愛する女性はしょっぱい悪人
アイリーン(アイリ)視点
私は何をやってるんだろう。エミール君に言われる前から分かってた。助けたいなら人に強制させるんじゃなく自分でやればいい、何もしないで喚き散らすなんて身勝手すぎるのに。
どうしてエルはこんな最低な私を優しいなんて勘違いしたんだろう。私はただ、人が苦しいと自分も苦しく感じてしまう。だからいつもその苦しさを取り除こうとしてる。自分が苦しいのが嫌なんだけ。エル位なんでも分かるなら、それ位もう分かってるはずなのに。
私は、隣に座るエルに今も視線を向ける事さえ出来ずに、この、昨日の夜から感じている苦しい思いに耐え切れず、下を向いていた。
「なあ、アイリ、アイリはどうして俺なら皆を幸せに出来ると思ったんだ?」
そんなの決まってるよ。孤児院の皆にも笑顔が戻った。火傷の痕が治った先生だって、陰で嬉しくて泣いてた。私の事だって……
「エルなら、何でも出来るでしょ? だってエルは英雄だもん」
それは誰にも否定させたくない。
「違うよ。俺は英雄じゃない。魔法が得意なだけで、そこら辺の奴とあまり変わらないよ。他と変わって見えるのは俺には魔法と言う強い力が合って、無理をごり押しで通しているだけだから」
何でそんな言い方するの? エルは分かって無い、エルはもっと凄いんだから。
「そんな事無いもん。エルは先生を治してくれた」
「そうだね、元々使える魔法を頼まれて使ったからね」
そうだよ!凄い魔法を倒れるまで使ってくれた。
「エルは・・・孤児院の皆を救ってくれた」
「ああ、それも転移があってルディを連れて行ったからだね」
違うよ、それだってエルが居てくれたから。
「エルは、私が酷い事一杯言っても、来てくれた」
「ああ、そこだけは俺の力だ。どんなに俺に力が無くても俺はアイリを助けに行くよ」
嬉しい。嬉しいけど、そこだけじゃ無いよ。どうして分かってくれないの。
「エルは、皆を救える英雄なんだよ?」
「ああ、そうか。俺が自分を良く見せようとばかりしたから、アイリは俺を英雄としか見れなくなっちゃったんだな。ごめんな」
「そうじゃ無いよ! 見せようとしたんじゃない。皆の為に頑張ってくれたもん」
「いや、皆の為じゃないよ。俺は知らない奴が不幸になろうとも興味ない。俺が助けたいのは絆が出来た相手だけだ。アイリ達の先生を治したのは頼んで来たケイの為。孤児院の事はお前達三人の為だ。知り合っても居ない孤児院の子供を助けてやりたいとは思って無かったよ」
……本気で言ってるの?
「本当に? 冗談……だよね?」
「ああ、俺の中の常識に照らし合わせると、当たり前の話だよ」
何でそんな真面目な顔で……嘘じゃ無いの?
「じゃあ、私のこの想いも幻想なの?」
…………
「そう、だな。英雄に関してはそうだよ。もっと俺の事をちゃんと見て欲しい」
そっか、私はエルを思い違いをしてたんだ。エルは自分を良く見せたかっただけで、本当は知らない人なんてどうでも良かったんだ。エルと一緒に居れば、周りの雰囲気から強制的に味遭わされる不快感が幸せに変わると思ってたのに……
あ、そうか、私はエルを利用していたんだ。だから一緒に居たいって思ったのかな、何日か居ないだけで物凄い不安だったのも? あはは、もう、本当に私って最低。ここまで酷い事を無自覚でするなんて、私は根っからの悪人だったんだ……
「そっか、じゃあもうここに居てもしょうがないね、私、帰るね」
エルバート視点
ちょっと待て、どうしてこうなった。いやいやいやいや、いやぁぁぁぁぁあああ。
「はぁ、まあ、取り合えず落ち着け。もし本気で帰ると言うなら、涙を拭いてちゃんと寝ろ」
はぁ、何言出しちゃってんの? 落ち着くのお前だよ。帰さないよ? ダメだよ?
「ヤダよ。また叫び声が響くもん」
そんな言い訳するほど……いや、待てよ。優しすぎて周りに影響されやすいアイリにはあの叫び声は相当しんどかったんじゃ?
