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報復

 俺はいくら考えても良い金策方法は思いつかず、取り合えず思考を打ち切り、気持ちよさそうに寝ているジェニを見て衝動に駆られ口と鼻を抑えた。


「むー、むー、ぷはっ、何すんのよこの馬鹿兄貴!」


「いや、俺も眠いのに一人幸せそうに寝ているお前を四時間も眺めていたら、ついな。だがそろそろ変わってくれ、俺も限界が近い。寝そう……」


「もうっ、仕方ないなぁ。じゃあゆっくりと寝るがいい、ふふふ」


 と、ジェニは眠そうな目をしながらも手をわさわさと動かして、悪戯をする事を意思表示しながら見張りを変わる事を了承した。


「気が付いたら二人して寝てたってのだけは勘弁してくれよ。起きたら魔物に喰われてたなんて洒落にならないからな」


 ジェニは明らかに何かするぞと言う振りをスルーされたせいか、少し寂しそうにしていたが、異論は無い様だ。だから俺はそのまま眠りについた。


 目が覚めると、俺はジェニの膝の上で寝ていた。少し驚いたが、心地の良い感覚に酔いしれ、俺はうつぶせになりながらジェニを抱きしめた。


「あれ? あれれ? ねえ、ここはびっくりして飛び起きる所でしょ? なんであたり前の様に受け入れて……うわっ、なんて所に顔突っ込んでるのよ、ばかー!」


 と、俺はジェニに頭を強打され、完全に覚醒した。


「おはよう、ありがとな、ジェニももう少し寝るか?」と、俺は膝をポンポンと叩き、お返しに枕に使ってもいいぞと言外に告げた。


「いいわよ、もう目が覚めたわよ、このエロ兄貴!」


「いや、目が覚めた時柔らかい枕があったら顔をうずめたくなるだろう?」


「……まあ、なるけど」


 と話しながらも、俺はポーチに入れていた調理してもらった肉を出し、二人分に分けてジェニと朝ごはんにした。


「わぁ~おいしい! 何これ、なんであの肉がこんなにおいしいのよ」


「なんかせっせと、粉をまぶしていたな。変わった点はそこ位だったが」


 昨日ローズに調理してもらった肉を頬張りながら、俺達は肉を絶賛した。


「……全部食べちゃったね」


「ああ……全部ローズが悪い」


 と、俺達は今日と明日の食事をすべて一食で完食した。


「ああ、でもさ、お兄ちゃんはもう30レベル超えたよね?」


「ああ、とっくにな。もう32レベルだ。ジェニはいくつになったんだ?」


「私ももうすぐだよ、今29レベル」


 俺は、レベルアップが簡単すぎる事に驚いた。自分の母親でさえ54レベルなのだ、このまま本気で上げ続ければ、すぐに追いついて言う事を聞かなくても済む様になるんじゃないかと考え始めた。


「なぁ、取り合えず30ちょっとで止めて、レベルを本格的に上げるのは母さんにステータスを見せてからにしないか?」


「……なんで?」


「母さんより強くなってしまえば、ジェニを売らせない事も出来るんじゃないかって思ったんだ。だけど、今日と明日だけじゃ厳しいだろ?」


「……確かに。なんで皆こうしないんだろう、こんなに簡単に上がるのに」


 それは、間違いなく装備の問題だろう。昨日の夜、この装備が無ければ俺達は間違いなく捌き切れず、死んでいただろう。それに、大半の子供は狩りをしに行く事を禁じられている。今までは売る為に死なれては困るのだろうと思っていた。


