護衛
俺はローズとの散策を終え、待ち合わせ場所にて、ジェニ達と合流した。
「おーっす。エル、どうだった?」
エミールはいつもの調子で、ローズを連れて行った結果を尋ねた。
「ああ、全然ダメだった。やっぱりよく知らない相手に分からせるって難しいな」
「そっかぁ、エルでもダメだったかぁ。じゃあどうしよっか?」
と、ミラが会話に横から入り、ローズの今後について尋ねる。
「そんなの決まってるじゃない、借り物なんだから返すだけよ」
ジェニは呆れた様にローズを見た。
「あの、申し訳ございません。ご期待に添えませんでした」
ローズは、両手をお腹の辺りに置き、とてもきれいなお辞儀と共に謝罪をした。
「「「え?」」」
三人は目を見開き、『あれ?失敗したんじゃ?』と、エルに視線を向けた。
そんな事を聞かれても困る。さっきいきなりご主人様とか言い出したが、泣き止んだ後は、多少敬語が多くなったくらいだったのだ。
「いや、伝えたい事はしっかりとは伝わって無いぞ、多分。まあ、でも、問題は無いんじゃ無いか?」
と、俺は返さなくても、問題無さそうな事を伝えた。
「「「……何したの?」」」
三人は、同時に言葉を放った。だが、ジェニだけの表情が少し違う事が気になった……
「別に、エロい事はしてないからな」
俺は前もってジェニに告げた。あの視線はそれを疑っている目のはずだと。
「え~、そんな事誰も言って無いよぉ? もしかして……」
と、何故かミラにまで感染した様に、疑いの視線が移ってしまった。
「はぁ、まあそうよね。お兄はしないか、割と乙女だし」
……とても納得がいかない評価を頂いた。これは捨て置けん。と、思っていると。
「ご主人さまは私が至らない所を示してくれただけです」と、ローズが言った。
今度は俺も混ざり、絶句した。お前誰? そんな俺の驚きを察したのか、俺がこの結果を知らなかった事を理解した。
「んで、お前たちはどうだったんだ?」
俺は、奴隷の躾より、金の方が重要だ、とジェニ達にギルドで受けた依頼の事を聞いた。
「三人で、金貨一枚と大銀貨1枚って所ね。上々じゃない?」
その言葉に俺は驚愕した。俺達が何年も頑張ってこつこつと貯めた額と同じくらいの金額を一日もかからず稼いで来たのだ……
「それは、毎日稼げそうなのか?」
驚愕しながらもこれは凄い事だ。と、ジェニにこれからも稼げそうかと思わず聞いていた。
「そうね……毎日だと結構落ちると思う。けど、レベルを130まで上げれば一日で金貨10枚は固いんじゃないかしら」
なん……だと……
「待て待て、ケタが間違っていないか? ジェニ、大銀貨10枚はいくらだ?」
その質問の直後、パーンと言う音が鳴り響き、俺はいつの間にか自分のほっぺを押さえていた。
「躾よ、お兄ちゃん」
普段あまり呼ばない呼び方をして。ジェニは俺の躾をした。
「「あはははは」」
ミラとエミールは一瞬驚いて、止まったものの、間を置いてから、笑い出した。こいつらめ、いつも笑われているからと言って、笑い過ぎだ。
「エル、もっかいほっぺ押さえて、可愛かったからぁ」
と、ミラは笑い過ぎて顔を赤くし、口に手を当ててさっきの動作をもう一回希望した。
「エル、どんな気持ちだ? なぁ今どんな気持ちだ?」
エミールはにやけづらをして、いつもの俺達の気持ちが分かったかと言わんばかりに俺の心情を二度、尋ねた。
俺は、パーンと言う音を二回立ててから、二人に言葉を返した。
「どうだ? ほっぺ、押さえてやったぞ? エミール、そんな気持ちだ」
二人は反論していたが、俺は黙ってジェニに振り返った。
「本当に、稼げそうなんだな?」
俺は両肩を持ち、顔を近づけ、真剣な目でジェニを見つめた。
ジェニは俺の襟首を引き、さらに顔を近づけ、困った顔で、聞いて来た。
「信じられないの?私の事」
「おい、今すぐこの金で取れるだけ長期で宿を取ってレベル上げに行くぞ」
俺はマジな事を確認できたと同時に、行動を開始した。ローズに双子を宿に案内しろと言いつけ、その後は宿を使ってて良い事、後はレベルを上げるか、金を稼いで好きに生活をして居ろ。と告げた。
俺達はさっきローズと行った、平均105の狩場に籠り、狩りを続けたが、一カ月で、宿代が足りなくなった。レベルアップが100を超えてさらに跳ね上がったのだ。
「なぁエル、これ無理じゃね?」
エミールも100レベルになり、レベルが上がらなくなった事を感じ、130レベルは厳しいと言って来た。
「ああ、取り合えず金を稼いで、今度は宿じゃなく家を借りようか? 短期間じゃ無理だわ」
俺は、宿では無く借家を借りて、腰を据えて掛かろうと、皆に問う。
「おお、家っいえ、イエーイッ。味付けっ味付けっ」
ミラが飛び跳ね家を得られそうな事に喜んだ。俺はローズに教わった調味料の味付け肉を何度も作ってやっており、皆その虜になっていた。ミラはテンションがハイになったせいか、関係の無い事なのに飛び跳ねながら連呼していた。
「やっと、私たちの家か、お兄と同じ部屋を希望するわ」
ジェニは、落ち着きながらも嬉しそうに俺との相部屋を求めた。って、ええ?
