喪失
それから三日。俺は日に一度彼女の目を盗んでは、と言っても席を外した時を見計らって、フルヒーリングを唱えて寝たふりをした。本当なら言いたい。隠し事なんてしたく無い。
だが、彼女は途方もなく優しい。きっと誰かを助けたいが為に、俺の事を知らせ話が広まる。そして、こんな稀有な魔法を持っていると周りに知られたら、彼女が危険な目に合ってしまうかも知れない。だから俺はこの事は俺が完治するまでは内緒にしようと思っていた。
そして、そんな後ろめたい事をする日も終わりに近づいていた。
「ねぇ、エルバートってさ、私と知り合いだったりしない?」
アイリが唐突に変な事を言い出した。
「知り合ったじゃないか、俺はこれからも君と友人で居たいよ」
「もう、そうじゃ無くて……私も友達でいたいけどさ、記憶を失う前の話」
ああ、そう言う事か。でも流石にそんな偶然は無いだろう。
「なんで、そんな風に思ったんだ?」
俺は、顔がめちゃくちゃで判別も付かないと聞いた。だからアイリに頼んで顔に布をかぶり、痛々しい所を隠して貰った。だから、顔を見てそう思った訳では無いはずだ。
「うーん、声もそうだけど……背格好とか? なんかあのエルバートと被るのよね」
そうか、まあそうだよな、男の知り合いもいるよな。と、俺は彼女の話を変な風にとらえ考えていた。
「まあ、元から仲が良かったなら俺は嬉しいけど?」
だから、そんな間柄だったとしたら嬉しいよ。と告げていた。
「あ~、ううん。最初は友達になれるかもって思ったけど、何故か殺し合いになっちゃった」
……どういう事だ。友達になれそうで殺し合い……それは俺じゃないって事でお願いします。
「まあ、別人だろ。別に珍しい名前でも無いし」
「そうよね、うん。ねぇ、顔の布とって貰っても良い?」
彼女は俺の顔を隠している布をくれと、言って来た。
「ん? どうしてだ? あまり、見せたくないんだが」
おそらく大分治って来ていると思う。もう、合計三回は回復魔法をかけているのだから。
「あ、そうだよね。でも、うーん、気のせいかなぁ」
彼女は、俺に気遣いながらも何かに気が付き、気になっている様だ。
「じゃあ、明日の夜になったらこの布を取るよ」
俺は、おそらく後二回も掛ければ十分だろう。とそう告げた。まあ、最悪睡眠を多くとれば三回はいけるだろうしな。
「え? 意味わかんない。何で明日?」
もう、告げても良い様な気がしたが、実際に見せるのはやっぱり完治した後が良いと、心が告げる事を拒否したのでごまかした。……彼女には、少しでも真面な顔を見せたいのだ。
「思わせぶりにした方が、面白いだろ?」
彼女はきっと真剣な顔で疑問への回答を待っていたのだろう。
「何それ、呆れた!」
と、彼女は、気が抜けた様に、少し笑った様に、声を漏らす様に言った。
そして何事も無く過ぎて行き、次の日の昼。俺は、とうとう目が見える様になった。だが、思った以上に回復しておらず、あれから2度目にも関わらず、未だに顔が変形している場所が少しあった。
「もう少し寝ないとダメだな」
俺は、また、布を深くかぶり、眠りについた。そして、俺は臭いに釣られて目を覚ますと。
「エル君、ご飯持ってきたよ」
「ふはは、元気にやっとるかね?」
と、アイリの三つ子の姉妹であるエティとケイが、ご飯の用意をしてくれた様だ。ご飯と言っても飲むだけだが。俺は、彼女たちとも結構話をした。アイリに聞きづらい事をさりげなく聞いたりと情報収集をさせて貰った。
この家には他に人は居ないのか、と聞いて見たりもした。彼女たちの親は4年前に他界しており、兵士だった父親の友人がたまに様子を見に来てくれる位だそうだ。孤児院に少し入った事もあったが、そろそろ自活すると、自発的に孤児院を出て家に戻ったそうだ。
「ねぇ、そろそろその布取ったら? 私達もう見ちゃってるし、引かないよ?」
まあ、気になるよな。顔に布を巻いてずっといるのも微妙だしなぁ。でも、大きな傷がある人とかも割と隠して無いか?
