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 ハロルドの脇に抱えられながら、弟と対面した。ドアが開いて目が合った瞬間、弟の目は羽衣子を探し始め、見つけると二度見してきた。


「……何してんだ」

「抱えられてんだよ」


 こんな姿できれば弟には見られたくなかった。いや知り合いに見られたくなかった。


「何かあったのかな勇者殿。早く寝ないと日々の疲れがとれないよ」


 平然と弟に話しかける王子に、まずこの状態をどうにかしてほしい。


「君も。随分と非常識じゃないかな」


 君、と言ってハロルドが見たのは、弟の後ろに隠れていた誰か。

 声をかけられてびくりとした影は、顔だけ弟の肩辺りからひょこりと出して、ハロルドを睨みながら申し訳ありません、と呟く。

 可愛い。フランス人形のような女の子だ。


「何かあっただあ? 俺は、あんたらに兄弟を探せって頼んだはずだ」

「探せと言われただけで、報告の義務はこちらにはないよ」


 見事に揚げ足をとった王子を殴ろうと拳を握った弟の手を後ろに隠れていたお人形が引っ張って止める。


「いけませんエイ様! 王子殿下ですのよ!?」

「何だよっ! レダは関係ねえだろ!?」


 レダ! 噂の!

 ハロルドの腕の中から抜け出そうと暴れつつ、弟と言い争っている彼女を見る。


「なるほど可愛い」


 同性でもぽっとするような愛らしさ。そして、はは、と乾いた声がこぼれる。


「結局顔かい」


 あの金髪王太子め。そりゃ顔は大事だろうけれども。結局顔かい。いや、この子は性格まで可愛いかもしれないが、それでもこんなに顔の可愛い子をあんなにべた褒めしていたら、容姿を褒めてもそれは褒め言葉じゃないと言ったあの時を思い出して、あの野郎、全然説得力ないわ、と肩を下ろす。

 羽衣子を抱えていない方の手で羽衣子の頭を撫でたハロルドは、クスクス笑う。


「ウイコの方が可愛いよ」

「わりと現実が見れている方なのでそういうのはいいです。可愛い女の子だったらきっとこんな荷物みたいな担ぎ方されないしね」

「お姫様抱っこがいいんだね」

「言ってません。よくないです」


 ぎゃーぎゃー騒いでなんとか腕から抜け出し弟の肩を叩く。


「無事でよかった。感動の再会だね。でもごめん。正直最近あんたのことを忘れてた」


 心配してはいたけれど、とにかく今は自分の存在が邪魔にならないよう、カーティスのところに戻ることばかり考えていた。


「……」

「やめて! 禿げる!」


 前から髪を鷲づかみにされて揺らされる。任侠映画くらいでしか見ないような所業をする弟にやめてやめてと懇願してもなかなか聞き入れてくれない。

 微笑み王子ではなくへらへら王子は、助けてくれるかと期待するも、「禿げても可愛いから大丈夫だよ!」とほざいている。大丈夫なもんか。


「エイ様! エイ様いけません! 髪は女の命ですのよ。お姉さまを大事になさってください!」


 この場面で天使かよお、と涙があふれてきた。誰も助けてくれないから余計に彼女が神々しく見える。お人形少女は顔だけじゃなかった。人は見かけによりまくっている。

 心の中でカーティスに謝る。ごめんなさい。やっぱり貴方は女を見る目があります。


「だからレダは関係ねえだろ!」

「まあ! 関係ないとはなんですか! 今は、こ、婚約者なのですから……、関係なくないでしょう?」


 婚約という単語に驚いて涙が引っ込んだ。

 髪から手が離されると後ろに押されて、今回はきちんとへらへら王子が助けてくれた。受け止めついでに抱きしめてこようとするのでそれを交わして、どういうこったいと弟を見る。

