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時給:ゼロ~プライスレス  作者: 支倉正
8/21

きっかけは

夜が明けたが結局何も纏まらなかった。齢15年。自分の今までを全て否定されたように思えた。今までお前の培ってきたことは無意味だ。だからこれからもやってはいけない。そう言われてどうすればいいんだ?頭がぼーっとした。今日こそ学校を休んでやろうと本気で思ったことはなかった。しかし、一人で家にいても纏まる可能性を感じず落ちていく一方だったので学校に行くことにした。

こんなにも学校が長く感じたことはなかった。時間が永遠にも思えた。しかし、現実には時間は皆等しく平等に流れていく。気がつくと放課後だった。


「ねえ?なんか今日変だよー。」


誰かが声をかけているが耳に入ってこない。俺は何のために今日学校に来たのだろう?


「帰るか。」


下校時間はとっくに過ぎていた。



学校から帰るいつもの慣れた下り坂がいつもより急で長く見えた。日暮れまではまだまだ時間がある5月後半になり日も大分長くなってきた。寝不足のせいもあってか日差しがきつい。こんなにも太陽光って辛かったっけ……


「あれは……。」


ある程度来たところで見覚えのあるものが目に飛び込んできた。数日前の帰り道俺がバイトをしようかと詮索していた時に偶然見つけた電柱だ。今もあの時と変わらずそのままでバイト募集のチラシが張り付けてあるままだった。


「あの時はこんな事になるなんて思わなかったのにな…………。」


全く人生とは一寸先は分からない。しかも一寸先が全然見えない。それからどれくらいだろうか。俺は普段は通らない道を歩き続けた。何かを探すわけでもなくただ歩きたかった。やがて見覚えのない公園が目に入った。そこは周りはなにもないがサッカーのグラウンドくらいの大きさだろうか公園の区画だけ膝くらいの高さの低い柵で囲まれており滑り台が一つと横長の椅子が一つあるだけの簡素な公園だった。


「こんなところにあったっけ?」


俺は中に入り椅子に腰をおろした。公園には誰もおらず貸し切り状態だった。公園は日陰が一切なく吹きっさらしなので相変わらず日差しに照りつけられたがそろそろ休みたかった。


「ふう。」


久々に息を吸ったような気がした。実際そんな訳はないのだがそれほどの追い詰められていたのだろう。睦月さんは言った。逃げても怒らないと期待せずに待ってるよと。もうそれでいいんじゃないか。テストだって分からなければ白紙で提出する。それと一緒でいいんじゃないか。もう諦めてしまおう。


「おや、これはこの間の。」


そう声をかけられて俺は振り返った。そこには初めて正体を知った裏世界の住人、野楽さんが立っていた。


「お久しぶりです。」

「こんな所で君と会うとは奇遇だね。今日はお休みかい?。」


やはり普通に話すとただのお年寄りにしか見えない。しかしこの人はれっきとしたヴァンパイアなのだ。


「いえ、実は色々ありましてほぼクビなんです。それにしても野楽さんはやっぱり太陽の下でも平気なんですね。」

「はっはっは。ここで『ぐわーっ』って言いながら砂にでもなって欲しかったかい?期待に添えずにすまないなあ。これの効果だよ。」


そう言って前にも見せてくれた日焼け止めを見せてくれた。


「しかし君はクビになったのかい?椎名君とケンカでもしたかい?」

「まあ、そんなところです。俺が使えなさすぎて睦月さんを怒らせたみたいで俺もそれに反発しちゃってそれで…………。」

「そうかそうか。横に座ってもいいかい?」

「ええ。」


そう言うと野楽さんはゆっくりと俺の隣に腰をおろした。日は西に傾きキレイな夕焼けが俺たちを照らしていた。


「うん。そろそろだね。いい時間だね。」

「そろそろ?いい時間?」


座るや否や野楽さんがこんなことを言った。ちょうどその時何人かの子供たちが公園に遊びに来た。歳はバラバラだろうか。下は幼稚園くらいから上は小学生くらいと様様な子供たちだ。その子達が楽しそうに公園を駆け巡っている。