「ああ、今夜取るってアイリとも約束をした」
どっちにしたって今夜取るんだ。と俺は思い、彼女達にもそう伝えた。
「何で今夜?」
と、割と真面目なケイが訪ねて来た。
「サプライズだな。楽しみにしてろよ」
俺は、少し声を弾ませながらそう言った。
「うわー、いらないー、そんなのサプライズにしないでよぉ」
エティはお気に召さなかった様だ。だが、度肝を抜いてやろうじゃ無いか、サプライズだしな。そんな話をしながら俺は食事を貰い、再び眠りについた。そして、その日の晩が訪れた。
「おーっす、サプライズして貰いに来たよぉ~」
「もぉ、エティったら」
「あはは、エルが自分で言ったんだし、見せて貰おうよ」
この時俺は、布の隙間から初めてアイリの顔を見た。俺は意識を持っていかれそうになる程、衝撃を受けた。可愛い! やばい! 何この赤毛の美少女、結婚したい。
このままずっと眺めていたいが、そんな訳にもいかないか。
俺は、MPが全回復をしている事を確認して、最後の仕上げにもう一度使ってみようと思ったが、考えてみた。フルヒーリングを使ったらMP切れで倒れるのは必至だろう。それは嫌だな……どうしようか。
「なんか怖くなって来た。明日でも良いか?」
「「「ヘタレ(だわ)(ね)」」」
と、全員から言われてしまった。
「分かったよ。俺、気絶するかもしれないけど良いか?」
「ええ!? どんだけ怖いの? そんなに怖いなら良いよ? 無理しないで」
そう、アイリが言ってくれたが、ここまで来て引くのはやっぱり止めて置こう。このままで姿を見せてからそのままフルヒーリングを使えばいいか。
俺はそう思い『いくぞ?』と、声を掛けてから、顔に巻かれた布を勢い良くバッと外した。
「……どうだ? ビックリしたか?」
「そう、サプライズってそう言う事……私たちを騙してたのね」
アイリが、突然冷めた目を向けて言ってきた。
「そんな事して、楽しい?」
ケイも同様に、冷たい視線を送っている。
「てか何が目的なの?」
エティは、首を傾げ、目的は何だと聞いて来た。
あれ? 三人の反応が可笑しい。回復魔法を使う事を中断し、俺は彼女たちに問いかけた。
「なんの事を言っているんだ? 騙してるつもり何て無いんだけど」
「エルバート、君はあのエルバートだよね?」
アイリは、とても警戒した表情で俺に問いかけた。
「あのってなんだよ。ああ、殺し合いになった奴の事か? 俺は何があってもアイリに攻撃なんてしない」
俺は、そんな表情を向けて欲しく無くて、少しむきになって否定してしまった。
「うわーアイリ限定なのね。ああ、だからあの時も私の所にきたのね」
あっ、しまった。これじゃ告白でもしてるみたいじゃ無いか。いや……でも一番世話になったのはアイリだしな、そういう意味にとって貰えるだろう。
「可哀そうなケイ、後でアメちゃん上げよう」
エティはいつもマイペースだな、正直今は助かる。
「エルバート、ううん、エル、本当に私の事は知らなかったのね?」
やっと聞いてくれた。
「ああ、誓って嘘は言っていない」
俺は、力強く、まっすぐアイリを見つめ言い切った。
「はぁ、良かった。もう、悲しくなっちゃったじゃない」
アイリはとても安心した様で困った様な表情でそう言った。
「そうだよ、まったくどんなつもりでサプライズなんて言ったのさ」
あれ? 手で触っただけでも物凄く変形したのが治って行くのを感じていたんだが。
「いや、お前たちは、俺のこの顔見ても何も思わないのか?」
「「「あ、治ってる!?」」」
俺は、初めて感謝の気持ちも忘れ、こいつら大丈夫か? と思った。
「はぁ、まあいいや。取り合えずサプライズの続きするよ?」
と、彼女たちを見回すと彼女たちは頷いた。
俺は早く完治した所をアイリに見せたいと思い、魔法を唱えた。
