絶叫が響く夜が明けて。
俺は、王子を送った後、全員を回収する為に待ち合わせの場所にテレポートした。
「「「「「おっそーい」」」」
と、もうすでに全員集まっていた様で、いきなりダメ出しをされた。
「済まない。ってそんなに遅く無いだろ? 日が暮れだしたばかりじゃ無いか」
そう、普通に考えたら丁度いい時間なはずなのだ。
「でも、私達とっくに用事終わってたし、ずーーっと待ってたんだよぉ」
むう、そうか、適当に迎えに行けばいいなんて考えが宜しく無かったのか。
「はぁ、今度からはきっちり時間を決めるとして、結果はどうだったんだ?」
と、皆を見渡すと、ケイとジェニの後ろには、子供からお年寄りまで、様々な人が、座っている。とは言え、大半はやはり子供か。んと、60人くらいか? 村人より多いな。
「あ~お兄? 取り合えず、移動しよ」
「私からもお願い、一刻も早く治してあげて欲しいの」
ケイとジェニから懇願する様な視線を向けられてようやく気が付いた。一様に死んだ様な目をして、人族の町に居る人よりも汚い。そして、ほぼ全員が手や足が無い。本人たちはもうどうでも良いという雰囲気を纏っているが、やはり人目を引き、哀れみや、見下す視線にさらされ続けている。
「ああ、そうだな。テレポート」
俺は、屋敷の裏手にある、人目に付きにくい場所に全員を転移させた。全員で見ていてもしょうがないので、ジェニとケイを残して皆には屋敷に戻って貰った。そして、魔法で強制的に洗浄して、俺は一人一人にフルヒーリングを掛けて行った。だが、8人目で魔力が底を尽きた。
「ありゃ、もうMP切れかよ、意外と時間が掛かりそうだな」
「奇跡の魔法を一度にそれだけ使えれば十分よ」
「まったくだわ、でもエル、ありがとね」
ジェニとケイは、笑顔でそう告げた。回復を受けた者達は、現状が受け入れられていない様だ。それもそうか。まあそれより、隷属の解放をやっとかないとだな、時間が経てば経つほど恨まれる事になるんだし。
「えっと、ケイが隷属権を受けたんだよな?」
「ううん、二人でよ? 半々。」
「あ、そうなの?まあ、じゃあ説明をしてくれ、解放してあげよう」
「お兄、よろしく。私そう言うの苦手」
いや、説明とか得意だろ? あ~でも人前に立つのは嫌がってたっけ?
「あ~分かったよ、んじゃ、お前らそのままでいい、聞いてくれ。俺はこの村の領主、エルバートだ。今日ここに連れて来たのは、村の住人にならないか? と勧誘の為だ。まあ、何を言ってるのかまだ分からないと思うがそのまま聞いてくれ」
彼らは視線こそこちらに向けてはいるが、聞こえているのか分からない程に反応がない。そんな反応を示す者は、何度か見た事ある。希望を持つ事すら諦めた者達の反応だ。
「これからお前たちの体を魔法で直す。隷属も解く。取り合えず全員に簡単な仕事を与えるから、それをこなせば衣食住も面倒を当分見てやる。ここまでで質問がある奴は居るか?」
やっぱりだんまりか、まあ意味わからんよな。もしかしたら自分も治療して貰えるかも? 位には思うかも知れないがそこから何をさせられるのだと言う恐怖の方が大きいだろう。と、そんな事を考えながら視線を向けていると。
「どうして、ですか?」
一人の少年が口を開いた。おお、根性ありそうな奴だな。
「ああ、それはな、この村を大きく見せたいからだ。取り合えず当分の間、2年程度で良い。この村で普通の村人として、一人の人として暮らして欲しい。良く分からないとは思うが、どうしても人をこの村に呼びたかったから金の力で無理やりに人を呼んだと思って置いてくれればいい」
俺が、説明を終えてもやはり、反応は無い。聞いて来た少年ですら、少し首を傾げた程度だ。だが、その少年のおかげか、もう一人、問いかける声を上げた者が出て来た。先ほどフルヒーリングを掛けた、老人が疑問を投げかけた。
「私みたいな老人などを治して何をさせたいのでしょうか。もう何の価値も無いかと」
「爺さんもう目は悪いのか?」
「はい、あまり……あっ、いえ、お陰様で、今は……」
おお、フルヒーリングはそんな所まで治療してくれるのか。MPをとんでもなく食うだけはあるな。
「そうか、じゃあたとえ話をするぞ。今ここに見張り台を作り、村の安全の為に見張りをして貰う。三人交代位で、一人8時間だ。爺さんはそれ位も出来なそうか?」
「ただ、見張りをするだけですか?」
