気がかり
俺達は今、薄暗い倉庫のような場所にいる。そう、テレポートでここへと飛んできたのだ、オルセンの王都マイヤーに行くために。ここがどこかも分からないのに……
「ねぇ、エル。ここ、倉庫って言うより宝物庫って感じなんだけど……私が知ってるだけでも高い物がごろごろあるわよ。」
うん。俺も思っていた所だよ? 本当に大丈夫なのか?
「高いっていくら位だ? 私、大銀貨二枚持ってるし、ちょっとやそっとじゃ驚かないぜ?」
まてまて、そんな次元じゃ無いんだよ。
「ああ、うん。金貨10枚以上の物がごろごろあるのよ? 驚かないでね?」
あ、あれ? これは嫌な予感がする。
「はああぁぁぁぁあああ? やっべえじゃんか!」
と、思っていると案の定エティが大声で叫んだ。
「あ、ははは、もうエルの知り合いで分かってくれる事を期待するしか無いね。」
いや、今すぐテレポートで一度戻るべきだと思い、声を出そうとした瞬間。
「ああ、君か。思わず殺すところだった。主様に会いに来るのは歓迎だが、場所は選べよ」
そう、いきなり後方から声がした。俺はぞくりと冷や汗を流し、ゆっくりと振り返った。
「あの、すみません、間違ってここに飛んでしまって。このまま外に出てもよろしいでしょうか?」
仕方が無いので俺は、穏便に済ませる方向でそう聞いて見た。
「待て、せめて顔は合わせてから出て行け。じゃ無いと俺が嫌味を言われてしまうからな」
やっぱりダメか。と、俺達はこの場所から連れ出され、案内を受けた。
……なんて広い屋敷なんだ……いや、これは城か? 俺達は歩くたびに顔を青ざめさせて行った。
「主は今此処で仕事中だ、少し待っていろ」
と、廊下で待っていると一人の女性が出て来た。それと同時に男は居なくなった。
「エル君! どこ行ってたの? 皆が心配していたわよ?」
この人は俺の事を知っている様だ。皆か……それは、妹の事だろうか?
「すみません。俺は今記憶喪失中でして、貴方が誰なのかも分かっていません。妹がいると言う情報を入手して、一応会って置こうと王都マイヤーに転移しようとしたらここに出まして……ここであってます?」
俺は、気後れしながらも、経緯を説明した。皆の中に妹が入っているのか分からないので補足もいれて。
「え? ええ? 記憶が無いって……どうして?」
どうして、と言われても。何であんな事になったのかも覚えていないんだよなぁ。
「あの、エルは顔がつぶれる程の大怪我を負っていた所を、私達がポーションで助けたんです」
アイリが困っている俺を見かねて説明をしてくれた。
「潰れている様には見えないけど……」
屋敷の主である彼女は、俺を見回してそう言った。
「エル、言っても良い?」
アイリがそう言って来たが、すべて任せる訳には行かないだろう。と、アイリに目配せをして口を開いた。
「ええと、フルヒーリングで直しました。何故か使えましたので……」
俺は、ここで隠してもろくな事にならないだろうと素直に話した。それに何故か確信があるのだ。この人は俺の敵じゃ無いと。
「……じゃあ、やっぱりあの話は本当だったのね」
彼女は何かに納得をして俺の方をマジマジと見つめている。なんかこそばゆいな。
「それで、あの……出来れば妹を探しに行きたいので、ここから外に出ても良いでしょうか?」
俺はこの仰々しい場所を一刻も早く出たくて、そう尋ねた。
「ええ、そうね。でも……分かったわ。まず、お話しましょ? 私が知っているエル君の事なら教えられるから」
と、少し斜め上の返答が返って来た。それから豪華すぎる客間に案内されて、圧倒されながら話を聞いた。どうやら俺は、昔あのイライザと言う母親に妹を売られそうになって町を出たそうだ。その時に同じく売られそうだった仲間を、助ける為に奴隷にして最近解放をした。と言う話を聞いた。
「えへへ、やっぱりエルは、昔もエルだね。もう怖がる事無いよ」
「見直したわ。うん、私も安心した」
「私は分かってたし、別に何ともおもわねーけどな」
彼女達もこう言ってくれている。俺もとても安心した。だが、次の言葉に俺は言葉を失った。
「そっか、本当に記憶が無いのね。じゃあ、エル君に任せている領地はどうしようかしら。このままやってくれる気はある?」
はっ!?
