死を目の当たりにした彼は。
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死を目の当たりにした彼は、今、復讐心を燃やしている。
だって、自分の恋人が殺されたのだから。
あの時は子供だった。
大人が聞けば笑うような恋愛だっただろうが、子供だった自分達なりに、真剣に恋をしていた。
だからこそ、だからこそ。
自分の彼女を殺した奴が憎い。
自分の手で、殺してやりたい。
今、目の前に彼女を殺した女がいる。
抵抗する彼女を拷問し、死にたくても死ねない、というギリギリの状態を保させ続け。
彼女がまだ生きていたい、と散々喚いた挙句、銃で彼女の脳を打ち抜き殺した。
彼女を殺した女が。
今。
目の前に。
いる。
だ
か
ら
殺す。
両者の間には沈黙が流れていた。
それを破ったのは、自分の声。
「なぁ…アイツは、生きたいっていったんだよ。お前に体をぐちゃぐちゃにされても、それでも、俺と一緒に居たいって、生きたいって!!!いったんだよ!!!!なのにっお前はっ!!!!!!!」
叫ぶ。
だがその女はきょとんとした表情で、淡々と告げる。
「それがどうしたっていうの。あたしはあたしがそうしたいからそうしたの。何が悪いの。別にいいでしょう。」
口調こそ穏やかなものの、自分にはそれが、とてつもなく忌々しかった。
だから。
その言葉に、我を失う。
自分が持つ魔力を暴走させ、自分の身体を最大限に強化。
あり得ない程の負荷がかかり血反吐を吐くも、女に殴りかかる。
「お前がッ!!やりたいからそうした?!何を言ってるんだよッ!!!ふざけてんじゃねぇっ!!」
女の顔に拳が当たり、女の顔は醜く歪んだ。
それさえも気にせずに女は、言葉を発する。
「貴方だって同じ事をしているの。貴方は私あたし殺したいから私を殺す。同じじゃない」
「うるせえっ!!お前は黙って俺に殺されてろ!!」
女の言葉など聞き入れない。
そもそも声を聞く必要性などない。
我を失った自分は、もう歯止めが利かない。
殴る。
殴る。
殴る。
蹴る。
殴る。
殴る。
蹴る。
殴る。
殴る。
蹴る。
「ねぇ。聞いて。あの時あたしにも幼い妹がいたのよ。その子がね。殺されたの。あたしが貴方の恋人を殺した時の様な殺し方で。その時ね。あたしもそいつを殺してやろうと思って。殺したの。そうしたらさ。もうそれが癖になっちゃって。何人もの人を殺しちゃったの。今も後悔しているわ。何であんなことをしたんだろうって。」
死にそうになりながらも、
血を吐きながらも、
自分と同じような体験をした事を淡々と話す。
だからなんだ。
だからなんだ。
お前が癖になったから俺もお前と同じ道を辿る、とても言いたいのか。
ああ。
そうだな。
そういう可能性もありえる。
だが今はそんなのどうでもいい。
お前さえ殺せれば!!!!!!
「黙れよ。クソ女。」
殴る。
蹴る。
殴る。
殴る。
女の体から力が抜ける。
「…………やっと、やっと!!!殺した!!!!なぁ、千優、俺、お前を殺した相手が殺せたぞ。やった。やってやった!!!!ははははははははは!!!!!!」
あまりにもあっさり終わった復讐は。
青年を狂わせた。
狂ってしまった青年の歯車は、もう元には戻らない。
自分の体には返り血がべっとりとついていた。
まるで今までの復讐心が自分の心をべたべたと付き纏っていた時の様に。
復讐を果たしたのに。
何故か、まだ人を殺したい。
足りない。
足りない。
足りない。
人を殴る感覚。
ストレスを発散する様でとても気持ちがいい。
「げふっ……ごほっがふっ……」
負荷。
そうだ。怒りに任せて体を限界まで強化したせいで。
普通にはあり得ない負荷がかかったのだ。
まぁそのおかげで、今回は正気に戻れた訳だが。
彼は倒れ込む。
だが、死なない。
だって、まだやり残したことがあるのだから。
死ぬわけにはいかない。




