獣娘は真っすぐすぎる。
「おはよ~」
と、ケイが俺に声を掛けて来た。そう、昨日はあんな状態だった為、流れでそのまま止まる事になったのだ。
「ああ、おはよう。ちゃんと寝れたか?」
俺は、使っていない部屋を適当にあてがった為、心配になって聞いて見た。
「ええ、うちとの差を思い知ったわ。掃除もきっちりやってるのね」
ああ、そうか。まだ昨日の今日で埃が貯まるも何もないか。
「いや、俺の従者が、だな」
と、訂正をすると、ケイは訝しげな表情をした。
「じゃあ、何でメイドなんて欲しいのよ」
「いやいや、メイド限定じゃないし、それに従者二人は勉強させるために学校の寮に入れたから、必要なんだよ」
「ああ、そう言う事。じゃあ、孤児院でも言ってやりたい子が居ないか聞いて来る?」
なるほど、ケイ達が言っていた数少ない伝手と言うのは孤児院の事か。
「ん~、そうだな。それでも見つからなければ、奴隷を買うって手もあるな」
「……最低。」
ケイは、俺をキッと睨みつけた。
「はぁ、お前たちは心根が真っすぐなのは良いが、視野が狭いと言うか何と言うか」
俺は、前世で三人の奴隷を買った、その子達は俺の奴隷で良かったと言ってくれた。本当に嬉しかった。そう言う風に分かり合える関係もあるのだ、と言う事を知って欲しいと思った。だが、なんて言えば伝わるのかも考えず、小馬鹿にする様な言葉を言ってしまっていた。
「はぁ? お金で人を買うなんて最低だと思うのは当然でしょ」
ああ、これではダメだ、ちゃんと話をしなければ。
「まあな、だが、考えてみてくれ。今、この時も奴隷の身分の者で自分が売れる事を待ってる人は一杯いる。それはどうしてだと思う?」
俺は、この話をちゃんと考えて貰おうと、質問形式にして話を進めようとした。だが……
「そんなの知らないわよ。人を売る場所なんかに関わりたくもないもの」
そう、言われてしまい、ムッとして俺はまたも考え無しに口をついてしまった。
「そうか、なら買う事を最低だと切り捨てるお前をどうかと思う」
「意味が分からないんだけど」
と、ケイの敵意の無い受け答えが帰って来て我に返った。
「よし、じゃあ行って見ようぜ。見てみないと口で言っても半分も伝わらないと思うから」
「良く、分かんないけど……エルにとって大事な事なのね?」
「ああ、知って欲しい」
俺はケイを見つめながら力強く言った。と同時に後ろから声がした。
「おはよ、何話してるの?」
アイリが小さくあくびをしながら、話に入って来た。後ろには少し気まずそうにしているエティもいる。
「今から、奴隷商人の所に見学に行こうと言う話になった」
「……何で? そんな悪趣味な事する事になったの?」
アイリは、悲しそうに疑問を投げかけた。
「エルは私達に伝えたい事があるみたい、冗談や遊びじゃないそうよ」
ケイが俺と話していた事を、真面目に伝えてくれた。
「エルがそう言うなら、私はついて行く」
エティは真っすぐに俺を見てそう言って来た。
「じゃあ、私も付いてくけど、買ったりしちゃダメだよ?」
アイリは、不肖不肖ではあるが、行く事を受け入れた様だ。
そうして俺達は転移にて、近場の町の奴隷商人の家であり、店でもある場所にたどり着いた。ジェニとミラは、昨日説教された反動で俺が寝ている間もしばらく泣いていたみたいなので、起きて来ないだろうと、置いて来た。ここは前世でルディ達を買った場所、とても印象に残っている場所だ。ここの主は、この前魔物の素材を深夜に売りに言った時に応対して貰った、エイブラムさんの知り合いでもある。
そして俺は扉を叩き、出て来た者に家の主を呼んでもらった。
「なんだ、客じゃ無くてガキか。もしかして自分を売りに来たんじゃないよな?ちゃんと働くなら仕事を紹介してやってもいいぞ」
「えっと、お久しぶりです、ジャスタスさん。エルバートです。エイブラムさんから聞いてたりしませんか?」
「あ……これは失礼しました。今日はどの様な?」
「すみません、客として来た訳ではありませんが。お手数ですが、商品の紹介をして貰っても良いでしょうか?」
俺が商品と口にした瞬間、三人はあからさまに苛立ちをあらわにした。そして、アイリが口をひらいた。
「エルが人を商品なんて言うなんて思わなかった。見損なったよ」
そうアイリが口にして、睨みつけている事を気にもかけずジャスタスさんは言う。
「あ~そう言う事ですか、分かりました。ご案内しましょう。さあ、お話は取り合えず中で」
と、ご立腹な彼女達を少し強引に中に誘い、中に入った俺達は、沢山の子供たちに囲まれた。
「あれ? かなり増えていませんか? 経営大丈夫なんです?」
「はは、お恥ずかしながらカツカツですよ。貴方様がこの町を豊かにして下さったおかげで何とかやれてますが」
