実は
「では話をおさらいしようか。」
6日目。
事務所には俺、睦月さん、サラスさん、サクラちゃんと今ここにいる全員が集合していた。昨日の話を踏まえていなかったサクラちゃんへの説明と本日の対策会議を行うらしい。
「では今日やるべきことと現状を簡潔に分かりやすく説明してくれ。章太郎。」
「え?俺すか?」
「そりゃそうだろ。やるのは君なのだよ。」
「はい。分かりました。えーと…………今日やることは狐族の集落に悪さをしている害獣退治ですね。しかし、その害獣は何かは不明であると。でもそいつは他のところでも悪さをしていて同一犯の可能性が高いとこんなとこですかね。」
「うむ。まあだいたいOKかな。ではサラス新しく調べたことはある?」
ふう。なんとかOKを貰えた。話を振られたサラスさんは作ってきたのだろうか手元の資料のようの物をペラペラとめくっていた。
「はい。昨日の話の中であったカミナさんの害獣対策を聞いて参りました。内容としては一般的な害獣対策の檻を使い中に罠の餌を入れて入ると出れなくなる物のようです。その罠に触った形跡はないと。後は一応結界のような物も使っていたようです。これを使えば下級種族は侵入が一切出来ません。しかしこれも先ほどと同様に触られた形跡はないとのことです。」
「へえー。結界なんて使えるんですね。」
「ええ。あまり強い力はありませんが。あとは狐火も使えるとのことです。」
サラスさんが教えてくれた。昨日聞いた限りだとあまり力は強くないようだがこういう術式的なことは得意なようだ。足りないところを他で補っている感じだ。
「うーん。結界も触れた形跡無しとなるとサクラどう思う?」
腕組みしながら悩む睦月さん。昨日は見当がついてるみたいな事を言っていたがどうなのだろうか?
「…………たぶんこの辺のじゃない。」
「やはりか。」
この辺のではないという事は他から来たということなのだろう。俺も昨日のカミナさんの言っていた事を総合するとそうだと思う。
「…………見てみないと分からない。」
「だよねえ。じゃあ見に行ってきなよ。」
「えっ?」
「…………うん。」
腕を組ながらも片目で俺とサクラちゃんを交互に見て睦月さんは言いはなった。それに対し俺は驚きを込めて、サクラちゃんはマイペースに答えた。
「何だか解らないんですよね。作戦とかないとどうにもならないですよ。見たことないんでしょ?」
「まあ、なんとかなるよ。なあサクラ?」
「……うん。」
なんでこの二人はこんなに余裕なんだろう。相手も何も分からないのにこれが慣れというやつなのだろうか?
「ここで考えていてもしょうがないしね。現場に行けば確認できることもあるでしょ。あたしも途中までは行くよ。」
「途中までなんですか?」
「そんなにいてほしいかい章太郎君。これは二人の仕事だよ。」
「そうですが…………。」
「大丈夫さ。心配はいらないよ。そのためのサクラだ。」
「はあ………。」
相手が分からないの以上人数が多い方がいいという考えてはないらしい。もう、二人でやるしかないか。しかし俺よりここでは先輩といえどもサクラちゃんは女の子だ。人間ではないらしいが俺がしっかり守ってやらないとダメだろう。そう思いながらチラッとサクラちゃんを見ると彼女は
「ところで狐族の集落ってどこにあるんですか?」
「それはね…………五十鈴神社さ。」
五十鈴神社は俺の住んでる岩港市の海沿いにあり万石橋という大きな橋を渡った所にある山の中にある小さな神社だ。正直なところ地元の人でも知らない人がいるような場所で俺は五十鈴神社の先にある船着き場で昔釣りをよくしていたのでたまたま知っている程度で実際に入ったことはなかった。
神社に行く途中にググってみたがこの神社は天照大神を奉っている神社らしく市内になんと十社以上あるらしい。
「へえ、全然知らなかった。こんなに立派なんて。」
今俺、睦月さん、サクラちゃんの三人で神社途中の万石橋まで来ているのだが意識しないと気にならないがそこからでも白い鳥居が木の隙間から覗いていた。
「君は来たことなかったのかい?」
歩きながら睦月さんが問いかけてくる。流石に外に出るときは着替えるのだろうかいつもジャージの睦月さんが今は着替えている。何故か俺の学校の制服を着ていた。
