母さんが俺の彼女だと言い張った。②
俺は、再度アイリ達の屋敷に転移した。
「おかえり、どう? ちゃんと話せた?」
俺はケイの言葉に、自信なさげに頷いた。
「ねえ、エル。想像は付くにしても、私達にも一応ちゃんと説明してくれる?」
と、アイリにお願いされたので。俺は今までの経緯を話した。
「そっかー、やっぱりフェルディナンド様なんだ……なんか想像してた人と違うなぁ。もっと完璧な感じを想像してた。私なんかじゃ一緒に居る事すら出来ない位凄いと思ってたけど。うん、エルで良かった」
アイリはうーん、とうなる様にイメージと違うと思っている様子だが、最終的に前世では無くエルバートで良かったと言ってくれた。
「そうね。私もそう思ってた。けど、エルは記憶が無い時ですら私は凄いと思ってたわよ。リーダーをやって貰うのは当然だと思う位には」
ケイも今の俺を肯定してくれている。
「二人とも、ありがとう。そ、それで……エティはどうした?」
二人の言葉に、お礼を言いつつもエティは帰って来て無いのか? と問う。
「まだ、帰ってきてないよ?」
「エル、迎えに行ってあげたら?」
と、二人は申しております。だが、良く考えて欲しい。
「……俺を彼氏だと言い出した母さんと、久々に母さんと話せたのにそんな事を言われた父さん、その間に割って入れと?」
「うっわぁ、改めて言葉にすると色々酷いわね、貴方のお母さん」
「う……うん。流石に……引くよね」
「ちょっと待て。間違ってはいないが、凄く真っ当な意見だが、エティだぞ? お前たちの長女!」
「「ぐっ……」」
「と、言う事で、同行してください」
「無理ね。エルが求めてる事は出来ないわ。国王様の前で無礼な事は出来ないもの。」
アイリもケイの意見に頷いている。確かに二人はさっきもずっと頭を下げていたな……まあ、そりゃそうか。
「エル、気まずいかもしれないけど大丈夫だよ。こう言うのも失礼だけど、可笑しいのはエルのお母さんでエルが悪い事した訳じゃ無いんだから」
「うん、大丈夫よ。行ってらっしゃい」
「……分かったよ。何もしなくて良いから隣にいてくれ。テレポート」
俺は、半強制的に二人を連れて、先ほどまでいた王宮の謁見の間に転移した。そこには、頭を抱えている父さんと、ムッとしているエティの姿があった。
「ええと、お話はちゃんとできました?」
「フェル君! もう、おーそーいー。ずっと待ってたんだからねっ! うふっ」
そう言いつつ駆け寄り、俺の腕に絡みつき母さんは俺の肩に頭をのっけた。
う、うわ゛ぁぁ……帰ろうかな……
「あ~、フェル。もうお前が良いならそれでいいかなと思い始めているんだが……フェル? お前とても、嫌そうな顔をしてるな……」
「ええ。とても、とても、不本意です。俺が口説いていたのはエティなのに……」
「そ、そうか。まああれだな。生まれ変わったのだし、前世にとらわれる事は無いさ。とても引っかかる事だとしてもだ、精神的に看過出来なくてもだ。あーうん、そう言う事にしようと思う」
「と、父さん!? あれ? 待って下さいよ。父さん? まさかの丸投げ?」
もしや、父さんはあまりの母さんのめんどくささに匙を投げたんじゃ……
「馬鹿を言うな、だが、父としても王としてもどうにもならない事はあるのだ。カトリーナはあの時死んだ。今居るのは記憶を持っているが別人だろう?」
「う、そう言われれば、そうです。俺自身もエルバートだって自覚の方が大きいですし」
そう考えれば、エティはエティなのか?
