領主
結局俺はローズを奴隷にする羽目になった。俺を含め全員が嫌な顔をしたが、ルクレーシャさんの頼みとして、仕方なく受け入れる事にした。
隷属させる魔法陣も屋敷にあった為、即座に事は終わり、ミラと共に隷属魔法に関する説明を受けていた。ローズを含め他の者達は、客間で待ってて欲しいと告げられ、おそらくくつろいでいるはずだ。
「エルバート君はもうミラちゃんを奴隷にしてるみたいだけど、どこまでこの魔法について知ってるか聞かせて貰っていいかしら?」
「すいません。正直何も。命令の仕方くらいしか……」
俺はいざこざの最中だった為、奴隷商人に即座に追い出され説明と言う説明を受けずに終わってしまったのだ。
「そう、じゃあそれ以外を教えるわ。まず、隷属者は主人に対して好意を強制的に持たされるの。だけどその好意も、嫌な命令をしたら減って行くわ」
「そ、そうなんですか。だからミラも」
「待ってよぉ。私、奴隷になる前からエルの事……あれ? どうだったっけ?」
「ふふ、楽しそうなお話だけど今は話を進めるわね。次に隷属中に制御された感情は溜まって行くの。まあ、一生隷属をする場合にはこれは関係ない話になってしまうのだけど。隷属を解く場合、その感情は一気に解放されて理性が強い者でも、大抵は心を解放された感情に支配されてしまうわ」
「なるほど。復讐者となる訳ですね。おい、ミラ、なんて事をする気なんだ」
「しないよぉ。じゃあ試しに解いてみてよぉ」
「あら、多分大丈夫だと思うわよ、見てる限りは。それと、自然と好意を持たされる代償として、貯まった感情とは別にしばらくその者に憎しみを覚えるそうよ。二日もすれば消えるそうだけど。だから、隷属を解く場合、最低でも二日は拘束しろと言われているわ。解き方は隷属する時の逆ね、魔力を抜けばいいの。」
「よし、ミラ、拘束するぞ!」
「え? 解いてくれるの?」
「いや、ただ縛るだけだ」
「なんでよう、えっち」
俺はついいつもの様にミラをからかってしまっていたが、説明をして貰っている事を思い出し、向き直った。
「まあまあ、おねーさんの前ではいちゃつくの禁止よ? もし、いちゃつきたいのなら、私も混ぜなさい」
なんだと。では俺が……
「ルクレーシャさんを、拘束……ダメだ。理性が飛びそうだ」
「あらあら、また、ジェニちゃんに怒られちゃうわね」
ぐぬぬ、あいつは俺の事好きなんだろうか? ああ、あいつは兄大好きっこだった。
「ちなみに、俺はローズに何をさせればいいのでしょうか?」
「何をさせてもいいわよ? これは貴方を殺そうとした罰なんだから今回は軽く許すつもりは無いわ。貴方が何をしても、自分の仕出かした事と納得してもらうつもりよ。私は罰を与える事が苦手だからよろしくね?」
なるほど、どんな思惑があるかが分かった。
「あ~、そういう事ですか。好きに楽しんでいいが躾をして欲しい、そういう事ですね」
「ええ、まあ意識しなくていいわ。出来たら君たちの輪に入れて上げて欲しいの。そして色々知って欲しいわ。子供と取られる今はいいですけど、このままでは私のそばには置いておけませんから」
それは、そうだろうな。貴族の世界なんて知らない俺から見ても、好き勝手やってると思ったし。まあ、意識しなくて良いと言うのなら、好きにやらせて貰うとしよう。
「まあ、俺としては、あれが損害の補償として見合ってないと言う事くらいですかね」
そう、あの甘やかされて育ったローズを、どう使えばいいのだろうか。
「あら? ローズちゃんを気に入っていたんじゃ無いの?」
確かに、外見や立ち振る舞いをみて、最初カッコいいと思った。
「はは、ベクトルが違いましたし、あれでは百年の恋でも冷めると言う物です」
「じゃあ、あの子の主人として責任を取らないとね。私に何をして欲しい?」
彼女はそう言い、首を傾げ、笑みを浮かべた。
「では、仕事を紹介して頂けませんか? 力の無い子供でも出来る範囲の」
「仕事、でいいの? お金か装備を求められるかと思っていたのだけど。装備欲しいんでしょ?」
