第八話 お手伝い
男視点は書きやすいな~と実感です。
◆◇◆ 第八話 お手伝い ◆◇◆
清潔なシーツの匂いと心地よい布団の温もり。
窓から射し込む朝日を感じて自然と目を覚ます。
ぐっすり眠れたからだろう……寝覚めがとてもスッキリしている。
こんなに清々しい朝は、病気で倒れて以来初めてかもしれない。
安心して眠れるということがどんなに素晴らしいことなのか、つくづく実感する。
こんな何でもない事が、本当はとても幸せなことなんだと思う。誰もが当たり前すぎて気づかないけれど。
さて、今度こそ自分の部屋で目覚めるんじゃないかと思っていたけど、ここはクリムさんの家の客間だった。今日で二日目だし……やっぱり夢オチではないみたいだ。
…………。
夢オチではないみたいなのだが……またまた黒髪のネコミミ美少女が俺の上で寝ている! なにこの夢展開!!
やわらかくてあったかい感触がちょーヤバイ! あえて言うなら、おぱーいがちょーヤバイ!!
例のごとく何故か濃紺のセーラー服を着ているのだけど、うつ伏せに寝ているので胸からの圧力がハンパない!
くっ……私にこれほどのプレッシャーを与えるとは! ニュー(乳)タイプなのか!?
どうしよう、俺の聖剣エクスカリバーが覚醒しちゃいそうだよ! 鎮まれぇ! エクスカリバー!!
もちつけ俺! いや、落ち着け俺!
「お早う~! 朝だよ~!」
バーンとドアを開けて元気よくメルちゃんが部屋に入ってくる!
そして、女の子の姿のぬこにゃんと俺を見てキョトンとしている。くんくんと匂いをかいで小首を傾げる。
「こら、メル! ちゃんとノックしてから入るの! ごめんなさい、ユーキさん。メルったら待ちきれなくて……」
メルちゃんの後に続いてクリムさんが入ってきて…………固まる。
「「「…………」」」
謎の緊張感が場を支配する。
「ユ~キ~、お魚~♡」と言ってネコミミの女の子が幸せそうに俺の胸にムニャムニャと顔をこすりつける。
「な、な……」
クリムさんが声にならない声を出して口をパクパクさせている横で、メルちゃんが首を傾げながら不思議そうに聞いてくる。
「ぬこにゃんちゃん、大きくなったの?」
「え!? ぬこにゃんちゃん?」
再起動したクリムさんが驚いてマジマジとぬこにゃんを見る。
「ほ、ほら、ぬこにゃん、起きてー」
同じく再起動した俺が肩をポンポンと叩いて声をかけると、ぬこにゃんは寝ぼけ眼でにゃ~と返事をする。おもむろに俺の手を捕まえてパクっと甘咬みする。いつも通りのやりとりなんだけど……美少女の甘咬みだと!? け、けしからん!
「痛てて……ほ、ほら、メルちゃんがお早うって来てるから!」
俺は慌てて手を引っ込めてぬこにゃんを説得する。
もそもそと起き上がり、ぐーっと伸びをして大あくびのぬこにゃん。毛づくろいをしようと手を口元にもっていったところで、ん? という感じで自分の状態に気付く。
「あ! ユーキとお揃いだ~♪」
そう言って嬉しそうにゴロゴロと頭をこすりつけてくる。ちょ、ネコミミ美少女がゴロニャンしてくるとか! 破壊力がパネェっす!! この状況にどう対処していいか全くわかりませんっ!
