反攻
俺達はミラが抱えて来た、シザーマウスの丸焼きを、剣で剥ぎ取りながら食しこれからどうしようかと雑談をしていた。
「ん~どうしよっか~、ご主人様が戦えないんじゃ厳しいよねぇ」
確かに、今度また同じ数が出来たらと思とぞっとする。
「まったく、お兄は、そんな状況なんだったら前もって言ってよね」
「悪い、あそこまで力が入らなくなるなんて思わなかったんだよ」
俺は、二人を危険な目に合わせてしまった事に謝罪をした。
「ねぇ、ミラ、あんたのおばーちゃんてどれくらいで回復するとか言ってなかった?」
と、ジェニはどのくらい時間を置けば俺が戦える様になるのかを知る為にミラに尋ねた。
「うーん、わかんない。お兄ちゃん、それで結局死んじゃったし」
「「……」」
俺とジェニは絶句した。あれ?俺、死んじゃうの?と、絶句してる俺達を見て、ミラが口を開く。
「きっと大丈夫だよ、おばあちゃん言ってたもん、もっと早くポーション飲んでれば助かったのにって」
俺はその言葉を聞いて安心した。だが、ジェニは安心できていない様で、深刻な顔で、根掘り葉掘り、その時の状況を聞き出していた。
「そっか、じゃあ大丈夫かも、お兄は意識もしっかりあるし、歩けてるし」
と、聞き終わった後にジェニも安心出来た様で、表情が柔らかくなった。
「なんにせよ、それじゃ俺の回復に必要な時間はわからないな」
「じゃあ、今日は休む日にして、明日、私達と腕相撲でもしようよ」
ミラは、力が入る様になったかを、確認すればいいと提案する。
「それしかないか、取り合えず今しよ、お兄に勝っておきたいし」
「断固断る!明日な、明日。じゃあ俺寝るから」
俺はジェニのその発言を力強く却下して、一刻も早く回復をする為に、取り合えず寝た。
俺は目が覚め、二人に圧勝し、再度シザーマウスの森へと入って行った。この魔物は集団行動をとっており、出会う度に囲まれ、四苦八苦させられた、それに平均レベルが30と聞いていた割りにレベル平均が35程あり、あれから二日目にして、気が付けば、俺達は平均47レベルまで上がっていた。
余りの数の多さに圧倒された分、討伐数も多かった。木を背に、二時間戦い続けた時は、合計100匹を超えたんじゃ無いだろうか?あの時は流石に全員が泣きが入ったが、そのおかげで、たった二日でこの森は卒業となった。
「もうそろそろ、この森卒業だな」
「良かったー、探すまでが大変だし、探し当てたら一杯だし、もう嫌だったんだ。また、泣けてきた」
ミラは安堵し、ジェニも『うんうん、それよね』と頷きながら同意した。
「お兄、次はどこに行くの?」
と、ジェニに聞かれたが、俺は困ってしまった。レベルで考えればカエルが良いだろう。だが、その場所は遠い、ここからだと5時間程度は掛かるだろう。それにカエルの次の狩場は知らない事に気が付いた。
「あ~困ったな、カエルの狩場までは5時間かかる、それとその次の狩場が分からん。どっかで情報収集するしか無いな。って言っても、この地図は狩場しか書き込んでないんだよなぁ」
この地図は、地形だけを書き写し、狩場を書き込んだ手製の物なのだ。
「ここからだとねー、こっちに町があるよ?名前とか知らないけど」
と、ミラが言い、俺とジェニは驚愕した表情でミラを見つめた。
「やばいよ、お兄、馬鹿に負けた」
「どうしよう、ミラって結構物知りだったりするのか……」
ミラは顔を真っ赤にしてほっぺたを膨らませ、プイっと顔を背けた。その動作を見たジェニが何故かミラの事を抱きしめて頭を撫でた。
「ジェニ……お前、母さんとはベクトルが違うが、鬼だな」
怒らせて楽しんでその姿にまた楽しむジェニを見て、俺はそうつぶやいたが、ミラはその行為が嬉しかったらしく、顔をジェニの肩にうずめ抱き着いた。まあミラが良いなら良いかと思い、その町に行ってみる事にした。
だが、歩いている途中、隣の森に見えた魔物のレベルを確認すると、レッドテイルキャットと言う名の45レベルの魔物だった。前回よりさらに慎重に索敵をして、戦闘を繰り返したところ。まとまっていても3匹程で、レベルも45から55程度だった。
なので、俺達は此処で上げ切り、期限内に帰る事に決め、残りの三日をここで狩りをする事にした。
そうして三日が過ぎた。
「いやーここの森に来て、良かったな、やりやすいったら無いわ」