確かに、欲しい。が、それよりもキャロルとチェルシーの身の振り方を決めてやらねばならない。そして、俺は丁度いいと思い、襲われた村の事を相談した。
「と、言う事がここに来る途中にありまして」
「え? 私の領地じゃない。聞いて無いわよ? 魔物の襲撃なんて。詳しく教えて頂戴」
彼女は顔つきが変わり、真剣な表情になって、根掘り葉掘り聞き出された。
「なんて事なの。ブルータス、急用よ」
と、彼女は誰かの名を大声で呼び、一人の男が即座に入って来た。見覚えがある。最初に出会った時に御者をしていた人だ。
「はい、何でしょうか、主様」
彼女は俺が広げた地図を指差し、彼に指示を出した。
「この周辺に国境の壁が破壊されている場所が無いか調べて欲しいの、大至急で」
「はい、畏まりました」
そう言うと、彼は一礼し、部屋を出て行った。
「はぁ、助かったわ。もし、本当に壊れていて人族の難民なんかが大量に入って来てしまうと、対国家の問題になる可能性もあるのよ。あの国が真面になったのはまだ国王だけなんだから。って失言ね、忘れて頂戴」
「いえ、俺としてはあそこに村を作っても大丈夫だったのか、が気になりますね」
そう、まずは国に認めて貰わないといけないだろう。いきなり出ていけと言われても困るのだから。それにこれから先、いつかは本物の領主におさめて貰い、いざと言う時に守って貰えた方が良い。
「ええ、私としてもありがたいわ。そうね、君がやってくれているなら安心だわ。うん任せるっ!」
は? いや、任されましても……もう取りあえず、する事はほぼ無いし。しいて言えば、後はあの二人を育てて村に返すだけだ。
「あのう、先ほどもお話ししましたが、もう彼らは自活出来るので俺が何かをする必要は無いのですが」
と伝えると、彼女は話を聞きながらも何かを書き出した。
「うん、大丈夫なら別に何かをする必要は無いわ。まあ、簡単に言うと、正式に領主を任せるって事よ。爵位を与えられはしないけど、私の権限で貴方をその村一帯の領地の領主に任命します」
そして、彼女は俺に、領地を一部任せる事を記した紙を渡して来た。……領主になってしまった。
「なんか、責任が大きくなっただけの様な気がしますが……まあいいか、分かりました。貴方の言葉なら仕方がありません」
そう、これだけ良くして貰っているのだ。彼女が助かり、俺は帰る場所を作る。そう考えれば断る必要は無い。
「まあうれし、まるで弟でも出来た気分だわ」
「姉さんか、それいいな……っと、失礼しました」
俺はつい本音をこぼしてしまい、訂正した。
「失礼なんてしていないわ、お姉さんと呼びなさい」
彼女は立ち上がり、テーブルの上に両手を置きながら身を乗り出した。
「意外と仕方のない人ですね、姉さんは」
俺は、嬉しく思いながらも苦笑し、その言葉を受け入れた。
「ふふ、良く言われる」
そうして、隷属魔法の勉強会は終わり、俺達は全員で食事をご馳走になり、仕事の紹介状、そして、ルクレーシャさん持ちで、宿の手配までして貰った。宿の手配が終わるまでは、と俺達は食事を食べていた席で、お菓子を振舞われながら、談話を始めた。
「お兄、ここまでして貰っちゃって良いのかな? 私達、見返りなんて出せないわよ」
ジェニは、お金が掛かる物をサクサクと振舞ってくる事に圧倒され、返す事が出来ない事を心配していた。
「あら、お返しとか考えないでいいのよ。色々助けて貰っちゃったから、この位の事はさせて頂戴」
そう、俺の掛けた問いを彼女は答えた。
「んあ、えっと、ルクレーシャ様、さっきはすいませんでした。無礼な口のきき方をしてしまって」
と、エミールが言うと、彼女はエミールの前に行き、彼を抱きしめた。
「こちらこそ、ごめんなさい。私があんな事を言ったから、貴方に嫌な思いをさせてしまったわね」
そう、抱きしめながらエミールに告げた。エミールは顔を赤くして硬直していたが、とてもうれしそうだ。そんな二人を眺めていると、今回の騒動の元凶が口を開いた。
「あの、これから私はどうなるんだ?」
彼女ローズは、俺を見て、怖がる様に自分の今後について尋ねて来た。
