驚いていた彼は。
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あの時、この『世界の事情』を知って驚いていた彼は今。
『世界の事情』のせいで眠らされ続けているとある子供をどうにか助けられないかと、研究を続けている。
研究、とは銘打っているものの、実際はただ調べているだけだった。
あの子供が眠らされている空間にアクセスする方法。
あの子供を眠らせている魔法を解く方法。
いくら調べても、何も分からない。
禁断の書物にはそれが書いてあるかもしれないが、禁断の書物を見た人間は塵になってしまうといわれている。そもそも、禁断の書物は手に入れる事自体とてつもなく困難なのだから。
10年前のあの日、各々がそれぞれの悲劇を経験した。
ある者は死にたくなるほどの絶望をし、
ある者はあの時から10年間ずっと眠らされ続け、
自分は『世界の事情』を知り、
ある者は殺され、
ある者は恋人の死を目の当たりにしてしまい。
きっと、あれは何かの前ぶれなのだろう。
悲劇を経験する事により、いつか、何かが起こる。
それはきっと遠くないうちに。
なぜかって?
『世界の事情』がそうだから。
でも、もうきっと、楽しかったあの日々は戻ってこない。
みんなで騒いで、遊んで、笑っていたあの日々は。
もう自分には戻ってこない。
何故なら自分は、
ここで死ぬのだから。
『世界の事情』で何が起こるかは正確に分かる。
自分はここで死ぬという事も。
だけど、それを伝える相手がいない。
伝えても誰も信じてくれない。
きっと、10年前のあの時の誰かに会えれば、自分はその誰かに伝えるだろう。
10年前のあの時の皆なら、絶対に信じてくれるから。
でも、それは不可能だ。
禁断の書物を手に入れる事と同じ位難しいかもしれない。
だから自分は、『世界の事情』に抗わず、素直にここで退場しよう。
近くで、木に雷が落ち轟音が鳴った。
ここは山奥だからすぐに火が燃え広がるだろう。
だからこそ。
独り言を残す。
孤独に死んでいく自分の独り言。
「聞いて、聞いて、小さな僕の独り言。
誰も信じられなかった僕の独り言。
夢、かなぁ?
僕は、あの日が欲しかった。
10年前の、みんなで仲良くしていた時間。
だけどそれはもう叶わないだろう。
僕の研究も、無駄になっちゃったな。
まぁ、大した成果はなかったけどね。
あーあ。もう、台無しだよ。
『世界の事情』なんて、知らなきゃ良かった。
僕は、幸せだったよ。
今までありがとう。」
そう、それは孤独な自分の、文字通りの独り言。
だからこそ、自分の言葉は虚空に消える。
そして。
今。
火が自分のいる小屋に燃え広がる。
「……焼死、かぁ……。まぁ、それもいいかもね。火葬する手間が省ける。まぁ、元から火葬してくれる程仲のいい人なんていないけど。」
きっと自分が死んだらこの森ごと無かった事になるだろう。
自分が生きていた事さえも。
一切の痕跡も残らず、自分は完全に消滅する。
…
…
…
…
…
…
そこには、何も無い。
最初から何も無かったのだ。