「その娘、ぬこにゃんちゃんなんですか!? 猫妖精さんって、人型になれるんですね……私、知りませんでした……」
「いや、俺もよくわからないんだけど……」
そういえば、てっきり夢の中だと思っていたから『ぬこにゃん擬人化!』と勝手に決めつけてスルーしてたけど、この変身は何なのだろ? 何故にセーラー服? いや、嫌いじゃないけど……むしろ好きだけど。……謎だ。
「ぬこにゃん、どうやったらこんな風に変身ができるのか、わかる?」
「……?」
どうもぬこにゃん自身もよくわかってないみたいだ。
「いいなー、メルも変身したい! どうやったらできるの!?」
メルちゃんは羨ましくて仕方ないのか、しきりにぬこにゃんに変身のやり方を質問している。
ふんすっ♪ と得意気に胸を張るぬこにゃん。自分でもわかってないくせに、おまいはw
――とボボンッ! 突然前触れもなくぬこにゃんが猫妖精の姿に戻る!
「っ! ……にゃ~」
(´・ω・`)ショボーン って感じのぬこにゃん。言ってるそばからw
「あはは、不思議だね~」
コントみたいなことをやってる姿が可愛くて、わしゃわしゃと頭を撫でてやる。
なぜかクリムさんはホッとしたような顔をしていた。
今日は午前中お婆ちゃんのお手伝いをして、午後にクリムさんにハンターギルドへ案内してもらうことになっている。居候の身なので、しっかり働かねば! ……マス○さんの気持ちってこんな感じなのだろうか?
朝一番にすることは井戸からの水汲みだ。今日使う水を家の大亀に貯めておく大事な仕事だ。そして、とても重労働だ。男手のないクリムさんの家ではとても大変だろう。水道が当たり前の現代日本では想像もつかない苦労だ。まあ、俺はゲーム視点にしてサクサクとこなしてしまうのだけど。
『ハンターズクエスト』のスキルの中には『運搬スキル』という『物を運ぶことを有利にするスキル』がある。ゲーム序盤で作れる鎧の一つにこのスキルがついているので、それに装備変更して運べば楽ちんだ。ゲームのクエストで、モンスターの卵を抱えて親モンスターから逃げ回った日々が懐かしい。
ぬこにゃんが俺の後ろをちょこちょこ付いてくるので、井戸の所で会った、同じく水汲みに来たご近所さん達に大人気だった。小さな壺を持ってお手伝いするぬこにゃんの姿にメロメロだ。お近づきにと、産みたての鶏の卵を頂いてしまった。なんか楽しくなってきた!
お婆ちゃんがテキパキと水汲みをこなす俺の姿に感心したように言う。
「やっぱり男手があると助かるねぇ。ユーキさんだったらいつでもお婿に来てもらって構わないねぇ、クリム」
「も、もう! お婆ちゃんったら……」
「ふふふ、さあ、水汲みが終わったら朝ご飯にしましょう」
顔を真っ赤にするクリムさんを微笑ましそうに見てポンと手を打つお婆ちゃん。
朝食は少し固めのパンに干し肉とサラダ、温かいスープ、そして戦利品の目玉焼きだった。
「パンとサラダはメルが用意したんだよ!」
メルちゃんが褒めてもらいたそうに見上げてきたので、えらいね~と言ってわしゃわしゃと頭を撫でてあげる。しっぽブンブンである。だってワンコだもの。
「ぬこにゃんも水汲みお手伝いしたよ!」
ぬこにゃんも褒めてアピールしてきたので、同じくえらいね~とわしゃわしゃと撫でる。のどゴロゴロである。だって猫だもの。
俺は朝ごはんはあまり食べない派だったのだが、体を動かした後だからか、ペロリとたいらげてしまった。なんかすごい健康的だ。
朝食の後は昨日採ってきた薬草を綺麗に水洗いし、陰干しするお手伝いだ。回復薬は陰干しして乾燥した薬草を、薬研という道具で細かくすりつぶし煎じたものが材料になるそうだ。そこにお婆ちゃん特製の栄養エキスを複雑なレシピで配合する、とてもとても手間のかかる作業だ。
完成品を見せてもらうと、ゲームの『上級回復薬』と同じみたいだ。
…………どうしよう、俺、調合ボタン一発で作れちゃう。