攻める為に②
俺は、今、姉さんと向かい合っている。当然、先ほどのグラディスを討ちに行ってもちゃんとやり合えるのかを証明する。と言う件だ。姉さんは真剣な表情でじっと見ている。アナベラさんは空気を呼んで同席しているが黙って居る。
「えっと、姉さん?」
と、説明を開始しようと口を開くと、姉さんは意を決したかの様に、口を開いた。
「まず、エル君はどれくらいの戦力を持っているの?」
そうか、俺が一人で行くなんて思わないもんな。あいつらも一緒に行くとか言ってたし。
「そうですね、内緒にして貰えます?」
今度は俺が姉さんをじっと見つめ、問う。
「ええ、約束するわ」
姉さんが頷いた後、俺は口を開く。
「250レベル以上が8人います」
ジェニ、ミラ、エティ姉妹、エミール、ローズで七人、最後は当然俺だ。
「……国を落とせそうな勢いね。」
姉さんは遠い目をして、ぶっ飛んだことを言い出した。やりません!
「物騒な事言わないで下さいよ。あ、俺は300レベル超えてます」
だから心配いらないよ? と視線を送ると。姉さんはまだ遠い目をしていた。
「うーん、可笑しいな、私がエル君と出会った時は20レベル位だったはずなんだけど」
ああ、懐かしいな。あの時は遠出してる時に肉はあるけど火が無くて、たまたま姉さんの馬車が通ったんだったよな。もう遠い過去の様に感じる。
「姉さんに装備を頂いたおかげです」
俺は、目を閉じ、思い出す様に告げた。
「あんな装備でそこまで上げられたら、そのレベル帯がそこら中にごろごろいるでしょうね」
「でも、あの時あの装備を貰って無ければ、俺は死んでいます。ミラもジェニも」
俺は真剣な目で見て、そう告げた。
「そっか、そうだったわね。でも、本当にどうやって上げたの? そんなに早く上がるなんて聞いた事ないわ」
うん、そうだよねぇ、俺もそんなん聞いたらこいつ、人殺したんじゃとか思っちゃうわ。
「あ~、体験してみます? 危険は無いですし」
姉さんは、そう言う風に思わないとは思うが、姉さんもいつ危険な目に会うか分からないし、上げて貰うのは良いかもな。と思い、提案してみた。
「え? エル君にしか出来ないんじゃ無かったの?」
姉さんは目を丸くさせて、さっきの発言は何だったのかと疑問を投げかけた。
「ええ、出来ませんよ? 俺が居ないと」
「ああ、そう言う意味なのね。じゃあ、お願いしてみようかしら」
おお、断られるかと思ったけど、これはチャンス。がりがり上げてやろう。
「ふむ、坊や、もちろんまぜてくれるんじゃろな?」
と、アナベラさんが抜け目なく言って来た。
「まあ、同席しててこの流れじゃ仕方ありませんよね」
俺は、そう言いながら、ブルータスさんも連れて秘境の地、自作トラップの前に転移した。やっぱり姉さんを守るのは彼だし。そして、トラップの作動方法をレクチャーした。
「えっとですね、俺が戻った瞬間ここに魔力を送って貰ってですね。そうです。それでこっちで元に戻せます」
と、説明すると、姉さんが魔力を送りこみ、トラップが作動して、10メートル四方の石畳が落下してズトーンと、音を立てた。
「凄い音がしたけど……まあいいわ。エル君が戻ってきたらすぐ魔力を送れば良いのね」
そして、俺は魔物を転移でトラップ内部に送りこみ、即座に転移で戻った。ズトーンと音を立てたあと、今度は姉さんが負けない位に声を上げた。
「わっわぁ~エルくーーーーん、何なのこれ。待って待ってぇええ。終わらないわぁ壊れてるの?」
と、騒ぐ姉さんの隣で、青い顔をしたブルータスさんが声を出した。
「少年、今のは何だ? あんな魔力反応……」
ブルータスさんは近くにデカイ魔力反応が出現した事に驚きを隠せなかった様だ。珍しい反応が楽しくもある。だが、俺が下手に隠すとろくなことにならないからな。と正直に告げる。
「えっとですね、俺は遠くのものを転移で飛ばすと言うレアな魔法を習得しまして。ここは秘境の地でそこの森の魔物は520レベル。安全圏から転移でそこのトラップ内部に送り込み作動させて倒す手法により高速レベリングを可能にしております。俺しか無理な理由は転移の事と、魔力感知の広さですね」