「よし、じゃあ、そのエルバートに全部任せる」
むう、丸め込まれた感が半端じゃないが、一応予定通りではあるし、しょうがないか。
「ぐぬっ。まあ、分かりました。大切な人には変わりありませんし。取り合えずオルセンに連れて行きますね」
「ああ、また、顔を出しに来い」
「はい、テレポート」
そうして、俺はようやく、三人をこの屋敷に連れてくる事が出来た。余りの斜め下な出来事が勃発したが……俺は、三人を居間へ通し。待っていたであろう二人は、身ぎれいにしていて、気合の入った格好をしていた。
「ようこそいらっしゃいました。義母様」
「あら、あなたに母と呼ばれる義理はないわね」
と、ジェニとエティはしょっぱなから火花を散らし始めた。
「うんと、ケイちゃんとアイリちゃん、久しぶりだねぇ」
「あーうん久しぶりね、突然お邪魔しちゃったけど平気かしら?」
「平気だよぉ、ちゃんと話聞いてるもん」
「あ、良かった、えっとミラちゃんはあっちに参戦しないの?」
アイリは、微笑みながら、大丈夫? と聞いた。
「うん、エルを信じる事にしたのぉ、良く考えたら私はエルの物だし。変わらず大事にしてくれる事も分かってるし、それでいいかなぁって」
「物?」
アイリは訝し気な表情をして聞き返した。
「うん、ご主人様!」
ミラはとてもいい笑顔で答えた。
「こら、勝手をぬかすな。お前の隷属はとっくの昔に解放してるだろうが。お前には命令した事無いぞ?と言うかお前の方が俺を使って……あれ? 俺、ミラに使われて……」
よく考えてみたら。俺の方が立場は上だが、ミラが面倒事を起こして俺が解決の為に行動する。そんなサイクルが当たり前の様になっている気がする……
「あはは、大丈夫だよ。エルが酷い事しないって事はわかってるんだからっ。でも、自分を物なんて認識しちゃってる、ミラちゃんがちょっと心配かな」
と、アイリは困った様な視線を俺に向けた。
「ああ、こいつそう言ってるだけだぞ? こっち側で一番図太い精神を持っているのはミラだからな」
俺は、ミラを気遣う必要は無いよと、アイリに言った。
「こっち側で?」
ケイは、その言葉の意図が掴めず、疑問を投げかけた。
「ああ、そっち側の一番図太いのが、今ジェニとにらみ合ってるだろ? 多分前世の記憶が蘇った事で、この中で一番図太い存在になったんじゃないかな……」
俺は遠い目をしながらこっち側での意図を説明した。そんなさなか、ジェニとエティの(母さんとは言いたくない)言い合いが激化し、こっちに飛び火して来た。
「ねえお兄、何なのこの人……話が通じないんだけど。こんな人から大英雄が生まれたなんて信じられないわ」
「ふん。貴方がなんと言おうとフェル君は私のお腹から出て来たのよ。ねー、フェル君。フェル君からも言ってあげて? 一番大切なのは私だって」
「エティ、いや……母さん。言い難い事だけど、息子がこんな事言うの嫌だろうけど言って置く。俺は、ジェニ、ミラ、アイリ、ケイ、エティ、キャロル、チェルシー、全員と、今回は別れたくない。他の男にとられるのもごめんだ。要するに全員俺の嫁にしたいと思ってる。相手に拒否られない限りこれは絶対だ」
「なんか増えてる……双子ちゃんも?」
と、ミラがいち早く口を開き。
「お兄、こっちが分からないと思ってそれとなく追加してない?」
ジェニは、俺が嘘をついていないかと疑っている様だ。お前は俺の嘘をいつも見抜くだろうに……
「今回は、か。そっか、エルは苦しかったんだね。だから必死なんだね」
アイリ、マジ天使。
「でも、全員嫁にするってどうなの? 一人に決めて、他の人たちは友達として大切にすればいいじゃない」
ケイは、正論を言った。だが断る。そこだけは譲りたくない。すべてが上手く行くなんて微塵も思って無い。だが、チャレンジだけでもさせて欲しい。
「分かりました。フェル君は本気で言い出したら絶対に引かないのは知っています。だからそれは受け入れます。だからお母さんを一杯可愛がってください」
俺はその言葉を聞き、肘と膝を地に付けた、破壊力のある言葉だな、悪い意味で……
「俺が言ったのはエティの方です」
俺は弱った自分の心に鞭を売って言葉を発した。
「ええ、私よ。フェル君」
その鞭を売った言葉すら、意味を成さなかった様で
「だから、母さんじゃ無くて……」
俺は神には祈らないと決めているのに……今だけは祈りたい……もう、許してください。
「ぷはっ、エルでもそんな情けない顔するんだな」
と、エティが言った。皆エティの方を向いて絶句した。
「「「「「……」」」」」
「お前……まさか……わざと?」
「何の話だ? 言ってあるだろ? どっちもだって。昔の私はどうしてもこうしたかったみたいだからやってみた。エルも同じ経験してるんだから分かってるはずだろ?昔の私と今の私は違う」
と、説明するエティ。だが、誰一人として絶句して口を開こうとしない。俺は頭が痛くなる想いをしながらも確認の意味を込めて言葉を発した。
「昔の私じゃ無くて、前世な?」
「知ってたし、うるせーし」
ああ、いつものエティだ。と思うと同時にふつふつと怒りがこみ上げてきた。こいつは、俺が心底困ってるのを知っていてやっていたのだ。
