お祭り
7日目。
今日で約束の一週間が終わる。俺はそんな事をふと思いながら一人で五十鈴神社の下にいた。何とか出来た最終日を迎えることが出来たがしかしこの最終日が一番重要な日になってしまった。今日はこれから狐族集落においてのお祭り、狐の嫁入りが行われる。本来であるならばこの場には睦月さんやサクラちゃん、サラスさんもいるべきだがもろもろ事情により今は珍しく別行動だ。なので俺は今単独行動である。
「さてさて、行きますか。」
因みにこの日は日曜日。
学校は休みなので早めに行動出来る。まだ集落ではお祭りの準備の最中であろう。よくお祭りは準備の時が一番楽しいなんて言うが今がまさにその時なのだろう。上手く事が運ぶかという不安と一発やってやろうという期待が入り交じった状況をちょっと楽しく感じた。集落に着くと予想していたよりは小規模ではあったが忙しそうな光景が入ってきた。入り口から少し入ったところには露店のようなものが2、3件あり提灯が並んでいた。
「章太郎さん。こんにちは。」
「カミナさん。どーも。」
準備に勤しんでいたのであろうカミナさんがこちらに気がつき挨拶をしてきた。
「早いですね。まだ時間は大分ありますよ。」
「分かってます。俺、こういうの見てるのも好きなんですよ。」
「そうですか。大したものはありませんが楽しんでください。他のかたは?」
「ええ。後から来ます。それよりシズクは今どこに居ますか?」
「まだ、家におりますよ。緊張してるかもしれないんで会ってやって下さい。」
「分かりました。では。」
カミナさんは忙しいのか直ぐに行ってしまった。俺は言われた通りシズクに会いに行くことにした。集落の中心部は何かといそいそしていたが少し進むと提灯が飾ってあるくらいであまり忙しそうな雰囲気はなかった。本当に小さなお祭りなのだろう。カミナ邸も普段と変わらない佇まいだった。
「こんにちはーシズクいるかー?」
「あっ!章太郎!」
直ぐにシズクが駆け寄ってきた。まだ時間があるせいか普段着のままだった。
「おう。見に来たぞ。楽しみにしてるからな。」
「…………う、うん。」
緊張しているのだろうか歯切れの悪い返事だった。まあ無理もないだろう。年に一回の晴れ舞台だ。
「もっとリラックスしろよ。今からそんなんじゃ持たないぞ。」
「…………だって。」
「じゃあ良いこと教えてやるよ。緊張した時は手に『芋』って書いて周りを芋だと思うんだ。そうすれば緊張しなくなる。」
「……分かった。そうする。」
ちょっとオレ流が混じっているが少しでも効いてくれれば儲け物である。しかし、シズクは大真面目に信じているようで俺の言った事を忘れないためにか来る返しぶつぶつと言っていた。
「なあ、シズク。今日は俺の友達も来るんだ。頑張ってくれよ。」
「友達?」
「ああ、そうさ。友達。」
その言葉にシズクが興味を示したのが分かった。
「僕にも出来るかな?」
「友達か?」
「うん。」
「勿論。今日頑張れば必ずな。ただ他種族だけど怖くないか?」
「ううん。章太郎の友達なら大丈夫。」
「おし。じゃあ今日は頑張れるな。」
「うん。」
シズクが力強く返事した。さっきまでの不安顔はどこへやらだな。
「おし。じゃあ頑張れよ。俺は色々あるからさ。でも必ずお前を応援するよ。」
「分かった。必ずだよ。」
「おう。じゃあな。」
シズクと別れカミナ邸を後にした。俺はこの後正直言うとあまりする事はなかったが種族の中をうろつくという重大な任務があった。俺がうろうろしていれば目立つ。何もないだろうが用心に越したことはない。後は夜を待つことにした。
狐の嫁入りが始まるまでもう少しといったところだろうか。辺りは出店が先に動きだしていた。近所の狐達もちらほらと出てきていた。
「これはこれは何でも屋さんではありませんか。」
声の方を見るとそこには反対派であるカラツがいた。
「お邪魔してます。カラツさん。」
