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代償

 

 そして交代の睡眠を取り終わった俺達はミラの隷属契約をしに行こうと思い、移動し始めた。


「うーん、やっぱりこれ売らなくちゃだめか……」


「まあ、隷属契約もお金かかるだろうしね、それにそんな物々しい装備止めてよ」


 と、全身鎧のフルプレートメイルを売る事を渋っていると、ジェニに却下された。カッコいいのに……


 何だかんだ愚痴りながらも町に着いた俺達は足早に防具屋に行き、大銀貨9枚で買い取ってもらい、その足で奴隷商の所に向かった。


「ちっ、イライザの所のガキとその仲間じゃ無いか、何しに来やがった」


 むっ、俺は知らないのに向こうは知っている、しかも母さんの知り合いか。厄介な……


「隷属契約をしたいんだ、お金も用意したし領主様のサイン入りの通知書もあるんだ。お願い出来るかな?」


「ああ、なるほど、そういう事か。じゃあ、いくら出すんだ?」


 ……くそっ、足元を見やがって。


「大銀貨で3枚、それ以上は出せない。すぐに返答が欲しい。」


「……上手い事、微妙な額ついて来やがるな。領主の通知があるんじゃ色々面倒だし、良いぜ請け負ってやる」


 危なかったのか。ただ、兄さんに渡す額の残りを出しただけなんだが。


「こっちも面倒事はごめんだ、すぐ済ませるぞ。付いて来ながら、奴隷の証を付ける場所決めておきな」


 彼はお金を受け取ると、急かしながら準備を始めた。


「目立たない所ならどこでもいいんだ、お勧めはあるかな?」


「まあ、完全に服に隠れるが見せやすい場所が普通だな、背中とか足辺りとかな。よし、これに魔力を込めて付ける場所を触れ。相手が拒否しない限りはこれで終わる。拒否しても方法はあるがな」


「分かった」


 と、俺はミラの背中を触り魔力を込めた。すると、鉄の板に書いてあった魔法陣がそのまま、彼女の背中にも残り、反映された。


「これで終わりだ、とっとと出てけ、店を荒らされちゃたまんねぇからな」


「奴隷の扱い方とかくらい教えてよ」


「自分の名前、相手の名前、後は命令と言う言葉を付けると行動が強制出来る、以上だ。後は自分で考えな。ほら、今すぐ出てけ」


 と、俺はこれ以上は危険な空気を感じ、即座に店を出て行った。


「後はミラの家にもう一度行けば、取りあえずは完了だな。まあ、金を稼ぐ方法がさっぱりだが」


「相手はエミールだし、気楽に行こうよ、10年後とかさ。」


 と、ジェニはまだ一度しか会っていないのに気にする事は無いと言い切り、とてもいい笑顔をした。


 そして、俺達はミラの家に着いたがミラの父親はおらず、母親に払う気がなさそうなので隷属は済ませた事、手を出すような真似は期限まではしない事を告げ、俺達は再び足早に町を出る為に移動し始めた。


「これで、彼女の父親に話が通れば一安心かな。次は六日後に行くんだけど、それまでに60レベル近くにはしておきたいな」


 と言うと、ミラが疑問を投げかけた


「どうして60レベル位なんですか?ご主人様」


「うちの母さんのレベルが54くらいだからだ。流石に出て来てもおかしく無いからな」


 俺とジェニは青い顔をして、狩りを早くしなければと言う衝動に駆られる。


 そして、もう少しで町を出ようかと言う時、一人の男性がすれ違い様にぶつかって来た。 


「もう、何あれ、お兄、お金掏られてない?」


 と、言いながら、ジェニがこちらに振り返り、俺はジェニの視線の前を、通り過ぎる様にうつぶせに倒れ、刺された包丁であろう物が背中から突き出していた。そして俺の意識は途切れた。


「え?何、これ……ヤダ、お兄ぃ、しっかりしてよ」


 ジェニはうつぶせに倒れていた彼を抱き上げ、必死に声を掛けている。


そして、ミラは抱き上げられている彼の懐をまさぐり、兄の報酬にするはずであった大銀貨6枚を持ち走り去った。


「何で、何でよ。何で被害者のお兄がこんな目に合わなきゃいけないのよ」


 ジェニは泣きながら彼に顔をうずめ、必死にこんなのは嫌だと嘆いた。


 しばらく、ジェニの鳴き声が響き渡り続けていた、その時、金を奪って走り去ったはずのミラが、再び彼の懐に飛びつき、装備を脱がそうとしていた。そんなミラを見た、ジェニが激怒しミラを叩くように振り払った。