「どのくらい感知できるんだ?」
「二キロ位なら余裕ですかね」
「なるほど、今もその範囲で感知しているから危険が無いのだな?」
「ええ、その通りです。ちなみにブルータスさんも上げて貰いますからね。姉さんの護衛として」
「む、そうか。了解した。」
そうして、今回は獣人が居ない為、MPに余裕がありそうだと思ってたが、姉さんは低レベルだった為すぐダウンした。アナベラさんがMPポーションを所持していた為、全員200レベルまでは上げられた。
「これは、こんなやり方は初めてだ。何とも……」
「ブルータスさんは分かってると思いますが。これはレベルが上がるだけです。技量は上がりません。これだけで上げた者は本当に格下。50レベル下の相手と同格位だと思って置いてください」
そう、魔法攻撃などもある。こちらの攻撃も当たらなければ意味がないのだ。
「そうよね、うん。でも、十分過ぎるわ……」
「そうじゃな、婆をこんなに強くしてどうするんじゃ全く」
いや、アナベラさんが連れてけって行ったんだよね? と、思いながらも注意事項は続く。
「ちなみにこれから姉さんとアナベラさんは注意しなければいけない事があります」
二人は俺に視線を向けて、続きを促した。
「あ~俺の体験談なんですが、オシオキなんて言ってミラのほっぺをつねったら頬がちぎれそうになりました。冗談でも相手を攻撃する際は気を付けて下さい」
二人は深刻捉えてくれたようで真剣に頷いた。
「では、戻りますか」
と、俺は、三人に告げて、姉さんたちを送り、アナベラさんと村へ戻った。
「ただいま」
と、告げると、村人を含め全員が近寄って来た。
「どう、だった?」
ジェニの言葉に皆口を開かずに待っている。
「国王陛下から、グラディス元伯爵を討伐するようにと勅命を受けた。これがその書状だ」
皆、許可を取りに行って勅命が下った事に驚いて絶句している。
「……国王陛下の勅命をご主人様が引き出させたのですか?」
ローズがどうしても解せないと言う様子で聞いて来た。
「ローズ、それは違うぞ? グラディスは元王女であるルクレーシャ様を拉致監禁しようとした。その事に国王陛下は激怒していらっしゃる。その拉致監禁をしようとしたのを阻止したのが俺だ。それでグラディスは俺に攻撃して来た」
俺は、ことのあらましを皆にも聞こえる様に説明した。
「え、ルクレーシャ様が……そうでしたか。すみません。ありがとうございます」
「皆、すまない。俺が至らないばかりに。次からは無いように全力で叩き潰し、対策もしようと思う。だが、移住したい者は言ってくれ。安全に町に送り届けるから。皆にまで危害が行ってしまったのは俺の落ち度だ、気兼ねなく言ってくれ。済まなかった」
俺は、皆に頭を下げて告げた。頭を上げた後、何故か皆も頭を下げていた。俺が火種を作ってしまったのにな……
「おい坊主、良い仕事すりゃ逆恨みする奴は絶対に出てくる。だが、それで何かあっても良い仕事した奴は悪くねぇ。だから坊主は領主として、このまま良い仕事をしていきゃ良い。そうすりゃ村もでかくなって自然と収まる。だが収まるまでにこんな事が何度か起こるのは当たり前の事だ。皆そんなこたぁ知ってんだ。坊主がそれを治められる器量を持っていたって事はそこに住む者にとって幸せな事だ。忘れんな」
と、ドミニクさんがそう言ってくれた。言いたい事は分かる。起こるのが当たり前だって事も分かる。だが、やっぱり俺は許せない。自分と、グラディスが。だから元凶のグラディスに全部ぶつけようとしてる。
「ありがとうございます。忘れません」
「えっと、それで、どうするの? 私も一緒に行って良い?」
と、俺に問いかけて来たのはアイリだ。だが、俺はその質問を答える前に聞かなければいけない事がある。
「アイリは、勅命を見せて、止まらなかった者を躊躇なく殺せるか?完全に息の根を止める攻撃が出来るか?」
「……分からない。ごめん」