俺はとりあえず差し障りなく接する事にした。
「全くだ。余所者を入れるなんぞ。考えられん。恩人であってもだ。頼むからうろうろしないで欲しいな。」
大分嫌われているようだ。しかしここは我慢である。
「いやあ、見てみたいじゃないですか。こんな隠れたお祭り。皆が思ってますよ。」
「ふん。結構な話だ。他の種族なんぞ。」
「交流のきっかけには充分ですよ。」
「馬鹿馬鹿しい。そんなもん興味ないわい。」
「そりゃ残念。でわ。待ち合わせがあるので。」
俺はこれ以上は勘弁とその場をそそくさと去ることにした。
出店まで来るとカミナさん達が忙しそうに何かを作っていた。
「ここは何の出店何ですか?」
「やあ、章太郎君。ここはいなり寿司だよ。」
「へー、珍しいというか流石狐。一個下さい。」
「あいよ。」
威勢のいい掛け声でささっと出来立てのいなり寿司を作ってくれた。
「うわー!旨そ。」
とても香りがよく食べると口いっぱいに旨さが広がる味だった。
食べたことのないいなり寿司だ。
「カミナさん。最高に美味しいです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
俺はふと思い一つアドバイスをする事にした。
「カミナさん。急いでいっぱい準備しておいた方がいいですよ。」
「急に何でだい?」
「それはですね…………」
そろそろ約束時間だ……。ここを変えるための!
「おーい。章太郎。まだ始まっておらんかの。」
「サクラちゃん!まだだよ。」
「うむ。何より。遅れたらもともこもないからの。」
「で?どう?」
「何のことですか?先程から?」
「ん?言うておらんのか。」
「まあサプライズ?」
「そうか。では…………おーい。こっちじゃ。」
「え?ええ!?」
サクラちゃんの手まねいた方を見てカミナさんが驚いた。無理もないだろうそこには睦月さんに連れられて多くの他種族がいたからだ。
「おお、章太郎いたか。サボってないだろうな。」
先頭を引っ張ってきた。睦月さんが声をかけてきた。
「ええ。仕事はしてましたが至って平和ですよ。」
「そうか。じゃあ異文化コミュニケーションといきますか。」
そう言うと睦月さんは後方の集団に声をかけた。
「皆さーん。まだ狐の嫁入りまで時間があるそうなので、一旦ゆっくりしてくださーい。」
するとそこにいた集団は各々くつろぎ始めた。そこには多くの種族がいた。ぱっと見て分かるものでも河童や傘小僧のような日本に昔から伝わっているものからケンタウルスやドラゴンのような西洋のものもいた。
「やあ、章太郎君。」
「野楽さん。来てくださったんですね。」
「まあの。楽しそうだしな。しっかり見せてもらうよ。」
「ええ。楽しんでください。」
「…………一体これは……。」
カミナさんは全く状況が飲み込めないといった様子である。
「これはですね。睦月さんの関係者です。俺達の関係者は見ても大丈夫だって昨日OKもらったので皆連れてきちゃいました。」
「皆って……。」
「さあ、カミナさん。商売ですよ!商売!皆さーん。ここのいなり寿司とっても美味しいですよ。よかったらどうですかー?」
その一言で出店は長蛇の列になった。最初は戸惑っていた狐達も忙しそうに対応していた。
「これはどういうことだ。」
声を聞いた瞬間に分かるカラツだ。
声の方向を見るとカラツが何人かの狐達を引き連れて来ていた。
「おーおーあんたがカラツさんか。なーに大したことはないさ。お約束通りここにいるのはみんなあたしの関係者だ。文句ないだろ。」
睦月さんが答えた。だいぶ大所帯の関係者だが筋は通してるはずだ。…………かなり強引だけどね。
「関係者ってこれ全部か?」
「ええ。これが引きこもりとの差ですよ。」
「ふん。こんなに無駄に連れて来て先のハーピーのように問題でも起こしたら責任はどうするつもりだ。」
「ご心配なく、そんな事よりお祭りの事を考えたらどうです。ほら……。」
