母さんが俺の彼女だと言い張った。①
あれから俺達は姉さんと談話を続け、話の区切りがついた後、ジェニとミラを屋敷に帰して、転移をした。
「やっと、これたな」
俺はジェニとミラに一人じゃあの広さは厳しいから伝手でもう一人探してみるから。と言って家を出て来た。そして、俺は久しぶりにアイリ達の屋敷の前に立ち、ドアノッカーでカンカンと音を鳴らした。
「はーい、どちら様でしょうか?」
と、アイリの声が聞こえた後、扉が開いた。
「やあ、久しぶり、やっと会いに来れた」
「むう、どちら様ですか!」
「え? あ、アイリ? あの、えっと」
俺は愕然とした、優しいアイリがご立腹である。俺は何と言って良いのか分からず、おろおろしているとアイリの後ろから声が聞こえて来た。
「お! エル、おっせ~ぞ、てか何で外から来てんだよ。他人行儀すんなよなぁ」
と、いつもの調子のエティが『ほれっ』と言いながら、手招きをしていた。動き出そうとしたが、俺はやはりご立腹なアイリを見て足を止めた。そんな俺達を見たエティが頭を掻きながら口を開く。
「ああ、もうめんどくせぇなぁ、今日も来ない今日も来ないうるさかったのに、来たら来たこれかよ。エル気にしないで、来いって」
「あ、馬鹿ぁ何で言っちゃうのよ!」
と、怒りながら困ったように顔を赤く染めるアイリ。俺はアイリの肩を掴み視線を合わせて、言い直した。
「遅くなってごめん、ただいま」
「しょ、しょうがないなぁ、もう」
やっとアイリの御許しを貰い屋敷の中に案内された。だが、中に入るといつものもう一人が見当たらない。
「あれ? ケイは?」
そう尋ねると同時にドアが開いた。
「あ~さっぱりした。誰か来てたの?」
と、タオル一枚を体に巻いただけのケイが俺と目が合って硬直した。
「もう、ケイ、ちゃんと着替えて来なよ。エルも見ない~~!」
アイリは、わたわたと俺とケイの間に入り、指示を出している。
「いいんじゃね? エルはびっくりしてるだけだし、ケイは見せたいんだろうし」
エティはエティで我関せずの様だ。
「ち、ちがっ、す、すぐ着替えてくるから、待っててよね。帰っちゃダメだからねっ」
そして、やっと硬直から立ち直ったケイが、後ろ髪を引かれるように開けた扉から出て行った。
「それで、エル、今回はどれくらいいられるんだ? またすぐ帰っちまうのか?」
エティは、ちょっと寂しそうに尋ねて来た。
「ああ、俺は領主だからな、出来れば遊びに来るだけでも良いからそっちから来て欲しいんだが」
「ああ、そうか遊びにいけばいいのか、行く行く。今日帰る時連れてけよ」
エティは軽い調子で今度は嬉しそうに、了承してくれた。って今日でいいのかよ流石エティだな。
「あ、アイリはどうかな?」
俺は視線を送り、願うようにたずねた。
「うーん……考えとく。」
うぐっ。どうやら完全に機嫌を損ねてしまっているようだ。
「っとぉぉ、お待たせエル、会いたかった。いつまでいれるの?」
「ああ、今その話をしていたんだが。このまま俺が今住んでる屋敷に遊びに来ないか?エティは来てくれると言ってくれたんだが。どうだ?」
「遊びにか。うん、行くわ。どんな所かとか、色々見てみたいしね」
何をだ……ちょっと不安になって来た。だが、引く事はしない絶対に。
「んじゃ、行こうぜ」
と、エティは今すぐ行こうと言い出した。
「あ、いや、アイリがまだ……」
「うん? アイリ、行かないの?」
状況が分かって無いケイは首を傾げた。
「だって、ずっと来てくれなかったし、その位にしか思ってくれて無いみたいだし」
アイリは拗ねる様に、俺をジト目でみている。
「じゃあ、取り合えずアイリは考えてればいいんじゃね? よっし、エル、テレポートだテレポート」
いやいや、そう言う訳には行かんだろ。相変わらず容赦ないな。
「待ってよ、まだ行かないなんて言って無いでしょ」
アイリはムッとした様に、声を出した。
「ああ、そう言う事……魔物でも狩りに行ってらっしゃい。」
あれ? ケイもか。なんか辛辣じゃ無いか?
