助っ人
俺達は町に入る時、何故か止められず素通りできた。
通行人を観察している時は誰何を受けている者も居たと言うのに、止められる事は無かった。だが、そんな事を考え続けても仕方が無いので、俺は情報収集の為に探りを入れ始める事にした。
回復薬を扱う雑貨屋に入り、ケイに目配せをした後少し大き目な声で話しかけた。
「なあ、この町の上位者って何レベル位なんだろうな」
「ソウネェ、80レベル程度ジャナイ? 規模モ大キクナイ町ダシ」
おい、ケイ、何だその三文芝居は……くっそ、人選間違えた。笑いを堪えられるか心配だ。
「そうかぁ? こんな町だからこそ割と高位な人が常駐してたりするんじゃないか?」
と、言いながら俺は店主の方をチラリと見た。流石にもうケイには振れない……触れない。
「なんでぇ、面白そうな事やってやがるな」
そう言いながら店主が俺に顔を近づけ囁いた。
「おい、標的か? 芝居して欲しけりゃ銀貨3枚で手を打つぞ?」
ちっ、銀貨3枚か。その程度なら最初から払って情報を得た方が良かったか? そう思っていると、アイリが頭にかぶっているフードをピクピクさせてから、俺に財布を渡した。お前、いい奥さんになれるぜ。お・れ・の!
「なんでぇ、良く躾てあるじゃねぇか。標的じゃあねぇ様だがな。どうすんだ? 払うのか?」
「この町の高レベル者のレベルを知りたいと思っています。答えられますか?」
「そりゃ、答えられるに決まってる。って、そう言うって事は何か企みの最中だよなぁ、礼は弾めって母ちゃんに教わらなかったか?」
アイリは俺の裾を引っ張り、俺が視線を向けると頷いた。
「申し訳ありませんね、俺達の小遣いじゃ足りない様です。お邪魔しました」
「ちっ、しょうがねぇな……3枚で手を打ってやる。早く出しな」
俺は銀貨三枚を手渡し、情報を貰った。
「この町に滞在してるので高レベル帯は領主の所に160レベルが一人、150が二人、後は慈善事業の用心棒に170レベルの者と140レベル者が一人ずつって所だな。120以下はカウントしてねぇが、職業上、割とガチだぜ? そんな情報を教えてやったんだ、小遣いが貯まったらポーション買いに来い。忘れんなよ?」
店主は暇な時間に小遣いと暇つぶしが両方出来たからか、割と上機嫌で教えてくれた。俺は果たす気の無い約束をした後、彼女達を連れ店を出た。
「さて、これでレベルは分かったな。だが、どうするか。140ですら厳しいな」
俺は、そう言いながら彼女達に目をやると、青い顔をしながらも思いつめた様に真剣な表情をしていた。
「それでも……行くしかない」
アイリはそう口にした。
「当然ね。此処で逃げたら自分が許せ無そうだわ」
ケイも同意見の様だ。これは予想外だな。
「倍のレベルかぁ。流石におっかねぇけどエースだしな、一番強い奴は私が当たる。」
エティは自分の倍のレベルの相手に、自分から当たるとまで言い出した。俺はそんな彼女達にげん骨をかました。
「「「いたっ」」」
「ちょっと落ち着け、そして考えろ。お前たちの目的は死ぬことか? 死ねば仲間が助かるのか?」
俺は再度、彼女達を見つめた。
「でも、何もしなければ絶対に助からない」
アイリは思考する事を止めた様だ。流石にそれはダメだよ、後でお説教しなきゃいけないな。
「はぁ、分かって無い様だから言うぞ。このまま特攻しても絶対に助からないし、助けられない」
俺は無駄死にになるだけだ。と告げた。
「そんなの、やってみないと分からないじゃない。隙があればあんたのテレポートだって……」
ケイは、一路の望みに掛けるべきだと思ってるようだ。
「おい、勘違いをしている様だから言って置くぞ。俺は仲間だ、お前たちを手伝うと言った。そして、俺は諦めてそう言ってる訳じゃ無い」
話し合いをちゃんとして貰う為に、俺は諦めろと言っている訳じゃ無いと言う事を伝えた。
「私は前に出て戦う。考えるのは任せる。でもあまり待つのは嫌だからな」
珍しくエティが最初に折れ、素直に従うと言ってくれた。
「策があるのね?」
ケイが俺をまじまじと見つめ、何か思いついたのか? と問う。
「ごめん。私どうしても待てない。探そう? 皆を、お願い」
アイリは思考を停止したままの様だ。このままじゃいけないな。
「じゃあ、リーダーを任された者として決断するよ。取り合えずその奴隷商人を探そう」
俺は、敵の所在地を取り合えず、確認する、という意味で言った。
「エル! ありがとう。ごめん……ホントにありがとう」
だが、アイリは自分の要望を受け入れてくれたと思った様だ。俺に精一杯の気持ちを込めた感謝の言葉を送って来た。