 だが、それは勘違いだった様だ。子供が自分より高レベルになられては困るからだったのだ。そこで、俺は母さんが間違いを犯した事に気が付いた。


「でもさ、どうするの?殺しちゃったらもう町には入れて貰えなくなるだろうし、あの、お母さんが素直にいう事を聞くとは思えないんだけど……」


 そう、こんな町でも一応、犯罪者でもない相手を殺したら捕まってしまうのだ。そこから逃げると言う事は、町を捨て逃げ回るしかない。


 それをする位なら、最初から母親だけから逃げた方が断然楽なのだ。だが、俺達には他の町での知識など一つも無い。薬草採集なども外の人間には買い取りなんてしてしてくれない。買い取る代わりに調合の手伝いをしたりと、条件があるのだ。そんな縄張りの様なものを引っ搔き回すとしっぺ返しがくる。


「んーよく考えてみたらさ、あの家にいる必要、無く無いか? 俺達は自給自足出来るんだし、町の外での生活さえ受けいれればあんな思いをする必要もない」


「確かに。私はお兄ちゃんさえ居ればこんな町どうでもいい。まあ、外で寝るのはちょっと嫌だけど……」


「俺もお前が居ればいい。寝る場所は作れば良いだけだろ? だけど、まだやらなくちゃならない事もあるな。泥棒されたままほおっておくのも癪だし」


 と、俺はエミールの事を思い出し、どうしてくれようかと考えた。


「じゃあさ、正式に手続きをしてお兄ちゃんの奴隷にしたら?」


「ああ、その手があったか、お前、本当に機転が利くと言うか頭いいよな」


 この国の法律で、犯罪を犯した者は、賠償金を払うか奴隷となって対価を払うと言う事になっている、俺は、その案を受け入れ、エミールを奴隷にする事に決めた。だが、問題はある、子供のした事だと親が出てくると言う事。母さんも、もちろん必要になる。