「触るな、この泥棒が、私はあんたとあんたの家族を許さない、絶対に殺してやる」


 ミラは吹き飛ばされた。何故か体を丸めながら転がり、起き上がっても何かを守る様に両手で胸に隠し、再び向かって来た。そして、ジェニの攻撃が届かないラインで止まり、隠していた物を両手で捧げる様に突き出した。


「今すぐ刺さってる物を抜いてこれを飲ませて。まだ、間に合うはず、だから急いで、お願いします」


 ジェニは、何故ミラが走り去ったのかに気が付いた。だが今は……と、彼の装備を脱がし衣服を破り捨て包丁を抜き、ミラが差し出した物を彼の喉の奥へと無理やり流し込んだ。


 すると、傷口がふさがった。だが彼は目を覚まさず、助かったかどうかも分からない。ジェニは口元に耳を当て、ミラは胸に耳を当て、彼が生きている事を必死に確認した。


「良かった、間に合った。良かったぁ」


 と、ミラは安堵し、力が抜け、その場で膝を付いた。


「何ぼさっとしてるのよ。急いで安全な場所まで、お兄を運ぶのよ」


 ジェニはまだ終わっていない。だから気を抜くなと告げ、彼を背負いながらその場を後にした。そうして、彼を担ぎながら、何とか秘密基地まで運び込んだ二人は、安堵し、言葉を交わした。