俺は、否定しようか迷ったが、あまりこの状態で心をすれ違わせ過ぎると指示すら受け付けなくなる危険がありそうだ。と心苦しさを感じながらも『最初だけは指示に従え』と告げ、奴隷商人の店を探した。
その場所はすぐに見つかった。ただ獣人を買いたいから探している。と、言っただけで道を教えてくれた者が居たのだ。俺は珍しいなと思いながらも目的地がちゃんと合っていた事を確認して、三人に声を掛けた。
「よし、間違いなさそうだな。じゃあ、移動するぞ。テレポート」
俺は転移魔法を唱えて獣人国に戻り、彼の住まう家の前にテレポートした。
「どうして! 早く戻してっ! エルっ、ねぇエルっ……信じてたのに……」
やはり、アイリは感情を暴走させた様だ。大声で俺を捲し立てる様に叫んだ。ごめんなアイリ。でもこれで計画通りだ。そして、彼の家のドアが勢いよく開いた。
「どうした! 何があった!」
彼の存在を確認した後、俺は言った。
「すみません、彼女達を守る為に手を貸してください。テレポート」
そして俺は、英雄パーティの最後の生き残りの彼を連れて、奴隷商人の店の中に直接テレポートをした。
「え? ええ? エル、どういう事?」
アイリはどうして戻ってくれたのか、何故彼を無理やり連れて行ったのか、その二つの疑問で混乱しているのだろう。必死に俺を見て、声を掛けている。
「ルディさんには申し訳ないが、巻き込ませて貰った。奴隷商人だけならまだしも170レベルは手に負えないから」
俺は、状況が一つも分からないであろう彼に、察しが良ければすぐわかるくらいに説明した。
「ふふ、相変わらず強引ですね。でも死なれるよりよっぽどいい」
彼は怒ったそぶりは無く、割と乗り気の様子だ。良かった。これで俺達を連れて転移で戻られたら、どう彼女の願いを叶えようかと頭を悩ませるところだった。
「おやぁ、転移で入ってくるなんて、随分と不躾なお客さんですなぁ。どんなのがお望みで? 高いのを買ってくれるなら色々紹介しますぜ?」
と、ポーカーフェイスを崩さずに奴隷商人はそう問いかけて来た。
「そうだな、噂になっている最近入った上質の獣人の中から一人選びたい。一人一人見せて貰えないか?」
「ほう、そちらの彼が主人かと思いきや、お前が主人だったのか? 上手い事やったんだな。あの奴隷はもう売ったのか? それともだまし取った金で新しいのを買ったのか?」
何のことだ……俺が奴隷持ち? 売った? ちっ、またこれか。くそっ! 昔の俺は一体何をやってたんだ……俺は今、アイリたちにどんな目で見られているんだろうか。怖い……彼女達を見る事が凄く怖い。
「おいおい、主人だどうだって勝手に決められちゃ困るな。俺の方が金も持っているしな」
と、ルディさんは袋をドンと置いて、袋の頭から金貨を覗かせた。
「おお、これは失礼を。早速ご案内させて頂きます、どうぞこちらに」
そして俺は、目を伏せたまま彼女達を見れないままでいたが、せめてと、魔力感知で反応の強い相手が居ないかを探った。そして、俺は驚愕した。一番強い反応を示したのがこの奴隷商人だったからだ。次に同じくらいの反応を示しているのが一人、もう少し弱いのが一人って所だった。
「ルディさん、170二人140一人。いけますか?」
俺は彼に近づき、小声でそう問うた。
「まだ思い出せないんですか? 余裕ですよ」
何故か彼は敬語を使い、まるで教えた事があるかのように返して来た。
そして道案内が終わり、最初の部屋にたどり着いた。ドアを開けるとそこには鉄格子の牢屋がずらっと並んでいた。中には裸で傷だらけの獣人の子供が多数転がっていて、皆目が死んでいる。手足を縛られていてぐったりしている。食事用だろうか? 床に残飯が入ったバケツが並んでいた。
「酷い。もう、やだぁ」
アイリはもう心が限界の様だ。だが、今はそれは不味い。嫌われるとか気にしてる場合じゃ無い。どうにかせねばと、俺はアイリを強く抱きしめ口を開く。
「黙れ。お前もここに入りたいのか? 俺が可愛がってやっているからそんな事が言えるんだぞ?」
と、俺はアイリのお尻を撫でまわす様に抱きしめ、そう告げた。
「やっ、いやっ、離してっ、嘘つきっ!」
俺は、心が死にそうだと思いながらも計画通りに事を進めた。これで奴隷商人も納得してくれるだろう。俺の趣味でお人好しを奴隷にしてる、とでも思ったはずだ。
「兄さん? ここまで突き止めてくれたんです。そこまでしなくてももう大丈夫ですよ?」
ルディさんは独り言でも呟いたのだろうか。と、思ったが、どうにも視線が俺に向いている様だ。そうか、かの英雄とかぶるなんて言った居たものな。とにかくもうある程度安全だと思っても良いのだろうか?