「問題は、母さんになんて言うかだな。へそくりしてたなんてバレる位なら放置して町を出た方がましだ」


「あー、うん。衝動で計画も無しに犯罪をしてしまう奴なんて、そこまでして奴隷にするメリット無いもんね。隷属魔法だってお金かかるし」


「ああ、使い道はあるけど、それは町で暮らすならの話だしな。外でなら俺達だけで十分だ、と言うかあんな奴と一緒に暮らしたくは無い」


「じゃあ、面倒なだけだし放置して外で暮らした方がいいか」


 仕方が無い。だから俺はエミールを奴隷にする事を諦め、酷い外傷を残さない程度にボコボコにする事で、手を打つことにした。


「いや、ケジメはつけさせないとな。ジェニが30になったら町に戻ってエミールを探しに行くぞ。母さんとは会わないようにすれば良いだけだしな」


「じゃあ、装備はつけたままでいい?」


 ……仮に母さんと出くわした事を考えると、見つかってしまったら間違いなく売られてしまうだろう。なので俺は却下した。


「いや、置いて行こう。これからの事を考えると間違っても失う訳にはいかないからな」


「分かったー。じゃあ、ここ掘れワンちゃん」


 俺は無言でアイアンクローをして、ジェニを思い改めさせた。


 そして、さくっとジェニのレベルも30を超え、俺達はウィシュタルに帰り、2時間以上掛けてエミールを探しても見つからず秘密基地で休憩する事にした。


 だが、そこには探していたはずのエミールがいた。


「……やっと、見つけた」


「エル、その子は誰だ? 今日は遅いじゃ無いか、昨日もいきなり今日は無しだとか言い出したってミラに言われて追い返されるし。何かあったのか?」


 ……もしかして、犯人はこいつじゃないのか? この反応を素で出来る程こいつに度胸は無い、もしそうならば、犯人はまずミラだろう。


「ミラがお前を売った。もう、分かっているんだぞ」


 一応、俺はこいつにかまを掛けて確認をしてみる事にした。


「売った? そろそろ売られるのはミラだろ? 何言ってんだ?」


 と、エミールはあっけらかんとした表情で疑問を投げかけて来た。


 ああ、白だ、真っ白だ。と、俺は確信した。


「そっかー、お兄は盗まれた上に騙されちゃったかぁ」


 とジェ二が言うと、エミールが反応してこっちを向いた


「お兄……だと……ずるいぞ、どうして黙ってたんだ」 


 と、エミールは裏切り者を見る様に俺を凝視した。


「そんな事より聞けエミール、大事な話だ」


「ぐぬぬ……分かった。んで何?」


「まず、俺達のへそくりが盗まれた」


「はぁ? ふざけんなよ、どうすんだよ」


 俺はエミールを軽く睨み黙らせ、続きを話した。


「昨日、俺は狩りを止めようなんて言っていない。ちゃんと行って来た」


「嘘だ。待ち合わせ場所で俺は待ってたし来なかったじゃ無いか」


 なるほど、待ち合わせ場所も前もってミラが変えていたのか。


「俺は朝7時から一時間ここで待っていた、待ち合わせ場所は変えてない」


 と、話がここまで来てようやく分かって来たエミールは焦り声を上げる。


「待て待て待て、まさか俺がやったとか思ってるんじゃ無いだろうな? 言っておくけど俺は取って何ていないからな、絶対にだ」


 エミールは心外だと言わんばかりの表情で否定する。


「ああ、俺はお前の言葉を信じる事にする。それともう一つな、ミラが言ったんだ、俺達のお金はエミールが全部持って行ったと、私は一銅貨も取っていないと、俺がお前を信じている以上何を言いたいのか分かるな?」


