気づく
人生においてモテ期というものは3回くるという。小学校、中学校において俺の認識の中においてモテ期は無かった。悲しいカミングアウトではあるが実際問題俺は女の子と付き合った事はない。勿論手を繋いだことぐらいあるよ。しかしその間に愛や恋心はなかったんだ。何故なら体育祭のイベントで繋いだだけだから。しかし俺はついに告白をされた。…………人間じゃないけどね。
それどころか…………
「スグニタマゴウム。コドモツクル。」
…………その先までご所望されている。マズイ。マズ過ぎる。いや、嬉しいよ。他人から告白されるなんて人生において中々起こるイベントではない。だがしかし順序がある。……はずだ。告白、デート、初めて手を繋ぐ、キス。俺にだってイメージしているプランがある。しかも何日、何ヵ月とかけてやっとキスまでたどり着くはずだった。しかし目の前にいるハーピーは…………
「コドモタノシミ……。」
かけ離れた所にいた。どうにかしないともはやバイトどころではない。これは俺の貞操にかかわる話だ。なんとか回避しないと。
しかし俺は既に壁際に追い込まれている。とするとここは!
「なっ?ちょっと待とうぜ。」
「?ナニ?」
「な、なあさっきのとは別に聞きたいことがあるんだよ。だからちょっとだけ待ってくれないか?」
「?」
よし!何とか一旦止めることには成功したようだ。しかし何を聞く?逃げる手を考えるためにも時間を伸ばさないと。
「なあお前は……。」
「オマエジャナイ!レーノア!」
「ごめん!分かったよ分かった。レーノアは姉妹とかいるのか?」
とりあえずベタな質問でいこう。
「レーノアハチニンキョウダイ!」
「へ、へえ姉妹いっぱいいるんだな。皆違う所に行ったのか?」
「ワカンナーイ。スダチバラバラ。ホウコウバラバラ。」
「そうか。それじゃあ分からないよな。」
とすると恐らくみんな同じような事をしてるんだろうな。なんとはた迷惑な種族なんだろう。それが各地で畑を荒らしたりしてるなんてこれではハーピーの評判ががた落ちだ。なんとかこの娘だけでもまともにすることは出来ないだろうか?
「それでレーノアは旅はどれくらいしてるんだ?」
「イツパイネタ。」
「うーん。結構な日数ってことなのか?」
「イッパイイッパイ!」
羽根をバサバサしながら楽しそうに話をするレーノアを見ていると出来は悪いがとても可愛い妹なんていたらこんな感じなのだろうかと思えた。しかしある程度は確信をついておかないとダメだろう。このお喋りに夢中などさくさに紛れて聞いてしまおう。
「そうかーいっぱいか。じゃあご飯とかも大変じゃなかったか?」
「ウウン。レーノアカリトクイ!サカナバシーッテトル!キノミモミツケル!」
足で魚を捕まえる仕草や木の実を取る仕草を得意気に見せてきた。基本的にはそういったことをしてきたのだろう。
「でも、狩りが上手くいかないときは集落に行って畑とかから取ってきたのか?」
あまりにも単刀直入に聞いたがこたえてくれるのだろうか?怒ってこないだろうか。ちょっと手汗を感じながら俺はレーノアに聞いた。すると帰って来た返事は意外なものだった。
「?シューラクッテナニ?」
「へ?集落知らないのか?」
「ワカンナイ。」
本当に知らないのだろうか?頭にはてなマークを浮かべ悩んでいる様子を見ると本当に知らないのだろう。
「集落って言うのは沢山の家があって色んなやつがいっぱい暮らしているところさ。さっき俺を連れてくるときにいたところがあっただろ?あそこが集落って言うんだ。」
「へー。シューラク、シューラク。」
集落という言葉の響きが気に入ったのかその場でくるくる回り集落を連呼するレーノア。途中途中で集中が切れるのか中々話は進まないようだ。しかしその方が時間稼ぎになって俺としてはだいぶありがたかった。サクラちゃんは今俺を探してくれているのだろうか?というか見つかるのだろうか?とにかく見つけてくれないと俺はここで卒業式だ。俺に出来ることをしないと。
「じゃあ集落は分かったな?」
「ウン!シューラク!」
「よしよし。偉いぞ。」
「エヘヘヘへ。」
