メイドさんと執事君
秘境の地でレベリングをした次の日、俺はお願いしていたメイドか執事を引き取りに行くついでに借りていた魔法陣の返却をしに行った。そして、転移魔法陣返却後、大人しそうな少年と、二十代くらいの女性を引き取った。ついでに帰り際にブルータスさんに昨日の事を聞いて見た。
「あ~昨日はどうでした? あの二人は、ちゃんと話せてましたか?」
俺は、あれからルディと姉さんがどうなったのかが気になり、わざと転移では無く、徒歩で出て、ブルータスさんに問いかけた。引き取った二人も、緊張した面持ちで後を付いて来ている。
「……少年を帰してしまったのは、失敗だったかも知れないな。共に気を使い過ぎてろくに話せていない。まるで少年少女の初恋の様だったよ」
……ルディよ、やはり、そこまでの成長はしていなかったか。
「あはは、ルディの方はあながち間違いでも無いかも知れません。前世の姉さんと恋仲になりそうな空気はありますが、それ以外は何一つ経験ないでしょうから」
俺は、ブルータスさんになら良いだろうと、前もってミッシェラ姉様の事を匂わせた。
「む……初耳だが。主が悲しむ事にはならないだろうな?」
当然、ブルータスさんは不快感をあらわにした。
「恋愛ですよ? そう言う結果もあるに決まってるじゃ無いですか。俺は、大事な姉さんと弟に、チャンスを与えただけです。お互いに良い出会いなのは間違いないと思ってますから。まあ、手を出したなら責任取らせますが」
そう、俺はどっちに転んだとしても、良い出会いだと思える二人だと思っている。上手く行って欲しいとも思うけど、それはやっぱり本人次第なのだ。
「ふむ。ではその時は頼むとしよう。主の立場的に考えると、彼みたいに、申し分のない相手はいない。これを失敗させてしまうのは忍びない」
ブルータスさんは屋敷の玄関で足を止め、そう言って目を閉じた。
「うーん、立場なんて強引に押し切ればいいのに。その為の手伝いなら喜んでするんだけど。」
そう、今の俺ならば、多少強引な手を使う事も出来るだろう。多分……ちょっとくらいは……
「そんなに簡単な話じゃ……いや、少年ならば……ふむ、では、頼むとしよう。主を幸せにしてやって欲しい」
ブルータスさんは片目を開け、少年ならばと言った後に再び目を閉じた。ふむ、カッコいいな、参考にしたい。
「まあ、俺が気が付いてて出来る事なら、惜しみなくやるつもりですよ。大切な人ですから」
と、告げ屋敷を出た後、ようやく引き取ったメイドさんと執事少年に向き合い、言葉を交わした。
「さてと、自己紹介からしましょうか。私はカディネット子爵から聞いているとは思いますが。まだ、名も無き村にて、領主代理をやらせて貰ってるエルバートと言います」
「ご丁寧にありがとうございます。私はシェイン様の妾の子で名をラティーシャと申します」
「ぼ、僕も、そうです。フィンと言います。よろしくお願いします」
な、なるほど。ええと、あれ?? 自分の子をメイドとか執事として出しちゃうの? いいのかこれは……
「ええと、良いのかな。俺はまだ爵位すら貰っていないのに子爵様の子を使用人として預かるなんて……」
「問題ございません。その事も含め、誠心誠意お仕えする様にと言い使っております」
うーん、ちょっと気が重い気もするけど、まあ、彼の本気の誠意なんだろうな。お調子者のイメージはあったけど、親切な人だったという印象もあるし。
「そうですか。では、続きは取り合えず、屋敷の方で話しましょうか」
「「畏まりました。主様」」
お、今度は少年の方もどもらずに言えたな。などと、思いながら転移した。