「……本当に、ミラがそう言ったのか? 嘘じゃ無いんだよな?」


「ああ、被害者である俺とお前で、あいつをどうするかの話し合いをしないか?」


 と、皆のお金である以上、ミラが犯人ならばエミールにも仕返しをする権利があるはずだと思い、問いかけた。


「……どうするって、どうするんだ?」


「俺達の利益の為に、もしくはこの腹立たしさを収める為に、行動をしようと言う話だ。お前は何か無いのか?」


「でも、どうやってミラがやったって証明するんだ? それをしないと何も出来なく無いか?」


 確かにそうだ。だが、俺はこいつらの性格を把握している。少しど突き回せば止めて欲しくて素直に吐くはずだ。だから行動を共にしてこれたのだから。


「ああ、それはそうだな。まずはエミールには隠れていてもらって彼女をここにおびき出そう。それから二人で尋問を開始しようじゃないか。どうだ?」


「……ああ、決まりだ。俺さ、最近ミラの体を見るとやりたいって思っていたんだよな、あいつが犯人だったらやってもいいだろ?」


 ……俺は心底軽蔑した目でエミールを見た。


「……お兄も、やるの?」


 ジェニは何故か、俺がエミールに向けている視線を俺に向けていた。


「ちょっと待て、俺は何も言ってない。その前にエミール、それは止めて置け、あいつの親が出て来て今度はお前が色々される番になっちまうぞ」


「ぐぬ。でもよ、あいつがやったんならミラは俺の事をハメたって事になるだろ。だとしたら少し小突く程度じゃ俺は収まらないぞ」


 それはそうだろう、俺もそこに関しては同じ気持ちだ。


「だから、その為の話し合いをする為に探してたんだよ。小突く程度なら勝手やってるだろ」


「確かに、でも俺に方法を考えろって言われたって分かんないぞ。こういうの苦手なんだ、知ってるだろ」


 ああ、知ってるよ。


「今回は、この国の法律を使おうと思う」


「親はどうするんだよ、うちの親は絶対に嫌だぞ」


 そんなのはうちも嫌だ。


「ああ、だから俺の兄さんに連絡を取る。もし、兄さんが協力してくれれば、ミラの家から金を取れるかも知れない」


「金をとるのか? 犯罪者は奴隷になるもんじゃないのか?」


「金を盗んだ場合、盗んだ5倍の金額を払えばそれは免除される」


 そう、エミールが犯人だった場合、その額を払う位なら奴隷にしただろう。だが、ミラは女で高く売れる。賠償金を払った方が得なのだ。


「俺達のへそくりっていくら位あったっけ?」


「総額、金貨1枚大銀貨で2枚と銀貨3枚、大銅貨2枚と銅貨7枚だ。だが、ミラの分を引と、大銀貨8枚、銀貨2枚、大銅貨1枚銅貨8枚だ。」


 俺は、何度も数え、その度に計算している。間違いは無いはずだ。


「凄っ、良くそんなに貯めれたね、母さんの目をかいくぐって」


 と、ジェニは目を見開き、呟いた。


「その5倍っていくらになるんだ?」


「ああ~、えーと、金貨が4枚と大銀貨1枚くらいだ」


「はぁ、後、大銅貨9枚ね」


「な、その半分が俺の物になるのか?」


 何を馬鹿な事を、そんな訳が無いだろうと彼に説明をしてやる。


「馬鹿を言うな。リーダーである俺の取り分が半分、残りから兄さんに頼む依頼料で大銀貨で5枚、案を出してくれたジェニにも大銀貨で5枚、だからそうだな……最初に端数はすべてやる、お前の取り分は金貨一枚大銀貨一枚大銅貨9枚だ」


「三人で集めていた金額と大体同じじゃ無いか、ほんとに貰えるのか?」


 大分減らされていると言うのに、こいつはあまり気にしていないみたいだ。まあ降ってわいた話で、計画や人材もすべてこちらなのだ。この位の配当でも満足してもおかしく無いか。だが、まだ発案状態なのを忘れてはならない。


「これは最初に言って置く、まだ何も確定していない。取れる可能性があるというだけの話だ、喜ぶのはすべてが上手く運んだ後にしろ。逆に失敗すればすべてが無くなる。が、このまま進めてみてもいいか?」