「ミラ、疑ってごめん、ありがとう」


「ううん、疑われるのは当たり前だよ。信じて使ってくれてありがとう」


 ジェニは信じて使った訳では無い事に、ただ、それしか希望が残されていなかっただけだと言う事に、罪悪感を覚え、訂正する。


「違う。私、信じて何ていなかった。方法がもう無かったから、どうにも出来なかったから」


「けど、私なら敵の渡した物は使うの躊躇しちゃうから。嬉しかったの」


 ジェニはあの状況でそれは無いだろうと、思いつつも、ミラの言葉を受け入れた。


「そっか、ねぇミラ、どうしてお兄に対して悲しそうに笑うの?」


「……言いたく無い」


「ふーん、隠し事? また、騙すような真似してるんだ?」


 ミラは、悲痛な顔をしてうつむいた。


「あんたが、お兄を大切に想って居る事は分かった。けど、やっぱり隠し事されるのは気に知らない」


「じゃあ、ジェニちゃんが、黙って居てもいいって思えたら、言わないで欲しい」


「まあ、そう思える事ならもちろんいいけど……ちゃん付けって……」


「えっとね、これ、渡すね」


 と、ミラはお金が詰まった袋を、ジェニに渡した。


「は? どう言う事? 金貨まで入ってるじゃない」


 ジェニは目を見開き、ミラを見つめた。


「んっと、私はね、こうなる事に賭けて事を起こしたの。って言えば分かるかな?」


「はっ? あんた、親権の話とか知ってたわけ?」


「ううん、可能性があるだけでも良かったんだ。どうせ売られるならーって」


「ああ、その気持ちは分かる、けど可能性低すぎでしょ。でも、あれ? 質問の答えになって無くない?」


「え~なってるよぉ~。騙して……騙し続けてる好きな人に優しくして貰うのって、嬉しいけど悲しいんだよ」


「そういう事か、分かった。お兄を救ってくれた事にかけて秘密にするって誓う」


「まあ、言わないで欲しいって言うなら、俺も言わないけど。って何故俺はここに居るんだ?」


 俺は、少し前から意識が戻っていたが、二人が打ち解けている雰囲気だったので様子を見ていた。


「エル!」「お兄!」


 二人は、俺が起き上がったのを見た瞬間に飛びついて来た。


「「良かったぁ、本当に良かったぁ」」


 と、二人は声を揃えてひしっと俺にしがみついた。


「おい、ミラっ、この馬鹿たれ」


 俺はそう言いながら、ミラの頭を軽く叩いた。


「イタッ、ごめんなさいぃ。でも何で?」


 ミラは謝りながらも、分かっておらず疑問を投げかけた。


「何で相談も無しに計画しやがった。最初からすべて打ち明けていればこんなに金がかかる事も無かったってのに……」


 そう、奴隷にしなくても俺達と共に逃げるだけでも良かったのだ。そうすれば、エミールと兄さんに払う事は無かった。ああ、ジェニにもだっけか。


「ええ~、聞いてたの!? 内緒だって言ったのにぃ」


「ねぇお兄、ミラってさ、もしかして物凄い馬鹿?」


「ああ、自慢の馬鹿だ」


「なんでよう、一生懸命考えたんだからぁ。馬鹿にしないでよう、ちゃんと成功したんだからね」


 と、奇跡の成功をちゃんと成功したと自慢げに語り、馬鹿じゃないと、ミラは言い張った。


「まあ、その事は一旦置いておくとしてだ、俺はどうしてここで寝てたんだ? さっきまで……ええと、ミラの隷属をしに行こうとしてたのか? エミールとの話が付いたところまでは覚えているんだが」


 そう、俺は記憶が少し曖昧だ、どうしてここで寝てたのかも分からず疑問を投げかけた。


「ふふん、お馬鹿さんはエルだったわね、ついさっきの事まで覚えていられないなんて」


 そうミラが言った瞬間、俺はミラのほっぺたをひっぱたいた。ミラは即座に涙目になり、泣くのを堪えながら抗議してきた。


「どうして叩いたのよう、酷いじゃない」


 と、ミラが泣きそうな顔で言った瞬間、ジェニが笑い出した。


「あははは、何この子、おもしろっ! 兄さんが甘い訳が分かったわ」


「そうだろ? ミラはな、俺の心の癒しなんだ」


 俺がそう言うと、ミラは泣き顔のまま、茹で上がった様に赤くなり、呟いた。


「私が、心の癒し……なの? ……あれ? でも叩かれる事が? うーん、そう言う趣味の人がいるって聞いた事がある気がする。でもぉ叩かれるのはぁ……でもぉ」


 ミラは赤くなったり青くなったりと、忙しそうに思考を回していた。


「ん~、でも若干うざい」


「まあ、完璧なんて求めるなよ。こいつはこれでいいんだ」


 あれ? なんか忘れてる気が……


「ああ、それより記憶が曖昧なんだよ、どうなってんだ?」


「はぁ、馬鹿なお兄。ええと、エミールと別れた後でって事なら、隷属を終えてミラの家に行って、母親に要件を告げて町を出ようとしてる時に、お兄は通りすがりのおっさんに包丁でお腹を刺されたの」


 はっ? 刺された? と、俺はお腹を確認すると、深い傷跡が残っておりかなりの重傷だった事が見て取れる。それに衣服がボロボロじゃねーか。と言っても、元々ぼろい布を羽織ってるだけだが……


「忠告を貰ったのに、まんまと兄さんの言った通りになっちまったって事か。」


「そういう事。これからどうする?」


「ここに居るのも危険だな、と言うかそれなら、俺達はレベル上げをしなければいけないんじゃないか?」


「そうね、その為に町を出ようとしてた訳だし。じゃあ、このまま狩りに行く? 大丈夫?」


「無理しちゃダメだよ、エルは重傷だったんだから。おばあちゃんがこういう時は血が足りないんだって言ってた」


 ジェニとミラは心配そうにこちらを見て、やれるのかと問いて来た。


「言って置くが、ここに居るより狩りをしていた方が安全だぞ? ここは町中と変わらないからな」


 と、通り魔がまた来ても全然可笑しくない状況だと告げ、俺達はラピッドベビーの森に入って行った。


 俺達は順調に狩り続けた。今の所、一番レベルの低いミラを中心にして上げてやった。そしてある程度レベル差が僅差になって来た頃、俺達は狩場をどこに変えるかを検討していた。


