これから
カミナ邸まで戻った俺たちはカミナさんが明日の狐の嫁入りのことで最後の集まりがあるとのことなのでそれを待つとこにした。
俺たちは最初にこの家に来たときの部屋に通された。俺とサクラちゃんとレーノア三人で一旦待つことにした。この集まり次第で恐らくは他の種族を招くことがこの集落にとぅて良くないということが提案されるだろう。現時点で論より証拠となる被害も実際に出ている。カミナさんには一応論議はしてもらうが勝敗はだいぶ厳しいだろう。しかし、何とか俺たちを招いてもらうことを了承してもらう必要があった。これからの作戦のためにも。因みにレーノアにはカミナさんの家で服を借り着せてやった。最初は嫌がっていたが俺も裸のままではなにかと困るし外に与える印象も変わるからだ。
「うーん。」
「おい。章太郎うろうろするでない。育ちが悪く見えるぞ。」
「そう言われても。」
落ち着かないのは性分である。カミナさんが頑張っているのに自分が胡座をかいて待っているというのが歯痒かった。
「そんなに待てんのなら、こいつの相手をせい。」
そういってサクラちゃんはレーノアを指差した。レーノアは俺の真似をしてか後ろについてうろうろしていた。
「ハハハ!レーノアも楽しい!」
遊び回っているのと勘違いしているのだろうかなんとも無邪気だ。一方のサクラちゃんは毛繕いっぽいことをしている。流石は猫である。
「レーノア。俺は遊んでる訳じゃないんだよ。ちょっと考え事をな…………。」
喋っている最中に気配を感じ入り口を見ると其所には可愛い狐耳ぎちらりと見えた。
「おっシズクか?入っていいよ。怖がんなくて大丈夫だよ。」
それを聞いてシズクはちょっと怯えながらも部屋に入ってきた。
やはり初めて見るハーピーが怖いのだろうか、入ると一目散に俺のところに来て服の端を掴みおっかなびっくりな様子でレーノアを見ていた。
「大丈夫じゃ。怖くないさ。良く見てみな。」
「でも集落を荒らして回ってるんでしょ?」
「違うよ。それは違う奴がやってたんだ。だからこのレーノアは大丈夫なの。なあ、レーノア。」
「ワルクナイ!ワルクナイ!」
俺がカバーするとレーノアも同調した。そしてレーノアはその場で跳ねていた。本当に無邪気な奴だ。
「な。怖くないだろ?」
俺はシズクの頭を撫でながら優しく声をかけた。シズクはおずおずとした様子でいたがやがて近寄っていった。
「初めまして僕はシズク。」
「シズク?レーノア!」
おっかなびっくり話しかけるシズクに対して元気いっぱいで返答するレーノア。やがて少し打ち解けたのか二人で話始めた。意外と年も近いのだろうか?楽しそうにしていた。
「な?」
それを見ていたサクラちゃんか一言言った。
「確かに最初からどんどん打ち解けていく奴はなかなかおらん。でもやってみると意外となんとかなるし、上手くいくもんじゃ。きっかけさえあればの。目の前光景が一番の証拠じゃ。」
「そうだね。みんながシズクくらい純真ならいいのに。」
「そうもいかんのが大人じゃ。」
確かに成長するにつれて色々知ることで純真さは失われていくのかもしれない。しかしきっかけさえあればなんとかなるのかもしれない。
「きっかけか………。」
恐らくはここの集落で言えば外との交流のきっかけとかそういうことなのだろう。あんなことまでしてくるのにどつきっかけを作ればいいのだろうか?