「君には今どんな風景が見えている?」

「どんな風景って…………公園を子供達が走り回ってます。」

「そうだね。いい風景だよ。実に平和的だ。」

「それが何か?」

「今、君の目の前にいる子供達は皆裏世界の住人だよ。」

「え、まさか。」


そうまさかである。目の前を走っているのは紛れもない人間にしか見えない。でも現にここには野楽さんもいる。ということは本物か。チラッと野楽さんを横目で見たが表情はいつもの通りだった。


「こうやって裏世界の住人が自由に出来るのも椎名君の力添えのお陰なんだよ。」

「えっ?睦月さんの?」

「そう。元々は裏世界はバラバラだった。ヴァンパイアならヴァンパイアと言ったよう他の種族とはあまり交流を持ちたがらなかった。個々で独立した考え方があったからね。しかし、椎名君が現れた。彼女は何でも屋というスタンスで裏世界の橋渡しをやり始めたんだ。」


初めて聞いた。あの睦月さんがそんな事をしていたなんて。何故睦月さんはそんな事を始めたんだろう。


「勿論。最初は彼女も上手くいかなかった。」

「えっ?そうなんですか?」

「ああ。良く考えてもみたまえ君が普通に暮らしていて明日から宇宙人と一緒に暮らしますといきなり言われたらどうする?」

「…………困ります。」


考えたこともない。いきなり宇宙人と暮らすなんて。しかもちょっと怖い。


「そうさ。しかも人間が言うんだ。みんな警戒したんだよ。もしかしたら何か企んでいるのではないかってな。」

「それでどうしたんです?」

「彼女はあの手この手と毎回色んな方法を出してきたよ。私達裏世界全体の為にね。しかも驚いたことに私達のことを良く知っていた。生活様式や性格なんかもね。そのせいもあってか皆徐々に打ち解けたんだ。」

「そうだったんですか。」

「まどまだ垣根が高い所も多くて難しい部分もあるが椎名君は良くやってるよ。」


あの睦月さんにそんな一面があったなんて驚きだ。普段はただのふざけたジャージのチビッ子にしか見えないのに。


「たぶん、睦月は君に何かを見ていたんじゃないかな?」

「何かって?何ですか?」

「それは私には分からない。君が一番感じていたんじゃあないかい?椎名君が言っていた事をもう一度思い返してごらん。」

「睦月さんの言っていた事を…………。」


思い返してみる。そして2日目、3日目、4日目の俺の行いと今野楽さんに教えて貰った睦月さんがやってきたことを比較する。

成功させるために睦月さんは何をしたんだろう。俺は何をしてこなかったんだろう。睦月さんはレールのない山道を開拓した。俺は睦月さんの敷いたレールの上で何をすべきなんだろう。


「ほら、見てみな。」


野楽さんの指の差す方を見るとさっきまで遊んでいた子供達が人間でなくなっていた。分かるのはカッパと狸と赤鬼ぐらいで他にも後頭部に口がある女の子や一つ目で一本足の妖怪等色んな種族が遊んでいた。驚きはしたが一つ言えることはみんな楽しそうだ。


「日がくれてくるとこの辺はもう人は通らないからね。皆安心してるんだよ。」

「なるほど。」


俺がいますけどねとは敢えて言わなかった。もう俺は関係者だ。こっちの人間だ。しかし、これが睦月さんのしたかった事なのだろうか。俺にはスケールが大きすぎて分からない。でも、間違いなく睦月さんは人一倍頑張ったに違いない。上手くいかなくても作戦を練って勉強して。それに引き換え俺は…………。


「そろそろ分かったんじゃないかい?君がどうすべきなのか?何がしたいのか?」

「そうですね。百聞は一見にしかずでした。」

「でどうするんだい?」

「もう一度睦月さんと話します。その後は分かりません。」

「そうか。ゾンビ顔ではなくなったね。」

「はい。生き返りました。」

「うん。では椎名君の所へ行ってきなさい。またゾンビ顔になったらおいで。本物のゾンビを紹介しよう。」

「それ、勘弁願いたいですね。では、行ってきます。野楽さんありがとうございました。」


俺は深々と頭を下げて公園をでた。周りは薄暗くなってきた。俺は事務所へ向かって走った。もう決めた逃げない。そして向き合う。結果は知らない。そうなったらそれが結果だ。でも負けるために行く気はさらさらなかった。

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