「ああ、この村でもいずれ誰かがやらなければいけない事だ。それも立派な仕事、それをやる者の衣食住くらいは面倒みてやるさ。もちろん給料も少しは出すぞ」
「奴隷が言って良い事ではありませんが。何故、その様な……私には貴方様が求めている事がさっぱり……」
「分からないだろうな。俺も逆の立場だったら奴隷のままこき使わない事に疑問を覚えるだろう。だが、色々考えて行けば、意味がある行為なんだ。ただの村人をやって貰うと言う事が。ああ、それと自由に発言して良いからな? 隷属は解くと決めている。だけど隷属を解くと一時的に感情が暴走するだろ? だから説明が終わったら解くから、今は今後の為に、色々聞いとけ。信じられない奴も一応念の為程度で良いから質問してみろ。」
彼らはやっと少し動きを見せた。うつろな目で少し周りを伺うように視線を動かせた。そして、ずっと険悪な表情をしていた少女が口を開いた。
「解放して、逃げるとは思わないの?」
どのくらいあのごみ溜めのような場所に浸かってたのかは知らないが、相当心が強いんだろうな。唯一死んでいない目線を向けて来た。めっちゃガンつけてるけど……
「良い質問だ。逃げてもいいぞ? いや、違うな。解放するんだ、出て行って良いんだぞ? まあ、面倒は見てやらないけどな」
「そう言って、逃げた奴を殺して楽しむの?」
ああ、そんな遊びをしている貴族が居たらしいな。昔、町の噂になってたっけ。こいつ、ウィシュタルから来たんじゃ無いだろうな。
「逆だな。残ってくれた奴らと、楽しく暮らしていくんだ。恩と感じて村の為にと頑張ってくれれば、俺も生活支援もしてやるのが当然だと思える。そうやって輪を大きくしていきたいんだよ。出て行きたい奴は出て行けばいい。まあ、残った方が良い暮らしは出来るし、幸せも掴みやすいだろうがな」
「本当に、そんな言葉信じると思うの?」
むう、随分感情的になってるな、はぁ、理解はできるけど、そんな目を向けられるのは嫌なんだがな……
「思ってねーよ。だから、疑ってても良いって言ってるだろ。実際にやってみてホントか確かめればいい。お前らはこれ以上ないほど底辺を味わったろ? 俺もわりと近い位の、底辺に居たしな。この話を聞いただけで信じる方が可笑しい事は理解してる。」
「近い位ってどのくらい?」
ほほう、鼻で笑うか。良いだろう、不幸自慢は割と自信あるんだ。勝てるとは思って無いが。
「そうだな、遊びで骨折られたり、焼かれたりはしてた。回数は20回以上はやられたな、激痛を与えるのが好きだったんだろうな。まあ、奴隷だったんじゃなくて親にだけどな。お前達よりはマシかも知れんが、裸のような恰好で道端で寝るのが当たり前の生活はしていたな」
と、告げた瞬間彼女の表情が初めて変わった、もしかしたら敵では無いのかも知れない。位に感じた様子。
「私達に同情したの?」
そんな切ない目すんなよ。いや、それは怒ってる目なの? むう……無表情でやや冷たい様な、悲しそうな……ジェニがしそうな目をしてるな。言えないが。
「いや、利害の一致だ。俺も得するお前たちも得する。だから出て行っても良いって軽く言えるんだ。村に居たいと思わせる自信が結構あるし。でも、正直に言わせて貰えば可哀そうだとは思う。まあ、そう思われるのが嫌なら、環境は整えてやるから、まともな生活を送る事だな」
「……」
少女は、視線を下に向け、口を閉ざした。今のやり取りを聞いていて、安心した者が多かった様で、俺はいきなり質問攻めにあう事になった。俺は、話を続行したまま、パーティー会場で使っていたであろう広間に転移で連れて行き、彼等が落ち着くまで言葉を交わした。
そして食事をとらせたその後、フルヒーリングで動ける様になった者だけ拘束させて貰い、隷属の解除行った。やはり、酷い有様だった。この日屋敷には狂ったような叫び声が堪えず響き続けた。
そして、俺達は寝られない夜を明かし、示し合わせたでも無いのに、全員が同時に食事で使っている部屋の前で顔を合わせた。
「あぁ……おはよぉ」
「うん、おはよぉ」
と、皆うつろな目で朝の挨拶を交わし、席に着いた。
「あ~、凄まじかったな」
「だねぇ。今は疲れて寝てるのかな?」
エミールとミラは、割と平気そうだ。酷そうなのはアイリだな、寝不足と言うだけじゃない、あれは泣いた後だろう。
「あ、あ~皆、ちょっといいか?」
「お兄、誰も会話してないんだから、断り入れなくても……目立ちたがり?」
……寝不足だからってひどい事言うのは止めようね。俺も寝不足なんだぞ……