「フル、ヒーリング」
いつもの様に、俺は光に包まれ、顔が治って行くのを感じながら意識が薄れて行った。
「「「え? えええええええ?」」」
俺は彼女たちの驚愕の叫びを聞き、やってやったぜと思いながら、いつもの様に意識を手放した。
「起きたの!? 早速聞かせて頂戴」
俺は目を開いた瞬間、ケイに胸倉をつかまれ詳細を話せとせがまれた。
「ちょっと、ケイ、エルが困ってるじゃない。そんな事しなくてもエルはちゃんと話してくれるよ」
アイリがそう言うと、ケイはしぶしぶ手を放し、俺をじっと見つめ言葉を待っていた。
「あ~、ごめん。人に関する記憶は全くないし、他もとぎれとぎれなんだ。質問してくれれば分かる事は全部話すよ」
「じゃあ、貴方、フルヒーリングと唱えたけど、本当に使えるの? これは一大事なのよ?」
ケイはどうしても信じられない様だ。そして、事態の重さを分かっているのかと尋ねて来た。
「ああ、見ただろ? だけど、俺はMPが足りてないから回数が必要だったけど、本来はMPがあるだけ消費されて、足りてれば一回で回復まで行くはずなんだ」
「確かに、文献でもそう記載されて居たそうね。もう一つ、どうして今日まで――いえ、完全に治るまで黙って居たの?」
ケイは、俺の言葉に納得したが、今まで隠していた理由も教えてと聞いて来た。
「それは、アイリが優し過ぎるからだ。きっと大変な人が居れば連れて来てしまうだろう。だけど、この魔法の存在が知られればお前たちに危険が及ぶかもしれない。だから俺が、自由に移動できるようになるまでは隠させて貰ったんだ」
俺は、三人を見渡して返答を待った。
「私の為……わっ私達の為だったの? でも私そんなに何でもかんでも引き受けたりとかしないよ!?」
と、アイリが答えたが、どうにも信じられず二人を見回すと、首を横に振った。
「という事だ。ケイ、分かってくれたか?」
俺は、取り合えず一番常識的な、ケイに同意を求めた。
「まあ、そうね。聞いて見たい事は一杯あるけど、聞かなきゃいけない事は取り合えず聞いたかな」
ケイは、取りあえずは良い。と答えてくれた。
「ねぇ、エルはさ、何で私を飛ばしてケイに話を振るの? 一応、一番仲が良いのは私だと思ってたんだけど……」
「もちろん俺もそう思っているよ。だから、アイリとはじっくりと気が済むまで話をしたいと思ってる」
「ふぇっ? あ、うん、じゃあそうしよ?」
そうして二人きりになるつもりが、なんだかんだで俺達4人は夜遅くまでくだらない事を話し、ずっと寝ていた俺だけを残して彼女たちは俺が寝ていたベットで全員寝に入ってしまった。
俺は、相変わらず無防備な子達だな。と思いながらも、布団を掛け直した。そして、床に座り壁を背もたれにして、これからの事を考え始めた。
そう、俺はやっと完治までこじつけられたのだ。そしてレベルも歳の割りにはまあまあ高い方だろう。多分。だから、彼女達の役に立つ事も出来るはずなんだ。アイリは優しいからそんな事はしなくて良いと言うだろう。やっぱりここはケイだろうか? 彼女に相談して、今後の在り方を決めた方がよさそうだな。
次の日俺は、ケイと二人になれる時を待とう。と、思ったが、その時はすぐに訪れた。ケイが俺が寝泊まりをさせて貰ってる部屋に一人で入って来たのだ。
「ねえ、エル、お願いがあるんだけどいいかな?」
珍しく、少し気まずそうにしたケイが、俺にお願いがあると言って来た。
「ああ、奇遇だな。俺もケイに頼みたい事があるんだ」
俺は、気まずそうにする必要は無い。とでも言うかの様に、柔らかい笑みを浮かべそう言った。
「え? じゃあエルから言って、釣り合う事か分からないし」
そう、ケイは言った。そんなに重たい頼みなのだろうか?
