重傷
あれ? 俺はリミットオーバーを唱えたはず……詠唱省いたからか? そう思っていると、俺はいつも間にか意識を持っていかれそうになっており、床に膝を付き頭を押さえて蹲っていた。
「ああ、あああああぁ……」
「エルっ、しっかりしてよぉ」
「お兄、何でいきなりなのよぉ。馬鹿~」
ミラとジェニは俺の手を掴みながら必死に語り掛けている。そんな中、俺は彼の記憶の波にのまれそうになっていた。俺は必死に意識を保とうと全力で集中した。そして波が収まった時、俺は理解した。
英雄のすべてを。
「やっと、収まった。もう大丈夫だよ」
「「ホントに?」」
「ああ、俺の前世の事もすべて分かった。あいつ、普通の奴だったよ。女神さえ居なければ、ある程度幸せに生きられただろうな。まあ、その女神とも最後の時すら仲よくやってたんだけども」
そう、彼は女神にチート能力を貰わなければ、ただの人だった。まあ、優しい奴ではあるだろうが。
「へぇ~、じゃあ、エルも英雄になれるんじゃない?」
ミラよ、それに何の意味がある……と、言うか彼が生きていた頃は此処まで英雄扱いはされて無かったんだぞ。って言っても奨めてくるんだろうな……ミラそう言うの好きそうだし。
「フェル様が普通なはずないでしょ。記憶を受け継いだ上にその結論って、お兄……馬鹿なの?」
……狂信者め、お前こそ馬鹿なの? って言いたい所だが、陶酔中にそれは不味いな。
「はっはっは、ジェニよ、俺は半分は英雄なんだぞ? 良いのか?」
ジェニを見下ろす様に、ドヤァっとした顔をして言い放った。内心はドキドキだが……
「はっ、そうでした……フェル様」
……これはこれで嫌だな。そう思えるって事はやっぱり俺は俺のままなんだな。
「いや、お兄で良いよ? と言うか止めてくれ。エルバートって存在を否定しないでくれ……」
「私はエルの方がいいよ? だって私の英雄はエルだもん」
ミラにそう言われた俺は、無意識にミラを抱きしめていた。なんと愛い奴め。
「……お兄様、私もはぐして下さい」
お兄様……だと……俺はジェニも一緒に抱きしめようとした。
「いや、どっちか選ぼうよ」
「はあ、やっぱりお兄はお兄ね。がっかりだわ」
そうして、俺達はいつも通りの関係に戻って行った。世の中そんなに甘く無かった。
「それで、俺達これからどうするんだ? またギルドの依頼でも探すのか?」
今までずっと傍観していたエミールが今後の事を聞いて来た。
「そうだな。取り合えず俺は別行動しようかと思う。あの魔法を使えばさくっと150レベル位にはなれそうだからな」
そう、あの最上級魔法を使えば。
「なんだよそれ、ずっりぃな」
エミールは、俺だけが楽に上げられる事に、不満を漏らした。
「まあ、俺のレベルが上がったら、ちゃんと引っ張ってやるからさ」
俺はエミール達にしばらくの間戻らない事を告げ、屋敷を後にした。
そして俺は、彼の記憶を頼りに250レベルの魔物の森へとテレポートした。
この森の事はもう知り尽くしている。だから何も心配はいらないはずだ。と、俺は頭の中で練っていた計画の通りに動き出した。まずは遠距離から魔物達を引き付け、釣り切れなくなったらテレポートで移動、それを多方向から行い敵を集め抜きリミットオーバーで魔力とMP限界量をブーストをしてMPポーションを服用した。
「これで準備は整った。ほんとに足遅いな。って言ってもリミットオーバーしないとじりじりと詰められる訳だが……いや、彼のスキルでステータスが大幅に上がっているからか。まあ、何にしても仕上げだな」
再度、集めた辺りを突っ走り、総数200体近くの群れを作り出した。そして、その群れを一か所に集める為に彼らの入れない大きさの穴倉に入り、押し寄せるのを待った。
「すっげぇなこれ……効かなかったらどうしようか……」
最上級魔法で仕留められなかったらこの群れをどうしようか。と、俺は不安に駆られながらも、魔物が集まり切った様なのでテレポートで丁度いい距離に移動してから魔法を放った。
「メテオインパクト」
ズドーンズドーンと、爆風と共に衝撃音が繰り返され、砂ぼこりで見えなくなった。そして、優しい風が舞った砂を流していき、魔物の死体が散乱している光景が見え始めた。
「うはっ、やべぇ、レベルアップが止まらねぇ……」