 しかし弟はレダと対峙してこちらを見向きもしない。


「破棄する前提のだろ! そもそもそれを破棄したがってるのはお前だろ!」

「それはそうですが……」


 そっとドアを閉めようとしたハロルドだがそれは弟に阻止される。


「英衣くんも身の丈に合わない可愛い彼女を作ってお姉ちゃんたちのこと忘れてたでしょ」

「彼女じゃねえよ! お前こそ男といちゃついて俺のこと忘れたんだろどうせ!」

「何を妬いてるの。あんたは私の彼氏か」

「黙れブス」

「今まであえて言わなかったけど、私とあんたの顔はそっくりだからね。私の顔を貶すのは自分を傷つけるのと一緒だからね」


 ウイコは可愛いよ! ブスじゃないよ! と後ろで言っているへらへら王子にいちいちありがとう、どうもありがとうとお礼を言う。多分この先一生、ここまで可愛いと言ってくれる人はいないと思う。


「おい、クソ王子! 羽衣子がいるのを侍女の噂伝えでレダに知れるまで、どうして俺に報告しなかった。したくない理由があったのか?」

「そりゃあ、勇者殿と気軽に会えるようになったらウイコが僕に構ってくれなくなってしまうからね。ウイコが会いたいと言うなら会わせてもよかったんだけど、言わないのにわざわざ会わせることないよね」

「え? 私一回も言ってませんでしたか?」


 弟を助けるのは今ではないし、自分一人ではどうにもできないので会いに行こうという選択肢は頭の隅に置いていたのかもしれない。


「ごめんね、英衣ちゃん。頭の片隅にはいたんだけど、やっぱり基本忘れてた」

「俺はお前のことも他二人のこともずっと心配してたって言ってもお前は罪悪感とか一切なく鼻で笑うんだろ。そういう奴だよ」

「そんなことない! 私も心配で心配で胸が張り裂けそうだったよ! 再会のハグしてあげる」

「うぜえ」

「思春期の男子はすぐうざいとか言う」


 他二人、というのは羽衣子も一緒に消える瞬間を見た姉と兄のことだろう。


「お姉ちゃんもお兄ちゃんも安全なところに身をよせてるよ」

「……そっか」

「あんたお姉ちゃんそっくりだね」

「俺はあそこまで性格悪くねえ」


 安心しているのがばればれなのにひねくれているのでそれを表に出そうとしない。

 姉と兄がどこにいるのかは、言わない方がいい。ハロルドや、城の人間であるレダのいる場所で、そもそもここは城なので、迂闊なことを口走ればカーティスに不利な状況を作ってしまう。

 カーティスの名前すら、おそらく城で出すことは控えた方がいい。


「あーあ、これじゃあこの先、勇者殿に僕とウイコの貴重な時間を邪魔されてしまうのかな。その虫けら……、ああ、失礼。レダをウイコの視界に入れて、ウイコの体調が崩れてしまうのも心配だよ」


 弟の腕にしがみ付きながら、レダは殺気を隠さずハロルドを睨んでいる。レダはハロルドやジョシュアとあまり仲が良くなかった、とカーティスが言っていた気がする。レダは全身からハロルドを嫌っている気配を出しているし、ハロルドも目がまったく笑っていない。


「帰る気ある? こっちで男作って楽しそうですね」

「違う。拉致監禁されたんです。英衣こそ婚約者って。彼女いない歴イコール年齢からお姉ちゃんを抜かしたね。やったね」

「世間知らずのお嬢様のお守してるだけ」


 ぷぅっと頬を膨らませたレダはエイの足を踏んでそっぽを向く。畜生、わかったよ。貴方の言う通り貴方の幼馴染の女の子は可愛いよ口の悪い元王太子め。


「ハロルド王子」

「なんだい、ウイコ。もう寝る? 一緒に」

「今日から私は勇者殿の部屋で生活します」


 ようやく不健全な男女の距離感から抜け出せる。


「おやすみ勇者殿。ついでに虫け……レダ」


 弟とレダを部屋の外に押しやった王子は、さあ寝よう、と羽衣子の上にのしかかってベッドで睡眠を貪り始めた。

 しばらく外でねばった弟も、十分もするとノックをやめ、その晩は部屋へ帰って行った。


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