チェルシーの本気
チェルシー視点 魔道学校・教室
あ~やっぱり私の所には来てくれないよね。うん、おねーちゃんは問題起こして相談しに行ったわけだし。私の所に来る理由がない。だけどズルいなぁ……思い出したらまた腹が立ってきた。おねーちゃんはもっとしっかりしなくちゃダメだと思う。ううん、もう言いたい事は言ったんだし忘れよう。私にはやるべき事がある。
そう、私のやるべき事は、エルバート様の役に立つ人材になる事。欲を言えばあの人を助けたい。無理だと分かってるけど。でももしかしたらそんな状況もあるかも知れない。だから私は魔法陣の勉強をひたすらしている。まあ、勉強と言っても、私には正直言って楽しい。
この魔法陣と言う物はパズルの様な物だ。単純な指示を組み合わせて魔力変化させ色々な現象を起こせる。そう、魔法と一緒なのだ。そして魔力が出せれば誰でも使える。まあ、魔法よりも出力が弱いし使用する素材が高すぎるからどうしても魔法の劣化版みたいになってしまうのだけど。
まあ、そんな事を嘆いてもしょうがない。私がしっかりとマスターすれば、かなりの収入を得られる様になる。まあ、主様の支えになるくらい稼ぐには日用魔道具ではなく、大規模魔法陣位作れないといけないんだけど。あ~あ手っ取り早く覚えられる方法無いかなぁ……などと考えて居ると声が聞こえて来た。
「チェルシーここ教えて! 次の試験点とらないとやばいんだ。お願いっ」
彼女はポーリーン、皆からはポリンちゃんと呼ばれている。クラスで一番仲の良いクラスメイトだ。
「いいよ、ここはね、熱を持たせる為の文字なの。こっからここまではそうで、ここからはそれを高める為に使っている強化だよ」
「うっわぁ、もう完全に理解してるんだね。やっぱり凄いよチェルシー」
「あはは、全然足らないよ。私はもっともっと学ばないとダメなの。お世話になった人に恩返しが出来るレベルにならないと私は私を許せない」
そう、私は我儘を言って学校に入れて貰った。主様がそんな風に思っていないのは分かってるけど、これは私が私の意志でやりたい。絶対にやり通したい。だからこれは自分に言い聞かせてる呪文のようなもの。そう、やり通さなければ私は私を許さない。
「え~? 何それ、好きな人なの?」
ポリンちゃんと話していると適当に生きてるなと良く思う。お姉ちゃん以外の家族を失うまでは、私も絶対に分からなかったし、ここまでやろうとなんて誰に言われてもしなかっただろう。
私は、あの絶望の中に光を灯してくれたくれた主様に、ううん、今だって。助け導き住む場所も作ってくれてる。それだけでも大切で特別な人なのに、どうしても思い出してしまうのは、私達が奴隷になると言った時、私達の為に怒ってくれた事だ。あそこら辺から私は主様にすべてを捧げたいと思っている。
「うん、大好きっ」
そんな言葉じゃ収まらないけどね。私はそんな事を思いながら彼女の質問に答えた。
「へぇ~見てみたい! 紹介して!!」
と、そんな彼女の本気じゃ無い頼みに私は全力で言葉を返す。
「あはは、絶対に嫌」
「そっかー、残念。じゃあ諦めるからまた教えてねっ」
「もうっ、ちゃんと勉強しなよぉ。私は私の勉強があるんだからっ!」
「へへへ~退散っ」
そう言って彼女はいつもの様に他の輪に入ってまた楽しそうに会話してる。いや、そんな事より勉強しなきゃ。そろそろ私も自分で陣を作ってみようかな。その方が成長できるって先生も言って居たし。もちろん試す事なんて出来ないけど、だって大規模だと失敗する度に少なくとも金貨が一枚飛んでいくんだもん。
そうして、私はいつもの様に周りが見えない位に熱中して一週間が過ぎ、一つの魔法陣を完成させた。私の知っている物の中で一番効率がいいように強化術式を組んだ。まあ、何を強化させるかも示してないから何も起きないんだけどね。などと誰に答えるでもなく思っていると、不意に私の陣をかいたノートをのぞき込んでいる人物が居た。
「これは、君が?」
その人物は先生だった、私の書いた魔法陣を指差し問いかけたまま硬直していた。
「はい、そうですけど……」
なんだろう、なんか不味いのかな? この前の試験は満点取ったはずなんだけど。それにこのやり方の方が成長するとか進めたの先生だし。
「これを、試して貰っていいかい?もちろん素材は提供するよ」
え? 素材の提供? 何を言ってるんだろう。だってこれは……
「え? いや、これただの強化で他に何も組み込んでいませんよ?」
と、先生を見上げながら言うと、先生はもどかしそうに口を開いた。