「だねー、まとまってないし、探せば結構いるし。楽々だったー」
「シザーマウスが面倒すぎたのよね、でも、本当に良かった」
と、俺は目標の60レベルをギリギリで達成した。この森の初日、俺はレベルが上がりにくくなってきていた事を懸念して、安全な事を確認してからは、かなりなペースで狩りをしていた。シザーマウスでの手数の多さに慣れていたので、数の少ないレッドテイルキャットは戦闘後の殲滅確認すらせずに、移動狩りが出来たのだ。
だが、一番の理由は母怖しの強迫観念から、睡眠を4時間で済ませ、少しもさぼらずにやり切った事にあるだろう。
「けど、あれだな、ここからのレベルアップが厳しそうだ、50超えたあたりから上がりにくさが格段に上がって行ってる気がする」
ここから70まで上げるのって相当しんどい気がする。
「あーうん、私も感じた。と言うかもうここじゃ、上がる気がしない、ってくらいレベルアップが遅くなってる」
「お兄もミラも……そんなに簡単に上がっていける訳無いじゃない、100レベル上は一目置かれる位なのよ、私たちが一週間やそこらで近づける訳無いでしょ。逆に良くここまで上げれたものだと考えましょ」
それもそうだな、と俺は納得し、期限終了前に取り合えず一回ミラの家に行くぞと、歩き出した。
「お金、貯まっちゃってたらどうしよう。私、エルと離れたくないよ」
「あほか、そしたらお金を受け取ってお前は解放されるんだ、自分の意志で抜け出して来い」
「はっ!? 凄い、エル、頭いい」
「そう考えたら、あれね、お金払ってもらった方がいいわね。お兄、多少の値切りには応じて上げたら?」
「いや、名実共に俺の物にしたいし、値切りには応じない!」
と、言った時、しまったつい本音を、と思ったがジェニはそこを突いては来なかった。
「確かに、この生き物は希少価値があるかも」
「私、生き物じゃないよ? 人だよ? ねぇ……ねぇ……」
と、必死にせっつくミラに、俺達は、人も生き物なんだぞ? と告げると落ち着いた。
そしてウィシュタルに着いた俺達は、外しても居ない装備の確認をして、心構えを終わらせてからミラの家へと向かった。そして、ミラの家へと上がり込んだ俺達は身構えながら話し合いをした。
「さて、死にそうになった案件から問いただしたい所だが、まずは金の用意が出来たのかを聞こうじゃ無いか」
「な……なんの事だか分からないが、こちらも聞かせて貰わなくてはならない、何故期限前に隷属を済ませている」
と、ミラの父親は、そんな事をしていいはずがないと、言って来た。
「はっ、泥棒を働いた側が上から目線で取り合えず待ってろと言って来ておいて、払う気を示したとでも思っているのか?それに、その前に金は用意できたのか? と聞いている。話し合う気すら無い様だな」
この町では、そんな事をしようものなら、即諍いになる、それ位、払う気は無いと告げるのと同義だと言う意味を持つ。
「話にならんな、お前たちは法を犯したのだ、まだ猶予以内だと言うのに。取り合えず娘は返して貰おうか」
俺はやはり金の工面が出来なかったのだろうと分かり、再度告げる。
「もう一度言う、金は用意できたのか?」
「黙れっ、良いからまず解放をしろといっているのだ!」
ミラの父親は顔を真っ赤にし声を荒げた。
「よし、これで十分だろう、行くか」
これで領主の示した指示に従った事になるだろう、だから要件は済んだ、と俺は二人に声を掛けた。
「お父さん、ごめんね、さよなら」
と、ミラは父親に別れを告げ、俺達はこの家を去ろうとした。
「貴様、大人をコケにして、このまま生きて帰れると思っているのか?」
と、ミラの父親は、槍を手にこちらに構えていた。
「ミラ、どうする? 下がってるか?」
「ううん、これは私の仕出かした事、だから私がやらなきゃダメだと思う」
ミラは意を決した様に、自分がやると言い出した。
「馬鹿ね、奴隷になった時点でミラがやっても罪はお兄に行くのよ?」
「そうだな、だから殺しはダメだ。三人で囲んで取り合えず動けなくするぞ」
と、告げると、二人は頷き、武器を構えた。
「はっはっは、子供三人風情で大人に対抗できるとでも思っているのか?貴様を叩き殺し、ミラとお前の妹を売り払ってやる」