俺は、普通なら絶対にありえないレベルの上がり方を目の当たりにしてテンションが上がり、その結果をもたらした残骸を確認しに、魔物の死体を見回しながら移動した。
と、その時俺は何かに足装備を掴まれた様に取られ、前のめりにこけそうになった。
「おっと、何につまずいたんだ?」
そう言いながら振り返ると、俺の足に付けていた防具を掴みながら、こぶしを振り下ろそうとしている魔物の姿があった。
やばい、もう回避不可能領域にまで魔物のこぶしが近づいている。レベル差は130、リミットオーバーを使っている事を計算に入れても10レベルも格上の相手、俺の最弱に近い装備で攻撃をもろに受ければまず死亡か瀕死は免れないだろう。魔物の追撃でどちらにしても死んでしまう。
だから、俺はMPが限界ぎりぎりの状態にも関わらず、即座に魔法を使った。だが、どうやら間に合わなかった様だ。魔物の攻撃の命中と俺の魔法の発動はほぼ同時だった。
「テレポート。ぐはっ」
俺は、座標なんてどこでも良い、敵が居ない場所ならば。と考えながら、テレポートを唱えたが、唱えてる途中で攻撃を食らってしまい意識が途絶えた。
「ねえ、まだ何かしてあげるつもり? 命だけは助けたんだし放っておけばいいじゃない」
誰かの声が聞こえる。俺は、何をしていたんだ?
「ダメだよ、それじゃ意味がないよ。それに、この人悪い人に感じなくて」
この人って、俺の事だろうか? 目が明かない何故だ。
「顔もぐちゃぐちゃで誰だかすらも判別効かないのに? まったく、一人で生きてく事も出来ない相手によくそんな風に思えるわね。ずっと面倒見るつもりなの?」
なんの話だ。ダメだ、声も出ない。俺の事なのか? なんだよそれ……
「でも、このままじゃ死ぬって分かってるのに放置して帰るの?」
いや、俺の事かは、まだ分からない。せめて、声位出せれば状況を聞いてみるんだけど……
「もぉ、アイリがポーション使って助けるから……」
一人はアイリて言うのか、三人は居るよな。
「だって、いきなり目の前に現れた人が地面に叩きつけられて、今にも死にそうだったんだもん」
理由、それだけ? ……お人好しそうな奴だな。
「理由になって無いよね。まあ、でも気持ちは分かるかな」
こいつもか、まあ、殺す話をされているより全然良いんだが。演技かと疑ってしまうな。
「そうね。もう助けちゃったんだし、このまま放置は逆に拷問よね。分かった」
分かったと声がした後、俺は絶望した。俺は誰か分からない者に担ぎ上げられて運ばれている。
そう、一人では生きていけない怪我を負ってしまったのは、俺だと確定したからだ……
だから、俺は何かできないか試そうと、記憶をたどろうとした。……ダメだ、思い出せない事が多すぎる。何だこの喪失感は、あれ? 俺の名前ってなんだ? ええと、ダメだ、分からない。
だが、その解決方法はすぐに思いついた。ステータスだ。魔法関係の事は大体覚えてる。そして、ステータスを開いた。どうやら目が見えなくてもステータス表示は見えるようだ。その事に安堵して、俺はステータスを隅から隅まで読んでいった。
俺は運ばれながら、自分の名前、年齢など、使える魔法やスキルの事も分かった。そして使える魔法の事が分かった時、俺はものすごく安堵した。何故か最上級魔法である、フルヒーリングを覚えていたのだ。この魔法は傷跡や失った肉体の再生を出来る唯一の魔法だ。これが使えるのならもう何の心配もいらないだろう。
だが、そんな魔法俺は覚えていないはず……と、自然に思った。だからとても違和感を感じたが、記憶が欠けている状況なのだ。覚えていない事があるのは当たり前だろう。と、その違和感は無視した。
早速直したい所ではあるが、何故かMPがほとんどない状態だ。相当危機的状況にあったのだろう。どうやら魔法使いみたいだし、きっと戦闘で使い切ってから負けたのだろう。
そんな事を考えつつ、俺は手足は動かないのか? と、気が付かれない様にピクリとわずかに動かす様にして、確認していった。どうやら手足は動くみたいだ。
「あれ? 今動かなかった? ねえ、貴方意識が戻ったの?」
うはっ、バレてる。そりゃそうだよな。こっちから見えないのに隠すのは難しいよな。だけど、今話しかけられても困るんだ。
「そう? なんかぴくぴくしてるけど、これただの痙攣じゃないの?」
おお、それ! それ狙ってたの。どうだ?