「俺に出来る事はありますか?」
俺は、視線を向けて彼に問う。
「俺のテレポートは転移数の上限がありますので、大半は兄さんのテレポートでお願いします」
「あの……はい……分かりました」
いい加減その兄さんと言うのは止めてくれ。と言う気持ちが生まれたが、今はその時ではない、と俺は言葉を引っ込めて了承の意を示した。
「テレポート」
俺は、自分とルディさんと奴隷商人を残し、他の者を全員彼女達の屋敷に転移させた。
「おいクソガキ、これはいったいどういう事だ!」
と、言いながら、一瞬で間を詰め俺の首に手を掛けようとした時、奴隷商人の腕が床に落ちた。隣を見ると抜刀したルディさんが居た。
「汚い手で触るな」
……何であんたがそれを言う。それ、言うとしても俺の言葉でしょ? いや、腕落としたのはルディさんだけども、凄かったと言うか見えなかったけれども……
「おい、襲撃だ出てこい」
奴隷商人がそう言うと、二人の男が現れた。と同時にその二人の首が落ちた。
「「はっ?」」
俺と奴隷商人は仲良く声を揃えた。恐る恐る視線を泳がすと、ルディさんが剣を鞘に納めようとしている姿があった。そして、彼は問う。
「お前に問う。お前の命と隷属権、どっちが大事だ?」
奴隷商人は腕を抑えながら、顔をさらに青くさせて言った。
「すべて従う。隷属を解けば良いんだろ? 命の保証はしてくれるんだよな?」
「兄さん、お手数ですが、アイリたちを除いた全員を一度こっちに戻して貰っていいですか?」
「はい、今すぐに。テレポート」
俺は、どうして彼女達を除いたのか、その意味を把握して即座に屋敷へと飛んだ。
「なんだ……これは……」
だが、アイリ達の住むお屋敷では、予想外の惨状が繰り広げられていた。いつも俺達がゆっくりと談話していた居間がめちゃくちゃになっていて、戦闘が繰り広げられている。
「エル! どうしよう、命令されてたみたい……」
アイリが頭から血を流し、青い顔をしながら状況を教えてくれた。どうやら奴隷達はこういう時の為に前もって命令をされていたみたいだ。混じっていた大人の奴隷が割と厄介そうだ。
「ハイヒーリング」
俺は意識を失うのは不味い。だから中級回復魔法を掛けた。そして、完璧に状況を把握する為に居間を見回して、攻撃を捌くだけに集中して戦闘をしているエティとケイに声を掛けた。
「あっちはルディさんが収拾を付けてくれたから、一度離れろ。隷属を解かせて来る」
「「エル!! 分かった」」
二人は即座に同意して距離を取り、放心しているアイリを守る様に武器を構えた。そして俺は再度、奴隷商人の店に転移した。
「テレポート」
「おかえりなさい。やはり隷属権を分けていました……どうしましょうか? 名前はイライザだとか」
……そこまでは考えて居なかったな。なるほど、本命の相手の隷属権利が無ければ、それはそれで後から交渉も出来る訳だ。
「面倒なので、殺しませんか? 法的な申請も通るでしょう?」
わざわざ解かせるより、殺して解いた方が早いのでは、と彼に提案していた。
「どうでしょうか? こいつらは法の穴を突き、割と法を犯さずに悪事を働いている事が多いんですよ」
……それが事実なら、腕を切り落とし護衛を殺したルディさんもそれに乗じて奴隷を逃がした俺も、もう俺達は犯罪者確定って事じゃ無いか。
「……すみません。厄介ごとに巻き込んでしまいまして」
俺は、暗い顔をして謝罪した。