ミラの父親がそう言葉を発した時、俺の横から風でも吹くかのようにジェニが飛び出し、槍を掻い潜りミラの父親を全力で蹴り飛ばした。蹴りの衝撃で軽く飛んだミラの父親は、壁に叩きつけられて這いつくばった。
「な、貴様、何レベルだと言うのだ……ガキの癖に……」
と、槍を拾い、槍を支えに立ち上がろうとする、ミラの父親の顔を足蹴に転がし、青筋を引きつらせた怒り絶頂のジェニが口を開く。
「お前が、私からまたお兄を奪おうとするのなら、法なんてくそっくらえだぁ、今すぐぶち殺してやろうかぁ? ああん?」
そんな暴走状態のジェニを押さえつけ、これ以上は意味は無いと、もう行こうと引っ張られた。町を出るなら痛めつける意味は無い、現時点での敵意さえ奪えばいい。大した金も権力も無いこいつは、もう追っ手を出すような真似はしないだろう。取り返せない事を知ったのだから。
「分かったわ。じゃあ、行こう。だけど次、お兄に手を出したら殺す。覚えて置けよ」
ジェニはそう言い残し、俺に引っ付いた。そんなジェニを連れミラの家を出て行った。
ジェニのマジ切れを初めて見てしまった俺は若干恐怖に引きつり、ジェニを怒らせてはいけないのだと認識した。
そうして、やるべき事は取り合えず終わり町を出る門の方に向かうと、エミールが、装備を固めたうちの母親に首根っこを掴まれた状態で立っていた。何故、エミールが……と思いながらも、母さんが出てくるのは予想していた事だ。と、俺は歩を進めた。
「おい、エル、お前、面白い事をしているじゃないか。その娘、奴隷にしたんだってなぁ」
俺達を見つけ、エミールを放した母さんは、チンピラの様に笑みを浮かべ問いて来た。
「ええ、機会が合ったので俺の物にしました」
俺は、脂汗をかきながらも告げる。
「そうかい、じゃ、それ売りに行くよ。そうしたら折檻は無しにしてやる」
そうして、反旗を示さなくてはいけない時が来た、足が震える、声が上手く出ない。
だが、俺は言わなくてはならない、もう従えないと、ミラも、妹も、売らせないと。
「母さん、それは聞けない、ミラは俺の物にしたんだ」
俺は、とうとう言った、初めて、この母親に言い返せた。
「はぁ? なるほど、いっちょ前に男を気取っている訳かい。良いだろう、掛かって来な。どこまで言い張るのか見ものだね。ジェニを売る時にも駄々をこねない様にしないといけないねぇ。今日は久々に手足を折るくらいはしてやろうじゃないか、良い稼ぎを出したご褒美にさ」
そう言いながら、ハンマーのような鈍器を構え、来いと母さんは言って来た。
「お兄、私たちはどうする?」
助けて欲しい、だけど、これはミラだけじゃない。これから先もジェニを守る為にやらなければならないんだ。だから、と、俺は自分に言い聞かせジェニの問いに答える。
「見てろ。俺の、意思を示す。ここでビビったら、この先やっていけないだろ」
そう、言った瞬間、母さんが動いた。
「お前、調子に乗り過ぎてるね」
と、鈍器を横に薙ぎに振って来た。だが、重量物である鈍器はとても遅く、それを下がって避け、鞘を構えた。
「なんだい、それは、はっ、そんな覚悟でたて付いたのかい。ふざけてんのか?」
俺が剣を抜かない事に青筋を立て、本気で切れ始めた。だが、俺は、剣を抜いたら抜いたで大激怒は変わらないだろうと言いたい気持ちを抑え、震え声を必死に隠しながら答えた。
「いえ、ふざけてはいませんよ。いつも俺達がされて来た事を、身をもって知って貰おうと思いまして」
「黙れ、ぶちのめしてやる。このクソガキ」
そして、俺と母さんの親子喧嘩が始まった。
だが、レベル、装備、共にこちらが上であり、鈍器対鞘と言う事もあり、俺は難なく攻撃を避け、避ける度に肩と足を強打した。
「ぐぁっ、な……お前のレベルは30そこそこのはず、どうなってる」
と、膝を付き、肩を抑えながら問う。
「母さんの教えを守りましてね。言った事の倍、レベルを上げて来たんですよ」
そう告げながら鞘で叩く、母さんは蹲りながら声を荒げる。
「ふ、ふざけんじゃないよ。親にこんな真似をしてただで済むと思っているのかい」
俺は心底ビビりながらも鞘でもう一度叩き、言葉を返す。
「親の真似をしただけですよ、ああ、足りないから怒っているんですか? まだ、折檻の半分もやっていませんもんね、大丈夫です。嫌ですけど、倍以上はがんばりますので」
と、俺は青い顔をしながらも鞘を振り上げた。