「おい、二人ともちょっとひどく無いか? 何かあったのか?」
と、二人に詰め寄る様にぼそって聞いて見ると。
「エルが、来ないからって駄々こねてばかりだったからなぁ」
「そうね、付き合わされる方の身にもなって欲しいわ」
二人は小声で俺の問いに言葉を返し、呆れたようにため息を付いた。
「ちょっとぉ、全部聞こえてるんだからねっ。もう、分かったよ。行くから。言わないでよぉ」
アイリはちょっと焦ったように寄り添って来た。
「あ、ちょっと待ってくれ、その前にもう一つ話があるんだ。実はここに来た理由がもう一つあってだな。まあそっちはおまけみたいなもんなんだが」
と、俺は、執事かメイドを斡旋してくれないか? という、ここに来る理由の為に取って付けた様な話を一応してみた。
「なるほどな、だけど、王様に話通すってのは終わってるのか?紹介するにしたってそれ次第だな。まああんまし当ても無いけどな」
エティのその言葉に二人も頷いている。
「あ~、じゃあ取り合えず王様に挨拶といこうか。テレポート」
俺は三人に伺いも立てずテレポートで王宮の城門まで飛んだ。
「お、おい」「ちょっと、エル?」「流石にこれは怒られるんじゃないかしら」
「王宮に何用か、名を名乗られよ。少女達よ。」
「私はオルセン国で領主をしているエルバートと言う者です。ミルフォードから人員を雇用させて頂く許可を頂けないかと、ご相談に上がりました。お取次ぎを」
「申し訳ございませんが、ステータスを名前だけでも確認させて頂けないでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「これは、確かに。どうぞお通り下さい。フェルディナンド様」
「「「え? えええええ?」」」
「あー、うん後で説明するよ。取りあえずは挨拶に行こう」
三人は唖然としながら、と言うか半分放心状態で後ろを付いて来ていた。そして、謁見の間の扉ですら素通りの様に開いてくれた。
「よぉ、思ったより早く帰って来たじゃねぇか。フェル」
と、父さんが口を開いた瞬間、彼女達は我に返った様で、膝を付き頭を下げている。
「父さん、今日は遊びに来たわけじゃ無いんだ。真剣な話をしたいんです」
「マジか、何があった。行って見ろ」
「この子達に惚れました。俺の領地に連れて行く許可を下さい」
「ぶはっ、そんなのは本人の意思次第だろうが」
「え~貴族だから国に断りも無くそう言う訳には行かないと断られましたよ?」
「いや、お前それふられたんだろ?」
「父さん、いくら父さんでも言って良い事と悪い事があります。遊びに行く事には了承して貰いました」
「ははは、お前がそんなに複数にほれ込むなんて意外だな。事情があるのか?」
「あると言えばあります。まあ記憶は無いけど生まれ変わり、とだけ」
「……まさかカトリーナじゃないよな?」
俺は、その人物が混ざっているであろう事を確信していたので目をそらした。
「ゆるさん。それは許せんな。で、どの子だ?」
「えっと……エティ?」
「ちょっ、おまっ、馬鹿話振んじゃねーよ、なんて言ったらいいか分かんねーし」
「エティと言うのか。お前達表を上げなさい。楽にして構わんぞ」
「「「はっ」」」
三人は顔だけを上げて、黙って居る。
「全然似て無いな。本当なのか?」
「いや、俺も面影ないでしょ? 子孫とかじゃないんですよ?」
「うーむ、この子がカトリーナかぁ」
「いや、だから、母さんじゃないんですって、今はカトリーナではなく、エティです」
と、言った瞬間、エティが跪いたまま前のめりに倒れた。
「え? あれ? ああ? ……あああ……ぁぁぁああああああ……」
「「「エティ!!」」」
俺達は、突然頭を両手で抱えて苦しみだしたエティの様子に、困惑しつつ名前を叫んだ。
「なっ! エティ? ハイヒーリング……大丈夫か?」