レーノアは得意気に胸を張っていた。良く考えたら裸なんだよな。これもだいぶムラムラする……じゃなくていけない所ではあるのだが服を着せると飛べなくなってしまいそうでここには手をつけられないな。うん。そうだ。飛べないと困るよな。ってそこを気にしてる場合じゃない。
「レーノアはその集落に入ったことはあるのか?」
「ハイッタ!」
これはほぼ確定な一言ではなかろうか。これを証拠にカミナさんに言えば……勿論あんまり怒られないように……
「ソコニショウタロウイタ!」
「ん?」
「シューラク、ショウタロウイタ!レーノアハイッテミツケタ!」
「ん?ん?レーノアちょっと待て。それは俺を狐族の集落から連れてきたときの話だろ。俺が聞いてるのはその前にそういった集落に入ったことがあるかってことなんだ。」
「?」
話の脈絡についてこれないのかレーノアがまたしてもはてなマークに埋もれていた。どう説明したもんか。
「だからな、狐以外にも沢山で暮らしている所に入ったことがあるか?」
「?ワカンナイケドシューラクハジメテショウタロウハジメテミタトキハジメテ。」
「それ本当か?」
「ソレホントウ。ソレホントウ。」
「まさか。これが本当となると…………。」
これまでの話が全部変わってくる。最初の作戦からいくと件の事件の犯人はレーノアだ。狐族の集落の作物が荒らされたという依頼に対して俺とサクラちゃんは現場検証をした結果犯人はハーピーという結論に至った。そこでハーピーを捕まえるために立てた作戦が俺を囮にして誘きだして捕まえるというものだ。まあ、現時点失敗して俺はここにいるわけだが。しかしレーノアの話からすると本人は初めて狐族の村に来たという。
「じゃあ、どうしてあそこに?」
「アソコノマワリタベルモノイッパイ!レーノアウレシイ!」
「周り?一体どういうことだ?」
周り?あの集落の周りは森に覆われていて食べ物なんてあるはずがない。そりゃ木の実位ならあるかもしれないが調べたときには特に木の実のなるような木は見当たらなかった。
「となると他に犯人がいる?」
早くサクラちゃんに教えないと!そのためにはここを出ないと。しかし…………
「ウレシイー!ウレシイー!」
目の前の鳥は楽しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。無邪気というかアホというか……こっちの心配とは別世界にいた。
「しかし……純真ないい女の子であることは間違いない。」
俺は思った。こんな娘を悪者にするわけにはいかない。濡れ衣はしっかり取っておかないとな。それにちゃんと話せば分かってくれるはずだ。
「なあ、レーノア。」
「?」
俺は彼女を目の前に座らせ話をすることにした。きっと分かってくれるさ。少なくとも言葉は分かるんだから。
「聞いてくれ。大事なことなんだ。」
「ナーニ?」
ガチモードの俺がだレーノアは相変わらずの雰囲気だった。俺は構わず続けた。
「実は…………レーノアは悪者にされそうなんだ。」
「?レーノアワルイ?」
「いやいや、レーノアは悪くないんだ。でも悪い奴がお前を悪くしようとしてるんだ。」
「レーノアワルイナイ!」
「そうそう。だからな、俺はレーノアを悪くしようとしてる奴を懲らしめにいかないといけないんだよ。だからさ、俺は集落に戻りたいんだ。折角連れてきてもらつて悪いんだが頼む。俺を行かせてくれないか?」
出来るだけ分かりやすく砕いて説明したが伝わるだろうか?レーノアは大きな目をぱちくりさせてこちらを見ていた。すると突然目をかっと開いた。
「レーノアワルイダメワルイヤッツケル!」
「そうそう、悪い奴はやっつけないと……え?」
「ショウタロウイッショワルイヤッツケル!」
そう言いながらレーノアは俺の周りをぴょんぴょんしてシャドウボクシングのような動きをしていた。ちょっと話がずれてないか?
「いや、レーノアはここにいてだな…………。」
「レーノアモイク!」
ダメだ。全然話を聞いてくれそうにない。レーノアは俺の腕に抱きついたまま離そうとしなかった。
「まいったな……。」
「……それなら連れていけばよい。」
「え?」
振り向いた其所にいたのはサクラちゃんだった。