「ま、待ちな、止めろと言ったんだよ」
そう、母さんが言った所で、俺と母さんの間にジェニが入った。
「ああ、いい子だねジェニ、この馬鹿をやっちまいな」
「お兄、もういいよ。私はもう、これでいい。お兄は、足りない?」
と、ジェニも青い顔をして、俺に問いかけた。
「俺は、母さんを叩きたくなんて無い。もう、優しくすら、して欲しくも無い」
俺は、何故か涙を流していた。いつかやり返してやりたいと、心底願っていたはずなのに……優しくされた思い出なんて無い。叩かれなかった日すらあまりない。だけど、俺は今まではどこかで願っていたのかも知れない、あり得ない事を、優しく俺の事を思ってくれる母さん、と言う存在を。
「うん、私も一緒。だから……もう、行こう」
と、ジェニは俺を支える様に抱き、町の外へと向かって歩いた。
「お前たち、許さないよ。後悔させてやるからね、覚悟して置けよぉ」
そう叫ぶ母親を、ミラとエミールだけが警戒していたが、俺とジェニは勝てない者にへりくだる所も知っている。だからあまり警戒をせず、門をくぐる時俺達は母さんに向かって言った。
「「さよなら」」と。
俺達は町を出て、最後にと、秘密基地に入り腰を下ろした。
「エミール、お前チクったな?」
と、さりげなく後を付いて来ていたエミールに、母さんに状況を話しただろう、と問いただした。
「だってよぉ、お前の母ちゃんマジ怖えんだもん。俺が何度殴られたと思ってんだよ、頑張って隠したんだぞ」
「……それについては同情するが、威張る事でもねぇ」
「まあ、私達でも、今回が初めてだもんね、同情だけはして上げる」
俺とジェニはため息を付きながら、仕方ないと言った。
「でも、何でエミールあんな所に居たの? ここに来ようとしてたの?」
ミラはあの場所にいたのは何故? とエミールに問いかける。
「いや、うちに来て、ちょっと来いってお前たちの母ちゃんに呼ばれてめっちゃしばかれた後、話したら、嘘だった時の為にって無理やり連れて来られたんだよ」
「「「……可哀そうに」」」
俺達三人は、とんだとばっちりを知らない所で受けていたエミールに同情の視線を再度向けた。そんな俺達に向かってエミールは、変な事を言い出した。
「いや、それはもう良いんだ。良くないけど……それよりも、俺も連れてってくれないか?」
「「「何故?」」」
「ハモんなよ、何で皆して言うんだよ、嫌なの? ……いや、それより俺もお前たちと居たいんだ。一人でここに居るより、大変でもまた三人で一緒に冒険したいんだよ」
「……三人?」
と、ジェニが鋭い視線をエミールに突き刺し、エミールは即座に訂正した。
「いや、違う。妹ちゃん、エル、ミラ、ほら、それで三人だ」
「じゃあ、エミールはいらないね」
エミールは固まっていた、下手に嘘を突こうとするからだ。まあ、それは良いが、ここでの生活すべてを捨てる事になる。それをちゃんと確認しようと、俺は聞いてみた。
「エミール、良いのか? 俺と仲違いしようとも、一度捨てたら、家はおろか町にも戻りにくくなるんだぞ」
俺の問いに我を取り戻したエミールは、言う。
「ああ、親には昨日言ってきた。冒険者になって一度町を出たいって」
はっ? そんな事言ってどうすんだ? と思ったが、一応聞いてみた。
「そしたら、なんて?」
「取り合えずボコボコにされたけど、強く慣れたら、恩返しに来いって。うちは一杯いるし、それも面白いかもしれないって。だから、連れてってほしい」
俺達三人は、唖然とした、そんなのありかよ、なんで許されるんだよと。
「なんか、こう甘やかされた奴みると、むかつくわね」
と、ジェニの言葉に俺とミラは苦笑いしながら同意した。
「じゃあ、エミール、俺達がパーティを組んだ時に言った言葉をもう一度言う。俺は言う事を聞かない奴はいらない、リーダーとしての言葉には従うと言うのなら連れて行ってもいい、誓えるか?」
「ああ、エルは今までふざけた命令とかしなかったしな。それがリーダーとしてって言う事なら俺は従うと誓う。だから俺も連れて行ってくれ」
「分かった、また一緒にやって行こう」
そうして、俺達のパーティが再結成された。
書き貯めた分は取り合えずここまでとなります。
ここからの更新は書きあがり次第になると思います。
読んで下さってありがとうございます。 オレオ