俺は、とっさに回復魔法を唱えて、床に転がったまま頭を押さえていたエティを抱き上げ問いかけた。
「えっと、エルがフェル君……で良いのよね?」
あれ?なんか喋り方が……ってその呼び方……
「エティ? あれ? もしかして……母さん?」
俺はそんな馬鹿なと思いながらも問いかけた。
「ふふふ、どっちもよ」
マジかよ。と、絶句してる所に父さんが口を開いた。
「本当か、本当なのか?」
と、問いかける父さん。俺もそう問いたい。
「あなた、私は今フェル君と話してるのです。後にして下さい」
いや、もうちょっと何かあるだろ……母さんらしい気もするけど。
「なっ! ぐっ本当の様だな。……分かった、後で話をしよう。これからの事も含めて」
あ、父さんもそれでいいんだ……
「「ど、どういう事……」」
アイリとケイは、愕然としながら口をポカーンと空けていた。
「えっと、どうして記憶が蘇ったのか、聞いてもいいですか?」
「うーん、ダメよ。フェル君の一番は母さんなんだから。ううんもう私は母親じゃ無いわ、エル、大好きよ」
……まてまて。無理だろ? うん、あ~どうしよう……いや、それも大事件だが、この言い方は何かあるな、女神の戯れか? もしかして全員前世の記憶が蘇ったりするんだろうか?
「と言う事よ、アルフ。今は私はエルの彼女だから、そのつもりでいてね」
「……何を……言っているんだ? 息子だぞ?」
父さんは困惑している。だが、まったくの正論である。
「父さん、エティの説得はお任せします。アイリ、ケイ、帰ろうか」
俺は、俺の彼女だと言い張る人が、母さんだと認めたくなくて、あえてエティと呼んだ。
「え? あ……そうね。」「うん、説得? して貰わないとね」
「フェル君? どうして置いて行こうとしているの?」
「父さんとちゃんと、話し合ってください。それまで口ききませんからね。テレポート」
「ちょっ、フェルくーーーん」
と、俺はエティのらしくない叫び声を聞きながらテレポートした。
「流石にこれは、対応できる気がしないんだが……どうしたらいいんだ」
俺が頭を悩ませているとケイがこちらに同情の視線を向けた。
「ええと、説明され無くても、分かった感はあるけど、ルディ様の件もあるし。と言うか今回は私もアドバイスすら、出来る気がしないわ」
だよな、客観的に見ても無理な事には代わり無いだろう。と思っていると、アイリは別の事が気になっている様だ。
「ねぇ、私もフェルディナンド様と近しい人の生まれ変わりなの?」
アイリは自分の気になっている事を口にした。
「ああ、記憶ない時は気が付かなったけど、今は確信してる」
そしてケイも俺をのぞき込む様にして聞いた。
「私も?」
「ああ」
「「そう、なんだ」」
ケイとアイリはとても困った様な表情を浮かべた。
「ああ、そうだ、一応一度戻って状況を話してまた迎えに来ようと思うんだけどいいか?」
「そ、そう、分かったわ」 「うん、心配しちゃうもんね」
「ありがとう、じゃあちょっと行って来る」
とまあ、状況を話すと言っても、どう話して良いかも分からないんだが。アイリ達を連れて来てから説明するのもどうかと思うし。などと考えながら、ジェニ達がいるであろう居間に転移すると、ジェニ、ミラ、ローズはガタッと椅子を鳴らし、飛び跳ねる様に立ち上がり、こちらを見た。
「お、おかえりなさいませ、ご主人様」
「早かったね? まだ、夜じゃないよ、どうしよう」
「ちょ、ミラは黙ってなさい」
何故か三人は挙動不審な様子、悪だくみでもしていたのだろう。だが、今はそれよりも話さなければいけない事がある。
「あ~えっと、問題が発生した。一応、危険性は無いと思うが重要な話になる。真面目に話をしたいんだが。良いか?」
三人は表情を切り替え頷くと思に椅子に座り直した。