「テレポート」
俺は、いつも通り居間に転移した。居間にいるのは二人、アイリとミラだ、二人は割と仲がいい。
「「おかえり~」」
「ああ、ただいま。屋敷の家事をしてくれる人連れて来たよ。ほら、カディネット子爵に紹介して貰った」
と、俺はラティーシャさんとフィン君が子爵の紹介の人だと告げた。
「あれぇ? 一人じゃ無かった?」
と、ミラは首を傾げた、それを見た二人は気まずそうに目を合わせた。
「ああ、人数を聞いてなかったから一人だと思ってた。だけど都合がいいだろ?」
俺が、問題ないと言う事を告げると、二人はほっとした様だ。おそらく、子爵に何か言われているのだろう。まあ、失敗して送り返される事が無い様に、とかだと思うが。
「と、そんな訳で、二人にはこの屋敷の維持管理をして貰う事になるかな、他に炊事洗濯など家事全般ね。」
「「はい、畏まりました」」
「それと、お給金の方はどうしようかな。問題が無ければで良いけど、今までいくら貰ってたか聞かせて貰える?」
「月に、銀貨8枚でした」「僕は4枚です」
やっす、あらぁどうしよう。家族だからだよね? いくらにしていいか分からない……うーん、一般人のお給金て、物価の割りに日本で考えた時の半分以下なんだよなぁ。そうなると。住み込みで全部こみこみで差し引いて月の手取りが16万程度と仮定すると、半分で大銀貨8枚位か? 本人に聞いて見るか。
「ええと、それは家族だからだよね? ええと、大銀貨8枚位でどうかな? もうちょっと欲しい?」
「え? ええ? 銀貨では無くて、ですか?」
フィン君はオーバーリアクションで驚いている。ああ、これでも多いのか。
「主様、多すぎます。一般的に見て、多くもらえる所でも大銀貨三枚程だと聞きます」
え、あ~生活費関係もこっちで持つからか?それにしても少ないけど。まあ、異常に出すのも良い事では無いしな。
「良し。じゃあ、大銀貨で月4枚にしよう」
なんにせよ、ラティーシャさんが相場を知っていて助かったな。と思いながら俺はお給金の決定をした。
「じゅ……十倍……どうしようお姉ちゃん」
彼は不安そうにラティーシャさんをみた。お姉ちゃん? ああ、姉弟だったのか。それはそうだよな。
「申し訳ございません、主様。弟は見習いを抜けたばかりで、再度しっかり教育致します」
「あー、それなんだけどね。この家の外の人間が居ない限り、そう言う事は一切気にしなくていいよ? 俺達は全員平民だし。まあ、領主代理なんてやってるから、念のためお客さんにはそれなりの対応をして欲しいけど」
と、説明しているところで、ちらほらとアイリとミラ以外のメンツが様子を見る様に入って来た。丁度いいと思い、『ここに居る者達が俺の身内だ』と告げて、軽く自己紹介をさせた。
「ありがとうございます。ですが、お恥ずかしながら使い分けを当たり前の様に出来る程能力が高くありませんので。お許しいただけるなら、常日頃から身分をわきまえた対応をさせて頂きたいと思います」
「ああ、それもそうだね。逆に難しそうだ。じゃあ、任せるよ。ただ、何か失敗をしても責任を負わせる事は無いから安心して欲しい」
「「ありがとうございます。主様」」
「後は休みの設定か、週2で良いかな?」
と、伝えると、再度驚愕された。休みは基本無いらしい。申告で暇を貰ったりすることはあるらしいが、こりゃ平民の方がよっぽど自由だ。と、こっちが驚愕してしまった。その俺の驚愕を見た彼女は、仕事をきっちり終えた後なら、自由に出来る時間が貰えますと。説明して来た。うん、当たり前だよね?