「いや、そんなアイリが好きだよ。だけどその答えじゃ連れてけない。皆もそうだ。出来る奴だけで行く。と言うか、俺が一人で行けば事足りる。何の躊躇も無いと言う物だけついてくる事を許可する」
俺がそう言って、皆を見渡すと、強い視線を返して来たのは3人、ジェニ、ミラ、ケイだ。
「お兄、私は大丈夫。分かるよね?」
ジェニの、分かるよね? と言う言葉に俺は頷いた。
「もちろん私もだよ。ここで立ち止まって舐められたらいつか身ぐるみ剝がされる。だよね?」
俺は、それはちょっと状況が違うかな? まあ、ミラも見た目にはそぐわないんだが、こういう時は相手が何だろうと躊躇ったりはしないだろう。だが、ミラは残って欲しいんだよなぁ。俺の次に魔力感知が得意だし。
「ミラは残って欲しい。残る方にも魔法使いを置いておきたいんだ。頼っていいか?」
「うぅ、そう言われたら……分かったよぅ。でも一杯我慢してエルの為に残るの。忘れちゃだめだよぅ?」
「ああ、ありがとな」
と、ミラとの話がつくと、ケイが俺の前に立った。
「私も、躊躇はしない。貴族の務めを忘れた愚か者は断罪すべき。私欲の為に同じ国民に兵を向けるなんて、絶対に許せない行為だわ」
そして意外だったケイだ。貴族の誇りだろうか。とても真っ当な意見だ。だが、言っている事が綺麗すぎる。大丈夫だろうか? と不安を抱き俺は、問いかけていた。
「ケイ、もう一度質問に補足をして聞くぞ?騙されているだけの兵も躊躇なく殺せるか?」
と、罪が無く、運悪く悪い上司の下についてしまっただけのものを殺せるか? と問いかけた。
「ええ、勅命を見せて下がらなければ自己責任よ。それに、勅命が無くてもやらなければいけない状況もあるわ」
ああ、そう言う風に考えられるなら問題無いだろう。言葉を違える行動を取られてもすぐ送り返せるしな。
「分かった、一緒に行こう」
「残るメンツは屋敷に戻らず村の皆を守ってくれ。流石に、結果も分からずに追加で兵を送るなんて事は無いと思うが。念のためな」
ミラ、エティ、アイリ、エミール、ローズは皆快く頷いてくれた。
「じゃあ、取り合えず俺一人で行って来るから待っててくれ」
「「「「「「「はぁぁぁ?」」」」」」」
ちょ、怖い怖い。特にジェニ、後ミラ、面白い顔しないで? 特に今は。
「いや、転移用に一度行かないとだからね? ちゃんと戻ってくるからね?」
俺は全員に責める様な視線を向けられ、タジタジになりながら言葉を返すと『なぁんだ』と、皆すぐに落ち着いた。
そして、空を飛ぶ事1時間、俺はやっと、伯爵領の領主が居るであろう町を視界に収めた。俺は取り合えず地上に降り、テレポートで一度戻り、三人を連れて来た。
「はっや、エルと行動してると事あるごとに反則だと思わよね。テレポートだけじゃ無くて移動まで早いなんて」
「ああ、うん。お兄がそうなったの最近なんだけどね。私もそう思うわ」
「えーと、お前らさ。褒めてくれるのは嬉しいんだけど……何でもは出来ないからな?」
「その出来る事ってのが多すぎるって言ってるのよ。まあ、頼りになる素敵なリーダーだけど」
と、ケイが言葉にしなを作り、俺の肩にもたれかかる様に、腕を絡ませた。
「じゃ、私はこっち側っと」
ジェニも即座に反対側に着き腕を絡ませた。
「はぁ、移動出来ないから一度離れてくれ、一応敵地なんだぞ?」
そう告げると、二人とも離れて横並びに戻った。
「それで、どうするの? 正面突破?」
ジェニが、聞いて来た。
「あ~そうよね、町中で話す事では無いわね」
「ああ、もちろん堂々と、正面から行くぞ?取り合えず、屋敷の門番に、この書状を見せる所からかな。多分偽物だと騒ぐだろうから。向かってくる奴は皆殺しかな。圧倒的にやって戦意をそぐ方が被害が少なくて済むだろうから、そのつもりでな」
俺達はそんな物騒な話をしながら、街道を歩き、町の中に入った。町に入る際に名前を聞かれたが、真面に答えても普通に通された。ま、攻めてくるとは思わないよな。俺達はそのまま、町中で領主の住んでいる場所を聞きその方向に歩いて行った。




