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時給:ゼロ~プライスレス  作者: 支倉正
17/21

合流

「サクラちゃんじゃないか。」


俺が聞こえた声の方に振り返ると其所には猫耳に黒い巫女装束のもはや見慣れた格好をしたサクラちゃんが立っていた。俺はすぐさま駆け寄ろうとしたが俺の腕はがっちりホールドされていた。


「レーノア、ちょっと離してくれ。」

「ワルイキタ!」


先程の一戦を交えているせいもあってかレーノアはサクラちゃんに対して敵意むき出しだった。それを見たサクラちゃんはふーっとため息をついてやれやれといった様子で俺たちを見ていた。


「折角章太郎を助けに来たんじゃが……邪魔だったかの?」

「そんな事はないです!」

「そうは見えんがの。」


俺とレーノアを上から下まで眺めてニヤニヤ笑いながら言った。一方でレーノアは戦闘体制と言わんばかりに羽根を逆立てていた。


「レーノア落ち着けって!大丈夫だからな。サクラちゃんも面白がらないでくれ!」

「サクラは面白がっておらんぞ。ただ章太郎が伴侶を見つけたのが嬉しくての。」

「それがからかってるって言っているんだ!」


とりあえずここで暴れられては大変だとレーノアを一生懸命落ち着かせた。その間もサクラちゃんは楽しそうにこちらを眺めてはちょっかいを出し続けていた。これなんて修羅場?


「それでサクラちゃんは何故ここを?」


やっとのことでレーノアを落ち着かせてサクラちゃんと話をする事が出来た。結局レーノアは俺から離れると俺をサクラちゃんに取られると思っているのか背中にしがみついたままなのでそのままでいることを許可するしかなかった。


「だから最初の打ち合わせで言っておろう。発信器を持たせると。それを追ってきたのだ。」

「え?発信器なんてなかったよ。」


俺は改めてサクラちゃんに渡された袋を取り出し中をひっくり返した。やはり最初に見たときと同様に中から木の枝しか出てこなかった。


「芋はレーノアが食べたからないとして後はこの木の枝だけで発信器なんてどこにも…………。」

「ここにあろう。」


サクラちゃんはひょいと木の枝を拾うとくんくんと匂いを嗅いでいた。


「それはただの木の枝じゃ……。」

「何を言っておる。ここにあるじゃろうが。お主の目は飾りか何かか?」


それってただの木の枝じゃなかったのか?しかしサクラちゃんは匂いを嗅いでとても気持ち良さそうに顔を赤くしていた。


「これはのマタタビの木の枝じゃ。しかもサクラが用意しておる特注品じゃ。サクラは遠くからでもこの香りを捉えることが出来る。それを追ってここにたどり着いたとそういう訳じゃ。」


今度はマタタビの木の枝をかじかじとかじりながら言った。


「何で教えてくれなかったんだよ。焦ったじゃないか。どうしようか本気で悩んだんだよ。」

「じゃから最初に言ったろう。食料と発信器が入っておると。」

「誰が木の枝が発信器だとおもうか!」

「裏世界では電波のききにくいところも多い。それに対してたマタタビの枝の香りをサクラが見失うことはない。範囲内ならの。」


それはお前だけだというかツッコミを入れようかと思ったがこのままでは話が全然進まないので先に進めることにした。因みに相変わらずレーノアは俺の背中に引っ付いてサクラちゃんを威嚇している。サクラちゃんは全く気にしていない様子だった。


「ところでカミナさんは?」


何処にもいない依頼主を案じて話を反らすついでに聞いてみた。


「ん。奴はこの崖の下じゃ。奴にこの崖を登るのは一苦労じゃからの。」

「そ、そうか。そうだよね。」


確かにまあまあな崖の高さはあったはずだ。それを涼しい顔で登ってきたサクラちゃんて……やはりただ者ではないのだろう。


「それでなんだがサクラちゃん。聞いてくれ。実は今回の事件なんだが……このハーピー名前はレーノアって言うんだがこいつが犯人じゃないんだ。」

「レーノアワルクナイ!」


サクラちゃんは納得してくれるだろうか?しかしなんとか納得してもらうしかない。


「信じてくれないかもしれないが本当なんだ。レーノアはさっき俺たちにあった時に初めて集落の中に入ったって言っててあの集落に近づく様に周りに食べ物なんかを置いて誰かが引き寄せたんだ。確実な証拠はないんだけどこんな娘が悪いことをすると思えない。どうか信じてくれ。」