と、ジャスタスさんは明らかに笑ってはいない、と言う顔で頭を掻いた。
「ジャス爺~、この人たちは~? どっち~?」
「ジャス爺が丁寧に喋ってるから、きっと買ってくれる人だよ」
「あ、じゃあ僕僕~、一生懸命頑張りますから、僕を買ってください」
「わ、私も頑張ります。ジャス爺がはげちゃう」
子供たちは間髪入れずに言葉を捲し立て、アイリ達に詰め寄っていた。
「おいガキども、この方たちは客じゃねぇ。俺の知り合いだ。群がるんじゃねぇ。あと、はげっつった奴、宿題倍やらなきゃ飯抜きだからな」
「はげっていってないよ! はげそうっていったの!」
「うるせぇ、はげはげいってんじゃねぇ」
「きゃははははは」
その光景を目の当たりにしたアイリ達三人は、あまりの自由さに唖然としていた。
「ははは、相変わらずですね。あのう、すみませんジャスタスさん。あなたに売って頂いた双子の女の子、守れませんでした」
前世で、ルディと共に買った双子の女の子、シャノンとフィービー、俺がなずけた子達だ。
「はは、聞いてますよ、あいつらは幸せだったと言う事も。それにルディは驚くぐらい立派になりましたしね。うちの出で一番の出世頭だ。」
と、ジャスタスさんは嬉しそうに目を細めた。
「「「はっ?? ルディ様が?」」」
彼女達は、まさか自分の親代わりの存在がここの出身だったとは思っておらず、思わず声を上げた後こっちに視線を向けた。
「ああ、ルディ達は此処で買ったんだ。まあ、結局解放したんだけどな」
「そう、だったんだ」
ケイは、そう言ってうつむいた、自分たちの尊敬する人が、奴隷と言う最底辺の人間だったと再認識した事に不快感を味わったのだろう。
「確かに、奴隷だったって話は知ってるけど」
「そんな雰囲気微塵もねーし」
二人も、納得できなそうな顔で視線を下に向けた。
「奴隷の雰囲気ねぇ。そりゃ、お前さん達が奴隷は虐げるのが当然、って固定観念を持ってるからだろうなぁ」
「私達はそんな事した事無い」「当たり前だな」「そうね」
「やったとは言ってねぇ。固定観念を持っていると言ったんだ。っと、失礼しました。つい、うちのガキどもと話してるみたいになっちまいまして」
ジャスタスさんは子供たちに乱入された時のテンションで受け答えしていた事に気が付き、頭を下げた。
「いえ、ありがたいですよ。俺もこういう場所もあるんだよ。って事を教えてあげたかっただけなんですから」
「そ、そんな大層な場所なんかじゃ無いですよ。俺を含め能無しどもの集まりなんですから」
「なるほどな、エルの言いたい事が分かった。そっかそっか、そうかもな」
エティはうんうんと頷き、表情を明るくさせた。
「まあ、私も分かるけどさ……」
「うん、それでも、やだよ」
ケイとアイリは、嫌な物は嫌だと、悲しそうに言った。
「まあ、そうだよな。まあ考えを変えろとは言わない。だけど理解はしてほしい。あの子達は売れなければ死んでしまう、それ位後が無いんだよ。そして、そう言う子達は今のこの世界じゃどうやったって出て来ちゃうんだ。孤児院だけじゃ到底賄える数じゃない。孤児院に入れる枠から弾かれた子達は、奴隷商に身売りをするか、犯罪に走るしか生き残る道が無いんだ」
「そうですな。まあ、かの大英雄フェルディナンド様が偉業を成したおかげで、全体数は減っているそうですが」
「……あれはそう言う高尚なもんじゃ無いですよ。キレて暴れた。ただ、それだけです」
「ははは、たとえそうであったとしてもです。私共みたいにただ嘆くより、意図があろうとなかろうと、ここに来るガキどもを減らしてくれた。それが凄い事なんです」
「そっか、私も、分かったかも。うん、エル! ありがとう。」
アイリは、目を輝かせてそう言った。……何が分かったのかが分からない。正直不安しかない……
「ああ、エル? 私はちゃんとわかった気がするから後でフォローしとくわ」
ほっ、ケイが居てくれてほんっとに良かった。
「ふむ、こうやって広がって行くのですな。英雄の意思と言うものは」
「あのですねぇ、皆誤解してるんですよ? 能力を女神に貰っただけの一般人。そして、そこから死んじゃってるから本当にもうただの人なんですって」
「そう、ですね。いつまでも頼り切る訳にはまいりません。いや、この意思こそが……」
ジャスタスさんは途中で言葉を切り、思考に耽っている。何故かアイリも横で頷きながら目を輝かせていた。
俺は今日、いつのまにかジャスタスさんまで信者になって居る事を知った。そして今、新たに入信しそうな感じにアイリがなっている。どうしてこうなった。
「ああ……えーとだ。ここで質問します。正直に答えてくれ。やっぱり奴隷を買う奴は最低だと思うか?」
あれ? 俺は買いたくて来た訳じゃ無いんだが、なんかこれじゃ奴隷を買いたいと言ってるみたいじゃないか?