「あのー聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「なんで俺の学校の女子の制服を着てるんですか?」
「ああこれかい?似合うだろ?」
「いや、そうではなく何故それを着てるんです?」
自慢気に制服を見せびらかす睦月さんに俺は再度聞き返す。サイズはぴったりで確かに似合っている。見た目でいったら新入生にいそうだが端から見るとなかなかの美少女である睦月さんが学校にいたらそれなりに有名人なはずだ。しかしそんな噂は一言も聞いたことがない。
「いや、あたし岩湊高校の生徒だよ。」
「えっ!マジすか?」
「うん。高三。」
マジか。しかも高三てでも見たことないぞ。入学式とか全校集会とかで全校生徒が集まる機会は多々あるがこんな目立つ人見たことない。
「まあ、入学してから3日しか行ってないけどね。」
「はあ?それって……進級出来ないじゃないですか?」
「うん。進級してないどころか休学扱いのはず確か外国留学とかにしてた気がするけどどうだったかな?」
首をかしげながら考えている睦月さんはそこら辺の女子高生っぽかった。しかし本当にまだ学校に籍があるのだろうか?どれだけ長期留学なんだよ。
「何故………」
「…………着いた。」
もう少し聞いてみようとした時サクラちゃんが呟いた。目の前には遠くからは上の方しか見えなかった鳥居があった。高さは五メートルくらいだろうか海沿いの風の影響もあるのだろう風化してあちこち欠けているがそれがかえってこの鳥居の歴史を感じさせた。
「まだ神社は見えないんですね。」
「ああ、ここから少しも階段登りさ。」
鳥居から神社は見えずに正面は石で出来たなだらかな階段で周りは木々に覆われていた。ここから狐族のところへ行けるなんてなんとなく神聖な場所に見えてくるのは気のせいだろうか。
「さあ、ここからは二人で行きな。」
「え?ここからですか?」
「言ったろ、あたしは途中までだって。」
「ですが…………。」
「大丈夫。道は出来てるよ。」
「道って…………。」
正面に階段はあるがそこを登っても神社が見えるのみである。この上に集落があるはずはない。
「ここは今目に見えない力が働いている名刺があるだろそれさえあればちゃんとたどり着ける。」
「これにそんな力が…………分かりました。行ってきます。」
俺は胸ポケットの名刺を見て握りしめた。ここまで来たらやるしかない。それに一人ではない。
「さあ、サクラちゃん行こう。」
「…………うん。」
俺は逆方向に進もうとしているサクラちゃんを連れて階段を登り始めた。大丈夫だよね?
2、3分登った所だろうか全然上は見えない。しかし元々あまり大きい山ではないからとっくに上が見えてもいいはずだ。
「なあ、サクラちゃん。後どれくらいだと思う。」
「もう少しじゃ、我慢せい。」
「そんなこと言ってもこの階段は。」
「じゃから我慢せい。もう狐族の集落にはいっておる。」
ん?サクラちゃんてこんな喋り方だっけ?もっと無口でボソッと喋るタイプでは?
「サクラ…………ちゃ……ん?おえ!?」
振り向いた俺は驚いたってもんじゃないくらい驚いた。階段を踏み外すかと思った。そこにいたのは確かにサクラちゃんなのだが服装が黒い巫女装束になっていた。それに加えて頭から耳が見えていた。普通の耳ではなく頭と上部に耳は出ていていわゆる猫耳に見えた。
「何を人を見て驚いておる。じろじろ見るな。」
「いや、そんな事言ったってその耳、服装、喋り方!」
「なんじゃ、五月蝿いのう。ああ、これか?狐共の集落が近いせいじゃろ。元の姿に戻ったのじゃ。サクラは表世界では力をセーブするために力を押さえている。裏世界ならば話は別じゃ。セーブせんでもいいからのう。どうじゃ萌えるじゃろ。」
「萌えるって……………。」
確かに見た目は物凄く可愛いがしかし喋り方がとにかく年寄り臭いそのせいでなにか変だ。素直に可愛いと言えない悲しさすら感じた。
「まあ、見た目はともかくこれで力を出しきれると。やはりこの姿が一番じゃ。」
「はは……そりゃ心強い。」
とにかく戦力アップのようだ。そんな話を猫耳美少女としていると階段の終わりが見えてきた。
「ようし!階段の終わりだ。」
「うむ。いよいよじゃの。」
とうとう俺達は狐族の集落に到着した。