「いや、待て待て、俺も男だ。兄の前に男だ。後は、分かるな?」
うちでも部屋は別だっただろうが、と言っても俺は押入れ、ジェニは屋根裏だったが。だが、一体どうしちゃったんだ?
「うーん、そうね。じゃあもうちょっと後でね?」
と、訳の分からない事を言い、ジェニは納得した。良く分からないが後でだな? と俺は心に深く刻んだ。
「んじゃ取り合えずギルドだよな、金稼ぐんだろ?」
俺は、エミールに『ああ、そうだ』と告げて皆で移動した。ギルドに着き掲示板を見てみると、全員が100レベルを超えていた事もあり。パーティ依頼も含めれば割と選べるくらいあった。
「これ、どう思う?」
俺は三人に一枚の依頼書を指差し聞いていた。
「割とチャレンジ精神がいるよねぇ」
「いいんじゃねぇか? 結局は一緒だろ? 相手がなんだって」
「エミールの割りに良い事言うわね。私も賛成かな」
「妹ちゃんは何でおれに対していつもそんな扱いなの?」
「そうね、強姦魔志望だからかしら?」
「ぐぬ、もうそれ忘れて……魔が差しただけなんだよぉ……口に出しただけじゃんよぉ……」
エミールは膝と肘を床に付け床を叩きながら嘆いた。恥ずかしいから止めなさい。俺はそう思いながらも、哀れな彼に遠い目をしながらこう告げた。
「諦めろ。ジェニはこういうの忘れないんだ……いや、そんな事より」
と、俺は話がそれた事を思い出し、大半が賛成だった為依頼を手に持った。その依頼は護衛任務、3泊4日の旅。そして理由は不明で、対人有り、魔物討伐有り、対人戦闘高確率、とだけ書いてあった。
その、報酬は目的地到達後で一人頭金貨3枚、4人以上5人までと書いてあった。
「この依頼ってさ、絶対残り物よね」
と、ジェニが言い。
「だなぁ、流石にあやしーもんな。犯罪の手伝いとかだったら、俺達大丈夫なん?」
エミールは犯罪者にされないかと懸念した。
「だよねぇ、人と戦うのが高確率ってどういう事?」
ミラは、何故先に分かっているのかと言う事が疑問だったみたいだ。
「そうだな。だが、ギルドの依頼を受けた項目に従えば犯罪にはならない。それと、高額の物を移動させると言う可能性が高い。それを誰かが無理にでも、と欲しがってれば可笑しい依頼じゃない」
俺は、最後に全部推測だから嫌なら他のでもいいぞ。と、皆に向かい言うと、これで家が手に入るんならいいんじゃないか。と言う結論に至った。
「今回は下手したら、危険な仕事になるかもしれない」
皆に想定できることは言って置こうと、もう一度問う事にした。
「そりゃ対人戦闘ありって書いてあるんだから、分かってることだろ?」
エミールはそう答えた。
「それは20レベル以上の格上を想定して言っているか?」
「お兄の言いたい事は分かる。でもそれを全部避けたら、今現状だとお金を稼ぐのに多分一月以上は掛かるはず。昨日は運が良かったと言われたわ」
そうだな。ここは王都、おそらく割と小さ目な所でも1年で金貨10枚からだろう。今回の依頼を受ければ四日で済む。だが、命を掛けて三週間ちょっとの短縮はどうなのだ? と思うのだ。
「ん~、逃げる為の用意をして置けばいいんじゃない? あれ何だっけ。魔法の袋? それに入るとか」
ミラは、魔法の袋と言う入れたものを転移させる道具を使えば逃げられると提案した。
「……起動する人は残るの? それと、それの金額知ってる? 金貨50枚とかするらしいわよ?」
ジェニはミラの提案の穴を突きまくり、ミラがあうあうと、もじもじしていた。
「ああ、そうだな。良い事言うなミラは」
「もう、どうしてそういう事言うのようっ」
煽られたと思ったミラは、俺の服を掴み押したり引いたりしながら抗議した。
「いいや。確か、あったはずだ。あれを借りて行こう」
俺は首を傾げる三人を連れて公爵様邸宅に行き、転移魔法陣を借りてから再度ギルドに戻り、依頼を受諾した。
そして、俺達は合流地点を目指し歩いていた。
