立地
「ああ、良かった、来てくださったのですね。お待ちしておりました」
代表者の様な爺さんは、安堵した表情で頭を下げた。
「いえ、お待たせしてしまった様で、所でお名前を伺っておりませんでしたね」
そう言えばまだ聞いていなかったと思い、尋ねてみると。
「これは失礼を致しました、私はロルと申します。村が存在していた時は村長をやっておりました」
やはり村長だったのか、名前はロルさんね、なんて呼ぼうか……まあ普通にロルさんでいいや。
「なるほど、それで代表者だったのですね。それはさておき、取り合えずどうしましょうか?」
「そうですな、取りあえずはこの辺を回って腰を落ち着けられる場所を探しませんと」
そうロルさんは言っているが、ここじゃなくてはいけないのだろうか? 変えられない以上こだわった方がいいと思うのだが。
「出来れば、もう少しレベル帯が低い場所まで移動をした方がいいと思うのですが。ここでなくてはいけないのでしょうか?」
「いえ、いいえ、私等がここにした理由は移動距離で考えて、ここ以上は食料事情で厳しいと思ったからなのです。もし宜しければ、出来ればその様に自分たちでも戦える場所に移動したく思います」
やっぱりそうだよな、そうなると……うーんここらへんか、周りに平均30、50、70レベルと段階的に上げられる狩場があるし、6時間程遠出すれば、19レベルと言う最弱の狩場すらある。立地は良いだろう。問題は近くに町が無い事だな。お金を稼ぐ事が困難だ。まるっきり頼れないと大変そうだ……
俺は地図を広げ、ロルさんと相談した。
「ええと、ここら辺はどうでしょうか? 魔物のレベルは低いです。まあ、その代わり町までの距離が2日くらい掛かってしまいますが……」
「おお、確かにここなら。食用の魔物は平均どのくらいのレベルなのでしょうか?」
「ここが食せる魔物で、平均30レベル、6時間ほど遠出すれば平均19レベルの魔物が居る場所があるので育成も可能です。ただ、その30レベルの魔物が美味しいかどうかは保証できませんが」
そう、この前食べたあの魔物の様に、くっそ不味い可能性もあるのだ。
「おお、取りあえずは畑が実るまで食いつなげれば良いのです。種は確保してありますし、十分では無いでしょうか? 我々の元居た村も町から大分離れており、月に一度行商人が来てくれる程度でしたので、問題は無いかと」
なるほど、行商人か、ある程度交易が出来る物を実らせれば呼べるかもしれないな。ウィシュタルの外から来る行商人達に聞いた事がある。利益を生んで労力に見合うなら俺達はどこにでも行くと。まあ、二日に見合う利益を上げさせないと来てくれない、と言う事だが。
「そうですか。では、ここまで行くにはまた一日歩かねばなりません。伝えて来て貰えますか?」
「分かりました、これなら皆も安心する事でしょう」
ロルさんは足早に集団の中央に入り、言葉を交わし始めた。
「なんか、割と大丈夫そうだね。少し手助けすれば、問題なさそう」
と、ミラが言い、ジェニが反論する。
「そんなに甘く無いわよ、家もそうだけど、畑だってそんな簡単には出来ないんだから」
そういえば、何年か前、ウェズ兄さんの村で畑の手伝いをした時、ジェニはぐずってたっけ。
「まあ、でもよぉ、その二つはあいつらに何とかしてもらうしか無いだろ? 俺らが家まで用意するなんて変な話だしよ」