「そっかぁ、そうかも」
良かった。今の俺は声が出ないし目も見えないんだ。うかつに話しかけられてもどうして良いか分かんないんだよ……
そうして、俺はもうMPが回復するまでは何かをする事を諦め、寝る事にした。
「ダメだね、もうずっと起きないよ。もう死んじゃってるんじゃない?」
俺はそんな不吉な話声で目が覚めた。どこかで寝かされているみたいだな。この柔らかさ、ちゃんと布団を用意してくれたみたいだ。
「何言ってるのよ、ちゃんと息してるし心臓だって動いているでしょ」
そうそう、勝手に殺すなよな。あ~びっくりした。この声の子はアイリだな。ほんといい子。
「ねぇ、ちょっと疑問って言うか、不味い事に気が付いたんだけど……この人さ……」
止めてくれ……これ以上の不幸はいらないぞ。
「何よ、止めないでよ。気になるじゃない」
うん、このまま止められても俺も困るわ。
「いやね、この人、とんでもなく強く地面に顔面ぶつけながらこすり付けたせいでさ、唇無くなりそうな位傷だらけだったじゃない? そのままポーション飲ませて放置したせいでさ、口ふさがっちゃってんだよね……」
「「「……あっ」」」
あっじゃねーよ、どうすんの?? てかそんなにやばいの? 唇無いって……治るとしても不安過ぎる
……
「大丈夫。ポーションもう一個あるし」
いや、何が大丈夫なんだか分からないよ。なんか、物凄く怖い話の様な気がする……
「あのねぇ。それ、結構高いんだけど」
そうそう高い……あっ、もうMP回復したっぽいな。よし、魔法唱えればもう大丈夫だ。……唱えれば? ん? 俺、声出ないんだった……
………どうやって詠唱すんだよ。
「ん~魔法でどうにか出来る人とか居ないかなぁ?」
「もし、居たら伝説級の人物よ。だって最上級回復魔法だもの。使える人は今現在確認されていないそうよ。ここ数百年で、確認されたのは我らのフェルディナンド様位なものよ」
我らの?じゃあその人に頼もう。
「生きていれば、今25歳くらいよね? 私あってみたかったなぁ」
あ、そう、亡くなってるのね……
「そんなの私だって思ってるわよ」
じゃあ、自力でどうにかしなくちゃいけない訳だ。だけど……絶望的な気がする。詠唱破棄なんて、物語の中だけなんて話を聞いたことある気がする。でも不思議なもんだな、情報はあるのに聞いた人物だけは思い出せないのか。いや、そんな事は今はいい。
「私はルディ様に会えただけでも十分かな」
ん、でも待てよ。ステータスの表示も魔法だって聞いた事もあるな。あれは、なれれば普通に詠唱いらないぞ。なら、可能性はあるんじゃないか?それに、イメージ魔法の場合、イメージだけでも発動できるなんて話も聞いた事あるし。
「あ~アイリずっる。そうやってポイントを稼ぐつもりなのね」
よし、イメージだ。フルヒーリングを使った時の事を思い出そう。
「何言ってるのよ、あの人はミッシェル様の事が好きなのよ」
ぐぬぬ、思い出せな……あっ、あの時だ。あれ?使った記憶はあるのにやっぱり人の記憶は靄が掛かったように思い出せないな。
「あ~知ってる。てか、見たことあるって人は大体そう言うよねぇ」
まあ、それは良いんだ。取り合えず使おうとして見よう。あれだ、ぴかーって光ってキラキラって感じに欠損部位が修復されて行く感じ……なんか俺凄く馬鹿っぽいな。もうちょっとちゃんと思い出せよ!! ぐぬぬぬ、あっ、そうそう、消費MPは3000以上で最大で8000一度に飛んだ事もあるな。っておい!! 俺MP8000もねーよっ。どうしてそんな記憶があるんだよ……