「「「エルが領主!?」」」
俺と同じ表情をした三人が一斉に俺の方を向き、俺達は驚いた表情のまま向き合い硬直した。
「うーん。じゃあ、取り合えずジェニちゃん達に顔見せてからまた来なさい。そこからどうするか決めましょ。多分大変だろうから……」
と、彼女はアイリ達をチラリと見て、ため息を付きながらそう言った。俺達は彼女に見送られ、屋敷の出口まで案内された。
「ああ、そうそう、ローズちゃん少し見ない間に随分変わったわね。引き続きあなたに任せるから、しばらくお願いね」
彼女は別れ際に訳の分からない事を言っていたが、取り合えずここから出られる事を優先して聞き流した。
そうして俺達は彼女に言われたと通り、隣町の公爵家の屋敷を尋ねる事、任されている領地の村に向かう事、と言う目的地が出来た。記憶は無いが幸い二日もあれば着く距離であり、地図もくれたので俺達はこれからすぐに向かう事が出来る状態になった。
「まさか、オルセンの公爵様の御屋敷だったなんてな……」
俺はある程度離れた所で出てきた場所を見上げそう言った。
「まったくよ。もっと慎重に選んでよね、寿命が縮まると思ったじゃない」
「本当にびっくりしたよねぇ。あんなに大きいお屋敷だったなんて……」
「まあ大丈夫だったんだし、良いんじゃね?」
エティ以外は同じ気持ちの様だ。
「よし、危機は去った。じゃあ行くか」
俺はそう言って、彼女達を連れて隣町に向かって走り出していた。エティが、ちんたらしてんじゃねぇとか言い出して、いつの間にか競争みたくなっていた。
「いつまで走るのよぉ。私そういう気分じゃ無いんだけど……」
と、愚痴りながら、ケイは遅れがちになって行った。アイリとエティは楽しく競い合っている様子だ。
「ケイ、俺のせいでごめんな」
そうケイに声を掛けて、俺はケイをお姫様抱っこした。
「別にそんなつもりでって。ひゃっ、ええ?」
困惑しているケイをスルーして、俺はアイリとエティを追い抜いた。
「「あ~ずるーい! 反則、反則!」」
二人が抗議して足が止まり、ケイを降ろして言い合いながら歩いて行った。
「もっとちゃんと競いなさいよ、降ろされちゃったじゃない。」
と、ケイが言った事により争いは激化していき、何故か俺が一人を抱っこした状態で、二人と競走する。と言うゲームが交代で繰り返し行われる事になった。
「うーん、後ちょっとなのにもうすぐ夜になっちゃうね。今日は此処で野営かぁ……って何の準備もしてないよ!? どうしよう! ねぇ、どうしよう! 私の馬鹿。こうなる事は分かっていたじゃない」
と、一人、あたふたとしているアイリを尻目に俺は一言呟いた。
「テレポート」
そして、いつもの俺達が住む、小さな屋敷の居間に転移した。
「こうなる事は分かっていたわよね」「私も分かってたぞ」
二人はニヤニヤとアイリを見て、そう告げた。
「ちょっと、狩りに行って来る」
と、アイリが顔を真っ赤にさせて出て行こうとしたので、俺は彼女を止める為に、彼女の毛並みを思いっきり堪能してから眠りに着く事になった。良い眠りにつけた。
そして心身共に万能になった俺は、彼女達をつれて再度転移した。
「テレポート」
俺達は、昨日アイリがあたふたとしていた場所へとでた。
「それ、万能過ぎよね」
ケイがそうつぶやいて、アイリが少し口をへの字に曲げながらも俺達は再度歩き出した。
「今日は競走しねーのか?」
エティは昨日の競争が気に入った様でそう聞いてきたが。
「もう近いし、歩きで良いんじゃ無いか?」
俺は、もうすぐ着くから大人しくしていようと返した。
そうして森に挟まれた街道を抜けると、町が見えた。
「やっと着いたー。って、家出て来たばかりだから実感が薄いね」
アイリは頬を掻きながら少し苦笑いをして、町を確認した事を喜んだ。
「エルの昔の仲間たちさ、心配しているかな? 居なくなった事怒ってるかな?」
「どっちもじゃ無いか? 私なら怒るぞ! 心配したって」
と、ケイとエティが話しているのを聞いて、俺は硬直した。そうだよ、普通なら怒るよな……いや、もしかしたらやられた事を知っているかも知れない。だとしたら生きていた事を喜んでくれるんじゃ無いか? ……でもやられた事を知っているのに、別で一人転移したってあり得ないか……
俺が深刻な表情で悩んでいると、エティが俺の頭を撫でた。
「大丈夫だ。心配したって怒った後は、私なら無事だった事を喜ぶ」
俺は、頭を撫でられる歳じゃないと思いながらも表情が和らいで、お礼を言いながら何となくエティの尻尾を撫でた。
「わっ! ひゃっ、どこ触ってんだよ。このエロ!」
あれ? いけなかったのか? ずっと触ってみたいと思っていたんだが……
「エル、最低」
なんと……そんなにいけない行為だったのか……また言われてしまった。
「せめて、聞いてからにしなさいよ。私に」
あ、そう言う事なのか? いきなりだったから?