「そうだな、手伝いはしてもいいが、自分の事は自分で、が基本だな」
そう、ある程度の線引きをして自分でやらせないと、いつでも利用すればいいと考える、それが人だろう。
「そっかー、私たちが主導で家とかも作るのかと思ってた」
「おい、俺達にそんな知識ないだろ?」
ミラは適当な事を……聞こえてたらどうするんだ、変に期待させちゃうだろ。
「えーでも秘密基地作ったじゃん」
「このあほは。あれは加工された木の板が転がってたのを利用しただけだろ。木の板を作る所からやんなくちゃなんねーんだよ」
おお、エミールが理解していた。と言ったら流石に怒るだろうな……
「まあ、木の太さ次第でそのまま使っても良いんだが、どうしたって俺達だけじゃ厳しいんだよ」
斧も無いし、木をくくるのに使う蔦だってどれを使っていいのかもわからないしな。
「分かんないけど、分かった。じゃあ、取り合えずご飯の用意だけして上げればいいのね?」
「まあ、そうだな。先の事は分からないが当面はそうなるだろう」
そんな話をしていると、ロルさんがこっちに来て告げる。
「エルバート殿、移動の準備が整いました。皆も喜んでおります」
「そうですか、食材の方は大丈夫ですか?後一日分間に合いますか?」
一応、余裕を持ったが二日分の計算なので聞いてみた。
「ええ、初日に無理して食べ過ぎた者が多かったこともあり、まだ三分の一は余っております。食事をしっかりとっているおかげで気力も少し取り戻しておりますし」
「そうですか、では後一日で着く事ですし共に移動しましょう」
「はい、よろしくお願いします」
俺達は村人と、少しづつ会話をしながら街道を進み、お互いの事を話し少しづつ打ち解けて行った。
そうして何事も無く俺達は目的地に到着した。そこは広大な草原になっており、とても気持ちのいい場所だった。俺は少し不安に駆られた。何故こんなにいい立地条件の場所が空いているのだろうかと。ウィシュタルでも俺は思っていた。やはり周辺には狩りやすい狩場があり、開けた平野が合って、近くには街道が通っている。
兄さんが居た村も小規模だが同様だった。この場所で難点を上げるとしたら町が遠い位だ。と、言っても二日で着くんだが。何も無ければ良いのだけど……
だが、そんな事を考えても始まらない、良い場所なのだ。取り合えず問題が起きるまではそれで良い。何も無ければ当りを引いたという事なのだから。
「なんと、こんなに良い場所だったとは……エルバート殿、感謝致します」
「いえ、私も知りませんでしたよ? それよりも住居と畑を一刻も早く構えないとですね」
「はい、では皆を集めて参ります」
ん? 集める必要あるのか? と思っていると、ぞろぞろと集まって来て俺の前に並んだ。
「では、皆の物、エルバート殿から話がある、心して聞きなさい」
んん? なん……だと……ああ、俺が言ったのか、領主みたいなポジションと。望んではいなくてもやらなきゃいけない事なんだな……
「ええと、皆さん、今日からここで居を構えようと思います。危機的状況が発生しない限り、ここが自分達の住みかとなるでしょう。出来る限り協力して家と畑を作って下さい。当面の食事は心配いりませんので」
と、告げると、一人の男が前に出て疑問を投げかける。
「あのう、木はどの森から取ってきたらよいでしょうか?」
ん? 一杯あるだろ? どう言う事だ?