「じゃあ遠慮なく。俺は、お前たちに恩返しがしたい。出来たら仲間に入れて欲しい」
俺は、彼女たちの役に立ちたい。それと同時に一緒にも居たいのだ。
「はぁ? 一緒に暮らしてるのに仲間に入れてとか、意味わかんない」
きっと、もう仲間だと言ってくれているのだろう。だが、そういう意味での仲間では無いんだ。
「パーティに、と言う意味だな。回復してやれるし、俺も戦える。どうだろうか?」
「……何で私達が戦える事知ってるの? あんたやっぱり……」
ケイは、訝し気な目で俺を見つめた。
「いやいや、アイリに聞いたんだ。エルバートって奴と殺し合いになった事があるって。だから、今度は俺がお前たちを助けたいんだ。頼む」
俺は、聞いた事があるから知っていたんだと言う事を伝え、一応警戒は解いてくれたようだが……
「いやいやいや、そのエルバートあんただからね?」
と、ケイは違った意味で、訝し気な表情をした。
「記憶にございません。そんなのたとえ事実でも認めたくない」
そう、絶対に嫌なのだ。こいつらに刃を向けるなど。
「呆れた」
ケイは、訝し気な表情を解き、嬉しそうに呆れていた。
「それで、どうだ? リーダーはお前だろう?」
俺は、一番しっかりしてそうなお前がリーダーだろう? と問う。
「違うわよ? 一応長女のエティがリーダーをやってるわ」
そ、そんな馬鹿な……一番いい加減そうなあいつがだなんてと、衝撃を受けたせいで俺は口に出していた。
「そ、そんな馬鹿な……おっと失礼、じゃあ聞いて見てくれないか?」
「ふふっ、分かったわ。聞いて見て上げる。聞いた通りにね」
ケイはクスクスと笑いながら、俺が伝えたとおりに聞いてくれると言った。
「いや、少しは包んで言ってくれよな? ってそれよりケイの頼みは何なんだ?」
「あ~、うん。エルの回復魔法掛けて欲しい人がいるのよ。ごめん。お願い」
「なんで謝る。良いに決まってるだろ。俺は動ける様になったし、最悪何か起きても巻き込まないで済ませられるからな」
そう、俺が居なくなれば、危険は解消される事案である。まあ、もしそうなっても何か手を打って戻ってくるが。
「あ、ありがと。……アイリのお人好しが移ったんじゃない? あの時のあんただとは思えないわ」
あの時か、どうしてそんな事になったのかも教えて貰いたいものだな。だが、順序と言う物もあるし…と、俺は聞く事を止め、雑談として返した。
「あの時ってのがさっきの話なら、別人なのだろ? それにアイリはこんなもんじゃない」
「ふふ、まあいいわ、ありがとね。じゃあ、いつ連れてきたらいい?」
ケイは俺の返しに笑い、いつが良いかと問いて来た。
「いつでもいいさ。いや、早い方が良いな。早く済ませてお前らと行動を共に出来る様に、頼み込まなきゃならないからな」
そう、俺は今、やる事なんてそれ以外に無い。だからいつでも良いんだ。
「分かった。でも多分、頼む必要は無いんじゃないかな」
と、ケイは分かったと言い、手を横に振り部屋を出て行った。