 ラピッドベビーの森の中で倒れた大木を椅子代わりに腰を下ろし、俺達は談話を始めた。


「さて、どうするか、良さそうな選択肢は三つくらいあるな。蜘蛛か、カエルか、ネズミか。」


「どれも微妙。ねぇお兄、レベルとかやりやすさのお勧めって無いの?」


「んー、と言っても俺も行ったことは無いしな、レベル的になら平均30のネズミかな。食えるし」


 蜘蛛は確か平均25前後、カエルは平均40くらい、俺達の今の平均レベルは33、安全に行くなら蜘蛛かネズミ、そして何んと言っても、ネズミは食べられる。


「食べられるんだ? ネズミって」


 と、ジェニは問う、見た事がない俺達は、想像を膨らませ、俺は聞いた情報を伝えた。


「ああ、結構いけるって聞いたぞ。まあ上位種とかは毒持ってるからダメらしいけど、と言っても上位種は100レベル以上あるから関係ないけどな」


「じゃあ、それ食べに行こうよ、美味しい物食べたい」


 ミラは結構いける、と言う言葉を聞いて乗り気になったようだ。


「まあ、レベルで考えたらそこ一択よね。どのくらいかかるの?」


「ん~あー、どうだろうな、地図に記してある距離の感じだと2時間くらいだと思うけど」


 俺は、色々と書き込んであるボロボロの地図を広げ、ここらへんだと指を差す。


「ああ、確かにソルジャーアントの森より距離的には全然近いのね、良かった」


 ジェニは移動にそこまで掛からない事に安堵した様だ。二人の気持ちが決まったので、全員で移動を開始した。二時間たった頃、予想外の事に俺自身が愚痴を吐いた。


「まさか……こんな山道だったなんて。はぁ、はぁ……めっちゃ歩きづらいんだが」


「もう、お兄は、方角で山がある事は分かってたでしょ。行くしか無いんだから、黙って歩く」


「こういうのなんて言うんだっけ? ピクニック? お山でご馳走食べに行くの」


 二人は何故か余裕そうに山を登りながら、若干楽しそうにしている。


「お前たち、余裕なのか? 結構しんどいんだが……俺が一番レベル高いよな?」


「あ~あれじゃない? さっきミラが言ってた、血が足りないとか」


 確かに俺の服は……いや、ぼろ布は大量の血でかぴかぴになっているが……


「そうか、血が足りないとこんな風になるのか……休もう?」


「分かった、じゃあミラがおんぶしてあげる、ご主人様だし。」


 と、言われた瞬間、俺の中の漢が告げた。それをしてはならないと。


「断る、絶対にだ」


「はぁ、お兄? レベル上げるのは必要でしょ、理由を思い出して。どっちがいい?」


 そうジェニに言われた瞬間、俺は思い出した。あの、絶対的存在を。どんな時でも俺達に苦痛を強いる悪魔のような存在を。


「ジェニ、ありがとう。黙って歩くよ」


 と、会話をしている間に、目的地は目と鼻の先まで来ていた。


「やっと着いた。よし、始める前に少し休憩をくれ。この状態だと戦闘するのはちょっと不味い」


「はーい。じゃあ、私が膝枕してあげるから、ゆっくり休んでいいよぉ」


 と、ミラが言うとジェニは無言でミラの頬をひっぱたき、自分の膝を叩いて『はい、お兄』と言った。またうつむいて涙目になっているミラを見て、俺はもうミラを叩くのは止めようと心に誓った。