「そうだな。俺達の当面の目的は決まった。あの村を外から支援して過ごし易い場所にする事だ。それの手伝いかな。取り合えずで、だけど」
「あの村? それは何の話だ?」
と、真っ当な指示を聞いたローズは表情を変えたが、首を傾げた。
「ああ、それはな……」
俺は、何度目かになる説明をもう一度最初からして、その地を治める事を言い使った。と言う事も含め話した。
「ぷっ、エルが領主様? 似合わなーい」
ミラがさっきの仕返しと言わんばかりに茶化してきたが、お前は一緒に聞いていたよな? と思いながらも、一つも反応をせず無視していると。ルクレーシャさんに頭を撫でられながら困り顔のエミールが言葉を発した。
「じゃあ、あの村を発展させて町になったら、エルはウィシュタルの領主様と同じくらい偉く慣れるのか?」
「あら、それはどうかしら。他国様の細かい状況は知らないけど。今回の事は、私の権限を持って、貸し与えているだけなのよ。本来は功績を上げた者が国王陛下から賜り、爵位を持って勤め上げる物だからね」
「無視しないでよーう」
そう、今の俺は不正規ルートをたどった、本来の領主の在り方では無い。と教えて貰っている途中にミラが、こっそりいじける様に私にも言葉を返せと求めてきた。なので、頭を撫でて黙らせた。
「え、エルバート様が私たちの領主様!?大変、お姉ちゃん」
「凄い、ホントに? やったね、チェルシー」
今までほとんど口を開かなかった双子は、耐え切れなくなった様に姉妹で話始めた。
「そんな美味しい話あるはず無い、お兄に何をさせたいんですか? ルクレーシャ様」
静かに、真剣に、ジェニは強い意志を持って彼女に問う。大まかの予想はしているが、確かにその予想を含めても大きい見返りだ。だが、俺は別の意図があっても良いと思っている。
「そうね、あまり言いたく無い話もあるけど。いいわ、話して置くわね」
そう彼女は前置きして、俺を領主にした理由を話し始めた。
「まずは、その村に人族の難民が流れ込んで来ないかを監視して欲しいの」
それは、予想していた事だ。俺は、聞いていた。と言うかの様に頷いた。
「もう一つは、私の外交のサポート。ううん、違うわね、たまに相談相手になって欲しいの。この町と、貴方たちの故郷では、常識が全くと言って良いほど違うの。彼等ならこう思うと予想する事すら難しい、でもそれじゃいけない。だから、私の相談に乗って貰って貴方たちにとっての非常識を教えて欲しいの」
彼女は言葉を選びながらそう言った。ああ、それは俺達も感じている。最近ようやく少し慣れて来た所だ。
「そして、これは予想だけどね、エル君には人をまとめる能力があると思っているの。それがあって任せても良いと思える人材は割と貴重なのよ。だから、私も楽になる事でもあるの」
ジェニはその言葉を聞き、ピクっと反応した。俺が能力がある事に異論があるのか? この話は反対なのか? そう思っていると予想外の言葉が飛び出した。
「何故? 呼び方が変わっているのですか?」
……どうでも良い事だった。
「うふふ、だっておねーちゃんって呼んでくれたし、私も弟みたいに可愛がってあげないとね?」
そして、妹の矛先はこちらに向いた。止めて下さい死んでしまいます。と、思っていたが、ジェニの表情は和らいだ。良かった。おねーちゃんはセーフらしい。
「お話はわかりました。お兄なら問題なくこなせると思います」
そうして話が終わった所で、宿の手配が完了したとメイドが告げて、俺達は町の宿に送られて行った。そして、俺達は3部屋もとって貰った高級宿で一つの部屋に集まり、今後の事を話し合った。
「ねぇ、領主って何をするのぉ?」
と、ミラは皆が気になって居る事を聞いて来た。
「そうだな、おそらくはその領地の主になり、住まう者の生活を守ってやる事じゃ無いか? ウィシュタルじゃ自警団や魔物の討伐、利権を利用した仕事の振り分け、後は何か大きな事があった時の国への報告、他にはなんだろうな……まあ、ルクレーシャさんは安定してるなら何もしなくていいと言っていたぞ」
「お兄、こんな面倒な事何で引き受けたの? まさかあの人に惹かれたなんて事無いわよね?」