「……ああ、俺も聞いてから分からないほど馬鹿じゃない、もうすでに盗まれて無いんだ、全力でやってやろうぜ」


 本当に分かっているのかは疑わしいが、言質を取った以上もう用は無い。


「決まった様ね、私は何をすればいいの?」


「まずは確認からだ、ミラを呼び出して話をする所から始めなくちゃな。兄さんに依頼をしてから犯人が違いましたじゃ大損害だ。取り合えず縛る物を用意して置いてくれ」


 俺は『んじゃ、行って来るから、お前たちは隠れていろ』と、声を掛けてから秘密基地を後にした。


 それから俺はミラの家にたどり着き、いつも通りの感じで稼ぎに行こうと、問い掛けた。


「うーん、悪いけど、今日は遠慮しておこうかな、最近親もうるさいし」


 と、警戒しているのだろう、行けないと断りを入れて来た。


「だがなぁ、エミールもあれから見つからないし、もう少し詳しい話を聞きたいんだ、俺は金貨を諦めたくなんて無いからな。金貨だぞ金貨」


 と、金貨の部分を、家の中に聞こえてもおかしくない音量で話しかけた。


「ちょ、ちょっと、声がでかいよ」


「悪い、あいつの事を考えたら少しイライラして、ついな」


「はぁ、もう、行くから、話だけでいいんでしょ?」


 と、俺はミラを連れ出す事に成功した。


 そして秘密基地に付き、彼女ミラは、いつもの席に座った。


「よし、じゃあ話し合いを始める為に必要な事をしなくちゃな」


「いいから、さっさと聞きたい事聞いてよ、怒られちゃうじゃない」


 と、帰りたそうにそわそわしている彼女に近寄り、俺は彼女を抱きしめ、取り押さえた。


「もういいぞ、ジェニ、取り合えず縛ってくれ」


 と、言うと、ジェニとエミールは颯爽と出て来て、ミラを取り押さえる為に、手足を縛り付けた。


「なっ、何すんのよ、放しなさいよ」


「さて、話し合いをしようか、まず、金をどこへやった」


 俺は、盗んだ理由を知りたくて、金の使い道を尋ねた。


「そんなの、知らない。言ったじゃない、エミールが取ったって」


「俺がか? お前、昨日俺に、待ち合わせ場所を変更するって言って来たよな?」


 エミールは、本当にミラがそう言っていた事がショックだった様で、深刻な表情をしながら確認をしていた。


「それが何よ、だから私が取ったなんて事にはならないじゃない」


「はぁ、エミールが言いたい事はな、そんな事をする必要があるのはエミールを犯人に仕立てたい奴だけだって事が言いたいんだよ」


 と、俺は代わりに問いの意味を伝えてやると、彼女はこう答えた。


「そんなの知らない」と、俺は彼女に質問をした。


「じゃあ、もう一度聞かせろ。犯人は誰だ」


「知らないわよ、エミールじゃないなら他の人でしょ。私じゃない」


 その瞬間、犯人が確定した。


 俺は彼女の肩を殴った、彼女は横に吹っ飛び、そのまま転がった。


 俺は彼女の髪を掴み、顔を持ち上げ、囁くように告げた。


「これはまず、嘘をついた分だ。お前はエミールが全部一人で持って行ったと言ったな、それを確認したのなら、犯人は他の人だとは言わない。もう、言い逃れは出来ないぞ。知っていて言わないのなら言いたくなるまで痛い思いをして貰おう」


「うう、痛い、肩が……肩が……いや……違うの、これには事情があって、だから、ヤダ、痛いのは嫌なの」


「じゃあ、どうして取ったんだ? 事実をちゃんと言えれば殴られないかも知れないぞ」


「ごめん、ごめんなさい、謝るから。ね?」


 と、冷や汗をかきながら乾いた笑いを向けた彼女の顔を殴った。


「あぐっ。いたい、いたいよう」


「言いたくないのならいい、気が済むまでは殴らせてもらう」


 と、俺は手を上げ再度殴ろうとすると。


「分かったから、言うからお願い、もう殴らないで」


「そんな言葉はいらない、今すぐ言おうとしなければ殴り続ける」


 と、もう一度殴って間を空けると、彼女は喋り出した。傍目で見ているエミールが『相変わらず、容赦ねーな』と言っていたが、ジェニが『いや、全然甘いよ? うちの母さんと比べたら』と代弁してくれた。


「出来心だったの、私もうすぐ売られちゃうし、その前に贅沢をしてみたかったの。だから、ごめんなさい」


 と、彼女は自白をした。俺はその言葉を確認した後、ジェニを兄さんの所へ向かう様にと頼んだ。


「分かった、兄さんにこの事を話して親の代わりに来てもらえるか、を聞いて来ればいいのね?」


「ああ、取れる金額については伏せろよ、それと、金額にごねたら他の人に頼むと伝えろ」


 と、伝えると。彼女は『了解』と言い颯爽と秘密基地を飛び出し、兄さんがいるであろう場所へと駆けて言った。


 兄さんは此処から二時間ほどの所にある村で、ひっそりと畑を耕し暮らしているはずだ。最近会ってはいないが、俺とジェニは何度か遊びに行ったことがある。


 そして、少なくとも往復で4時間は掛かるので、その暇になった時間でミラに贅沢の行方を詳しく聞いていった。ほとんどたわいも無い事だった。取らずとも、俺達に頼み込めば叶うかも知れない事だった。大銀貨一枚もあれば十分だったからだ。俺は心底呆れたが、エミールは突如ひらめいたような顔をして俺に問いかけて来た。