「それは、どうしてですか?」
「いえ、あまり多く木を伐り倒すと魔物が怒って出てきますので、大群が押し寄せるのは大抵それが原因だと聞いております」
知らなかった……ならあまり強い所はダメだな。
「では、それについては検討しながらとなりますが。取りあえずは、平均30レベルの魔物の森にしましょう。最悪出て来てもその位なら俺らでも対応可能ですから。最初だけはお手伝いします」
どのくらい倒すと出てくるのかをしっかり調べないといけないな。
「他にも何かあれば言ってください」
「あのう、最初に仰っていた町の為の命令と言うのは……」
「そうですね。落ち着いてからで良いのですが、全員協力の元、村を守る為の外壁の設置。後は、緊急時の避難場所の作成など、他にも作って貰わなければいけない物もあるでしょう。落ち着いても、当面は生活維持以外にもやる事はあると考えておいてください」
「すべて我々の利になって居る様に思うのですが。何をお支払いしたら……」
「えっと、俺らは親に売られそうになったり、お金を稼ぐ道具だったりと、そんな生活が嫌で町を出てきました。ですので、俺達が帰る場所を作って貰いたいのです。なるべくいい状態の村にして、俺達が住める場所を開けて置いて貰えたら」
「そ、それだけで良いのですか?」
「ええと、皆さん何か考え違いをしている様ですね、俺はここに居着いて守ったりする訳ではありませんよ? 皆さんだけで、狩れるようになるまでの戦闘指南程度ですね。最初に森を伐り開く時に守る程度は良いですが。それ以上に何でも頼られても困ります」
そう、正直一週間程度、取り合えず魔物を狩れば飯は何とかなる、と言う状況にするだけだ。
「いえ、十分です。ありがとうございます。お返しが出来る事があれば申し付けて下さい」
……可笑しいな、何故この人は支払いたそうにしているんだ? まだ何もやって無いんだが。言った言葉が本物だった事を確認してからじゃなきゃ騙されるかも知れないのに。
ならば言って見るか、絶対に従わないと思うけど。
「ああ、そうだ、皆さん、全員の全財産を集めて貰っていいですか?」
「分かりました」
……分かっちゃったの? いやいやダメだろ、今回は助かるけどダメだろ。
「あのう、皆さん? 自分で言うのもなんですが、そんなに簡単に信じちゃいけないと思うんですよ」
と、俺の手には総額、金貨三枚近いのでは無いだろうか、その位の額が集まっていた。
「俺達は、あの時、食事を分けて貰えてなかったら死んでた事は分かってるんです。あの時二日も食事を取れてなくて、その状態で平均50レベルの狩場に着いたところで、どうにもなりませんし。だから、信じます」
そう、前に出た男が言うと、全員が頷いた。
だから……信じるか……それはダメだろ。格安だが対価も払ってるわけだし。まあいいや、俺が否定し続けても意味は無さそうだ。
「えっと、じゃあこのお金を装備に変えます。それで、この人たちの中の高レベル帯の人に狩りを覚えて貰って、当面は魔物の肉がメインで生活する事になるでしょう」
そう言うと、何故か拍手が起こった。意味が分からない。要するに狩り方を覚えて貰ってさよならなんだが。
「では、やれることを始めて下さい。」
そうして、俺達は行動を開始した。取り合えず、木を切る所からになるだろう。魔物もそのついでに狩り集めて置こう。そう思い、俺は木を伐る場所を聞いて来た男性に声を掛けた。40歳くらいのがたいの良いおっさんだ。
「では木を伐りに行きましょうか」
「はい、お願いします」
「どのくらい倒したら魔物が森から出てくるとか分かりますか?」
「聞いた話でしか無いのですが、生息する森が小さくなってしまう程、切り倒してしまうとダメみたいですね。あの規模の森なら100本以下ならまず大丈夫だとは思いますが、それでも、切り倒している最中は多くの魔物が寄って来て襲われるでしょう」
「それなら取り合えず安心ですね、行きましょうか」
そして、その男は周りに声を掛けて、5人集めて来た。俺達はその6人を連れて平均30レベルの一番近い森に入った。
「あたりの警戒はしておきますので、お好きにどうぞ」
「はい、おい、おめぇら気合入れろ、即効で終わらすぞぉ」
男は別人の様に気合を入れて、斧を振りかぶり木を叩いていった。
確かに魔物が寄って来たが、終わるまでの総数でも50匹程度だった。これならここらの森ならどこでも行けそうだ、と、俺は安心した。
