいつらは何で助けに来た俺を虐め始めてるんだ……もうやだっ……
「だーかーらーエルバートもいい加減に気がつけよ。あの涙はカッコいい涙だって言ってるだろ!」
こいつ、めちゃくちゃである。もう、助けてとアラステアをじっと見つめた。
「エレクトラ、そんな話をしてる場合じゃ無い。アイナ。俺は国に呼び出しを食らった。お前たちを連れて行きたいのだが、いいか?もちろんチビ達も一緒にだ」
「私には聞かねぇのかよ」
「お前は来てくれるんだろう? 違うのか?」
「いや……違わねぇ。そう言う事ならいいや」
「えっと、うん、甘えさせて頂きます。どうか、お願いします」
アイナは少し考えた後、深く、深く、頭を下げた。そんなアイナを見たアラステアが『馬鹿者、これは俺がやりたい事だ』と、腕を組みながら二人に告げた。ふむ、そう言いつつ視線で二人に告げるのか、その手法有用である。と、俺はさりげなく心に刻んだ。
「じゃあ、さっさと転移で送るからな」
俺はそう告げると転移で町に戻り、子供たちを連れて、今回は緊急なので国王陛下の元に直接転移した。