「のう。章太郎はここからどうすべきだと思う?」
「どうすればって?」
「まあ、一応依頼は完了ということにはなっておる。真犯人は他にあるみたいじゃが一応はこれで畑荒らしはなくなるじゃろう。事件を起こしたことで真犯人の目的は達成じゃし仮に立てた犯人が捕まったから同じ事をする必要はないからの。」
「うん。」
「じゃが真犯人は野放し。恐らくカラツらだろうがレーノアの証言では証拠としては弱い。このままではカミナ氏の他種族との交流は厳しくなるじゃろう。」
サクラちゃんが言いたいのは恐らくは何とかして狐族を外界に開いた社会にしたいのだろう。前に野楽さんが言っていた話だと睦月さんは種族間の橋渡しをしていたという。サクラちゃんも同じ考えならなんとかここを開いて他の種族と繋げていきたいと思っているはずた。ということは……
「この状況下において他の種族との交流のきっかけを持たせ尚且つ警戒しているカラツ側も巻き込んで上手いこと納める方法?」
そんなのあるのだろうか?かなりのミラクル案件にしか思えない。
「分からんか?」
「サクラちゃんは思い付いてるの?」
「まあの。ただ一つ必須条件がある。」
「必須条件?」
「ん。しかもそれはカミナ氏次第じゃ。」
「カミナさん次第?」
俺はここまでのサクラちゃんの言葉を可能な限り思い返した。確信をあまり言ってはくれないがヒントくらいは……
「そうか。明日の狐の嫁入り。お祭りを利用すれば。」
「まあ、ありじゃの。じゃが狐の嫁入りは今は内輪のお祭りじゃぞ。」
「うん。でも、サクラちゃんは聞いた。俺たちも参加出来ないかって。睦月さんとかも連れて。」
「確かに言ったの。」
「でもそこには…………。」
ちょうどその時カミナさんの帰宅したらしく俺達のところへ来た。
「どうも。戻りました。」
「それでどうじゃ?」
「やはり今回は狐の嫁入りは内輪のお祭りということになりました。無理もありません。事件直後ですし、真犯人さえつき出せば変わったのでしょうが。」
「そうか。やはりな。でサクラ達はどうなった?」
「ええ。そこはなんとか死守しました。反対も多くありましたが治安を守ってくれた方々に失礼だと。」
「ん。流石は狐族分かっておる。そのお墨付きさえあれば大丈夫。真犯人探しはしないで奴等を安心させておくぞ。」
「それでいいのですか?」
「うむ。そうじゃろ?章太郎。」
サクラちゃんが頼もしい笑みでこちらを振り替える俺の答えは勿論。
「うん。完璧!じゃあ犯人であるハーピーを連行して明日のお祭りに備えようか。睦月さん達と一緒にね。」
この場の準備は整った後は帰って我らの所長様になんとかしてもらおう。この閉じた裏世界を開くために。
「さあ、レーノアもう少し移動しよう。」
「コドモノジュンビカ?」
「ちげーよ!」
こいつシズクの前で突然なんて事を言うんだ!
「うむ。そうじゃな。ここでは出来んから場所を変えるのじゃ。」
サクラちゃんまで!シズクは意味が分からないようだったのでとりあえず急いでカミナ邸を出た。ごめんなさい。カミナさん。シズクに何の事か聞かれたら教えてあげて。そして俺達三人は表世界に戻った。
来た道を戻ると元の五十鈴神社の境内に出た。来たときとは少し場所がずれているのだろうか?因みにサクラちゃんは元の黒服姿の無口キャラに戻っていた。レーノアはまだ姿が変えられないので服を着せてなんとか分からないようにした。空は夕焼けが眩しく日が傾いていた。急いで帰るべく神社の階段を降りるとそこには睦月さんがいた。
「よお。お帰り。あれ?なんだか人数が増えてるかな?」
相変わらずの口調だが、レーノアが何かを直ぐに理解したようであった。だから俺は……
「ちょっと色々ありまして一人増えました。この件と新案件の事を相談したいので事務所に戻りませんか?」
報告と相談を提案した。睦月さんは最初一瞬『おっ!』という顔をしたように見えたが直ぐにいつもの調子に戻り、
「仕事自分で探してきたのかい?殊勲なことだね。よーし、面白そうだから聞くよん。じゃ行こか。」
「はい。」
さあ、仕事の話だ。成功する確信が全くなくて、一円にもならないけどお金に変えられないことになるかもしれないプライスな仕事の話のな。