「そんな事は分かっている。もちろん何かしら分かりやすい物を組み込んでだ! いや火が良いな。君なら火の陣を組むくらい容易いだろう? 出来なければ代わりにやっても良い」
そんな風に早口に捲し立てられ私は少し困惑していた。
「失敗する確率のが高いと思いますよ?」
「ああ、もちろんだ。だが、成功したらこの技術を提供して欲しい。いや、報酬ももちろん出す。最低で金貨10枚だ。」
「ええぇ? いや、待って下さい。これは強化術式だけを組んだからこその効率です。他のを合わせるとなると……どうだろう。」
「そ、そうだな、だが、もうこの時点で画期的だ。そして強化はほぼすべての術式で用いられている。この意味が分かるね? ほんの少しの進歩でも莫大な財産となる。さっきは金貨10枚と言ったがそれは最低ラインだ。仮に目に見える範囲で効果が上がるなら、金貨500枚出しても買う者は居るだろう。試す価値は十分にある。その規模なら失敗をしても大銀貨一枚も行かないだろう。どうだ?」
うわ~凄い額、あれ? エルバート様の助けになれるかも!? ああ、これは私だけで成功させて主様に献上すべきだ。どうにか死守しないと……でも先生明らかに目が金マークになってるんだよなぁ……
「少し考えさせてください。私がこの陣に効率を崩さずに他の物を組み込めるかも分かりませんし、やってみながらどうするかも考えてみます。流石に手あたり次第にチャレンジは出来ませんし」
私は当り障りない言葉を並べて、この場を凌ごうと考えた。
「ああ、そうだね。では私の方でも考えてみよう、写して良いかね?」
と、いいつつ先生は写し始めた。もうこの人は常識を失う程に金に目がくらんでいる様だ。自分が授業で言って居た言葉にすら反している。人の魔法陣を許しも得ずに写すのは犯罪行為だ。私はそっとノートを閉じた。
「すみません、もう少し時間を下さい。前向きに考えてみますので」
「いや、君は私に教えられて価値に気が付いたはずだ、その対価を払うべきでは無いかね?」
うわぁ~、まあ、確かにそうだけど。要するに使えそうだから使わせろって言ってきただけじゃん……下種いなぁこの先生。張り倒したい。いやいや、主様に貰ったこの力はあの方の為に。そうそう。
「えっと、貴方は先生で、教えの対価は主様が払っています。教え子の成果は自分の物という理屈は可笑しいかと」
「チェルシー君、ちょっと相談室まできたまえ。じっくり話し合おう」
ゲッ、それは不味いなぁ、主様を縦にするような言葉は言いたく無いのに、この下種は……
「いえ、用事があるので今日はもう帰らないといけません。私の身分はご存知ですよね?」
そう、私は従者、そしてこの前お姉ちゃんから主様が正式な貴族になったと教えられ嬉しさのあまりポリンちゃんに大声で言ってしまったのだ。そのせいでクラスの皆と先生は知っている。主様は国王様に認められた時の人だと。いや、まあ時の人は私が勝手に言ってるだけなんだけど。間違いないはず。
「ぐっ、それは仕方が無いな、君はそれで時間が欲しいと言って居たのかね?」
「いえ、どちらにしても私が一人で決めて良い問題でもありません。私の入学は、主様がすべてのお金を出して、その成果を求められておりますので。それと先生、この陣はおそらく上手く行きません。だからこそのただの強化術式なのです。改良に改良を重ねて運が良ければ、でしょう。それも含め、相談してからもう一度お話を」
「ああ、そうか、そうだな。成功の可能性は低い、君の主人もきっと承諾してくれるだろう。それと伝えて置いて欲しい、私が必ず成功まで導いて利益を出してみせると、そこまでの素材は私も半分出すと」
はぁ、こんなのが先生じゃ、この学校からもう学ぶ事は無さそうだな。魔法学校と違って卒業させて貰えないのが辛い所だなぁ、これからどうしよう。無くしちゃいました。で無理やり通すかな。だ・け・ど! これで堂々と主様に会いに行ける。それもお姉ちゃんみたいに悪い話を持って行くわけじゃ無い。何と言う至福。しふく? ああ。主様に会うんだものおめかししないと。それからおねーちゃんの所に行って転移で送って貰おう。
と、やってきましたおねーちゃんの部屋。
「さあ、お姉ちゃん、私の為に転移を使うがいい」
「え? チェルシーどうしたの? なんか口調可笑しいよ?」
「ふふふ、主様に良い報告が出来たんだ。なんて報告し……あれ? まだ成功してないから……あれれ?」
そう言えばそうじゃん、可能性があるだけ。でも先生へのいい訳もあるしちゃんと話さなきゃいけない。……おねーちゃんとあまり変わらない気がして来た。面倒事を引き込んだだけ? いや、大丈夫、意地でも成功させればいいだけ。うん、問題無い。いや、あるよ! なんて報告するの?