「あ~、もしかしてだけど、それが原因か? それで、皆を幸せにして欲しかったのか?」
俺は、それが理由であって欲しい、そう願いながら聞いた。
「うん。自分でもさっき気が付いた、私はエルをずっと利用してたみたい。辛い思いしたく無くてエルに強制してたなんて最低だよね。でも。安心して、ちゃんと出て行くから」
ああ、なんだ。そう言う事だったのか。と、安心した俺は、強気に口を開く。
「そうか、利用してたのか。じゃあ、俺も当分利用させて貰わないとな。もちろんいいよな?」
俺は間違っても断らせない為に、アイリの性格を利用し、少し冷たい表情で俺にはその権利があると強調した。
「え? それが……エルの素なんだね。分かったよ。どうしたいの」
違う! と言いたい所だけど、こういう策を弄するのも俺か……
「そうだな、前に居た屋敷はまだ引き払って無いから、落ち着くまでそっちに移る。だから当分は俺のそばにいろ。本当の俺をちゃんと見てくれ」
そう、それなら辛い思いをする必要は無い。そもそも発狂した人間の心底苦しそうな声を夜な夜な聞かされては普通の人だっておかしくなると思う。これはさけて通って良い道だろう。
「なんで? こんな私じゃエルとは釣り合わないよ?」
そう言う言い方をするって事は、釣り合ってれば希望があるって思って良いんだよな?
「いやいや、お前の想像してたのは幻想だったろ?釣り合うって」
そう、英雄云々は幻想だっただろ?さっき打ち砕いてやったじゃん。だから遠ざける様な事言わないでくれ……
「へ? いや、可笑しいよ!」
アイリは困惑した表情で、首を傾げ、納得がいかなそうにしている。まだ、ダメなのか……
「そうだな、まったくアイリは可笑しいな。何か問題あるか?」
「あるはずだよ。……私は、悪人だし。」
……? 善人の間違いだろ?
「はぁ? なんでそう思った?」
「今の私を見て、エルは悪人だと思わないの?」
小悪魔ではあるかも知れないが、いやいや、今はそう言う空気じゃないだろ。
「いやいや、アイリが悪人とか、どう頑張っても無理だろ。悪人ってのはな、ひどい事を平気でするんだぞ、知ってるか?」
「私、そんなに馬鹿じゃないよ。馬鹿なのはエルでしょ? 私エルの事利用してたんだよ。自分が楽になる為に」
あはは、アイリ君、君の悪人の定義は随分低い所にあるのだね。その程度で俺を馬鹿呼ばわりとは片腹痛いわ!
「い~や、馬鹿だな。苦しかったんだろ? お前は、俺に助けてって叫んでただけだ。俺は気が付いてやれなかったのも悪いな。まあ、もっとちゃんと本心を言葉にしろ。とも、思うけどな」
俺は本心を言葉にしろ。という部分を強調して伝えた。
「ち、ちがっ……あれ? ……違わない。けど、エルは、都合の悪い事を口にしないであんな事を言っていた私をズルいとか、思わないの?」
「いや、思うよ? この魔性の女め、だけど惚れた弱みだ、ずっと一緒に居て下さい。と言っている」
「ちゃ、茶化さないで!」
「茶化してない。本心を言わないで違う理由を付けるのはズルいと思う。まあ、俺もやるけど、時と場合を選んでやるしな。けど、それを踏まえても好きだから一緒に居て欲しいと心から思ってる」
って言っても良くはないけど、そこまで酷い事じゃないんだけどなぁ。結局アイリがやった事と言えば、出来そうに無い事を出来ると勘違いして『やってよ』と、喚き散らしただけである。流石にめんどくせぇとは思うけど。
「ど、どうしてそこまで想ってくれるの? 私、こんななのに」
「理由は分からん。けど、生まれ直しても記憶が無くても、俺はアイリを好きになった。もう運命って事で良いんじゃ無いか?」
「う、運命?」
そうだ、運命だ、だからもう俺元から去りたいみたいな事言うのは止めて下さいお願いします。
「ああ、嫌か?」
なんて聞き方してんだよ、嫌ですって言われたらどうすんだよ。
「嫌じゃ、無い。けどやっぱり信じられないよ。どうして許してくれるの?」
おお、マジで良かった。別に最初から怒ってすらいないっての。心配させられたけど。
「うーん、アイリは俺が、そう言うズルをしたら一発で嫌いになるのか?」
うん、こういう時は、立場を入れ替えて考えて貰えば早いだろ。さあ、普通の答えを言うんだ!
「……ならないと思う。多分」
ほっ。良かった、第二関門クリア。
「要するに今も俺が好きなのか?」
そう、この言葉を言う為の布石だったのだ。ほらっ!嫌いになって無いならどうなんだ!?
「う……うん」
「俺も大好きだぁ、アイリーン」
俺は、アイリをベットに押し倒して、ほっぺにキスをした。
「わっ、あれ? それだけ?」
ん? 全身撫でまわすのは嫌がってただろ? それに俺、今無限賢者タイムだし。ああ、涙が出そう。
「説明しただろ。俺は今、世界で一番無害な男。言わせんな自殺したくなる」
「ええええ? ダメだよぉ、もう言わないからそんな事言わないで」
「いや、この称号取っ払ったら、言ってくれ。是非頼む」
「もう、エッチ」
そして俺は、衝動が起きない事に焦燥感を感じながらも、アイリを寝かしつけた。




