ある者には
■
勢いよく部屋を飛び出し、『難攻不落の城塞』の前に来てはみたものの。
肝心の呼び出した人物らしき人は誰もいない。
というか『難攻不落の城塞』に近づこう、と、普通の人なら思わないのだから誰もいないのは当然であるが。
あの電話は誰かのイタズラだったのか、
自分をここに呼び寄せる為の口実で、自分をここで襲撃しようと思っていたのか。
後者の可能性が少しでもあるなら、警戒は解けない。
ふっ
自分のすぐ上を、何かが通り抜けた気がした。
何だろう、疑問に思い上を見ると、『難攻不落の城塞』の屋根の上に一人の男が座っている。
とても神々しくて。
とても輝かしくて。
とても近寄りがたい、
高嶺の花の様な。
そんな印象を受けた。
その男から溢れる威圧感は、自分が指一本動かせず冷や汗をかかせる程のもの。
だけど、普段からそういった事に慣れている自分だからこそ分かるのだ。
この男は、これでも威圧感を最大まで抑えている。
それでも、それでも自分は屈してしまう。
ああ、自分はなんて小さな存在なんだろうか。
そう思い知らされていた。
「やぁ。来てくれたんだね。嬉しいよ。」
ぞわっ
男の声を聞いた瞬間、鳥肌が立つ。
別に怖い訳ではない。むしろその逆。
その男の声は優しすぎるのだ。
「うーん、これでも最大限に抑えてるんだけどな。まぁいい。」
男は語り始める。
優しすぎる声で。
「──この世界には神様がいるだろう?
神様はある日、人間に力を与えた。
ある者にはあらゆる物を侵食する、毒の力を与え、
ある者には命じた物を破壊する、破壊の力を与え、
ある者にはどんな手段によっても死なない、不滅の力を与え、
ある者には人の心を読み、操る洗脳の力を与え、
ある者には電脳世界を駆け、機械を操る力を与え、
ある者には物を産みだし、それを使える力を与え、
ある者には身体を変え、化け物となりて世界を壊す力を与え、
ある者には誓約書によって縛り付け、自分の意のままに他者を縛る力を与え、
ある者にはどんな場所からも当てられる、究極の狩人の力を与え、
ある者にはどんな怪我からも回復する聖女の回復能力を与え、
ある者にはどんな攻撃も受け付けない、無敵の盾の力を与え、
ある者には水中を自在に行き来し、水を自由自在に操る水流操作の力を与え、
ある者には炎を生み出し、全てを焼き尽くす力を与え、
ある者には雷を生み出し、操る力を与え、
ある者には身体を強化し、怪力を出せる力を与えた。
だけど神様は失敗した。
人間に力を不用意に与えてしまい、人間は舞い上がる。
舞い上がってしまった人間達は、誰の力が一番強いかと争いを始め、挙句の果てに神様に一矢報いてやろうと、反逆を起こそうとした。
もちろん、人間が神様に敵う筈ないけどね。
そしてつい最近、神様は『世界の事情』を作った。
『世界の事情』。簡単に言うと、これは一人の子供の為だけに作られたんだけどね。
近いうちに、『世界の事情』により、大きな何かが起こる。
だからそれを覚悟しておいて。
君にも大きな影響がある筈だから。」
『世界の事情』
それは一体何なのだろうか。
それに、自分にも影響があるということは、理想を叶えるうえで大切な情報が手に入れられるかもしれない。それは期待しておこう。
10年前の、楽しかったあの日々の事を思い描く。
──あれ、何が楽しかったんだっけ。
確かに楽しかったって事は覚えてるんだ。なのに、何が楽しかったかが思い出せない。というより、アイツって誰だっけ?男だっけ、女だっけ。どんな顔だっけ。どんな声だっけ。
あれ?
なんで思い出せないんだよ?
ここで考え込んでしまうと、もう止まらなくなりそうで、一旦思考を中断する。
もう一度男の方を見てみる。
男は優しすぎる程の微笑みを浮かべていた。
自分の口が、勝手に動く。
「なぁ……、あなたは、なんて名前なんですか……?」
その瞬間、男の姿はどこかへ消えていた。