「わ、分かった。じゃあ間を取って休みは週1な。別で休みが欲しい時は申告する事」
「「ありがとうございます」」
と、契約内容の話が付いた所で、今後の事を説明した。
「現在この屋敷はマクレイヤー公爵からお借りしている物だから、ゆくゆくは村に屋敷を立ててそっちに移動するから。そのつもりで頼むね」
「え? あ、ここは村では無いのですね。畏まりました」
ああ、転移で屋敷の中に直接じゃ、そりゃ分からないよな。
「よし、じゃあ今日は取り合えずお休みにして、支度金として大銀貨五枚渡すから、好きな物かっておいで、荷物を持っていない様だから、色々と物入りだろう? 町の様子も見てくるといい」
「何から何まで、やはり……シェイン様は私達の為に……」
今度は姉の方が、唖然としてしまっている様だ。
「はい、主様。一生懸命仕えさせて頂きます」
おお、弟君は大丈夫そうだな。と、俺は部屋を割り振ってから、金貨一枚を渡して行っておいでと伝えた。
そして、二人を遊びに行かせた後、皆を連れて、レベリングを行った。今回は前回連れていけなかったエミールとローズも連れて来た。面白そうなのでエミールからやらせる事にした。
「なあ、ここ何処だよ。俺は早くレベルを上げに行きたいんだけど」
エミールは何をするかも分かっておらず、そんな事を言って来た。
「そっか、まあ一回だけな? それが終わったら狩場に転移で送ってやるから」
俺はエミールに容赦なくそう告げ、罠の使い方を教えた後に魔物を探しに出て行き、魔力感知の出来るミラの指示によりタイミング良くトラップを発動させた。そして、転移で皆の所まで戻って来た。
「は? え? はぁ? なにこれ? え? 可笑しくね?」
エミールはただ、ひたすらに混乱していた。
「まあ、しょうがないよな。狩りに行きたいんだよな? 約束通り転移で送ってやるよ」
「え? いや、その前に説明してくれないの?」
エミールは情けない困った表情をして聞いて来た。流石にエティ達も苦笑しながら酷いと言っていた。不味い俺の評価が……
「ああ、じゃあ、俺はもう一度索敵行って来るから。その間に説明して貰って置いてくれ。それと次はローズな」
そして、ローズも……いや、ローズはエミール以上に困惑した。エミールがローズに『な? そうなるよな? な?』と、ひたすら言っていた。そんなこんなで俺達のレベリングは続き前回同様、アイリ達のMPが切れた所で終了になった。エミールとローズだけは前回の分を取り戻す為、倍の回数やらせたが。
「ねぇ、もっとやりたいんだけど……どうにかならない?」
不完全燃焼だ。と、すぐに終わりになってしまう事にジェニは不満を漏らした。アイリ達は少し気まずそうにしている。まあ、何度やっても君たちは転移魔法陣の発動をするだけだからね? と思っていると。
「えーと、別に、そっちだけで続けても良いわよ?」
と、ケイがそう言い、エティとアイリもうんうんと頷いていた。
「いや、別にそう言うつもりで言ったんじゃないんだけど……まあ、あり得ない程上がってるんだし。我儘言い過ぎたわね」
と、最近は仲良くなってきており、ジェニもアイリ達に気を使う様になっている様だ。俺はその事が嬉しくて、水を差したくないと思いジェニに言葉を返した。
「ああ、そうか。じゃあ改造して。MP無しで作動出来る様に頑張ってみるよ」
「へへへ、流石お兄ちゃん。レベリングが終わったら、期待しててね? 今度は私が頑張るから」
ジェニにそう言われて、やる気満々になった俺は、早速トラップを弄り始めようとしたが。不機嫌になっていた、ジェニ、エミール、ローズ以外のメンツに止められた。
「ねぇエル? 私達さぁ、屋敷は見せて貰ったけど、まだ村を見た事無いのよね……」
ケイに、そう言われた事で思い出した。確かに言われてみればそうだった。
「じゃあ、トラップの改良はその内にやって行く事にして、村の様子を見に行くか。と言うか手伝いに行こう。余り間を空けたくないしな」
そうして、レベリングを終了した俺達は、村に全員で転移した。
だが、そこには異常な光景が広がっていた。