「へっへーん、私は役に立つ子だったのだぁ」
ミラはジェニを見ながら胸をはり、ドヤ顔を決めた。
「まあ、良くやったわ。皆の生存確率を上げる貢献をしたのだから。ありがとね、ミラ」
ジェニに頭を撫でられながらお礼を言われたミラは、何故か大人しくなり、首を横に振った。
「ああ、分かるぜ? 怖いよな。俺もあんな事言われたら黙るわ。」
ミラとエミールとぼそぼそと喋りながら少し距離を取った。
「はぁ、私、もうちょっと二人に優しくしようかしら……」
「いや、頼む。もうちょっとあいつらが成長するまでこのままでいてくれ。」
俺は、ジェニにそう言った。
「だよねぇ。でもお兄、ずるいよ。私にばかり押し付けて」
「まあ、お前が最初に進んでやってくれたからな。ありがとう、ジェニ」
と、俺はジェニのおかげで二人に手を上げる必要が無くなった事に礼を言った。彼らは気分次第で危険な事を平気でするのだ。そうなった時に主導権を取ろうとしても遅いのだ。それを前もって行い、キープし続けてくれていたから、俺は彼等を叩く事が無くなったのだ。
「お礼が遅ーい。まあいいけどね。最初はエミールは変態だと思ってたし、ミラも仲間を騙す奴だと思ってた。だから自分の為にだった訳だし。それに、ミラを弄ると可愛いし楽しいからね。」
ジェニはとても良い笑顔で笑い、久々に素の感じを見せてくれた。俺は気持ちを押さえられなくなり、さっと、ジェニにキスをした。
「んっ、んんっ?」
ジェニは顔を赤くして、手を開きながら人差し指で唇に触れ、目を伏せた。
「えへへ、もうっ、お兄のエッチ」
「あ、いや、つい気持ちが抑えきれなくてな」
ジェニは腕を絡め、肩に頭をのせて来た。俺は、もっと幸せな気持ちを噛みしめたかったが、とうとう合流地点についてしまった。
「……まさか、お前らがギルドからの護衛人ってんじゃねーよな?」
合流地点で待っていた柄の悪い男はこちらに目をやり、俺達が護衛な事を認めたくない様だ。
「そうか、要求レベルは満たしているのに気に入らない様だ。帰らせてもらっていいか?」
俺は対等な関係を築くため、嫌ならば断わればいい俺はそれでも良いんだと言う事を示した。
「ま、待て待て。マジで100レベル超えてんのか? 全員?」
男は手を伸ばしながら確認をしたそうに聞いて来た。
「まあ、そうだが。ギルドの署名入りの発注書を見せてくれたら、ステータスを開示してもいい」
なので、お前が依頼人という証拠を提示すれば確認させる。と言う事を伝えた。
「あ、ああ、もちろんだ。これがそうだ」
男は一枚の紙を広げ、依頼人である事を示した。なので、こちらも全員にレベルだけのステータス開示をさせた。
「名前は見せないか、良いだろう。ちゃんとやってくれそうだな。俺はジェイル、偽名でも良い名前を教えてくれ」
依頼人であるジェイルと名乗る男は、俺達の名前を尋ねた。
「そうだな。あ~、俺はエルと呼んでくれ。こっちはジェニ、エミール、ミラだ」
俺は、名前を教える前に一呼吸置き、ジェイルと言う男にそう告げた。
「ああ、殺しはやった事あるか? 今回の依頼書は目を通しているんだろ?」
「殺そうとした事ならあるが止められたな。まあ、俺達は全員襲われた相手を思いやる心なんて持ってないさ。人族、だと言えば分かるか?」
「そうか、納得だ。じゃあ護衛を頼む」
そうして俺達は正式に護衛任務を受ける事に決まった。
「んで、俺達はどういう道のりで何をさせられるんだ?」
と、エミールが護衛人に尋ねた。
「ああ、ただ馬車で一緒にローレンに向かってくれりゃ良い。馬車の数は合計で3つ、んで、積み荷の護衛だな。積み荷が厄介だから護衛を頼んだ訳だが、それ以上の詮索はお互いの為に無しにしようや。」
ジェイルはこれ以上は踏み込むなと、言って来た。
「もちろんだ。知らない方が気楽だしな。うっかり犯罪者にされたら、依頼人殺しの犯罪奴隷になってしまいそうだ。」