「チェルシー? なんか目がグルグルしてる。どうしたの?」
私はお姉ちゃんに両肩を掴まれて頭をシェイクされてようやく我に返った様だ。頭がふらふらする。
「あー、うん、こんな事があってね」
私はお姉ちゃんに今日の出来事を説明した。
「ええ? 凄い! 凄すぎだよ。いいなぁ。主様に良い報告が出来て」
「お姉ちゃん、ちゃんと聞いてた? まだ完成して無いんだよ? 要するに何となく方向性を掴んだ程度の実績な訳。出来るか分からない物で気をもませなきゃいけない事になっちゃった訳。頭の可笑しい先生のせいで」
うん、あの先生のせいだ。あれが居なければ平和だった。
「あっ、そう……だね。もし出来ると見越してお金使っちゃったら出来なかった時大変だよね。」
な、なんて事言うの! この姉は!
「プ、プレッシャー掛けないでよぉ」
ああ、お腹痛い、泣きそう。
「え? あ、そんなつもり無いよ。でもやる事は私の時と同じだね。言わないと、包み隠さずに」
そっか、お姉ちゃんもあの時こんな気持ちだったのか。いや、状況的にもっと悪かったかな。そう考えると私はあの時お姉ちゃんに怒り過ぎたかも知れない。
「あ~うん。だからね。転移で送って欲しくて来たの」
私はこの部屋に来た理由を改めて説明した。
「あ、それで……もうっ、言ってくれないと分からないよ」
あーうん、ちょっと勘違いして舞い上がってたんだ。ごめんね。
「ごめんごめん。お願い、お姉ちゃん」
「仕方ないなぁ、主様に言って来てあげるね。テレポート。」
そう言ってお姉ちゃんは一人で転移していった…………
「あれ? え? 私はぁぁぁ?」
ぐぬぬ、なんと言う事だ。あれ?私は結局会えない訳? ぐっ、私も転移術式覚えてやるんだからっ!!!
と、決意を新たにしながらもお姉ちゃんの部屋で寝ながら待つこと1時間。いや、40分くらいはちゃんと待ってたんだけど、心配でお腹が痛くてうずくまってたらいつの間にか横になっていた私。でもあれだね、お姉ちゃんの時に言い方の強調とか言ってたけど、罪悪感強くて出来ないな。お姉ちゃんが普通に言ったって気持ちが良く分かる。
――――あれ? もう2時間くらい経つよね? いくら何でも遅く無いかな? と、思っているとようやくお姉ちゃんが帰って来た。これは文句を言ってやらねば。
「チェルシー、行くよ。主様が待ってる」
な、なんだってぇ~おお、お姉ちゃんありがとう。
「あ、ありがとう、ほっ、これで自分の口から言える」
私はお姉ちゃんの手に引かれて、走り出した。
「えっ?あ、ごめん言っちゃった。主様凄く怒ってたよ」
この瞬間私は体に力が入らなくなった。
「う、嘘…………」
私は外なのに地面に蹲り、信じられずに呟いた。
「ホントだよ。え? あっ! チェルシーにじゃないよ! 主様はそんな人じゃない!」
一瞬、お姉ちゃんが何を言ってるのかも分からなかった。ただ、『主様はそんな人じゃない』と言う言葉が良く聞こえて我に返った。
「あ、ああ、うん。ああ? 紛らわしい言い方したのお姉ちゃんでしょ!!!」
私はいつの間にか本気で姉の頬をつねっていた。
「いだだだだだ、まっへあふじさばまっでふ」
あ、そうだ、待たせちゃいけない。
「早く案内してよ。急いで!」
「そ、そんなぁ」
情けない顔したってだめなんだから。私は傷ついたんだからねっ。と、私は強気に言った。そしてとうとう私は久しぶりに主様に会えた。
「ああ、良かった無事で、チェルシー、おいで」
そう、主様に言われていつの間にか涙が出ていた。泣きながら子供みたいに両手を広げて走った。距離がもどかしくて全力で走った。多分、不格好だったと思う。けど優しく抱きとめて優しく頭を撫でてくれた。長い間、主様の胸に顔をうずめて泣いた。そして顔を上げるといつの間にかお城の中に居た。真っ赤な絨毯、大きな階段、とてもきれいなガラス細工の証明魔道具。ここはおとぎ話の世界だろうか?