「そんな事より今はこの人の事でしょ、どうしよっか」
なんか色々自信が無くなって来た……
「意識が戻ってからで良いじゃ無いの? 意識が戻らないと、どっちにしても食べられないんだし」
だな、俺、このまま死んじゃうのかな。
「それもそうか、分かった。じゃあ私このまま見てるね」
アイリって子は本当に優しいな。俺はこんなに優しい子初めてだよ。って記憶もねーけどな……
「物好きね、じゃあ頼むわね」
そうそう、そうやって離れて行くのが普通なんだよ。どうしてこの子はそんなに献身的なんだろうか……
「任せて、責任もってちゃんと面倒見るから」
俺は、とてもアイリって子に興味がわいた。
「おーい、目冷めませんかぁ? うーん、最初は何て話しかけよう。ええと、初めまして、貴方を助けたものです……ダメだよね。恩着せがましい」
まあ、そんな記憶が無い者に、いきなりそう言うのは微妙かもな。
「いいや、そんな事より起きた時の為にやっぱり口を裂いてポーション飲ませとこ」
な、なん……だと……
「頑張って早く済ませるからっ、って意識無いのよね」
いや、あるから、一杯あるから! 覚醒してるからぁぁ!
その瞬間俺は、とてつもない激痛に襲われた。
「えいっ、あれ? ナイフが通らないな。歯に当たってるのかな? えいっえいっ」
あががががががぁ、やべっやべろぉおおおおおおぉっ
俺は叫び出したいのに声も出ずに、ひたすらもがき痙攣していた。
「やっ! 動かないでっ、あっ、通ったって奥まで刺しちゃった。大変……ポーション飲ませなきゃ」
そして、俺は再び意識を失った。
こんな事なら意識が戻らなければ良かった……俺は意識が覚醒すると、そんな事が頭に浮かんだ。
ああ、そうか俺は彼女に顔をめった刺しにされて、意識が飛んだのか。
「あ~もう、暇だなぁ~、早く起きないかなぁ。」
アイリの声だ、と思い。さっきの事を思い浮かべ思考を回した。
「まだ、づいででぐれでいだのが。非情な子だな。ああ、間違えだ。優しい鬼だな」
うわっ、なんだこのだみ声は気持ち悪い声だな。って、俺の声かよ。やったこれで詠唱が出来る。でも、なんで声が出る様になったんだ?
「あ、良かった。目が覚めたのね。あなたは死にそうだったのよ。目が覚めて良かった」
彼女は声が明るくなり、二度も良かったと言い俺の意識が戻った事を喜んだ。
「あの時の迷っだ結果、結局最初ば、そう言う事に落ち着いだのが。ありがどう、助げでぐれで」
俺は、心から、ありがとうとお礼を言った。
「あれ? ……もしかして起きてたの? でも返事もしてくれなかったし」
まあ、普通はうめき声すら出ないとは思わないよな。
「ああ、声すら出ながっだんだ。済まながっだな」
俺は、この気持ち悪い声で謝罪をした。
「そっか、声、出なかったんだ。ごめんね。間違って喉の方まで刺しちゃって……」
そうか、この子がまた、俺を助けてくれたのか。鬼とか言ってごめんな。
「そのおかげでまだ声が出る様になっだのがもな。ありがどう」
ほんとに感謝してる。ああ、言葉だけじゃダメだな、何か返さなきゃ。
「そっか、なら良かった。でもこれからどうしようか。行く当てある?」
無い、だけどその前にこの状態をどうにかしないとな。
「ちょっど、まっででぐれ、ブルビーリング」
……あれ? 何も起きないぞ。だみ声になり過ぎててダメなのか?