「やっぱり、気分が悪いよ。だけど、奴隷でも楽しく暮らしてる人たちがいるって事は分かった」
「そうね、まあ、私も同意」
ああ、良かった。ジェニならここで間髪入れずに文句を言って来ただろう。こいつらは良くも悪くも真っすぐなんだよなぁ。俺が買わないけど伝えたい事がある、と言う意をしっかりくんで話してくれてるんだろう。
「そうか? 私は買う事には何とも思わねぇけどな。飼われる事は断固拒否だが。要はあれだろ? エルが言いたかったのは、結局は奴隷だろうとなんだろうとどう扱うか次第だって事だろ?」
と、エティが俺が言いたかったことを、一番にしっかりと理解してくれていた。
「あ、ああ、そうだ。……エティなんか悪い物でも食ったか?」
「は? 別に腹の調子は悪くねーけど……あ、ああ? お前もしかして、馬鹿にしてるのか?」
エティは途中で気が付き、ムッとして俺の意を問う。
「いや、そうじゃないけど、お前考えるの苦手って言ってただろ?」
いや、本当はそうなんだけど、そうじゃ無いと言ってみた。
「ああ、そう言われてみれば、あれじゃね? 色々記憶で経験したし」
おお、流石エティだちょろいな。って、俺最低だな。
「そうか、今のお前なら、パーティーのエース兼リーダーも出来るんじゃ無いか?」
「いや、無理だな、肝心な時にいっつもダメだった。やっぱり先頭で暴れるのが性に合ってるわ」
そう言って、エティはちょっと困ったようにはにかんだ。そうか、エティは本当に成長してるんだな。ちょっと大人っぽく見えて来た。もしかしてちょろいんじゃなくて、器が大きくて気にすらならないとか? いやいや、無いな。
「それで?結局買うんでしょ。行ってくれば?私は立ち合いたく無いし」
あっれぇ? 可笑しいな、俺の意をしっかりくんで居てくれてるとばかり……
「え? エル? 約束、忘れて無いよね? あっ、でも……うーん……でもぉ。」
「あのな、買いに来たわけじゃ無いと言ってるだろうがっ!」
と言いつつも、俺はジャスタスさんを誘導するように少し彼女達から離れ、村で領主をやって居る事を告げ、厳しくなって不本意な所に流す位ならいつでも買い取ると約束していた。村人としての人手が欲しいのだ。と、心の中で彼女達への言い訳をして視線を向けようとすると、すぐ後ろに全員いた。
「もう、何で隠す様にしてるのよ。私は嬉しいわよ」
ケイは、本当に嬉しそうに微笑みかけて来た。
「そうだな。誇らしいな」
エティは、当然だと言う顔で頷いた。
「うーん、仕方が無い事なんだよね……ただで解放して貰ったら破産しちゃうんだし」
だが、やっぱりアイリは、どうしても受け入れられない様だ。
「まあ、あれだ。今日色々知って、分かった事もあるだろ? そして、不本意なのは分かってるが、奴隷持ちを侮蔑しちゃってた訳だ。まあ、奴隷を身内の様に扱ってる所の方が少数なんだけど。おおむね正しいんだけど、だからと言って絶対ではない訳だ。だからさ、急ぎじゃない時は、色々知って自分で考えて、それから結論を出して欲しい」
「そっか、私、エルにひどい事言っちゃってたんだね。エルは家族として接して守れなかった事を悔やんでたのに」
「ああ、お前たちに最低って言われて、すっごくつらかったなぁ。癒されたいなぁ。モフモフしたいなぁ」
俺はしんみりとした空気が嫌で、場の空気を換えようとふざけてみた。そして、場の空気はすぐ買わった。
「台無しだわ」
ケイに呆れられ。
「だな」
エティに呆れられ。
「ちょっと、だけなら……いいよ?」
アイリに……なん……だと……ちょっとだけってどこまでだろう、と、ムラムラの絶頂の所でふと我に返った。あれ? なんかムラムラしなくなった……??
「と、取り合えず、帰るか」
スルーしたものの自分に異常がある事はすぐに分かった。俺は今ままで、程度の大小はあるにしても、ほぼ常にムラムラしていたのだ。そして、あそこまでの気持ちがすんなり収まる訳がない。だが、ここでそれを暴露するわけにもいかないので、帰ろう。と言って転移した。