「なあエル、もし金じゃ無くて奴隷だったとしたら、どうやって分けるんだ? お前の兄貴とかの配分とかもさ、大丈夫なのか? 俺にも命令権とか出来るんだろうか?」


 ……こいつはどうしてもやりたいらしい、やりたいと言う気持ちは分かるが、口説いた相手とすればいいだろ、と思いつつ心配は無い、と告げる。


「そしたら奴隷商に行けばいいだけだ。それ以上に儲かる。だからミラの親もお金が無かったとしても売ってからこっちに渡すだろ、その方が儲かるんだからさ」


 と、エミールに告げると、彼は複雑そうな顔をした。


「そっかー、どう転んでも他の奴の物になっちまうのか」


「いい加減諦めろ。取られたから犯す、ってのもなんか違うだろ」


 と、しつこいエミールにいい加減諦めろと告げると、予想外の言葉が返って来た。


「いや、そこだけじゃねーよ、俺達これでも何年も一緒にやってきただろ。だからさ、なんか信じられなくて……」


「ああ、俺もその気持ちはあった。まあ、俺は最初お前がやった物だと思っていたから、お前に対してだけど。まあ、今はもうどうでも良いかな、そんな事をする奴は仲間じゃないから」


 と、今の気持ちを正直に告げると、エミールは若干青い顔をしながら『まあ、確かに』と答えた。


 そんな話を聞きながらも、黙って居たミラが口を開いた。


「私、エルの奴隷になりたい。お願い。もし、お父さん達が奴隷として渡したら売らないで。体なら好きにしていいし、何でもするから」


「……お前、何言ってんの? 奴隷が何でもするって体差し出すって当たり前だろ? それに話聞いていたんなら分かるだろ。兄さんにもジェニにも報酬を払わないといけないんだよ、その金をどこから出すんだ?」


 と、告げると、彼女はそこから黙ってしまった。


「むう、やっぱり俺じゃないのな。リーダーになれば変わるんだろうか……」


 と、エルが呟いていたが、独り言っぽかったのでスルーした。


 それから、沈黙が続き、耐えられなくなったエミールが口を開いた。


「なあ、黙りこくっててもしょうがねーし、もう俺達三人も最後じゃん? 最後くらい普通に話をしようぜ。もうこのまま行けばミラは売られるんだし、ミラにはもう罪を償って貰ったつもりでさ」


 と、エミールが提案してきた。


「これだけは言って置く、何を言われても俺は行動を変えない。それで良いなら構わない」


 ミラは、それでも良いと言い、結局三人でいつもの様に話をして時間を過ごした。


「まーあれだな、お前にとっては売られるのが早まっただけだし、それだけで済んで良かったじゃねーか。俺が犯人にされて居たら、どうなっていただろうな……殴る蹴るで済むはずは無いだろうし」


 と、エミールは言った時、俺は確信した。エミールはミラの事が好きだったのだと。ただ、欲情して抱きたいと言っていた訳では無かったのだと、まあ、無理やりやりたいと言う時点で何も評価は変わらないが……だが、こんなにも貶めるような事をされて良く相手の心配が出来る物だ、と感心した。


「うん、何でこんな事しちゃったんだろう、最後に心から笑ってさよならが出来なくしちゃったんだね、私。ごめんなさい」


 と、ここに来て初めてミラはしっかりと非を認めた気がした。これが愛のなせるわざと言う奴だろうか? と思いつつ、俺はミラに対して言葉を掛けた。


「はぁ、さっきの言葉受け入れてやるよ、って言ってもエミールがお金は後でも良いと言うならだが」


「え? 良いのか? 俺はいいぞ?」と、エミールが言い。


 ミラは泣きながら『ありがとう』と、這いつくばって言っていた。


「まあ解放はしないし、お前が親と話す時間があるかも知らんし、あり得ないけどな」


 と、突き放す様に告げると、ミラは。


「うん、それでも良い。ありがとう、最後に優しさをくれて」


 俺は正直困った、ただ、言葉を告げただけで泣きながら感謝されては、詐欺でもはたらいてる気分だ。と、思っていると、ノックの音が聞こえて来たと同時にジェニの『入っていい?』と言う、声が聞こえて来た。


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