ジェニはやはり、乗り気じゃ無い様だ。
「貴様、面倒とはなんだ、無礼だぞ」
「ローズ、ちょっと黙れ。俺は彼女に好意を持ってるよ、女性としてではないけど。だけど、それはあまり関係無いかな。俺が受けた理由は、彼らの領主ならやってみたいと思ったからだ。もし嫌なら抜ければいい、それが俺達のルールなはずだ」
俺は、ローズを黙らせ、ジェニに本心を語った。
「「あ、ありがとうございます。エルバート様」」
「お兄は、私が離れても平気なの?」
とても、失意を感じている顔をして、ジェニは問いて来た。
「平気な訳ないだろ、絶対に嫌だ。全力で引き止める。その為の理由を作る。俺は、お前を離さない」
俺は、そんな顔をする必要は無いと、全力で言い切った。
「もう、何それ、仕方のないお兄」
と、ジェニは呆れた様な諦めた様な表情をしてから、苦笑した。
「お前たちは兄妹なのに、そういう関係なのか?」
そう、ローズが言い、俺は再度告げる。
「良いからお前は黙って居ろ」
まったく、面倒な事ばかり言ってきやがって、奴隷にしたって不快なだけじゃねーか。と俺は心の中で愚痴っていると。
「そうね、お兄は私の事大好きでしょうがないの、仕方ないんだから」
何故かジェニはローズの言葉に乗り、胸を張りドヤ顔で言った。
「ジェニちゃん、それはちょっと違うんじゃないかな? 兄妹としてだよ?」
と、何故かミラが俺の心情を決定し、告げた。
「ミラの癖に生意気よ、魔法のせいでお兄を好きになったミラにそんな事分かるの?」
「なっ、そんな事、私だって……私だって……」
「私だって何? お兄を騙して無理やり助けさせた癖に」
む、これはガチの喧嘩になりそうな空気、面倒くさい。
「おいジェニ、俺はどっちだったとしても、お前の事が好きだよ。だから止めてくれ」
俺は真剣な表情でジェニに向き合い、本気を見せる様に言った。
「え? あ、う、うん? 分かったわ」
「ミラ、お前の隷属、解くよ。だからそんなに思いつめた顔をするな、似合わないぞ」
俺は、考えてみたら何の得にもなっていない。それどころか、今みたいな事を考えるとただのマイナスだと、ミラの奴隷を解く事を今更ながら決意した。
「え? なんで? 嫌っ、置いてかないでよう。もう言わないから」
ミラは即座に泣きそうな顔になり、懇願して来た。
「置いて行ったりなんてしない。だけど隷属は解く。こういう状況な以上、足かせにしかならないからな」
俺は、心配する事は無いと告げ、ミラの頭を撫でた。
「あ~じゃあ、エルの借金もこれでチャラだな、エル、ありがとな」
「まあ、お前たちの為にやった事じゃないよ。こんな状況誰だって嫌だろ?」
「んだな、だけどよ、本当にいいのか?」
「ああ、俺に利なんて無いからな。でも、問題はあるんだよなぁ、隷属って解くと強制的に元主人を憎むらしいんだ」
俺はルクレーシャさんから教わった事を皆に話した。
「無いよ、絶対に。私がエルを憎むなんて……エルは昔から私のヒーローだもん」
と、ミラが言うと、ジェニがまた何か言おうとしていたので、俺はそれを遮り指示を出した。
「よーし、皆、ミラを縛り付けろ、まずは捕まえて押さえつけるんだ」
「ちょ、何よう、止め、逃げない、逃げないってば。ひゃ、あひゃひゃひゃ、くすぐったい」
ミラは、無抵抗なのに全員に押さえつけられ。エミールがくすぐると、皆してくすぐり始め、ミラは今まで聞いた事の無い様な声を上げ、必死に悶えた。
「はぁはぁはぁ、死んじゃうかと思ったじゃ無いのよう。もう、怒るからね。」
と、芋虫の様に縛り付けられ、床を這いながらもミラはプリプリと怒っていた。そんなミラの背中に手を当て、隷属魔法を解除した。
「あ、ああ、あああああああぁぁ、いやっ、だめっ、何で、何でよ、エル、なんでなのよぉぉ。いやぁぁぁあああ」
ミラは泣き叫んだ。
流石に俺も困惑しすぐには声が出なかったが、これが代償かと思い、問いかけた。
「ミラ、お前はどうしたい。俺をどう、したいんだ?」
ミラは全力で見開いた目で微笑み、そして、言った。
「じゃあ、エル、死んで」