「「はっ!?」」
アイリとエティは割とガチでケイを威嚇していた。これはもうしない方が良いのかもしれない。
「悪い、知らなかったんだ。これからはもう触らないから」
「「「えっ?」」」
何故か三人は、驚いたようにこっちを見た。いや、俺はエロい事を無理やりしたりはしないからね? と思って居ると、いつの間にか町についていた。
「さて、ギルドで場所を聞けば良いんだったか?」
俺は公爵様に注意事項として、領主の所に行くのは止めて置けと言われた。一応、領主同士で相手の領地に住まい、公爵家の屋敷にいるなどと知れると面倒だからだそうだ。
なので、俺達はギルドに向かい場所を聞いた。そして、たどり着く事が出来たのだが。
「……留守だな」
いくらドアノッカーを叩いても反応が無く、どうしようかと思っていると。
「これ、エルへの手紙じゃない?」
と、アイリが見つけた紙を受け取り、読んでみた。そこには……
エルへ。帰ってきたら私達の村へ向かって、今はそっちに居るから。これを見たら絶対に真っすぐ村へ向かう事、何があってもよ。待ってるから。
と、書いてあった。
「やっぱり、心配してるみたいね」
「だね、早く行ってあげなきゃね」
「じゃあ、またあの競争だな」
と、エティが俺にしがみ付き抱っこを求めた。
「移動ばっかりで悪いな」
そう三人に声を掛けて、また俺達は走った。そして、目的地周辺までたどり着いた。
「なぁ、この印が付いている辺りって街道が無いんだけど、どうやって場所特定するんだ?」
「さぁ」
「うーん」
ケイとアイリは顔を傾げ、分からなそうにしていた。
「そこまで絞れているんなら、エルが感知で集まってる場所さがせばいいじゃねーか」
「いや、流石のエルでもそこまでは……」
「もう、エティはもうちょっと考えて物言いなさいよ」
エティの提案に、アイリとケイがダメ出しをしたが。
「ああ、その手があったか。やってみる」
俺は、地図でここまで絞れているのなら。とやってみる事にすると。
「「えっ?」」
「お前ら、エルを馬鹿にすんなよ。一キロ先をそこまで正確に把握できるんだ。適当でいいならもっといけるはずなんだよ」
二人は、エティに知識で負けた事にショックを受けて青い顔をした後、地に膝と手をついた。
「お前らふざけんなし! 長女馬鹿にすんなし!」
と、言いながら、崩れ落ちた二人を蹴り飛ばそうと足を振ったが、予測をしていたように二人は避けて追いかけっこが始まっていた。そうして、何故か彼女達が先頭で草原を走って進んでいった。
「おい、あんま先に行くなよ」
俺は魔力感知で集中をしようとしていた為、ある程度スピードを落としていると置いて行かれそうになっていて、声を掛けた。
「もう、早く早く~」「おっせーぞ」「私はちゃんと待ってるからね」
性格が見て取れる三者三様の答えを貰い、少し笑いながらも魔力感知を発動させて近づこうとした。
だが、反応が5つもあり、二つが高速で彼女達に近づいている事に気が付き、俺は声を上げると共にテレポートをした。
「おい、気を付けろ! 何かいるぞ。テレポート」
転移で三人の少し前方に出ると、高速で動く二つの陰に俺は襲われた。転移で感知の反応が切れた為に補足に少し時間がかかり、避ける事が厳しそうだった。だから俺は、剣で二人の攻撃をぶった切った。




