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時給:ゼロ~プライスレス  作者: 支倉正
18/21

集落帰還

崖を降りると下ではカミナさんが待っていた。


「おお、章太郎さん。無事でしたか。良かったです。」

「ええ、何とか大丈夫です。ご心配をおかけしました。」

「後ろにいるのは先ほどのハーピーですか?」


カミナさんは俺の後ろにいるレーノアを指さして言った。


「……ええ、まあ。」


因みにレーノアは俺の隣で不思議そうな顔で自分の羽根を見ている。実は現在レーノアの羽根は俺の手と紐で結ばれている。これはサクラちゃんの作戦で俺たちは犯人であるハーピーを追い詰めて捕まえたという設定になっている。 レーノアは最初は羽根に着いた縄をとても嫌がり暴れていたがサクラちゃんが何とか上手く嗜めていた。何て言っていたのかはサクラちゃんに聞いても教えてくれなかった。そしてレーノアはなんだかやたらと静かになっていた。


「しかしサクラちゃんは凄いね。」

「何がじゃ?」

「だってさっきまでいがみ合ったりしてたのにちょっとコンタクトとっただけでもう仲良くなっちゃうんだもん。」

「まあ上手くいかこともあるがの。」

「そうなの?」


百戦錬磨とはいえども100%ではないということだろう。とにかく今回は成功して良かった。


「話はサクラさんから聞いてます。……身内が怪しいということですよね。残念なことです。何もこんなことをしなくても良かったろうに……」


カミナさんが残念そうに言う。当然のことだろう。まだまだ纏まらない話とは言えまだスタートしたばかりの話だ。本来なら時間をかけてもいいことだし、こんな事をしなくても解決する方法は他にいくらでもあったはずだからだ。しかも長年一緒に生きてきた仲間であるなら尚更なのだろう。こういうところは人間でも他種族であったとしても変わらないことのはずだ。


「ところで何故このような状態に?」

「それはですね。とりあえず今は畑荒らしの案件はレーノアのせいで我々はそのハーピーを捕獲したというとこで集落に戻ります。」


そのため人間俺とレーノアを括ってある。護送みたいなもんだ。


「それでは相手の思うつぼでは?」

「まあ、そうなるの。しかしそこで色々見えてくるものもあるかもしれんし相手も油断するやもしれん。」

「そこを見るということで。」

「なるほど。」


そして集落に着いた後のことも一通りカミナさんと確認しあい俺たちは集落に戻ることにした。




集落に戻ると先程の一悶着を聞いてか狐たちが出て来ていた。


「来たときはあんなにひっそりとしていたのに今回はまあまあおるの。」

「そうだね。」

「オーー!イッパイ!イッパイ!」

「ちょっと、レーノア静かに。」


四、五人であろうか俺たちがレーノアと初めて相対した畑を取り囲むように見ていて、俺たちに気がつくと一斉にこちらを見た。珍しいのだろうかこちらを見てはひそひそと話をしている。


「おい。カミナ。帰ったか。」


一人の狐がカミナさんに声をかけてきた。少し年を取っているのを感じさせる狐で集まっている中で唯一眼鏡をかけている狐だった。


「やあ、カラツじゃないか。」


カミナさんが手を振って答えた。ここからは一旦カミナさんに出番となる。俺とサクラちゃんはしっかり犯人のハーピーを捕まえましたよアピールを無言でしつつレーノアが暴れないようにしていた。


「犯人は捕まったようだな。」

「ああ。お陰さまでな。この通りさ。非常に優秀な二人のお蔭でなんとかなったよ。」


そういって俺とサクラちゃんを称えるカミナさん。俺たちは控えめに会釈をした。


「そのようだな。しかし犯人というのはそこの鳥か?」

「ああ、そうだ。」


カラツという狐は煙たそうな顔でレーノアを指差す。他の狐たちはハーピーが珍しいのか遠目から興味津々のようだ。


「近づくなよ。暴れると危険だからな。」

「そんなおぞましいもの近づくかい。」


恐らくはこの狐がいわゆるカミナさんに反対しているのだろう。露骨に他の種族を嫌がっているのがわかった。


「出来ればそちらのお二人も勘弁願いたいな。」


俺たちの事だろう。


「何を言うんだ。このお二人はハーピーを捕まえるのに力を貸してくれた方々だぞ。失礼ではないか。」

「しけしこれくらいの者我々だけでも何とか出来た。それより部外者に頼むなどそちらの方が由々しき話だ。」


どこまでも鼻につく言い方をしてくる奴だ。話の感じからすると本当に排他的というかんじだ。


「しかし、そうはいっても集落の者に怪我人が出るよりはいい。それにこのお二人がスムーズに解決してくださった。」

「まあ、それはそうですな。では事件も解決したようですので早めに帰ってもらうといい。」

「わかっておる。がしかし報酬はもらわんといかんからの。カミナ氏の家には寄らせてもらうぞ。」

「けっ、まあそれくらいはよかろう。」


ここでそれまで表世界よろしくの無表情だったサクラちゃんがたんたんと喋った。カラツも意外とすんなり答えた。もっと文句なり嫌味なり言うと思ったがそうでもないらしい。


「では、そうさせてもらうかの。行くぞ。」

「ああ。」


サクラちゃんが俺に声をかけそれに俺が答えレーノアを引っ張った。とりあえずこの場はやり過ごすのだろうか?すると不意にサクラちゃんが足を止めてカラツの方を目をやった。


「時に御仁。参考までに聞きたいのだが。」

「なんだ?」

「ソナタの畑は荒らされてないかの?」

「いや、私は運良く逃れましてな。」

「そうか…………では最近集落の外に出たことは?」

「…………外には出んよ。それがなにか?」

「いえ、興味ついでじゃ。気にせんでくれ。猫は狐と違い想いを巡らすのが好きでの。最後に一つ。」

「何かな?」

「ハーピーを見るのは初めてかの?」

「も、勿論。そんなおぞましいもの初めて見た。」

「そうか。そうじゃの。」


サクラちゃんは笑みを浮かべカミナさん邸に向き直した。俺はプレッシャーに似た何かを感じた。しかし、それ以上サクラちゃんは何も言うことなくカミナさん邸に歩いていった。俺はそのあとをついていった。

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