「あれ? おにいちゃんは?」
私は本当はおねぇちゃんは?と言ったつもりだったけど鼻がつまっていたのと泣きすぎて喉が少し可笑しかったのかも知れない。はい、噛みました。
「フィー? え? いや、シャノンだよな? チェルシーは」
主様がそう言った瞬間、私は疑問を感じる間もなく、頭の中がぐちゃぐちゃになる程色々な事を急激に思い出した。気持ち悪くて吐きそうだった。
「え? あ、あああぁぁぁぁぁ…………」
その気持ち悪さもすぐ収まり、私は色々な事を忘れていた事に気が付いた。いや、これは覚えていなくて当たり前か。前世の事だもん。
「チェ、チェルシー! あ、もしかして……シャノか?」
ああ、主様。ううん、今は兄様と呼ばせて貰おう。兄様は私の昔もちゃんと覚えていてくれた。何も言わなくても私がシャノだって分かってくれた。でも、前世の最後も勝手をしてそして今も、兄様に良い報告は出来無い。
「はい、兄様。思い出しました。ごめんなさい。昔から面倒をかけっぱなしで」
兄様は優しい、きっと大丈夫家族だからと言ってくれるだろう。だからこそ罪悪感は消えない。
「あ、あははは、良かった。いいんだ! そんな事はシャノンもチェルシーも俺は大好きだからな。一緒に居てくれ、面倒なんて思って無い。」
だ……大好き……大好き……一緒に居てくれ……
「えへ、えへえへへ、えへへへ、兄様大好きっ」
うわっ。ダメよ、私! 今絶対酷い顔をしている。何で顔に力が入らないの! あ、そうだ兄様の胸に飛び込もう。こんな顔見せたくない。
「お、じゃあ、両思いだな。チェルシーの事今日から彼女だと思っても良いか?」
「はい、最高です。兄様!」
ああ、お姉ちゃんが言ってた事分かった。うん、これは夢だよね! うん、間違いない。だって都合が良過ぎるもん。あれ? なんか寒くなって来た……なんで?
「兄様、寒いです。どうして?」
私は顔を上げて兄様をのぞき込むと、兄様は寒さのせいかな?とても青い顔をしています。何となく兄様の視線の先を目で追ってみると……
「兄様、人は冷気を出せるんでしょうか?」
視線の先にはジェニさんが居た。
「ああ、出せるよ。感じているだろう?」
ええ、感じています。ジェニさんから出ているのが何故か分かります。
「お兄、私は許せない事がある。どうしてもよ。何か分かる?」
あ、私も分かります。けどちょっとズルいです私の方が先なのに。
「あ……ああ、でも前世で兄妹だったんだ。仕方が無いだろう?」
「あの、もう落ち着いたので大丈夫です、すみませんジェニさん、主様」
私は兄様が喋り終えた瞬間割り込みました。二人には喧嘩して欲しくありません。
「そう・・・でも何で兄様だなんてって、え?前世?また記憶が戻ったって奴?」
「はい、私はシャノン、前世でルディとフィー、今はキャロルですね、その姉でした」
ジェニさんは考え込む様にこぶしを口元に当てています。そのまま鉄拳が飛んできそう。言えないけど。
「まあ、ルディとか俺は血がつながって無いけど、俺が家族だって言ったからな」
「あ~もう、訳わかんない、私もその記憶って奴が戻ったら分かる訳?」
あ、そうだよ、ジェニさんもそうなれば私も嬉しい。また甘えさせてくれるかな?
「ああ、チェルシーが思い出した事で何が引き金になるかははっきりしたし、いや、分かっては居たんだけど、今の関係も好きだから変に変える事も無いかなって」
「そう言う事、でも私としては気分悪いんだけど。隠し事されてる気分だわ」
「そうか、じゃあ、ジェニも思い出すか?」
「お兄が騙そうとかして無いのは分かった。でもちょっと怖いし考えとく」
そう言ってジェニさんは頭を抱える様にため息を付きながら部屋に戻って行った。
「ああ、チェルシー今日は一緒に寝ようか、明日一緒に学校行こう」
「いえ、その件でお願いがあります」
私は記憶が戻ったせいか、頭の中がスッキリしていて、色々決心がついた。
「ああ、言って見ろ」
「学校で学べそうな事は終わりました。主様の所に戻りたいです」
「そっか、嬉しいよ、お帰り」
ああ、良かった。これでこれからも一緒に居られる。
「ありがとうございます。その、それで、一緒に寝てくれるんですか?」
やっと心残りが消えて、私はどうしても無かった事にはして欲しくなかった一言を掘り出した。
「ああ、添い寝する位しかしてやれないけどな…………」
そう言った主様は目を細めて、まるで悟りでも啓いた様な表情をしていました。流石兄様、神々しい。




