前夜
「それで?どんな感じなんだい章太郎君。」
表世界に戻り睦月さんと合流した俺達はすぐさま新月に戻ってきた。そして今、所長室で睦月さんに改めて報告をしようとしている。ここには俺と睦月さんそして元の無口キャラに戻ったサクラちゃんの三人しかいない。レーノアは申し訳ないが一旦外してもらった。今下でサラスさんが相手をしている。サラスさんはサラスさんで他種族交流コーディネーターとかいう資格を持ってるらしくレーノアの相手を快く引き受けてくれた。
「はい。とりあえず畑荒らしの依頼は解決しました。」
「まあ、サクラもいたしね。で?犯人はさっきのハーピーかな?」
やった。事前調べの段階で睦月さんで睦月さんは高確率で犯人はハーピーと認識していたはずだ。確認程度で聞いているのだろう。
「違います。あのハーピーはこっちに勝手に来たというか、保護したというか…………。」
「…………惚れられた。」
言いにくい事をサクラちゃんがボソッと直に言ってしまう。無口キャラでも裏世界のキャラは残っているのだろう。こんなことを言うと…………
「あー。そういうこと!おめでとう!今日は赤飯かい?」
「違います!」
睦月さんも睦月さんで楽しそうな事は直ぐに乗っかってくる。なんで2対1なんだ?しかも何故赤飯?
「分かったよ。怒るなって。この場を和ませようとするジョークじゃん。なーサクラ?」
「ん。」
睦月さんの言葉に一文字で頷くサクラちゃん。やはり、遊ばれているようだ。もう勝手に先に進もう。
「確かに現場で俺達はレーノアと会いました。でもそれは何者かの罠だったんです。レーノアは前日に狐族集落の周りでその何者かが撒いた食べ物に釣られて集落まで出て来てしまったんです。
そこで運悪く俺達と出くわしてしまったんです。」
「んー。なるほどね。それでそこで見つけた人間の男である章太郎に一目惚れしたと。そんな感じだね。」
「…………はい。」
そこまではっきり言われると一気な恥ずかしくなってしまった。
「うん。めでたい!やはり赤飯だね。」
「睦月さん…………。真面目に話させて下さい。」
「えーあたしは何時でも真面目だよー。」
茶化され過ぎて全然話が進まない。もう一気にいこう。
「…………いいですか?俺とサクラちゃんは現場で見つけた足跡とレーノアのが一致しないこととレーノアの話から犯人は他にいると推測しました。恐らくカラツさんという狐族が外と交流を持つことを反対してるグループのリーダーが仕掛けたんだと思いました。でも、突きつけるところまではいけなかったんです。」
「ふむふむ。それで?」
「それで畑荒らしが治まるように犯人を捕まえたことを集落全体に示してきました。これで恐らくは近々で同じことが起こることはないと思われます。」
「まあ、畑荒らしを防ぐのが仕事だから一応それは完遂したと……そんなとこかな?」
「はい。でも……俺もサクラちゃんも納得はしてないです。このまま終わると真犯人の思うつぼですから。」
「そーだろーねー。そのカラツってのが犯人なら外と交流するのが害になるのをアピール出来た訳だし。で?どうしたいの?」
心なしか睦月さんがいつもより増しで楽しそうな顔をしている。ある程度こちらの考えを見抜いているのかそれとも俺のこれから言うことを楽しみにしているのか。後者なら期待に答えないとな。
「実は明日狐族の集落では狐の嫁入りがあるそうです。俺達や新月の関係者は今回の健の功績みたいなもんで参加を認めてもらいました。」
「お!じゃああたしも見れるじゃん。見たかったんだよねあれ。」
「ええ。OKです。それで関係者は大丈夫だということなのでここからが睦月さんに相談といかお願いです。」
「何だい?」
「ちょっと噂で聞いたんですが睦月さんは中々裏世界ではお顔が広いようですね。その広い顔を使ってもらっていいですか?」
「何しちゃうわけ?」
「それはですね…………。」
俺は睦月さんにお願いをぶつけてみた。聞いている睦月さんは終始楽しそうに聞いてくれた。
「なるほどね。むちゃくちゃな。怒られたらお前を差し出しすからね。」
「え?部下のミスは上司がなんとかするのでは?」
「怒られるの嫌だもん。」
全くこの人は…………でも。
「まあ、明日でしよ?面白いからやってみるかー。」
「お願いします。名付けてペリー作戦です。」
「だっさ!」
「…………ダサい。」
……サクラちゃんにまでツッコミを受けてしまった。自信あったんだけどな。
「……まあ、作戦名は置いといてじゃあお願いします。睦月さん。」
「りょーかい。サラスにも頼むか。やり方はこっちで勝手にやるからね。」
「分かりました。」
さあ、これで準備はぼほぼ整った。後は明日。ここまで関わったら最後までいってやろうじゃないか。今までにない最高の狐の嫁入りの時間にしようじゃないか。