「なんじゃ章太郎。やはりそのハーピーに骨抜きにされておるのではないか。サクラのいない間よほど楽しい事をしたんじゃの。」

「なっ、そんな事はないよ。頼むサクラちゃん。今は信じてくれ。」


やはり証拠もなくいきなり信じてくれは無理があったかサクラちゃんは腕組みをしてうーんと唸っていた。やはりちょっと厳しいのか……。


「まあ、いいじゃろ。穴だらけじゃがな。」


サクラちゃんはあっさりと信じてくれた。


「へ?信じてくれるの?」

「なんじゃ信用して欲しいのではないのか?」

「まあ、そうだけど。俺が言うのもなんだが信憑性は薄い話だぜ。」


自分で言うのもなんだが確かにそうだった。するとサクラちゃんは、


「まあ、こっちもある程度判断してその娘が犯人じゃないって睨んでたしね。」


最後にニコッと笑いサクラちゃんは言ってのけた。


「え?どういうこと?」

「じゃからお主が思っている通りサクラ達もそこのハーピーが犯人だとは睨んでおらん。むしろサクラ達の方が証拠は多いがの。」

「な。マジで?」


得意気に語るサクラちゃん、俺がいない間に何かあったのだろう。確信があるようにみえた。


「が、今の章太郎の話ではっきりしたというのが正確かの。」

「はっきりした?」

「まあの。こちらではある程度の予測と少しの知識でしかない。決定的なことは掴んでいないに等しい。じゃがさっきの話で辻褄があったというか納得がいったという訳じゃ。」

「というとどういうこと?」

「元々この依頼を受けた際に考えたのが他種族による仕業じゃった。」

「うん。」


確かにそう聞いていた。


「だが一方でもう一つの可能性を抱えていた。」


もう一つの可能性とは……恐らくは…………


「内部の犯行。」


やはりそうか。外からの仕業じゃない限り自ずとそうならざるを得ない。しかし……


「根拠は?あるの?」

「まあ、根拠はカミナ氏が今しておることじゃ。」


外の種族と友好を持つという話だろう。中でも揉めてたっぽいしな。


「それとあの集落に入ったときの雰囲気じゃ。これでよりその意識が強くなったというのが正しいがの。」


確かにあの雰囲気、何をされたわけではないが後々思うと強烈に印象に残った。


「じゃからそこで一芝居うつことにした。ハーピーがやっていると真に受けることで奴等の話に引っ掛かるふりをすることにした。」

「ちょっと待ってくれ。そこでわざと引っ掛かったふりをするなんて俺は聞いてないぞ。」


俺の記憶が確かなら最初からサクラちゃんはハーピーが犯人だと言っていたはずだ。しかしサクラちゃんの言い方からすると違うような。


「うむ。だって章太郎には言っておらんからの。」

「言えよ!最初から!」


思わず声が出てしまった。さも当然のようには言ってのけたサクラちゃんは驚く様子もなく話を続けた。


「まあ、話したら誰に聞かれるか分からんしな。あそこは周りは全て敵だと思った方がいい。」

「でも、俺に言うチャンスくらいあったんじゃ…………。」

「そうじゃな。チャンスはあったな。悪かったの。では言い方を変えよう。最初から章太郎も一緒にまとめて騙すつもりじゃった。」

「何故そんな事を?」


きっとサクラちゃんを何か考えがあってやったに違いない。きっと深い訳が…………


「言ったところで章太郎は演技下手そうじゃからバレるといけないと思っての。」


……なかった。演技が下手そうって。確かに演技に自信はないけれども。


「そんな理由で言わなかったのかよ。ちょっとぐらい言ってくれてもいいじゃないかよ。」

「じゃから最初に言っておろう。バレたら意味がないのじゃ。だから一緒に騙しておくのが一番なんじゃ。」


正論のようななんかしっくり来ないような何か納得いかない結論である。


「だがしかしここで一つ予想外の事実が起きたんじゃ。本当にハーピーが来てしまったことじゃ。奴等は来てしまったハーピーを逆に利用して信憑性を高めようとしたんだが逆にそれが正しい答えをサクラに教えてくれたのだんじゃ。」

「何で逆に分かったんだ?本当にハーピーが来たらもうハーピーが犯人で決まりになるじゃないか。」


少なくとも俺は信じきっていた。実際にレーノアと話をしていなかったか最後まで犯人はハーピーだと決めつけていただろう。


「それと同じ事を奴等もおもったはずじゃ。しかしそれが仇になった。まず最初に木の枝にあった足跡とそこのハーピーでは足跡が合わん。しかもハーピーはあんな爪が食い込むように木には留まらん。」

「そうなの?」


俺は急いで携帯の写メと背中に張り付いているレーノアの足を比べた。


「確かに写メの方が大きい。」

「ほう。本当に違ったか。適当に言ったのじゃが。」

「適当かよ!」

「まあ、爪のくい込みで違うのは分かっていたからな。ほれ、証拠が一つ増えたじゃろ。」


こういうのを棚からぼたもちというのだろうか。しかしこんな時でも余裕があるのかサクラちゃんは地味な嘘をついてくるんだなあ。


「あともう一つはハーピーの旅の理由じゃ。」

「それって……」

「それは章太郎が身をもって一番感じておるじゃろう。」

「……ははは。そうだな。」


俺は後ろに張り付いているレーノアを見て思わず苦笑いをしてしまった。光栄ではあるんだがな。それを知ってか知らずかレーノアは


「ショウタロウ!ショウタロウ!」


飽きてきたのか俺の名前を呼びながら背中で暴れていた。


「レーノア、もうちょっとだけ待ってくれ。な?」

「ウン!ワカッタ!」

「ずいぶんと手なずけたのう。惚れた弱味か?」

「ち、違うよ。レーノアは話せば分かる娘なんだよ。」

「まあ、そういうことにしておくか。」


くっくっと笑うサクラちゃん。まあ、現状は言うとおりなんだけど。まだ俺は認めてないからね。要は言いたいのはそれまで集落に入ったことのないレーノアを食べ物で誘きだして集落に近寄らせた奴がいる。そしてそいつがこの事件の犯人だってことだろう。きっと。


「で?これまでの話はだいたい分かった。これからはどうする?」

「まあ、ここからはちゃんと話してやろう。勝手にされると困るしの。それにそのハーピーにも協力してもらわねばならん。のお、婿様よ。」


その時まずびびっときたのはまた囮にされるんだろうかという不安感だった。

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