第三話 初めての野宿
引き続きゆるーく見守ってくださるとありがたいです。
◆◇◆ 第三話 初めての野宿 ◆◇◆
さて、夢の中のはずだがお腹が減ってきた。……夢の中でもお腹は空くのだろうか?
考えても仕方がないか。陽も傾き始めたので、適当な所でキャンプをすることにした。
『ハンターズクエスト』にはテントや寝袋みたいな道具はないので野宿は自力でなんとかしないといけない。
ゲーム中では夜でもランタンを照らして街までガンガン歩いて帰ってたけど、ありえないわ! 夜の森とか怖すぎるよっ!!
問題は場所だ。休憩中にさっきみたいに狼に襲われるとかゾッとしない。安心して休める場所を確保しないと心身共に休まらない。安全な洞穴みたいな所があるといいんだけど、都合よくそんな場所はないよなぁ。
結局小一時間歩き回っても完璧安全と言える場所なんて見つからず、ちょっと開けた川べりにキャンプすることにした。キャンプなんていつ以来だろうか。
薪を集めて火を起こし、ご飯にする。料理はもちろん、肉。
『ハンターズクエスト』では手に入れた『生肉』を焼いて『こんがりステーキ』として食べることができる。すでに『こんがりステーキ』はアイテムとして沢山持っているけど、せっかくなので焼いてみることにした。
『調理セット』を使用するとゲームでお馴染みの陽気なメロディが流れ出す。この曲の終わるベストタイミングで肉を上げると『こんがりステーキ』が出来上がるシステムだ。
――と、ぬこにゃんが曲に合わせて踊りだす。やだ、かわいい!
ゲームでもサポートキャラが音楽に合わせて踊ってたっけ。ひょっとして強制なのかな? とぬこにゃんを見てみるとそうじゃないみたいだ。単純にお肉が焼けるのが楽しみで踊ってるみたい。シッポがピコピコしてる。……これ、魚を焼いたらどうなるんだろ? ぬこにゃんの反応。
『こんがりステーキ』をぬこにゃんと半分こして食べる。うん、旨い! これにご飯があれば最高なんだけどなぁ。料理素材アイテムは売るほど持ってたよな、確か……。
『かぐら米』『ドラふぐ』『ボクニンジン』『竜ロース』等々、ダジャレみたいなネーミングはともかく、いろいろな種類がある。アイテムは腐ったり劣化しないみたいなので、何気に便利だ。器具さえあれば料理に挑戦するのも有りだな。
ご飯を食べ終わると眠くなってきた。このまま眠って起きたら、この夢も終わりだろうなぁ……少し残念なような、ほっとするような複雑な気分。
ぬこにゃんが俺の横に来て頭を膝に預けて丸くなる。その頭を撫でながらウツラウツラしていた。
静かな夜だった。聞こえるのは、虫の音と薪のはぜる音のみ……。
◇
「……キ! ユーキ!」
「……っ!?」
ハッと目を覚ます。知らない天井!? ……っていうか天井がないよ! ……相変わらず森の中だよ!
「何か近づいてくる!」とぬこにゃん。
かなり寝ぼけつつ起き上がる。
あっれ~? まだ夢の中だよ?……夢の中で寝ぼけるって、どんだけボケボケなんだ?
そんなくだらないことを考えている俺めがけて、突然大きな影が茂みから飛びかかってきた!
まるで森の闇が突如、意志を持って襲いかかってきたかのように!
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッッ!!」
「うわああああああっ!?」
そのまま押し倒され背中を強かに打ちつける!
「ぐはっ!」
肺から空気が抜けて呼吸困難に陥る!
黒い影は俺を地面に押さえつけて喉笛に噛み付こうと大きく口を開ける。
生臭い息と涎が顔にかかり、凶悪な牙がぎらりと閃く!
俺は痛みと呼吸困難で完全にパニックだった。
「ユーキっ!」
ぬこにゃんの叫び声が響く。
ギャッッ!! と突然影が離れる! ぬこにゃんが槍で攻撃したらしい。
俺は痛みを堪えて素早く立ち上がり、武器を構えると影を睨みつけた。
今のはマジでやばかった! 腹の底からこみ上げてくる震えをどうにか押さえつける。
「どんだけパニクってんだ!」と自分自身を叱咤して、すぐにゲーム視点に切り替えて武器を構える。
ステータス画面にクエスト《魔獣強襲! 狂黒狼ガルウルフを討伐せよ!》という文字がババン!! とでる。
「……魔獣ってなんだ!?」
ゲーム視点になった俺はさっきの狼狽が嘘のように落ち着き、冷静に敵を観察する。
それは人が乗れるほど巨大な黒い狼だった。
昼間に戦った狼よりも何倍も大きく、異様に膨れ上がった巨躯は禍々しいオーラを纏っていた。明らかに普通じゃない。
大きく開いた口から涎をダラダラと垂らし、舌なめずりをしながら唸り声を上げている。
槍で牽制するぬこにゃんを威嚇しながら、今にも飛びかかろうと隙を窺う黒狼。
パニックから立ち直った俺はだんだん腹が立ってきた。
こいつは容赦しない。
片手剣を構え黒狼の脇腹にめがけて、特殊攻撃を発動する!
光のエフェクトが俺の体に走る!
残像を残し――
疾風迅雷の突き攻撃!
ギャッッウゥッ!?
全く反応できずに黒い巨体が宙に吹き飛ぶ!
宙に浮いたその体に一撃!
更に二擊!
上段から叩きつけるように三擊!!
ドッゴォオオオン!!
ギャウゥゥンッ!! と悲鳴を上げる黒狼。
俺は手を緩めなかった。体勢を立て直す暇を与えず更に連続斬りを繰り出す!
――結局、ほとんど反撃らしい反撃をさせず十数擊に及ぶ攻撃を加えて勝利した。
剣をしまうと、ふぅ~っと息を吐く。どっと疲れた。
黒い狼の死体を見下ろしながら額の汗を拭う。
……魔獣って一体なんだ? 『ハンターズクエスト』にはいなかったモンスターだ。少なくとも俺がプレイした範囲のクエストには出てきたことがない。
注意深く観察しながら剥ぎ取りをする。素材は『黒狼の毛皮』『黒狼の牙』『黒狼のたてがみ』。
「ユーキ、凄い! ユーキ、カッコイイ!!」
ぬこにゃんが嬉しそうに叫ぶ。
「え、カッコイイ?」
「うん! すごいカッコ良かった!」と目をキラキラさせて見上げてくる。
「あ、そう、うん……ありがとう」
なんか照れる。
「ぬこにゃんこそ、さっきはありがとう。本当に助かったよ」
俺はお礼にいつもの三倍なぜなぜしてやるのだった。
寝てる間に襲われるのはもう懲りごりなので、俺達は木の上で寝ることにした。
大きな樹木の大ぶりの枝にロープで体をくくりつけて寝る。寝心地が良いとはとても言えないが、仕方ない。
背を幹に預けると、ぬこにゃんがさも当然のように胸の上に乗ってきた……。
毛布代わりにぬこにゃんを抱っこしてやると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細めて……あっという間に寝た……。早いよw マイペースだな、ぬこにゃんはw
でも暖かい。お互いのぬくもりを感じて、なんか安心する。