「あはは、言ったでしょう、俺は貴方を兄と重ねて見てると。犯罪で捕まろうとも本望です」
だが、彼は声を弾ませ笑ってくれた。じゃあ此処は一つだな、避けられないのなら潰すしか無い。俺は腕を必死に抑えて蹲っている彼に、声を掛けた。
「なあ、今回の事アルテミシア様は知っているのか? あのお方は、奴隷を新たに外から引き込む事を禁止したはずなんだが。」
俺は、アルテミシア王は他国から新たに奴隷を引き込む事を禁止した。そして今、その法を定める為に大貴族たちとの話し合いをしているらしい。という事を、もう決まっていてくれないかなと思い、引き合いにだした。
「ふざけるな、まだ法にはなってねぇ。貴様こんな事をして、あの奴隷がタダで済むと思っているのか?」
ちっ、やはり、まだ決まって無いのか。
「他国から人をさらって来た事は否定しないんだな。まあ、出来ないもんなぁ。ミルフォードの国は何て言うだろうなぁ。」
「へっ、俺は獣人の国から引っ張ってきた訳じゃねぇ、ミルフォードから文句言われる筋合いはねぇな。それよりお前は出来るのか? 母親を殺す事を」
……こいつは、何を言っているんだ? 母親?
「言っている意味が分からないな。お前忘れて無いか? 俺はもう犯罪者、ならうっぷんが貯まった俺はお前をどうすると思う?」
俺は、そう言いながら彼が切られた腕を抑えている手を刺し、そのまま腕をえぐった。
「ぎゃぁぁぁぁああああ……やめっまっあああああああああ」
俺は剣を抜き、置いてあったペンと紙を使い一つの書類を作成して、ゆっくりと告げた。
「止めて欲しか? これにサインしたら、止めてやってもいいぞ?」
「なんて書いてあるか読ませてくれなきゃ殺される事に変わりはねぇ……」
「これはあの奴隷は俺達が買ったと記した書類だよ。そうすれば、俺は助かるだろ? お前も助かる。どうだ?」
「はっ、そんなことすれば俺はどっちにしたって殺されるって言ってんだ。ここが俺だけの出資で成り立ってるとでも思っているのか?」
よし、少しは情報を引き出せたな。なるほど、こいつは共同出資でここをやっていた訳だ。そしてイライザと言うのがその一人だろう。
「ああ、もう面倒臭くなって来たな。いいや、もう死ねよ」
俺は、演技に見えない様に心底面倒だと言う顔をして、殺気を放った。
「ま、待て。分かった。いう事聞くから、だから待ってくれ」
奴隷商人の彼は、首を横に振り恐怖した様だ。これならやりようがあるんじゃ無いかと、俺は話を進めようとした。
「えーと、兄さん? もしかして俺の事を考えてたりしてくれてます?」
ルディさんは軽く首を傾げ、そう聞いて来た。
「え? いえ……ですが、考えない訳にも……」
俺は、恐縮しながらも考えない訳には行かないだろうと告げた。
「大丈夫ですよ。最悪はアルテミシアさんに文句付けに行きましょう。きっとどうにかしてくれますよ、俺達は彼女に貸しがあるんですから」
王に貸しがあるんだ……俺達? でも、流石にそれはどうなんだ……もっと先に出来る事があるんじゃ無いか?
「流石にそれはどうかと……それより、こいつを奴隷にして、取り合えず連れて帰りましょう。そうすれば隷属を解かせられますし、情報も全部引き出せますから」
「そうですね。では、兄さんお願いします」
「あ~、アイリにさらに嫌われそうなのでお願いできませんか?」
「ああ、もちろん構いませんよ。では」
そして、ルディさんは彼を奴隷にして、隷属を解かせていった。