「いやぁ、お強い、感服いたしました」
と、男たちは興奮した様に、木を台車にくくりながらもお礼を言って来た。そんな言葉が嬉しかったのか彼女が得意げに答えた。
「ふふん、私達ならこれ位、90レベルの魔物でも行けちゃうんだから!」
我らのお調子者筆頭、ミラである。
「まぁ、やれねーことはねーな。んでも俺とお前だけじゃ危険じゃね?」
最近はエミールが大人しいな、前までミラと競っていたというのに、良い事だ。
「私にはエルがいるもんっ」
「ミラ、逆でしょ、奴隷のあんたが主人を使ってどうするのよ。あんまり調子に乗ってると怒るわよ、私が」
「あ~見っとも無いからそれ位にしとけよ。後、ジェニとエミールに町に買い出しに行って貰おうかと思っているんだが、いいか?」
「お兄、何で私とエミールなの?」
「ミラは火付け役だろ、俺が離れるのって今は微妙じゃないか?」
「そう? ミラとエミールを残せば問題無いと思うけど?」
嫌なのか? そんなにエミールが嫌なのか? まあ、あいつは爆弾発言とか普通にしてたしな。仕方ない、俺とジェニで行くか。考えたらあいつとジェニ二人だけで野営とかちょっと心配だし。
「よし、じゃあジェニ、俺と二人で行くぞ。いいか?」
と、告げると、ジェニはぱぁっと明るい顔になり景気よく返事をした。
「うん、お兄、大好きっ」
む、やばい、ちょっとぐっと来た。
「止めろよ、妹にグッと来ちゃう兄とかになったらどうするんだよ」
「意義あーり、私が絶対的に置いて行かれる件について」
ジェニが何かを言おうとしていたが、ミラが遮って意義を唱えて来た。
「いや、だからエルが言っていただろ、お前の火魔法が必要なんだよ」
まあ、聞いてないだけで、火を付けられるとは思うんだけど……
「ぐぬぬ、エル、ジェニちゃんに変な事しちゃダメだからね?」
「あら? 私はいいわよ、お兄だし?」
と、ミラを煽って遊び始めたので俺は早速ロルさんに声を掛けて移動する事にした。その際、火を付ける魔道具を頼まれた。
一つはあるがそれが壊れたら終わりだからだそうだ、当然だな。金額は大銀貨3枚程度だと言っていた。その位なら何とかなるレベルだ。それと砥石か、魔物の肉を裂くのが困難だったらしい。
そして、俺達は王都の手前にある町に向かった、今まで通りの計算だと徒歩2日は掛かるはずが、1日で着いた。まあ大半を走って向かったからだが、早くなったものだ。
「お兄、武器防具って何セット買うの?」
「今後を考えれば多い方がいいだろ、魔道具と砥石を買ったらある程度安い装備で買えるだけかな」
「そっか、そうだね。なんか計画の甘そうな人たちだよね、今後大丈夫かな?」
「まったくだな、そこが不安だよ、俺も」
と、俺は首ひねりながら考えていると、ジェニが言った。
「なんか変わったよね、私達。こんな無償で助けるような真似をするなんて」
俺はジェニの言った意味が良く分からなかった。
「無償じゃないだろ? 俺達を快く迎え入れてくれる村だぞ?」
「そんなの、送り届けるだけでも十分だったと思うけど?」
「いや、ウィシュタルで考えたら、その位の事じゃよそ者はよそ者だろ?」
「ああ、お兄は全部から受け入れて欲しかったのか。納得」
なるほど、確かにそれはそうだな。自分の稼ぎで家を守れれば外は敵対しないだけでも十分だったな。まあ受け入れて貰えた方が、良い事には間違いない。これくらいの労力でどうにかなるなら、やっておいた方が良いだろう。
「考えてみればジェニの言う通りだな。まあ、悪い気はしていないんだが」
「うん、私もね、なんか気分が良いんだ。なんか変だね」
「そうだな、変だな。いつもなら、いや、何でも無い」
そう、昔の俺達ならかすめ取る為の標的なんだ、ああいう輩は。お金を稼ぐという事はそういう事だと教わって育った。誰かのお金が減るから誰かのお金が増えるんだと、そして皆金を守ってる。それを自分の物にするには上手くやらないといけないと、皆そうしていると、俺は思ってる。だけど……
今ばかりはこれでいいと、間違っていても構わないと素直に思えた。
「なんか、お兄、可愛い顔してるよ?」
「失礼な、カッコいいの間違いだろ?」
そう笑いながら俺達は、お使いの品物を買いそろえた、ついでにエミールへの武器も買ってやった。
魔物のレベルの書き間違いを修正しました。