「……真面目に聞いてくれと言う前振りだ。俺は、明日、彼らに言おうと思う」
「な、なんて?」
アイリは泣きそうな声で、続きを聞きたそうに言った。
「復讐しに行っても良いぞ、って」
「なっなんでわざわざ言う必要があるの? 煽る意味が分かんないよ」
アイリはかすれ声のまま、声を張り上げ、その理由を求めた。
「だよな。でもさ、俺は気持ちが分かるんだよ。痛いほどに。俺の前世と同じ様な思いなら、ずっとお預けくらったままじゃ、頭がいかれちゃうと思う。死んでも成したい事ってあるんだよ」
「ん~エルは、昨日出て行っても良いって言ってあるんだろ。私もアイリと同じに思うぞ。煽る必要あるのか?」
そう、エティに言われて、真面に言葉を選べてない事に気が付いた。確かにこれだけじゃ伝わらないよな。
「ああ。悪い、言い方が悪かった。聞いて欲しい。俺は、張り詰めた思いを緩和させる為に、復讐を許すと伝え、村で力を付けろと提案する。それで関わりを皆と持つ様に仕向け、時が経っても命を掛けてでも、と思う奴には好きにさせようと思う」
と、俺が説明を終えると、皆、考え始めた。ジェニ、ローズ、ミラ、エミールは、すぐに納得し、顔を上げたが、他の者達は、まだ試行中の様だ。そんな中、ローズが口を開く。
「そうですね、それが良いと思います。流石はご主人様です」
「ど、どうしたのローズさん、話聞いてた? 復讐に生きたって良くないよ」
「アイリさん、良い悪いでは計れない事もあるんです。私も悪魔と思われようとも殺したい男が居ましたし。いえ、今でもそう思っています」
「ああ、俺はその時が来ちゃった時の為に鍛える事を忘れない。置いて行くなよ?」
「エミール……でも、犯罪行為よ? 奴隷堕ち確定なのよ?」
「ああ、大丈夫だ。そうならない様にすればいい。俺は攻撃担当、ローズは考えるの担当、最悪の最悪はエルを頼る」
「で、でも……ご主人様まで巻き込むのは……やっぱりエミールの事も……」
「ん~と、おいっ、そこの世界作ってる二人!」
「ん? おお、悪い」
「申し訳ございません」
「ああ、気を付けろ。後、事を起こすなら相談しろ。止めろなんて言わないのは分かっただろう?」
そう、告げるとエミールは両手をすり合わせて『すまん』と言い。ローズは深く頭を下げた。
「それとアイリ、俺は正義の味方とかじゃない、どっちかって言うとズルい方の人間だ。減滅したか?」
と、さっきから、というか前からか、優し過ぎたせいで、ずれてしまっているアイリに、声を掛けた。
「うん、した。嘘だって言って欲しい」
「ぐはっ……でも、アイリには嘘はつきたくない」
「嘘つき! エルは出来る癖に、エルなら皆を幸せにする事出来るでしょ!?」
「いや、本気で無理だよ?」
俺はアイリに真剣な視線を返し、事実を告げた。
「まあ、当然ね。お兄は私を幸せに出来てない」
待て待て、マジな話してんだけど。
「もう少し成長しなさい。そうね、私もまだ幸せとは言えないわね」
おーい、お前も乗っかるのかよ、ケイ!
「たくっまたかよ、私でも分かるぞ?そんな事狙って出来る訳ねぇだろ。私は結構幸せだぞ?」
あ~これは、あかん奴や。でも今俺が止めた所でなぁ。
「流石に厳しいよねぇ、近い事なら出来るよ? 私もぉ、エル大好きっ」
おい!何で肯定すんだよ、ややこしくなるだろ。……俺もだけどさ。
「ほらっ! 近い事なら出来るんじゃない! やってよっ!」
……どうしよう。アイリが病んでる。目がちょっとやばい事になってるな。この血走った眼は寝不足だからと思うのは現実逃避だよなぁ。こんな時はどうしたら良いんだろう。最近のアイリは俺を超人か何かだと思ってるんだよな。そして立ち上がるエミール、何故立ち上がった?
「え~っと、アイリって呼んで良いのか分かんねぇけど、エルはその行動してると思うぞ? それが今の話し合いのはずだぞ? それと、わりぃけど、エルを良いように使おうとするの止めろよな。金でも力でも無償で出すのが当たり前みたいにいわれっと昔馴染みとして腹立つわ」
エミール君? いや、気持ちは嬉しいけどね? 今アイリ追い詰めるのは止めて欲しいんだけど……って、俺が立ち止まってるのが悪いんだよな。
「あ~、アイリ、二人きりで話し合いしよう。テレポート」
俺は、アイリと言うより、皆に聞かせる様に告げて、アイリを強制的に俺の部屋に転移させた。そして、昔、俺を根気良く看病してくれた様に、アイリの為に、すべてをキャンセルしてでも時間を使おうと決めた。