「ええとだ、俺の前世と関わりのある話なんだが。母さんの生まれ変わりが、俺と同じように前世の記憶を取り戻した」
「はぁっ?」「何で?」「……?」
「記憶が残るなんて俺だけだと思っていたから黙って居たけど、ジェニとミラも前世で一緒だった俺の大切な人の生まれ変わりだ」
「……私は席を外した方がよろしいですね」
ローズはそう言いながら立ち上がった。
「いや、ローズも聞いておいて欲しい、俺はパーティーメンバーは身内だと思っているし」
「あ、ありがとうございます」
ローズは、お礼をいいつつも唖然とした顔で、椅子に座り直した。
「……お兄、それは、私がフェル様の彼女だったって事?」
ジェニは目を見開き純粋に疑問に思った事を投げかけて来た。
「ああ、そうだ」
俺がそう答えると、ジェニがガッツポーズを決め、それにミラが反応し、口を開いた。
「私も?」
「うーん、まあ、そんな感じだ」
そう言うと、二人はひとしきり考える仕草をしている。しばらく待ってみると、ジェニが何かに気が付いた様に口を開いた。
「待って、お兄はそれを知ったから私とそう言う関係になりたいって思ったの?」
ジェニはホクホク顔から突然焦った様な表情に切り替わり質問して来た。
「いや、記憶を受け継ぐまでは、知らなかったぞ?」
そう、そんな事は知らなかった。だから、間髪入れずに即答した。
「そっか、ならいいや」
ジェニはその言葉で満足した様子で落ち着きを取り戻した。
「うーんと。結局何が重要な話なの? 何も変わらないよね? 変わったりしないよね?」
まあ、そうだよな。すべては前世での事、だけど、記憶が戻ると色々変わっちゃう事もあるんだよなぁ。
「うん。多分母さんが図々しくここに入ってくると思う。しかも、俺の彼女だと言い張ってる」
「「はぁ?」」
「ちょっと待って! 最後の一言は何? なんでそうなったのか説明して!」
落ち着きを取り戻したはずのジェニが一瞬で混乱し、説明を求めた。
「あ~、自分で言うのもあれなんだけど、英雄譚? にはもうちょっと続きがあってだな」
俺は、前世の最後の記憶を、二人に明かそうと、説明を始めると。
「そんなのどうでもいいよぉ、エルの彼女は私達だけだよぉ」
ミラの言葉で遮られた。
「ミラ、それはそうだけど、どうでも良くは無いわ!」
……ジェニはやはりこうなのか。
「まああれだ、端的に言うとだな、俺が大切に思っていた、家族に、来世で出会ったら一緒になって欲しい的な事を言われたんだ。それを聞いていた女神がなんか仕組んだのかもしれん」
「お兄はそれになって答えたの?」
「いや、俺は、詰め寄られて、なんて答えて良いか迷ってたら。女神が話をまとめに入ったんだ。記憶が無くなるんだから出会っても分からないだろう。後は相性次第。だったかな。まあ、俺もまた出会いたいとは心から思っていたが」
「エルは、どうする気……なの?」
「まあ、取り合えず、面倒事になる前に一度ここに呼び、ちゃんと話をしようと思う。だから、今からアイリ達をここに呼んでも良いか?」
「は!? え? まさか、その子なの?」
そうだ、まず誰かを言って無かった……まあ、会う前に告げたんだしセーフって事で。
「だから、エル奴隷になりたいとか言ってたの?」
「待て待て、アイリじゃなくて、エティの方な?」
「取り合えず、分かったわ。戦闘準備しとく」
「え?戦うの?倒せばいいの?」
「ふざけんな、母さんとお前たちが殺し合うとか、そうなるくらいなら俺は姿を消すわ」
「わ、分かったわよ。口で言い負かせばいいのね?」
「あー、うん、手を出さなければいいかな」
俺も、外見は違くても母さんの記憶がある人と、とか色々厳し過ぎるし。ただのエティなら良かった。とか言ったら泣くんだろうなぁ……まあ、何にせよ、取り合えず話は通した。後は母さんを連れて来て成り行きに身を任せるしかないか。