俺はそう言いながら、こういう男が好きそうな言葉を並べにやりと笑った。
「言うじゃねぇか、怖いねぇ。じゃあ、時間は有限だ、行くとするぜ」
ミラがしきりに『ねぇ何が怖いの?』と、聞いて空気を壊してきたが、俺とジェイルはそれに触れず、俺はミラに、『お子様は黙ってな』と返し、御者席のジェイルと共に前を見た。
そして、一日目は何事も無く進み、俺達は野営をしていた。
「なぁ、ジェイルさんよぉ、まだ襲ってこねぇのか?」
エミールが今日一日何もなかった事に、拍子抜けした様に彼に聞いた。
「なぁに、確定してる訳じゃねぇさ。戦闘は無いなら無い方が良い。そうだろ?」
ジェイルは絶対に襲ってくる訳じゃ無いと言い、同意を求めた。
「だが、ほぼ確定している。違うか?」
俺は、この口調がちょっと気に入り、クールを気取って言ってみた。
「あんただけは空気が違うな、やっぱりリーダーか?」
「一応な。だが、知っていて開示しないのは頂けないな、状況に寄っては護衛しきれないぞ? ギルド規約にも反しないしな」
そう、本当に必要な情報を隠していた場合、途中で投げても違反にはならない。それどころか、依頼者に依頼料の半分を請求出来るのだ。
「ちっ、あまり言いたくねーんだがな。まあ、あんたなら良いか。悪事だとしても金にならなきゃ下手な事言わなそうだ」
ジェイルは俺の性格を見抜いて、話してくれる気になった様だ。だが、どうして分かった。そして、彼は俺を呼び、少し離れた場所で事情を教えてくれた。
「まあ、積み荷はぶっちゃけ獣人なんだけどよ、積み荷を見られちまった訳だ、同じ獣人に。後は、言わなくても分かるだろ? あいつらの特性を考えれば」
「同族を想う、か。家族に至っては命を平気で投げるらしいな」
そう、大英雄と呼ばれた男もそのたぐいだ、人族の国を一度滅ぼしたと言われるくらいに。
「そういう事だ。まあ、ローレンまでで良いからよ。そこに着けば俺の役目も終わりだしな」
「そこまで聞ければ十分だ。その獣人を何に使うかまでは言うなよ、運搬してるだけだと俺は思っているからな」
「はは、言えって言われたって言わねぇよ。言わなければ見つかるまで事実にはならないからな」
と、屁理屈をこねた言い合いが終わり。俺達は交代で眠りについた。緊張感のある見張りではあったが、その日は何も起こらずに一日を終えた。
そして護衛任務二日目、俺達は再度馬車で移動した。昨日からずっと俺達が乗る馬車が先頭を走り、他の二台が後ろを付いて来ている状況だ。今日も変化は今のところ見当たらない。そう思っていると、筒状の間道具を片目に当てたジェイルが口を開いた。
「どうやら、お出ましみたいだぜ。数は取り合えず道に三人、他は今のところ見当たらないな」
「分かった。だが、どうする? こちらから襲い掛かる訳にも行くまい?」
俺は、ただ道に立っている者にいきなり切りかかる事は出来ないだろう?と疑問を投げかけた。
「そうだな。まずはこの馬車で先行して当たる。一応、後ろにも護衛は居るしな。まあ、後ろは対人無しの安い依頼なんだがな」
と、ジェイルは俺達には大金を払うんだから働けよ。と言外に告げ、馬車を走らせた。
「接触して戦闘になる様なら、俺は戻って向こうから見守ってるからよ。勝ったら戻って来てくれ。負けたのを確認したら俺達は逃げる。問題は無いな?」
当たり前な事だが確認が必要な事でもある。そんな、お約束のような確認をして来た。
「ああ、もちろんだ。だが、負けても居ないのに逃げたら標的はあんたに変わる。忘れるなよ」
そう、金惜しさに負けそうだったと言い張られては、困る。
「ギルドは俺の仕事に必須だからな、そんな真似は出来ないさ」
ジェイルはあえて出来ないと答え、にやりと笑った。そして、その三人がこちらに武器を構え並んで立っている事を確認した俺達は、馬車を降りた。
そして、俺達4人と、相手の三人は相対した。