「ブルビィーリング」
くっそ難しいな。なんて言ったらいいんだ? なんか喉が引っかかる。
「ん? どうしたの? そんなリング無いよ?」
だから待っててくれと。いや、俺の声が酷すぎて、聞き取れなかったのか……
「フルビィーリング」
あ、少し良くなった気がする。ヒだヒ、落ち着け。
「ああ、うん、でもね、その魔法って希少過ぎて、使える人が居ないんだって」
彼女は申し訳なさそうに、手を合わせる様に手輪すらをしながら、説明した。
「フルヒーリング」
そして、やっと言えた俺は、またMP枯渇により意識が消失した。
「ああ、またMPが切れて意識を失っていたのか」
俺がそう言うと、彼女が駆けて近寄ってくる音が聞こえた。
「あ、目が覚めたのね。って、声! 治ってる!」
やはり、優しいな、喜んでくれている様だ。だが、聞かれると思っていた事を聞かれないな。フルヒーリングの事は分かっていないのだろうか?
「お陰様で、感謝してもしきれないな」
俺は、不安に駆られた。目はやっぱり開かないのだ。
「いえいえ、そんな事より中々の美声で何よりだねっ!」
彼女は明るく、俺の声を褒めてくれた。
「なあ、やっぱり俺の顔って相当酷いのかな?」
俺は、自分の状態がさっきのフルヒーリングで変わったのかどうかを知りたいが為に質問した。
「あ~、うん。でもね、ポーション飲んだからかな? 潰れていた所が少し戻ったの。って何の慰めにもならないよね。ごめんね」
ああ、やっぱりこの子は俺の女神の様だ。また俺に希望をくれた。
「いいや、そんな事は無いよ、ありがとう」
俺は、彼女の言葉が嬉しくて、また、お礼を言ってしまった。言い過ぎかと思ったが。
「そっか、なら良かった」
彼女は声を弾ませてくれた。そして、俺の心に少し、淡く甘い感情が芽生えた事を感じた。軽く胸の奥をつままれた様にキュンとして、温かい、そんな想いが生まれた。
「ここまでして貰って申し訳ないんだけど、お願いをしたい事があるんだ」
俺は心苦しさを胸に、そう、切り出した。
「流石に、聞いてみないと応えて上げられるか分からないよ。どんな事をして欲しいの?」
彼女は当然な受け答えをしたが、それでも話は聞いてくれると言ってくれた。
「ああ、ええと、一週間だけここに置いて世話して欲しい」
そう、それだけあれば大分回復させられるだろう。
「え? あ、うん。一週間だけって言う事は、当てがあるのね?」
ああ、そうだな、フルヒーリングを使ったと思っていない彼女はそう言うよな。
「いや、そこら辺の記憶は無くなってるみたいなんだ。でもそれ以上は迷惑は掛けられないから。いや、今更で申し訳ないんだが、ちゃんと一週間後に出て行くから。それまでお願いします」
俺はどこに居るかも正確には分からない状態で、声のする方向に頭を下げた。
「一週間か。多分、無理かも」
ああ、そうだな、当然だ。でも何でこんなに苦しいんだろう。ここが町中なら、俺にとっては別に厳しい事じゃ無いはずだ。外で適当に寝るなんて事は。
「そうか、そうだよな。無理言ってごめん」
俺は、今の表情が表に出ない事に、僅かに感謝し。謝罪をした。
「そうだよ、無理っ、情が移っちゃうから出て行かせられないよ」
アイリは優しいもんな。無理な頼みをしちゃってた訳だな。
「そっか、アイリさんは優しいもんな。じゃあ、外まで案内してくれるか? 目が見えないんだ」
俺は自分だけでは、外に出られないので、彼女に案内をしてくれる様に頼んだ。
「……何でそうなるの? ああ、無理なのは出て行かせる事だよ! 大丈夫、出て行けなんて言わないから」
ああ、なんて人が良いんだろう。もうダメだ。この想いは消えそうにない。
「アイリさんは俺の女神様だな。ありがとう」
本当に女神様の様だ。
「何それ、私が? ふふ、もう、煽てなくてもちゃんとお世話してあげるよ。あ、呼び捨てて良いよ? その方が気楽だし」
そんなつもりは無いんだ……こんな状態じゃ何も言えないから、君を想って居ると言う欠片でも伝えたくて……
「ありがとう、アイリ」
名前を呼ぶだけでもドキドキする。
「あはは、お礼言い過ぎ。どういたしまして!」
弾んだ声を聴くだけでも、俺の心まで弾む様だ。
どうやら俺は、彼女にイカレテしまったらしい。