「ジェニちゃん、どうして叩くの、凄い痛かった」


 ミラは頬をさすりながら、少し復活してきたミラが問う。


「奴隷ってそういう物なのよ、ミラが選んだのはそういう道なの」


 確かに、奴隷とはそういう扱いを当然の様に受ける者ではある。


「でも、私のご主人様はエルでジェニちゃんじゃ無いよ?」


 と、ミラは当然の疑問を投げかけた。


「はは、確かにそうだ。ジェニ、ミラは俺のだ」


 そう、俺が告げた瞬間、俺の枕だった者が急に無くなり、俺は頭を打った。


「もう、お兄には膝枕してあげない。ミラで我慢するのね」


 そう告げ、こちらに来ようと立ち上がったミラを俺は無言で強制的に座らせ、もう一度ジェニの膝の上に寝た。


「……勝手なんだから」


 と、言いながらも退くことはせず、俺は休憩をしっかりと取った。


「大分マシになったかな。良し、行くぞ」


 と、声を掛け、初めて入る名も知らぬ森に俺達は入って行った。


 そこはとても木が大きい森だった。俺達三人が手を広げても半分も囲めない程に大きな大樹、そんなのがごろごろある様な森だった。俺達は圧倒されながらも、少しずつ進む。


 慎重に索敵をしながら進んでいたのにも関わらず、俺達は初戦から9匹のネズミに囲まれていた。そして俺は取り合えず魔物のレベルを確認した。


名前 シザーマウス

年齢 2歳

レベル 35


 俺の中で危険信号が上がった。少しとはいえ、俺達の平均レベルより格上相手で三倍の数に囲まれたのだ。俺は即座に二人に状況を知らせた。


「やばいやばい、お前たちより格上が何匹かいるぞ、絶対に油断するなよ、集中しろ」


「うわっ、これ、大丈夫なの? てか、何でいきなりこんなに来るのよぉ」


 と、ジェニが愚痴り、自分たちでやれるのかと、問う。


「でも、早いね、逃げられなそう。どうする?」


「取り合えず木を背にして、俺とジェニが両サイドに、ミラは中央に構えろ」


 と、俺は一番レベルの低いミラを引き付ける数が減る様に位置取りをさせて迎え撃つ事にした。

 

 敵の大きさは1メートルとちょっと、ラピッドベビーを大きくして耳を無くした感じか? 攻撃方法は前足の爪と二本綺麗に並んだ牙だろう。


 そして俺達は魔物と接敵した。


「ちょっとちょっとちょっと、無理無理無理、なんでこいつら仲間同士でぶつかっても気にしないのよ」


 と、ジェニが叫ぶ。俺も同じ事を叫びたい気持ちだった。魔物達は我先にと、競る様に、押しのけ合いながら、狭いスペースだろうと、お構いなしに潜り込み、攻撃をして来た。そして、少し余裕のありそうなミラがぶつぶつと、喋り出した。


「熱い、痛い、苦しい、黄色く揺れる、すべてを焼くもの、ファイアーアロー、ファイアーアロー、ファイアーアロー、ファイアーアロー」


 と、ミラは火魔法を四連発で打ち、ジェニ側の二匹を仕留めてくれた。火を見たシザーマウスの何匹かは少し躊躇した様に、突撃を止めた。


「良くやった、ミラ、MPは大丈夫か?」


「うん、まだ大丈夫だけど、何度もは出来ないよ」


「ああ、ありがとな、もうっ大丈夫だっ」


 と、言いながら俺は一匹を打ち取り、ジェニも一匹仕留めていた。残り五匹を2、1、2、で受け持てば、何とかなるだろう。と思い、このままの陣形を保とうとしていたが。


「よし、もう一匹っ、ってあれ?」


 俺は、切り裂いたはずの剣が入って行かず、軽い切り傷程度にしかなっていない事に驚き硬直した。その間に襲って来ていたもう一体のシザーマウスに馬乗りにされ、俺はピンチに陥っていた。


「ミラ、私がそれも受け持つから、お願い」


「うん、分かった」


 と、二人が連携し、噛みつかれるのを必死に剣で抵抗している所をミラは剣で刺し殺し、俺は解放された。そして即座にジェニが受け持った三匹に向かい、俺は倒せないながらも一匹を受け持ち、二人が倒し終わるまで持ちこたえた。


「悪い、一度森を出るぞ、体に力が入らない」


 俺はそう告げ、心配そうにこちらを見る二人を尻目に、心底森に入ったばかりの場所で良かったと安堵した。


 そうして、森を出た俺はミラを見てぎょっとした。


「おい、お前何、抱えて来てんだよ」


 ミラはお人形でも抱くかの様にでかいネズミを後ろから抱きしめる様に抱えていた。


「あれ? 美味しいんでしょ? 食べようと思って……ダメだった?」


 と、首を傾げるミラを見て、こいつは大分肝が据わっているのでは無いだろうか? と、ミラに対する評価を変えた。


「それにね、おばーちゃん言ってたの。血が足りなくなったら、一杯食べて一杯寝ろって」


「なんにしても、取り合えずお兄の状態を直さなきゃ、狩りするのは危険すぎるわね」


 そう二人は相談しあい、俺の返答を待たずにここで食事にする事が決まった。

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