「ああ、そう言えばエティ、俺と戦ってみたいとか言っていたよな。今からやろうか」
そうエティに告げると、絶句していた皆の視線が一斉に俺に移った。
「はっ? ばっおまっ、怒んなよ。仕方ねーだろ。前世の私は強烈にお前の事想ってたんだから」
「うん、怒ってないよ? ちょっとしか。だからね? 模擬戦やろう、模擬戦。それともビビって受けられないか? 模擬戦すらも?」
俺は、冷めた表情をして口元だけ笑みを浮かべ、エティを挑発した。
「はぁ? びびってねーし、上等だし」
そして庭に出て、俺はエティの攻撃を近距離で避け続けながら、永遠と説教をしながら頭をぺちぺちと叩き続けた。エティがごめんなさい。と言うまで。
「お兄がこういう風に怒るなんて、初めて見たかも」
ジェニは無表情でぼそぼそっと呟いた。
「うん? 私に怒ってる時と一緒じゃない?」
ミラはしっかりと聞き取っていた様で、初めてじゃないでしょ? と、言葉を返した。
「馬鹿ね。それは怒ってたんじゃ無くて、調子に乗らない様に、ってのと楽しいからやってたのよ」
と、今回の事とは違うと訂正した。
「楽しいとか、言わないでよぅ」
「なんかごめんね。うちの長女が……」
ミラがしょんぼりしている所にケイが近寄り声を掛けた。
「うん、迷惑かけちゃったよね」
アイリも、ケイと同様に、謝罪の意を示した。
「私達は別にいいわよ。精神的にダメージを負ったのは主にお兄だし。それもさっきので大体は収まったみたいだし」
「そっか、良かったわ。でもエルって怒り方って割とねちっこいのね。まあ、怒って当然だとはおもうけど」
ケイは、さっきのエルの執拗にエティのプライドを折るかの様な攻防を続けたまま説教をくれる様を思い出して、呆れる様にねちっこいと評価した。
「そう? エルはやっぱり優しいと思ったよ。痛くならない様に気遣いながら叩いてたし、説教の内容ももうやらないでねって遠まわしに言ってる様だったから」
アイリはケイの意見とは逆に思ったらしく、嬉しそうに微笑んでいた。
「そうね。でも、正確に表現するなら、泣きそうな顔でもうやらないで下さいお願いします、絶対ですよ? って言ってる様だったわね」
「ぷっ、あはははははは、ジェニちゃんそれはひどいよぉ」
「ふふふ、そう言われてみればそう言う風にも見えるわね。ぷっ、なんか可愛く思えて来たわ」
「もうぉ、そんな言い方しちゃダメだよぉ、エルに聞こえたら……」
と、アイリはクスクスと笑いながらも注意していたが、先ほどまでガチ泣きしていたエティを慰めていたエルが見たらない事に気が付き、アイリは言葉を止めた。
「流石のエルでも聞こえないよぉ、あそこから……じゃ?」
ミラもエルが居ない事に気が付いた様だ。そして、同様にピンチかも知れない仲間たち?を見渡した。だが、そこにはすでに誰も居なかった。居るのは怒られる事を言っていないアイリだけだった。
「あれ? ジェニちゃんと、ケイちゃんがいない!? 逃げた!? はわわわわ、ずるいよぅ!」
「大丈夫、俺からは逃げられないから。テレポート」
ミラは声がした方に青い顔をしながら視線を向けると、無表情のエルが大きな石に腰かけて座っていた。
「はっ? 離れてたのに。」「え? なんで?」
ジェニとケイは、近くにいない人物が他者を転移させる事がどうして出来るのかと驚愕していた。
「逃げられたと思った? 残念。俺さ、今機嫌悪いんだ。知ってた?」
エルは無表情で問いかけた。
「し、知らなかったなぁ。知らなかったものはしょうがないかなぁ?」
と、ケイは視線を泳がせながら、とぼけた。自分でも強引過ぎると思ったのか、最後は問いかける様になっていた。そんなケイの見逃してくれというサインは届かず、頭の上で魔法で作り出された大量の水がサバーっと掛かった。
「ケイ、どうしたんだ? ずぶぬれじゃ無いか、早く中でお風呂にでも入って来ると良い」
「あ、じゃあ、私が案内」
「いや、こっちの方が早いだろ? テレポート」
ジェニの言葉を遮る様に、淡々とした声が響いた。
俺はケイを風呂場の脱衣所に飛ばし、ミラとジェニに視線を向けた。
「いやぁ、二人ともありがとな?」
「「え?」」
あれ? これはもしかして、大丈夫な流れ? と、ほっとした笑みを浮かべた。
「いやぁ、まさか機嫌が悪い俺のはけ口に自らなってくれるなんてなぁ」
俺は、昔ウェズ兄がやっていた、心底怖かった、無表情で切れるを実践した。
「お兄、私が悪かったわ。だからそんな目で見ないで。好きにしていいから」
ジェニは大好きな兄に冷めた目で見られることが苦痛で、何をしてもいいからその目は止めてと、悲しそうに言った。
「私も、ごめんなさい。元々今夜二人でして貰おうと思ってたし。好きにして下さい」
ミラは、突然凄い事を言い出した。ジェニもお前何言っちゃってんのと、唖然としている。
「え? は? 三人で? いや、それはちょっと……」
俺は、ミラの言葉に驚きすぎて、無表情が一瞬で崩れた。
「「はぁぁぁ?」」
そうして、今この瞬間、立場が反転した。俺は、屋敷の中に戻るまで、小一時間責められ続けた。