睦月さんがそう言うとちょうど雨が降ってきた。
「うわっ、雨かよ。しまっ…………あれ?濡れない……?」
雨がしとしと降り始めたが不思議のことに服や髪は少しも濡れなかった。それは俺だけでなく周りもそうで、睦月さんの率いてきた他の種族も最初は雨宿りしようとしていたが濡れないのに気がつき同じように不思議がっていた。
「これはな、狐の嫁入りせいじゃ。」
「狐の嫁入りの?」
隣のサクラちゃんか一言挟んできた。
「このきての嫁入りほ100%雨が降る。しかし、その雨で濡れることはないのじゃ。」
「へー。すげー。」
「それにほれ。」
「ん?」
「うむ。そろそろか。」
「あれって……」
サクラちゃんが指を指した方向にはそれまでにはなかった灯りが点いていた。しかしそれ灯りというより炎だった。
「あれは、狐火だよ。」
「あれが狐火か……。綺麗だな。」
その狐火は一つではなく一本の道を照らすようにいくつもいくつも点いていて道を作っていた。
「さてさて、メインイベントだ。みんな行くよー。」
睦月さんが皆がを引き連れてまた移動を始めた。そして狐火の照らす道を見易い場所に移動してきた。
「おー。ここなら見えるね。よし。OK!」
「どれどれ。あっ!」
俺が人垣をかき分け見るとちょうど狐の嫁入りがスタートするところだった。大名行列のように綺麗に二列に並んだ狐達が列を作っている。最後尾の馬の上に袴姿のシズクも見えた。
「おーい。シズクー。」
俺が声をかけるとシズクも気づいたようで目線をこちらに向けてきた。しかしお祭り中だ。直ぐに向き直してじっと前を見据えていた。行列はゆっくりとしかししっかりと俺達の前を通過し集落の中をぐるっと一周して戻ってきた。雨の中に浮かぶ狐火と行列は本当に美しく厳かな雰囲気を作り見ている方を飲み込んだ。たっぷり一時間以上かかったが時間を全く感じさせなかった。他の種族も一緒で最初は笑い声も聞こえたが後半は皆が空気に飲まれているようだった。
「いやー。なんか緊張したな。」
「そうだねー。いやいや、良いもん見た。」
お祭り終了後、サクラちゃんに連れてきた皆を頼み俺と睦月さんは会場残っていた。会場は後片付けに負われていた。
「あっ、御二人ともまだいらっしゃいましたか。」
片付け最中のカミナさんが俺達を見つけた。側にはシズクもいた。
「お疲れ様でした。最高でした。勿論シズクもな。」
シズクに向けてピースをするシズクは少し照れながらもピースで返してきた。
「しかし、驚きました。まさかあんなことになるとは。流石は睦月さんです。」
「あれはこいつの案です。あたしは手伝ったにすぎません。」
睦月さんが俺の背中をバシバシ叩きながら言う。
「そうですか。ありがとう章太郎君。」
「いえ。でもカミナさん。これはきっかけ作りでしかないです。ここからまたカミナさんの活動が始まるんです。少なくとも今日のことで他の種族を悪く思うことはないはずです。」
「そうですね。……ここからですね。」
「頑張って下さい。応援します。」
「はい。」
「シズクも今日みたいにやれぱ必ず友達たくさん出来るから頑張れよ!」
「うん!」
「では、まだ仕事がありますので。」
そう言うと二人は足早に後片付けに戻った。二人の後ろ姿はなんとなく頼もしく見えた。
「…………。」
「おし。章太郎帰るか。」
「はい!」
そして俺も今回のお仕事を終えて集落を後にした…………
「なあ、章太郎。」
「はい?」
「明日だがな。」
「え?」
「いや、明日の仕事。」
「いや、明日って俺…………まだ。」
「ん?やらないの?」
「いえ!やります。やらせてください!」
「ん。それでよし。」
「あのー…………睦月さん先にお話いいですか?」
「ん?何の話?」
「勿論!時給のはなしです。」
このお話は一度ここで終わりです。
読んでくださりありがとうございました。
次のお話も構想は出来てるので書いていきます。
よろしくお願いします。




